リスナーが“欲しい”音楽プレイリストをグローバルな視点で提供する『Filtr Japan』の方法論【後編】
2022.02.25
ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド
聴き方、届け方の変化から、シーンの多様化、マネタイズの在り方まで、今、音楽ビジネスが世界規模で変革の時を迎えている。その変化をさまざまな視点で考察し、音楽ビジネスの未来に何が待っているのかを探る連載企画「音楽ビジネスの未来」。
今回は、音楽プレイリストブランド『Filtr Japan』を運営するソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド(以下、SMMU)から、プロジェクトメンバーの5人を迎え、音楽プレイリストの運営やブランディングの戦略、ソニーミュージックならではのアプローチについて聞いていく。
前編では、『Filtr Japan』の定義と狙い、実際の成果について聞いた。
目次
塩貝直也
Shiogai Naoya
ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド
金山清道
Kanayama Kiyomichi
ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド
中村亜紀
Nakamura Aki
ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド
伏見和人
Fushimi Kazuto
ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド
末吉亮太
Sueyoshi Ryota
ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド
ソニーミュージックがグローバル展開している音楽プレイリストブランド。Apple MusicとSpotifyの公認キュレーターとして、独自のプレイリストを発信している。『Filtr Japan』をはじめ、世界各国に支部を持つ。『Filtr Japan』は、日常のあらゆるシーンに寄り添う音楽を提案することを目的にプレイリストを作成、配信し、20代をターゲットにした“20代に絶対ささる~”シリーズが好評。
――まず、皆さんが手掛けている『Filtr Japan』とは何かというところからお伺いできますか。
塩貝:『Filtr』は世界各国、各地域のソニーミュージックが運営しているグローバルなプレイリストブランドで、我々は『Filtr Japan』として、日本におけるプレイリストの運用を行なっています。『Filtr Japan』としては、2016年にスタートして、日本国内ではApple MusicとSpotifyで、我々がキュレーションしたプレイリストの公開や更新を行なってきました。今の体制になったのは2021年4月からで、現在はプレイリストの運営チームとクリエイティブチームに分かれて、プレイリストはもちろん、プロモーション用の映像なども内製しています。
――皆さんのチーム内での役割を教えてください。
金山:僕はプレイリストチームにいて、日々のプレイリストのキュレーションに加え、2021年12月に『FILTR'd』(フィルタード)という、新しいプレイリスト企画を立ち上げて、その運営をしています。
中村:私も金山と同じくプレイリストのキュレーションと『FILTR'd』の運営をしています。また、Spotify担当も兼ねているので、ストアのバックアップと、『Filtr Japan』を使っていかに自社の商品を売り込んでいくかという業務も行なっています。
伏見:僕もプレイリストチームです。自分が担当しているプレイリストのキュレーションと、Apple Music担当として、レーベルとストアのつなぎ役もしています。
末吉:業務としては、担当のプレイリストの更新、TikTokアカウントの運用に加えて、クリエイティブチームにも所属しているので、映像の制作やSpotifyなどに出すバナーなども作成しています。
塩貝:僕は2021年4月に『Filtr Japan』のリーダーを任されたので、プロジェクト全般を見ています。このチームになってからまず考えたのは、『Filtr Japan』とは何なのかをきちんと定義した上で、我々全員が共通認識を持つということです。チーム全体が同じ方向を向いて『Filtr Japan』の認知拡大を目指しています。
――定義というのは、先ほどの“プレイリストをキュレーションするブランドである”ということですよね。
塩貝:そうですね。その上で、“毎日に、テーマ曲を”というキャッチコピーを作りました。僕と中村、伏見は、以前から『Filtr Japan』の運用に関わっていたので、なんとなく肌で感じていたんですけど、新しいスタッフが加わり、みんなで共通認識として持てるフレーズがあったほうが良いなと思って、このコンセプトを掲げました。
例えば、朝の目覚めを快適にするとか、満員電車の憂鬱な時間を少しでも明るくするとか、夜ひとりでまったりしたいとか。生活の隙間を音楽で彩ることができるようなプレイリストを提案するブランドにしていこうということですね。その上で、『Filtr Japan』の認知拡大を目指して、TikTokのアカウントを作り、昨年末には『FILTR'd』というアーティストが選曲したプレイリストのブランドを新たに立ち上げました。
――音楽のサブスクリプションサービスが定着した現在では、さまざまなメディアやレコード会社がプレイリストの提供を行なっていますが、『Filtr Japan』にはどんな違いがあると言えば良いですか?
