イメージ画像
イメージ画像
連載Cocotame Series

キャラクタービジネスの心得

木で育む自然を大切にする心――「おもちゃ美術館」と「ピーターラビット™」が届けるメッセージ【後編】

2023.09.09

  • Xでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Facebookでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • LINEでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • はてなブックマークでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Pocketでこのページをシェアする(新しいタブで開く)

キャラクタービジネスを手掛ける上で、知っておきたい心得をその道のプロたちに聞いていく連載「キャラクタービジネスの心得」。

今回取り上げるのは、全国12カ所に拠点を置く「おもちゃ美術館」と「ピーターラビット™」とのコラボレーションイベント『自然となかよし ピーターラビット™』。

木の文化を継承し、自然を大切にする心を次世代へとつなげる「おもちゃ美術館」と、“Friend to Nature ~ピーターラビットの暮らす自然が、いつまでも守られますように~”というメッセージで、自然を愛する想いを伝えるピーターラビットの理念が共鳴し、今回のコラボレーションが実現した。

このイベントについて、「東京おもちゃ美術館」館長の多田千尋氏と、国内で「ピーターラビット」のライセンスビジネスを展開するソニー・クリエイティブプロダクツ(以下、SCP)のスタッフに話を聞いた。

後編では、子どもたちへの“木育(もくいく)”の重要性、日本の森林環境をめぐる問題、そこで「ピーターラビット」が果たす役割について掘り下げて語ってもらう。

  • 多田千尋プロフィール画像

    多田千尋氏

    Tada Chihiro

    東京おもちゃ美術館館長

  • 原田健至プロフィール画像

    原田健至

    Harada Kenji

    ソニー・クリエイティブプロダクツ

  • 三浦由貴プロフィール画像

    三浦由貴

    Miura Yuki

    ソニー・クリエイティブプロダクツ

動物を通して伝える大切なメッセージ

──(前編からづづく)「ピーターラビット」は、ビアトリクス・ポター™さんの絵本から生まれたキャラクターです。原田さん、三浦さんは、「ピーターラビット」の魅力をどう捉え、どのように発信するように心掛けていますか?

原田:「ピーターラビット」は、絵本出版から120年以上という長い歴史を誇るエバーグリーンなIPです。作者であるビアトリクス・ポターさんの自然を愛する心、フィロソフィが根底にあるので、そういったメッセージも含めて多くの方々に伝えていきたいと思っています。

昨年から掲げている“Friend to Nature ~ピーターラビットの暮らす自然が、いつまでも守られますように~”というメッセージもその一環です。「ピーターラビット」というキャラクターが自然や環境保護に興味を持ってもらうきっかけにもなると思うので、廃棄野菜を再利用した紙で巨大アート広告を制作するなど、サステナビリティ活動につながる取り組みも始めています。

原田健至画像1

関連記事はこちら
廃棄野菜から作られたポスターで伝える「ピーターラビット™」のサステナブルな魅力【前編】
廃棄野菜から作られたポスターで伝える「ピーターラビット™」のサステナブルな魅力【後編】

三浦:「ピーターラビット」は世界的なキャラクターなので、ご存じの方もとても多いと思います。ですが、その背景にビアトリクス・ポターさんの湖水地方での自然保護活動、サステナブルな取り組みが行なわれていたということは、まだそこまで知られていません。逆に言えば、今後こうしたメッセージをもっと広めていける可能性があるということ。今回の「おもちゃ美術館」との取り組みは、「ピーターラビット」のメッセージを伝える大きなチャンスだと感じています。

三浦由貴画像1

──確かに、「おもちゃ美術館」を訪れる方々には、自然な形でそういったメッセージを伝えることができるでしょうね。

多田:私からもうひとつ加えたい視点として“平和”があります。皆さんは『てぶくろ』という絵本(福音館書店)を読んだことがありますか? おじいさんが落とした手袋に、森の動物たちが次々住みつくというウクライナの民話をもとにした絵本ですが、あの絵を描いているのはロシアの絵本画家の巨匠、エウゲーニー・M・ラチョフさんです。

私の父(「東京おもちゃ美術館」初代館長・多田信作氏)はエウゲーニー・M・ラチョフさんと親友だったんですね。彼が描いてくれた父の肖像画は、今も「東京おもちゃ美術館」の壁に掲げられています。しかも、それがウォッカを手にしたクマの絵なんです。エウゲーニー・M・ラチョフさんは、人間を動物として描くのが天才的にうまく、『てぶくろ』でも動物を通してメッセージを伝えています。私は、「ピーターラビット」もその点が似ているのではないかと思いました。

