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連載Cocotame Series

キャラクタービジネスの心得

新ビジュアルで新世代にも認知を拡大――『きかんしゃトーマス』が進む次のステージとは?【後編】

2022.12.24

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キャラクタービジネスを手掛ける上で、知っておきたい心得をその道のプロたちに聞いていく連載「キャラクタービジネスの心得」。

今回は、子どもたちに愛されつづける『きかんしゃトーマス』をフィーチャーする。原作は、1945年にイギリスで刊行されたウィルバート・オードリー牧師による『汽車のえほん(原題:The Railway Series)』シリーズ。その後、鉄道模型を用いた人形劇アニメになり、1990年には日本でも放送開始。さらに、2009年以降はCGアニメに移行した(日本では2010年より)。

そして、2022年12月24日から放送がスタートする新シリーズからは、2Dスタイルのアニメにフルリニューアル。2023年3月10日には劇場版『映画 きかんしゃトーマス めざせ!夢のチャンピオンシップ』の公開も予定されている。

『きかんしゃトーマス』は、なぜ長年親しまれてきたビジュアルを一新するのか? 『きかんしゃトーマス』の歩み、作品に込められたメッセージを紐解きつつ、その未来像を探っていこう。

後編では、SDGsに関する国連との取り組みやSTEAM教育などを紹介。さらに、アニメのビジュアル刷新についても詳しく担当者に聞いていく。

  • 朝倉精吾

    Asakura Shogo

    ソニー・クリエイティブプロダクツ

ジェンダーフリーや多様性を取り入れ、時代に合った物語に

──『きかんしゃトーマス』は、国連とのコラボレーションでSDGs啓発ショートビデオ(日本語版)の制作協力をはじめ、ジェンダーレス、国や地域の多様性を受け入れることを意識したキャラクターの登場など、世界が抱える課題への取り組みにも意欲的です。こうした活動ができるのも、ウィルバート・オードリー牧師が描いた原作にフレンドシップや多様性といったメッセージが込められているからでしょうか。

『きかんしゃトーマス』に登場するたくさんのキャラクターは、みんな個性豊かで、それぞれに与えられた役割とともに、得意不得意もあります。何でもできる完璧な機関車はいなくて、みんなで協力しながらトップハム・ハット卿から与えられた仕事をやり遂げていますよね。友情を大切にし、協力しながらひとつの目標に向かって頑張るというのは、絵本のころから変わらないメッセージです。それを踏まえ、前回のアニメシリーズはSDGsが掲げる目標をエピソードのなかに落とし込んで作られました。

また、これまでは架空の島であるソドー島(イギリス本土とマン島の間に存在するとされる)を舞台に物語が進んでいました。ですが、日本では2017年に公開された『映画 きかんしゃトーマス 走れ!世界のなかまたち』では、世界のいろいろな地域から機関車たちがソドー島にやってきてレースをする話が描かれています。そこから作品の世界観もさらに広がりました。

そして2019年の『映画 きかんしゃトーマス Go!Go!地球まるごとアドベンチャー』では、トーマスが初めてソドー島を飛び出し、世界中を旅するというストーリーが描かれました。ここでも新しい女の子の機関車や世界の各地域で働く機関車が登場しましたが、時代の価値観を反映したストーリーへとどんどん進化しています。

──最近はSDGsやダイバーシティ&インクルージョンをストーリーに盛り込んだ作品も増えていますが、『きかんしゃトーマス』はキャラクターアニメのなかでは取り組みが早かったように思います。

そうですね。世の中ではまだ、今ほどSDGsが浸透していなかったころから、トーマスを用いた啓発活動が行なわれてきました。国連と権利元のマテル社も、『きかんしゃトーマス』という作品のアイデンティティとSDGsの親和性に気付き、トーマスを通して子どもたちにSDGsを学んでもらおうと考えての取り組みです。子どもたちに、世界がそうした課題を解決する方向に向かっていることへの気付きを促すこと、メッセージを伝える役割は十分果たすことができているのではないかと感じます。

遊びながら学べるSTEAMアドベンチャー

──『きかんしゃトーマス』は、STEAM教育※にも取り組んでいますが、こちらが始まった経緯を教えてください。

※Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(エンジニアリング)、Art(芸術)、Mathematics(数学)の頭文字で、これらの領域を統合的な視点で捉えた教育を指す。実社会での問題発見、解決にいかしていくための教科など横断的な学習として、文部科学省もSTEAM教育を推進している。

