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連載Cocotame Series

音楽ビジネスの未来

リスナーが“欲しい”音楽プレイリストをグローバルな視点で提供する『Filtr Japan』の方法論【後編】

2022.02.25

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聴き方、届け方の変化から、シーンの多様化、マネタイズの在り方まで、今、音楽ビジネスが世界規模で変革の時を迎えている。その変化をさまざまな視点で考察し、音楽ビジネスの未来に何が待っているのかを探る連載企画「音楽ビジネスの未来」。

今回は、音楽プレイリストブランド『Filtr Japan』を運営するソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド(以下、SMMU)から、プロジェクトメンバーの5人を迎え、プレイリストの運営やブランディングの戦略、ソニーミュージックならではのアプローチについて聞いた。

後編では、昨年12月に『Filtr Japan』の認知拡大のためにスタートした『FILTR’d』の裏側、チームが見据えるプレイリストビジネスの未来を語る。

    • 塩貝直也

      Shiogai Naoya

      ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド

    • 金山清道

      Kanayama Kiyomichi

      ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド

    • 中村亜紀

      Nakamura Aki

      ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド

    • 伏見和人

      Fushimi Kazuto

      ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド

    • 末吉亮太

      Sueyoshi Ryota

      ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド

TikTokでプレイリストに寄り添った動画を制作

――(前編(新しいタブで開く)からつづく)先述のふたつの新しいチャレンジ、TikTokと『FILTR’d』について聞かせてください。まず、TikTok上に『Filtr Japan』のアカウントを作ったのはどういう意図があったのでしょうか。

塩貝:Instagramには、音楽をレコメンドするアカウントが既にたくさんあります。でもTikTokには、一般の方が自分の好きな音楽をまとめているようなものは存在していても、まだNo.1と呼べるアカウントはなかった。今、情報やコンテンツが氾濫するなか、『Filtr Japan』という名前をどうユーザーに届けるかを考えたときに、SNSを使うのは我々としては必然だったので、だったらTikTokで新しいことにチャレンジしてみようという話になりました。

しかも、現在TikTokに投稿するコンテンツの制作を担っている末吉くんは2021年度の新入社員なんですけど、入社前はミュージックビデオの監督をやっていたんですね。サムネイルやバナーだけでなく、プロモーション映像の制作といったクリエイティブを、われわれマーケティングの部署が内製でやるのは普通は難しいと思うんですが、そういうバックグランドを持った末吉くんがスタッフとして加わってくれたので、週2回の投稿に挑戦することができました。

末吉:既にTikTokにもプレイリスト動画が結構あったので、参考にしつつも、真似して作っても仕方がないので、オリジナルの表現で動画を作ることを考えました。TikTokのなかでも『Filtr Japan』のカラーを出していけたら良いなと。

TikTokのプレイスリスト動画にはよく静止画が使われているんですけど、自分は以前から映像制作をやっていたので、静止画の代わりにプレイリストに寄り添った映像を見せたいと考えました。どんなシーンやどんな感情に合う楽曲なのかを視覚的に見せることができたら面白いんじゃないかなという気持ちで始めましたね。

――すぐに手応えはありましたか?

末吉:いや、全然ですね。今、運用をスタートしてから3カ月くらい経ちましたが、最初の1カ月半は、投稿しても再生回数が500回、“いいね”数は10個くらいで、まったく世の中に響かなかったです。そこから見せ方や選曲をいろいろと工夫していって、今の形にしていきました。僕もTikTokは見る側で、出す側ではなかったので、最初は試行錯誤していたんですけど、投稿していくうちにTikTokと相性の良い映像を見付けることもできて。だんだん兆しが見えてきたという感じですね。

――TikTokで、これまでに一番反響があったものは?