「みんなで仲良くしよう」「人の悪口を言ってはダメだよね」「いさかいをするより、仲良くするための方法をみんなで話し合おう」といったメッセージも、動物を通して描いたほうが特に子どもたちには伝わりやすいですよね。「ピーターラビット」も、動物を通して平和、家族の絆、フレンドシップの大切さを発信しているように感じます。

多田千尋画像1

エウゲーニー・M・ラチョフ氏が描いた多田信作氏の肖像画

エウゲーニー・M・ラチョフ氏が描いた多田信作氏の肖像画

原田:そのお話を聞いて『ピーターラビットのおはなし』の絵本を思い出しました。この絵本ではピーターラビットがお母さんの言いつけを破り、マグレガーおじさんの畑に入って野菜を食べてしまうんですね。そして、マグレガーおじさんに追いかけられ、命からがら家に帰ると、お母さんがカモミールのお茶を飲ませてくれる。何気ないお話ですが、親の言いつけを守ることの意味などが込められていると思います。ビアトリクス・ポターさんも、うさぎの家族を通して、子どもたちにそういうメッセージを伝えたかったのではないでしょうか。

赤ちゃんから“木育”を始める理由

──「おもちゃ美術館」が取り組んでいる“木育”についてもお聞かせいただけますでしょうか。幼少期から木に触れる体験をすることの意義を教えてください。

多田:私たちの掲げるテーマは、“赤ちゃんから始める生涯木育”です。「東京おもちゃ美術館」では、赤ちゃんに木の香りや手触りを感じてもらおうと「赤ちゃん木育ひろば」を設けています。赤ちゃんのころから五感を通して木のぬくもりを身体に沁み込ませていただければと。

それと同時に、親御さんにも木に触れる心地良さを感じていただきます。そうすると「やっぱり木って良いよね」と、だんだん木に対する意識が変わってくるんです。帰りがけには「木のおもちゃを買っていこうかな」となりますし、木のおもちゃで遊ぶ我が子を見ていると、小学校に入学するときには木の学習机を選びたくなります。そうやって木に触れる機会を少しでも増やしていければと思っています。

東京おもちゃ美術館画像1

東京おもちゃ美術館の「赤ちゃん木育ひろば」

『東京おもちゃ美術館』の「赤ちゃん木育ひろば」

──赤ちゃんのころから木に触れることが、生涯にわたる“木育”につながるのですね。

多田:「東京おもちゃ美術館」が「木育推進施設」として取り組みを始めてから15年になりますが、その間にずいぶん知見も蓄積されてきました。大学との共同研究では、面白いデータが3つ出ています。

ひとつ目は、木に取り囲まれた部屋で過ごす赤ちゃんはあまり泣かないということ。一般的な子育て支援施設と比較調査すると、「東京おもちゃ美術館」で遊んでいる赤ちゃんは泣く回数が少ないというデータが取れました。確かに、見ていても大泣きしているお子さんはあまりいないんですね。帰り際に「まだ帰りたくない!」と駄々をこねているお子さんはよく見ますが(笑)。木で取り囲むと、人間は赤ちゃんもお年寄りも、みんなが心地良く感じて、“不快”ではなく“快”が生じるのだと思います。

ふたつ目は、お父さんの滞在時間が長いことです。木のおかげで心が落ち着くのか、お父さんもずっと館内に居つづけてくださるんです。

そして3つ目は、お母さんがスマホを見ている時間が短いこと。ただ、スマホを触らないわけではなく、写真はたくさん撮っています。360度を木に囲まれた空間を見ると、写真を撮りたくなるのでしょうね。ですからほかの子育て支援施設と比べて、シャッターを押す率が4.8倍も高いそうです。

さらに、その写真をSNSにアップしてくださいます。「東京おもちゃ美術館」の「赤ちゃん木育ひろば」には、年間約32,000人もの赤ちゃんが来場しますが、その何倍もの数のシャッターが切られ、SNSに写真が投稿されるわけです。

木でできたたまごのようなおもちゃ

東京おもちゃ美術館画像2

──“木育”の効果がよく理解できました。その上で、現在の木をめぐる日本の森林環境についても教えてください。

多田:私たちが推進する“木育”は、適度に木を利用し、森の恵みを享受したライフスタイルの確立を目指しています。あまり知られていませんが、日本は世界第2位の森林大国です。1位がフィンランド、2位が日本、3位がスウェーデンなんですね。ですが、森林大国に生きているという実感をお持ちの日本人はほとんどいないと思います。北欧のように週末になると森に行って緑を謳歌する人は少なく、どちらかと言うと森に背を向けるようなライフスタイルの人が多いのではないでしょうか。

また、日本は森林大国にもかかわらず、自国の木材自給率はまだまだ高くありません。消費される木材の4割程度が国内産、残りの6割は海外からわざわざ買っているんです。もちろん生態系を変えてしまったり、自然破壊につながる伐採などはあり得ませんが、日本の森林環境を持続可能なものにしていくために計画的に木材を活用していく必要があります。