先にお話しした非認知能力の研究とは別軸で、4、5年前から「学芸大学こども未来研究所(以下、こども未来研究所)」の先生方とともにSTEAM教育プロジェクトに取り組むようになりました。海外でも注目されていたSTEAM教育と『きかんしゃトーマス』が何かコラボできないかと考え、イベント展開を見据えてスタートしたプロジェクトです。今年9月まで埼玉県で「きかんしゃトーマスとなかまたち STEAMアドベンチャー」というイベントを開催し、家族連れのみなさんでにぎわっていました。

──どのような内容のイベントになったのでしょうか。

従来の展示アトラクションイベントと似ていますが、子どもたちが体を動かして遊ぶだけでなく、いろいろな学びにつながる要素が取り入れられているのが特徴です。例えば「ボルダー、線路をふさぐ」というアトラクションでは、ロープを使ってボルダーという石のキャラクターを動かすのですが、この動きを通じて滑車の原理を学ぶことができます。実際にロープを使ってボルダーを持ち上げ、「こっちのロープを引っ張ると重たいけれど、こっちを使うと軽く持ち上げられるね」というような体験をしてもらいます。

また、最初から原理を説明していないのも特徴です。子どもたちには、失敗することを前提にチャレンジしてもらいます。その上で「うまくいかなかったのはどうしてだろう?」と考え、試行錯誤しながら「あ、こうすればうまくいくんだな」と気付いてもらう。そういう学びが、一つひとつのアトラクションに取り入れられています。もちろん、こちらも「こども未来研究所」の皆さんに監修していただきました。

──お子さんたちの反応はいかがでしたか?

子どもの成長度合いは、同じ年齢でも一人ひとり違います。すんなり問題を解決できるお子さんもいれば、何度もチャレンジするお子さんがいたり、なかには飽きてしまうお子さんもいます。でも、それが当然ですよね。そして反応は一人ひとり異なりますが、様子を見ているとみんな楽しんでもらえているようでした。

それともうひとつ印象的だったのは、保護者のみなさんの反応です。通常の展示アトラクションイベントでは、保護者の方々は子どもたちが遊ぶ様子を遠巻きに見ていることが多いんですが、このイベントでは、子どもと一緒になって一生懸命アトラクションに取り組んいる保護者の方が多くいらっしゃいました。こういう光景が見れたのも、いつものイベントと異なる点でしたね。

──『きかんしゃトーマス』は歴史あるIPなので、かつてアニメを見ていた方が大人になり、お子さんと一緒に楽しんでいるというケースも多いのではないでしょうか。そういった大人世代を惹き付けるマーケティング施策も行なっているのでしょうか。

保護者の目線で考えると、子どもが喜んでくれる姿を見るのが、子ども向けキャラクターに触れる大きなモチベーションだと思います。そのため今までは、大人向けの施策にはほとんどトライしてきませんでした。

ただ、挙げていただいた通り、『きかんしゃトーマス』はテレビ放送が始まって既に30年以上経つため、最近では自分が子どものころに『きかんしゃトーマス』を見て育ったという世代が子育て世代になっています。子どものころトーマスが好きだったという卒業世代に向けて、「やっぱり『きかんしゃトーマス』って面白い」と感じていただけるようなマーケティングにも今後は力を入れたいと考えています。

ちなみに、その第1弾の取り組みが先日発表されていて、『きかんしゃトーマス』の公式YouTubeチェンネルでショートドラマ「サラリーマントーマス」として公開されています。こちらは『きかんしゃトーマス』のストーリーをサラリーマン社会でトレースしたらどんな展開になるかをドラマ化したもので、“公式が暴挙に及んだ!(笑)”と公開後にSNSやネットメディアで大きな話題になりました。

サラリーマントーマス 第1話「ソシャゲ沼におちたトーマス」 (原題「あなにおちたトーマス」より) | Businessman Thomas

サラリーマントーマス 第2話「社員用トイレのもめごと」 (原題「きかんこのもめごと」より) | Businessman Thomas

サラリーマントーマス 第3話「トーマスとリストラの気配」 (原題「トーマスとうわさばなし」より) | Businessman Thomas

サラリーマントーマス【番外編】「新商品プレゼン」| プラレール GOGOトーマスシリーズ

『きかんしゃトーマス』の本線は、どこまでもお子さんたちに寄り添っていくことで変わりありませんが、大人が見ても楽しめる物語であることを、こういう手法でお伝えしていくのは、新しいチャレンジになりました。

時代に即した新ビジュアルに刷新

──さまざまな取り組みで展開を拡大させてきた『きかんしゃトーマス』ですが、既に発表されている通り、12年ぶりにビジュアルを一新しました。そして、今冬から放送されるアニメでは、トーマスと仲間たちが生まれ変わります。なぜこのタイミングで、ビジュアルを刷新されたのでしょう。権利元であるマテル社の意図についてお聞かせください。