末吉:TikTokのアクティブユーザーは10代後半から20代の人が多くて。その人たちが、小学生時代によく聴いた曲が、彼や彼女たちにとっての懐かしい曲になってるんです。それが非常にTikTokでもウケが良いので、年代を指定している“20代シリーズ”の映像はすごく回っています。

なかでも、「20代に絶対ささる泣きたくなるくらい懐かしい曲」が一番回っていて、200万回再生を突破しました。“いいね”順でフィルターをかけて検索すると、だいぶ上のほうに出てくるようになったので、アカウントとしても、影響力を発揮できるようになってきたと感じています。

『FILTR’d』はソニーミュージックだからこそ意味がある

――もうひとつの柱である『FILTR’d』の立ち上げの経緯を教えてください。

FILTR’d(フィルタード)

今をときめくアーティストが自身を“かたちづくった”楽曲を自ら選曲するプレイリスト。1組のアーティストのプレイリストを1カ月限定で、Apple MusicとSpotifyで配信している。特集アーティストは毎月1日に更新される。また、Spotifyの“Music+Talk”機能では、アーカイブとともに選曲したアーティストが語る楽曲解説を聴くことが可能。2021年12月スタート時はJean-Ken Johnny(MAN WITH A MISSION)、2022年1月はTAKUYA∞(UVERworld)、2月は優里を特集。

金山:僕がこのチームに入ったのは去年の4月なんですけど、チーム全体でもっと『Filtr』の認知度を上げていこうということで、新しいプレイリストのアイデアをみんなで考えていて。それで、名前がより浸透するよう、『Filtr』の名前を冠したプレイリストを作りたいなと思って、ずっと考えてたんです。

そこからふと、アーティストが自分をフィルター=濾過していった曲というイメージが浮かんできて。『Filtr』という名前を使って、アーティストがこれまでに影響を受けた曲を自分でセレクトするプレイリストは良いんじゃないかと思い付きました。

そこから、内容をチームのみんなで話し合っていき、『Filtr』という名前を広めるための看板となるプレイリストとして、『FILTR’d』を立ち上げました。参加してくれたアーティストにSNSで告知もしてもらっているので、アーティストの力を借りながら、『Filtr Japan』全体の活性化につながれば良いなと思っています。

中村:『FILTR’d』のアイデアはブレストから生まれました。みんなが持ち寄った案のなかで、金山が出した案が新鮮というか、今までの我々の発想にはなかったアイデアだったんですね。アーティストもたくさん所属するソニーミュージックグループだからこそできるし、やる意味がある。『Filtr』の名前を広く届ける意味でも、良いネーミングだねっていうことで、企画を進めていきました。

とは言え、すべてが手探りだったので、アイデアが出てからローンチするまではだいぶ試行錯誤したし、結構時間もかかりました。各レーベルの担当者にも話を聞いて、毎月更新を継続していくためにはどうしたら良いかを考え、しっかりと一歩ずつ着実に固めていって、今の形に着地しました。

――第1弾アーティストはMAN WITH A MISSIONのJean-Ken Johnnyでした。

金山:2021年11月に、MAN WITH A MISSIONのアルバムリリースがあって、『FILTR’d』は12月に公開しました。第2弾のTAKUYA∞(UVERworld)は12月にリリースがあったんですけど、公開は2022年1月1日という設定にしました。普通はアルバムのリリースタイミングに合わせるという発想になると思うんですけど、それだとそっちのニュースに埋もれてしまう可能性があるので、あえて1カ月遅らせるようにしています。

――実際にスタートして、反響はどうでしたか。

中村:まずはコアファンに喜んでもらえるコンテンツになったかなと思っています。ゆくゆくはそこからもっと視聴層を広げていきたいですね。現在は、Spotifyの新しい機能、“Music+Talk”を活用してアーカイブを残しつつ、プレイリストを月1回更新しています。第1弾でマンウィズのファンが集まって、そこに第2弾のUVERworldのファンが加わって、そういう形でどんどん増えていけば良いなという思いで更新型にしました。1月現在は2アーティストのファンが溜まってきているなという感じですね。

“Music+Talk”はアーティストの声が聴けるので、どういう想いでセレクトしたのかをファンに届けることができるし、加えて、その曲を経た上でのアーティストの最新曲も掲載しているので、この曲を辿ったのちに、今この曲があるというストーリー仕立てになっている。需要は確かにあったのかなと思ってます。

金山:エゴサしてたら、マンウィズのファンの方の、「クラスの好きな男子が、自分の好きな曲を紹介してくれてるのを聴いてる気分」というコメントがあって。まさにその通りだなと。

ファンにとっては、好きな人が好きなものを熱量を持って語っているので、すごく聴き応えのあるコンテンツになっていると思います。今後もそういうふうな語りをアーティストにしてもらえればなと考えています。