もっと森に目を向け、森のファン、木のファンを育て、適度に森の恵みを使っていくべきでしょう。そもそも日本人も、ひと昔前まではそういうライフスタイルでしたよね。ところが人々の暮らしから木がどんどん遠ざかっていき、その結果、ストレスが増えたり、アレルギーが起きたりと、いろいろな影響が出てきているのではないかと思います。

多田千尋画像2

──森や木と共存共栄していくという考え方ですね。

多田:はい。こうした考えのもと我々は“木育”を推進しているのですが、たまたま「おもちゃ美術館」に遊びに来た方々に向けてだけでは、こうしたメッセージを広く届けることはできません。そこで日本全国に実行プランを広げるために、私たちは自治体に「ウッドスタート宣言」を呼び掛けています。木をまんなかに置いた子育て環境を整備し、すべての人々が木のぬくもりを感じながら、楽しく豊かに暮らそうという宣言です。

例えば、生まれた赤ちゃんへの誕生祝い品として、地産地消の木製玩具をプレゼントするなど、さまざまな施策を行なっています。現在、全国56市町村が「ウッドスタート宣言」をしていますが、今後は100、200、300と、どんどん取り組みを広げていきたいと考えています。

そんななか、今回ピーターラビットとの取り組みが実現したのは、とてもありがたいこと。「おもちゃ美術館」があり、なおかつ「ウッドスタート宣言」をした市町村の関係者の皆さんは、今回のコラボレーションを大変喜んでいます。

美しいものを愛する心を育む

──原田さん、三浦さんは、“木育”とピーターラビットというIPとの親和性をどう捉えていますか?

三浦:「東京おもちゃ美術館」を訪れたとき、掲げられていた初代館長のメッセージが印象的で、「美しいものをこよなく愛し、美しいものを自分の力で作り上げる、その喜びがわかる子どもたち。みにくいものをこばみ、みにくいものを美しいものに変えていく、その心と力をもった子どもたち。自分たちのまわりをより美しく、より正しく、より深く見つめる心と力をもった子どもたちに育ってほしい」という言葉に感銘を受けました。

「ピーターラビット」には自然を巧みに描いたアートや美しい色彩が多く、眺めているだけで穏やかな気持ちになります。そういった意味で初代館長・多田信作さんの言葉と通じるものを感じましたし、ピーターのアートを通して、子どもたちの豊かな心をさらに育むことができる可能性があると改めて気づきました。

東京おもちゃ美術館に飾られている初代館長、多田信作の言葉

多田:先ほども話に出ましたが、「東京おもちゃ美術館」は平和の大切さを訴えています。初代館長の言葉にある“美しいもの”とは平和です。そして“みにくいもの”とは戦争です。ですから、これは“平和を愛し、戦争を平和に変えられる力をもつ子どもたちに育ってほしい”というメッセージなんです。これまでは、こういった話をしてもどこかピンと来ない方も多かったようですが、ロシアによるウクライナ侵攻が始まってからは、皆さんの心に響くようになりました。今、世界中の誰もが平和を自分ごととして捉える時代になったんだなと思います。

──自然を愛する心と、平和を愛する心、どちらも美しいものを愛する心から生まれるのでしょうね。

原田:“木育”について、私からもひとついいでしょうか。先日、「福岡おもちゃ美術館」を訪れた際に、「赤ちゃん木育ひろば」とそれ以外のスペースでは床に使う木の材質が違うと伺いました。「赤ちゃん木育ひろば」では赤ちゃんに優しくて、身体が冷えない木材を使っていると聞き、素晴らしいなと思ったんです。

多田:「赤ちゃん木育ひろば」の床材は、全国のどの「おもちゃ美術館」でもスギを使うと決めています。スギは柔らかくてあたたかいので、赤ちゃんの体温を奪いません。しかも30mmの厚さがあるフローリングでなければダメなんですね。一般家庭では12~16mmほどの厚さですが、30mmまで厚くすれば床暖房がなくても大丈夫なほどあたたかいんです。

「福岡おもちゃ美術館」の「赤ちゃん木育ひろば」以外の場所には、スギ、ヒノキ、センダンという3つの樹種が使われています。しかも、ヒノキは樹齢100年を超える「100年ヒノキ」。ヒノキは人にエネルギーを与える力があると伝えられてきましたから、昔の人は役者が力を発揮できるようにと「檜舞台」を作ったんですよね。言ってみれば「福岡おもちゃ美術館」は、100年ヒノキで作った子どもたちのための檜舞台なんです。