伏見:“毎日に、テーマ曲を”というコンセプトがあるように、僕らはリスナー側の気持ちになって、受け手が欲しいものや共感できるものを作りたいという想いが強いです。
例えば、Webメディアがアーティストに依頼して、アーティストからリスナーに向うベクトルのプレイリストを作るというよりも、リスナー側の「これが欲しい」という需要に対して応えるものを提供していく。作り方の発想が逆だなと思います。
塩貝:シチュエーションや時間、場所や感情という、それぞれの軸で切ったプレイリストを提案することができるので、生活に寄り添う音楽という意味合いは強いかなと思います。
また、今は音楽をBGMとして“ながら聴き”するというか、スマートフォンなどを触りながら音楽を聴く人が多いと思うんですけど、音楽をどうやったら主役にしてあげられるかということも含めて、皆さんに提案できたら良いなと思っていて。考え方としてはドラマや映画の挿入歌に近いかもしれないです。
それぞれの人生のシチュエーションに対して、BGMを提案するということを我々はやっている。そういう意味で、プレイリストを作るといっても、メディアなどが提案されるものとは切り口が違うのかなと思います。むしろ、サービス側の立ち位置であるApple MusicやSpotifyのほうが、そういうプレイリストをたくさん作っていて、感覚的にはこっちに近いかもしれないですね。
伏見:あと、『Filtr Japan』はキュレーターアカウントとして認定されているので、こちらからプレイリストをプレゼンすることもできます。
従来の音楽作品の売り込み方だと、「誰々がアルバムを出します」とか、アーティストベースで話をするんですけど、『Filtr Japan』に関しては、「こんなプレイリストを作ったので、よければピックアップしてください」っていうお願いができる。それは今後の音楽ビジネスのやり方として、強みにできるポイントだなと思ってます。
また、レコード会社の動きとしては、新譜のプロモーションはみんなやるし、宣伝費をかけるのは普通なんですけど、旧譜もプロモーションできるということを発見できたのは、『Filtr Japan』のおかげだと思っています。
例えば、サービス側の方々から「春におすすめの曲はありますか?」というお話をいただいた場合、春曲を集めて『Filtr Japan』のプレイリストを作成する。さらに、そのプロモーション映像も自分たちで作ってしまって、宣伝費をかけると、サービス内でピックアップしてもらえることもあります。旧譜でも宣伝費を使って、ちゃんと数字が取れる仕組みが作れているという意味では、プレイリストブランドとしてサブスクリプションサービスと良好な関係性を築けていると思います。
――選曲は自社の曲のみですか?
塩貝:必ずしも自社の楽曲だけで構成する必要はないというのが、海外の『Filtr』との共通認識です。我々はソニーミュージックのスタッフなので、当然、自社から発売されている楽曲をたくさん聴いてもらうために取り組んではいますが、まずはプレイリストそのものに興味を持ってもらう必要があるので、さまざまな音楽を通してライフスタイルの提案をしていきたいという考え方でやっています。
――海外の『Filtr』と連携することもあるんでしょうか。
中村:『Filtr Japan』から大きな情報を発信するときは連携することもありますね。
塩貝:『Filtr Japan』が作ったプレイリストを各国のSNSで投稿してほしいというアプローチをすることもあります。金山が作った「THE ANIME WORKOUT」というプレイリストを海外から発信してもらったこともありました。
金山:僕、筋トレが好きなんですけど、アニソンはアゲ曲が多いから、筋トレに合うんじゃないかと。それでアニメオタクで筋トレ好きの友達に聞いてみたら、「筋トレ中によくアニソンを聴くよ」っていう答えが返ってきて。
調べてみたら、全世界でアニソンを使った筋トレプレイリストがあったので、『Filtr Japan』でも作ろう! と。マンガ『ダンベル何キロ持てる?』の作画家であるMAAMさんにオリジナルカバーを描き下ろしてもらって、ローンチしました。
それで、せっかくなので海外でも宣伝したいなと思って、ソニーミュージックの海外の支社に協力を依頼したんです。それぞれの国や地域のSNSで告知をしてもらった結果、特に、香港、台湾、インドネシアといったアジア圏の人たちからSNS上で大きな反響をもらいました。
――チームの業務としては、プレイリストを作って、さらにそれを聴いてもらうための施策を世界中に向けて行なっているということですね。
中村:そうですね。今、どのプレイリストを伸ばしたいかということを、常に指針として共有しています。SNSやTikTokに投稿するときも、チームで話して方向性を明確にしていますね。今だと、年代系のプレイリストとか、「THE ANIME WORKOUT」のときもそうしました。全員でこまめにコミュニケーションを図っています。
塩貝:他社の楽曲ですが、松原みきさんの「真夜中のドア~stay with me」の再生回数が大きく伸びていたのを見て、「BEST OF CITY POPS」というプレイリストに重点的に力を入れた事例もあります。
「BEST OF CITY POPS」
これまでのデータをもとに、インドネシアにターゲットを絞ってTikTokとSpotifyに、大貫妙子の「4:00A.M.」という曲をBGMにしたプロモーション映像で広告出稿したところ、「BEST OF CITY POPS」が現地のSpotifyで聴かれているプレイリストランキングのトップ20に入りました。
「4:00A.M.」に決めたのも、どんな楽曲が受け入れられているかをかなり精査した結果でした。プロモーション映像の内容も、現地のYouTubeで人気が高いものを分析して、1980年代っぽいアニメの映像にして。海外に向けて何をどう仕掛けていくかは常に考えているし、日本の音楽を世界に広めていくチャンスは、日々狙っています。
文・取材:永堀アツオ
撮影:荻原大志
『Filtr Japan』試聴サイト
https://smej.lnk.to/SlH2sM
『Filtr Japan』TikTok公式アカウント
https://www.tiktok.com/@filtr_japan
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