――アーティスト側の反応はどうですか。

塩貝:非常に喜んでいただけてるようで、Jean-Ken Johnnyは公式のコメントで「コウイウ仕事ガ一番楽シイデスネ」って言ってくださってましたね。

金山:アーティスト側もそうやって楽しく真剣にプレイリストを組んでくれているので、年齢もジャンルも問わず、音楽好きで、新しい音楽を求めている人に聴いてもらえるものになっていると思います。「こんな曲に影響を受けているんだ」とか、「アーティストがお勧めする曲を聴いてみたい」という、探究心のあるリスナーに幅広く聴いてもらいたいという狙い通りです。

中村:ラインナップされた楽曲は、例えばTAKUYA∞の場合、かつて彼が聴いていた曲なので、旧譜が多いんですよ。そうすると、そこでピックアップされた楽曲がUVERworldファンに聴かれるので、その1カ月間はめちゃくちゃ再生回数が伸びるんです。それまでは眠っていた楽曲が、『FILTR’d』をきっかけにして広がっていく。カタログの掘り起こしと活性化にもつながっているなと感じますね。

末吉:TikTokでも、「20代に絶対ささる懐かしすぎる恋愛ソング」の1曲目は遊助の「ライオン」という2010年の曲なんですけど、投稿した次の日から、急にストリーミングの実績が上がったので、つながってるなと思います。

遊助「ライオン」

――TikTokでの動画は、末吉さんが作ってるんですよね。

末吉:そうですね。オリジナル素材とネットのフリー素材を交互であげていて。半分がオリジナルなので、正直、作業が大変なんですけど。

伏見:ロケにも行くぐらいだから。

末吉:行ってますね。映像に出てもらうキャストは社内の同じ部署の方にお願いしたり。あとは、僕のお姉ちゃんとか。

――そんなに家内制手工業なんですね(笑)。

末吉:かなり身近なところでやりくりしてます(笑)。「~泣きたくなるくらい懐かしすぎる曲」の次にバズった「20代に絶対ささる懐かしすぎる恋愛ソング」の手をつなぐ映像は、社内の先輩方に手をつないでもらいました。撮影に時間を割いていただくので、事前に企画書を作って、画像アプリでイメージ画を作って、共有してもらって。撮影のときは香盤表も作ってやってます。なるべく皆さんに負担がかからないように。

金山:すごい! そこまでやってるのは知らなかった。

塩貝:ほんとに奇跡のスタッフィングなんですよ。末吉くんがこの部署に来てくれたからできていることで。僕たちはここ数年間、限られた予算のなかで「DIYでできるデジタルマーケティングってなんだろう?」っていうことをずっと考えていたんです。そしたらなんと、末吉くんのように映像を作れる人が来てくれたので、めちゃくちゃ頼りにしてます。

「~懐かしすぎる恋愛ソング」に出てる男女は同じ『Filtr Japan』チームなので、知っている人が出てると社内的に盛り上がるんですよね。しかも、その画像がバズったりするとさらに盛り上がる。今後は、末吉くんひとりだと大変なので、もっと人手も増やしていけたらなと思ってます。

――どれも出演者の顔は出さずに作ってますよね。

末吉:そうですね。顔が出てしまったら、その人が主役の映像になってしまうじゃないですか。あくまでも、聴く人の生活に寄り添って、“自分ごと”にしてほしいという思いがあるので。誰でも当事者になれるように、そういう演出にしています。

今後は企業とコラボしたプレイリストも

――今後の展望も聞かせてください。

伏見:『Filtr Japan』の活性化としては、引きつづき世界を視野に入れた展開を考えていきたいです。狙いにいく国や地域も大事ですね。グローバル化と言うと多くの人が欧米をイメージするんですけど、例えば先述の「BEST OF CITY POPS」のプロモーションの際も、僕らが日々数字を見ているからこそ、広告単価も安く、シティポップが盛んに聴かれていることが数字に表われていたインドネシアに照準を定めることができました。