福岡おもちゃ美術館画像

福岡おもちゃ美術館

原田:そのように子どもの目線を大切にする姿勢は、「ピーターラビット」とも通じるものがあるなと思いました。「ピーターラビット」の絵本は手のひらサイズなのですが、それはビアトリクス・ポターさんが“子どもたちの小さな手でも読みやすいように”と考え、小さくしたそうです。今回のコラボレーションは、本当にいろいろなところでつながっていますね。

ピーターラビットを通して、森林環境に思いを馳せる

──今回お話を伺い、「おもちゃ美術館」は全国各地の自治体と連携しながら、木育や森林環境の保全にも取り組んでいることがわかりました。

多田:せっかくなので、今回のコラボレーションを機に、SCPの皆さんともさらに取り組みを広げていけたら良いですよね。

こういった森林保全運動に、日本でもっとも力を入れていた著名人のひとりが坂本龍一さんでした。「more trees」という団体を立ち上げ、自治体に思いを伝えて出資企業を募り、森を守る活動をしていらっしゃいましました。現在、国内外で18カ所に「more treesの森」があります。例えばですが、坂本龍一さんが「more trees」において仲人役だったように、私たちも「ピーターラビット」に仲人を務めてもらい、「ウッドスタート宣言」をした自治体に「ピーターラビットの森」を作るなんてこともできるかもしれません。

三浦:それは素晴らしいですね! 今、連日の猛暑で地球温暖化に対する危機感が高まっていますよね。とは言え、いきなり環境保全と言われても、何から手をつけたら良いのかわからない方も多いと思います。そういったなかで、“森を守る”というのは強いメッセージです。森によってさまざまな自然災害を防ぐことができ、地球環境の回復につながりますから。

三浦由貴画像2

多田:多くの日本人は、“森を守る=1本たりとも木を切ってはいけない”という教育を受けた方が多いと思います。ところが、木は適度に切らないと森が死んでしまうんです。手入れが行き届かない状態で森を放置すれば、風も通らず、日差しも入らない暗い森になってしまうんです。今、日本では高齢化が進み、森林管理をできる人が減ったため、こうした森林環境が増えてきています。専門家によると、今が“切りどき”なのですが、マンパワーが足りず、森がほったらかしになっているんだそうです。

──木の“切りどき”というのは初めて聞きました。

多田:山の木は適度に切る、切ったら植えるという新陳代謝をさせることが重要です。しかも、木は樹齢を重ねるほどCO2の吸収量が減り、樹齢60~80年を超えるとCO2削減効果はほとんどなくなります。こうした事実も多くの方に知っていただく必要があると思います。

三浦:今回のコラボレーションイベントである『自然となかよし ピーターラビット™』を通して、森に興味を持ってくださる方が増え、“木育”だけでなく、その背景にあるピーターたちが暮らす、自然環境にまで思いを馳せてくださるきっかけになれば。「ピーターラビット」がそこに貢献できるよう、全国へ伝えていきたいと思います。

文・取材:野本由起
撮影:冨田 望

自然となかよし ピーターラビット™

・檜原森のおもちゃ美術館(東京都):2023年9月20日(水)~26日(火)
・やんばる森のおもちゃ美術館(沖縄県):2023年10月28日(土)~11月3日(金)
・木曽おもちゃ美術館(長野県):2023年11月11日(土)~19日(日)
・讃岐おもちゃ美術館(香川県):2023年11月23日(木)~29日(水)
・徳島木のおもちゃ美術館(徳島県):2023年12月4日(月)~10日(日)
・焼津おもちゃ美術館(静岡県):2023年12月21日(木)~25日(月)
・那賀町山のおもちゃ美術館(徳島県):2024年1月30日(火)~2月4日(日)
・佐川おもちゃ美術館(高知県):2024年2月10日(土)~16日(金)
・長門おもちゃ美術館(山口県):2024年2月23日(金)~27日(火)
・花巻おもちゃ美術館(岩手県):2024年3月14日(木)~19日(火)

スケジュールは、予告なく変更になる場合があり、各美術館の休館日やイベント詳細など、最新情報は各館のWebサイトにて確認できる。福岡、東京での開催は終了。

全国のおもちゃ美術館に関する情報サイトはこちら(新しいタブを開く)

関連サイト

ピーターラビット™日本公式サイト
http://www.peterrabbit-japan.com/(新しいタブを開く)
 
ピーターラビット™日本公式サイト“Friend to Nature”特設サイト
http://www.peterrabbit-japan.com/nature(新しいタブを開く)
 
ピーターラビット™日本公式Instagram「ピーターラビット™のいる暮らし」
https://www.instagram.com/peterrabbit.jp/(新しいタブを開く)

ピーターラビットコピーライト画像

(TM) & © FW & Co.,2023

連載キャラクタービジネスの心得