今の時代の子どもたちに『きかんしゃトーマス』の世界観を伝え、物語をより楽しんでもらうためにはどうした良いか、徹底的にリサーチした結果、今回のリニューアルに至ったと聞いています。

──従来のCGキャラクターよりも、新ビジュアルのほうが親しみやすいというリサーチ結果が出たのでしょうか。

いろいろな映像サンプル、表現方法を子どもたちに見せてアンケートを取った結果、この新しいスタイルがもっとも多くの子どもたちに受け入れられたそうです。人形劇の表現を踏襲した、3DCGで描かれるリアル志向の『きかんしゃトーマス』には、この表現手法ならではの魅力があると思います。ただ、新ビジュアルならではの自由度の高い表現力、そこから生まれるトーマスとその仲間たちの躍動感や感情豊かな表情というのは、2Dスタイルのアニメだからこそ得られるものだと、私も感じました。

昨今は“神作画”なんて言葉も聞かれますが、さまざまなアニメーション表現を見慣れている若い世代の人たちほど、新シリーズを見てもらうと親しみを感じてもらえるのかもしれません。

──グッズのビジュアルも刷新されるのでしょうか。

従来のビジュアルと新ビジュアルを、並行して展開していきます。例えばプラレールに関しても、従来の商品を販売しつつ、新ビジュアルの機関車たちも加わっていきます。

──新ビジュアルのトーマスたちは、より性別を問わず受け入れられそうですね。

そうですね。『きかんしゃトーマス』が好きだというお子さんは性別関係なくいて。それこそ公式オンラインストアにも、「うちの娘はトーマスが大好きだけど、娘に買ってあげられるグッズが少ない」というご意見をいただくこともあります。ジェンダーフリーや多様性を重んじる今の時代において、子どもを中心に展開するキャラクターが性別を問うこと自体、既にナンセンスなのだと思います。すべてのご要望にお応えするのは難しい部分もありますが、ひとつの声でも耳を傾けて、より多くの方に喜んでいただける取り組みを行なっていきたいと考えています。

──ちなみに担当である朝倉さんは、新ビジュアルを初めて見たときに、どのように受け止めましたか?

正直なところ「ここまで変わるのか!」と衝撃を受けましたね(笑)。人形劇からCGに変わったときよりも、今回のほうが変化が激しくて驚きました。でも、見慣れてきた現在は、より広い層に受け入れられるポジティブな選択なんだなと感じます。

アニメ『きかんしゃトーマス』の変遷。鉄道模型を用いた人形劇アニメからCGアニメ、さらに2Dスタイルのアニメへ。

ビジュアルが変わっても、メッセージは変わらない

──ビジュアルが変わったことで、『きかんしゃトーマス』というIPにどんなポジティブな変化があると思いますか?

どれだけビジュアルが変わっても、『きかんしゃトーマス』であることには変わりはありません。子どもたちは素直に受け入れ、純粋に楽しんでくれると思いますし、私としては、そこが一番重要だと考えています。

個人的な話ですが、私は子どものころ特撮ヒーローが大好きでした。最近の動向も追っていますが、やっぱり私が子どものときに放送されていた内容、ビジュアルと比べるとイメージがまったく違うんですね。でも、今の子どもたちにとっては、この姿が彼らにとってのヒーロー。時代に合わせてリニューアルを繰り返し、そのときどきの子どもたちのヒーローになっていくのでしょう。

『きかんしゃトーマス』も、変革のタイミングを迎えたのだと思います。もちろん最初は賛否両論あると思いますが、75年以上の歴史を誇るキャラクターの大事な節目に、現場のスタッフとして立ち会えるのは、とても貴重な体験だと感じています。

懐かしい人形劇をベースにしていますが、時代が変わっても、次元が変わっても、『きかんしゃトーマス』のメッセージは変わりません。リニューアルした『きかんしゃトーマス』も、変わらずに楽しんでいただけたらうれしいです。

文・取材:野本由起
撮影:干川 修

© 2022 Gullane (Thomas) Limited.
© 2022 HIT Entertainment Limited.
© TOMY  「プラレール」は株式会社タカラトミーの登録商標です。

関連サイト

きかんしゃトーマス公式サイト
https://www.thomasandfriends.jp/(新しいタブで開く)
 
YouTube きかんしゃトーマスチャンネル
https://www.youtube.com/thomasandfriendsjp(新しいタブで開く)
 
Twitter きかんしゃトーマス【公式】
https://twitter.com/ThomasNo1_JP(新しいタブで開く)
 
映画 きかんしゃトーマス めざせ!夢のチャンピオンシップ
https://movie2023.thomasandfriends.jp/(新しいタブで開く)
 
ソニー・クリエイティブプロダクツ
https://www.scp.co.jp/(新しいタブで開く)

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