実際にトライしたら、プレイリストの視聴数は以前より上がったので、僕らのアクションによって、世界で旧譜も聴かれるようになっていくのは、非常に良い流れだと思います。

どこに何を刺すのか。どういう形でグローバル化を目指すのかを、データを分析した上で慣例にとらわれず柔軟に考えることは、特にストリーミングにおいては今後も重要になっていくと思います。

金山:僕のなかでは、今後メディアミックスをしていきたいなと思っています。例えば、ほかのメディアと組んで、『FILTR’d』の特集アーティストをフィーチャ―していただいたりとか。それが活字の媒体なのか、ラジオなのか、そのアーティストと一番親和性の高いメディアを考えてトライアルをしていきたいし、『FILTR'd』というブランドとして、どこかとコラボレーションするというところまで大きくしたいなという野望がありますね。

塩貝:企業とコラボしたプレイリストなども作れたら良いですよね。「THE ANIME WORKOUT」も、最初はスポーツジムと何かご一緒することができないかという話をしていたんです。実際には、クリアしなきゃいけないハードルがいくつかあると思うんですけど、アーティストではなく、ソニーミュージックの全音楽カタログから選曲ができる形になるので、いろんな企業とコラボしたプレイリストを作っていけると良いなと思います。

金山:僕、ゴールドジムで流れるプレイリストを作りたくてしょうがないんですよ(笑)。

中村:金山とはいつもそういう、夢が膨らむような話ばかりをしてます(笑)。企業やファッション雑誌が、YouTubeやApple Music、Spotifyのプレイリストとコラボしているので、そういうのもやりたいですし、いろんなアイデアが出てきていますね。

あとは、今『FILTR’d』で選定しているアーティストは、“今をときめくアーティスト”がメインになっているんですけど、ソニーミュージックにはたくさんのアーティストが所属しているので、それこそ、新人からベテランの方たちまでお声掛けして、もっと幅が広げられるようなことをやれたら良いなと思ってます。

末吉:クリエイティブ面では、ひとつバズる形を作れたかなと思うんですけど、その形をずっとつづけるんじゃなくて、違った見せ方にも積極的に挑戦したいと思っています。あと、楽曲では1980年代や1990年代までしか遡れてないので、もっと昔の昭和歌謡などもピックアップできたら面白いですね。選曲の幅をどんどん広げていきたいです。

塩貝:可能性としてですが、連続性のあるものを生み出せるようになると良いなと思っています。今は単発のプレイリストを発表していますが、例えば、特定の演者が出演している、物語性が出るようなものとか。究極で言うと、ドラマ化された優里の楽曲「ドライフラワー」や、DISH//の「猫」のように、『Filtr Japan』のプレイリストからドラマのようなものが作れたら面白そうですね。

末吉:それができたら楽しそう。ぜひやりたいですね。TikTokでシリーズ系の投稿もやってみたいです。頑張ります!

――お話を聞いていて、皆さんの一体感が伝わってきます。

中村:今日は、代表して私たちがお話しさせてもらいましたが、運営チームにはほかにもスキルを持ったスタッフがいて、今の体制はとてもチームワークが良いんです。誰かが苦手なところは誰かが得意だったりするし、とてもバランスが取れている。アイデアもどんどん出てくるし、アイデアを出しやすい空気をリーダーが作ってくれてますね。たまに熱すぎるくらい(笑)、とてもポジティブなパワーがあるなって感じてます。

塩貝:20代の若いスタッフがいてくれることも大きいですね。僕らからすると新鮮な意見をもらえることがたくさんありますし、それが、リアルにこういうプレイリストを聴くのか、聴かないのかのジャッジにもつながります。もっともっとクリティカルなプレイリストを作っていくために、今後もこの形で運用していければなと思ってます。

この1年間は、プレイリストチームとクリエイティブチームを分けていたんですけど、今後は、それぞれの満足感も含めて、みんながもっと自主的にやりたいことが出てくれば良いなと考えています。『FILTR’d』や自家製TikTok投稿のような企画が、もっともっとたくさん生まれてくるような状況にしていきたいです。
 

文・取材:永堀アツオ
撮影:荻原大志

関連サイト

『Filtr Japan』試聴サイト
https://smej.lnk.to/SlH2sM(新しいタブで開く)
 
『Filtr Japan』TikTok公式アカウント
https://www.tiktok.com/@filtr_japan(新しいタブで開く)

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