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サステナビリティ ~私たちにできること~

廃棄野菜から作られたポスターで伝える「ピーターラビット™」のサステナブルな魅力【前編】

2022.04.01

ソニーミュージックグループでは、持続可能な社会の発展を目指して、環境に配慮した活動や社会貢献活動、多様な社会に向けた活動など、エンタテインメントを通じたさまざまな取り組みを行なっている。連載企画「サステナビリティ~私たちにできること~」では、そんなサステナビリティ活動に取り組む人たちに話を聞いていく。

第1回は、2022年に絵本出版から120周年を迎える『ピーターラビットのおはなし』に関連したプロジェクトをフィーチャー。日本でも幅広い世代にファンを持つ「ピーターラビット」だが、2021年にはサステナブルな食料環境を目指す国連のキャンペーンキャラクターに採用されるなど、SDGsの観点からもその魅力が見直されている。

今年は120周年というアニバーサリーにちなんだ数々のイベントが予定されているが、その一環として3月21日から1週間、東急田園都市線の渋谷駅構内に絵本出版120周年のメッセージを伝える巨大ポスターが掲出された。このポスターは、廃棄されるはずだった野菜や果物を原料とした紙(フードペーパー)を利用して制作されている。プロジェクトを企画した株式会社NKBとソニー・クリエイティブプロダクツ(以下、SCP)の4人の担当者に話を聞いた。

前編では、フードペーパーを活用したポスター制作の意図と舞台裏を語ってもらう。

  • 佐藤剛氏

    Sato Takeshi

    株式会社NKB

  • 横関悦子

    Yokozeki Etsuko

    ソニー・クリエイティブプロダクツ

  • 原田健至

    Harada Kenji

    ソニー・クリエイティブプロダクツ

  • 鹿間絵理

    Shikama Eri

    ソニー・クリエイティブプロダクツ

サステナビリティの観点から「ピーターラビット」を捉え直す

――まずは、SCPがこれまで行なってきた「ピーターラビット」のキャラクタービジネスに関する主な取り組みについて教えてください。

原田:SCPは2013年から日本におけるマスターエージェントとして「ピーターラビット」のキャラクターライセンスを管理してきました。それに伴う業務として、グッズの商品化やイベントにおけるライセンスを行なっています。

2015年には自由が丘に『ピーターラビット™ ガーデンカフェ自由が丘』をオープンし、2016年には作者であるビアトリクス・ポター™さんの生誕150周年というタイミングで、全国を巡回する『ピーターラビット™展』を開催しました。今年も3月26日から世田谷美術館で開催されている『出版120周年 ピーターラビット™展』をはじめ、さまざまなプロジェクトを展開していきます。

――今回、東急田園都市線の渋谷駅に掲出された「ピーターラビット」の巨大ポスターは、どのような経緯で企画されたのでしょう?

横関:ビアトリクス・ポターさんが自然保護活動(※トラスト活動)に注力、貢献していたというバックグラウンドがあり、このたびの出版120周年を機に、そういった面も皆さまにもっと知っていただきたいという思いからスタートしました。

昨今、SDGsをはじめとするサステナブルな取り組みへの熱量が社会全体で高まっていますが、100年以上前からそのような活動を行なっていたビアトリクス・ポターさんの作品である「ピーターラビット」からも、何か発信できないかと考えたんです。

その上で、NKBのプランナーである佐藤さんとは別のプロジェクトでご一緒させていただいたことがあって。そのときに佐藤さんたちからご提案いただいたのが、“これを売りたい”という情報を企業として一方的に発信するだけではない、お客さまに見て喜んでいただき、さらにそのプロモーションを見たお客さまが、SNSなどで自発的に発信したいと思っていただけるようなコミュニケーション手段だったんですね。

それで、今回の「ピーターラビット」の120周年記念でも何か面白い取り組みができないかと思い、佐藤さんたちにご相談させていただきました。

※トラスト活動
トラスト活動とは、自然環境や歴史的建造物の保護・保全を行ない、次世代へ残すことを目的とする活動。1895年にイギリスで設立された非営利団体「英国ナショナル・トラスト」が始めた取り組みで、ビアトリクス・ポターもその理念に賛同し、活動に参加していた。

――佐藤さんは、そのオファーをどのように受けられたのでしょうか。
佐藤:具体的には、出版120周年を軸にして「ピーターラビット」のブランディングプロモーションを考えたいというお話でした。そこで、いくつかの切り口でアイデアをご提案したのですが、SCPの皆さんにはサステナブルな取り組みをフックにする案に興味を持っていただいてスタートしました。

横関さんのお話にもありましたが、ビアトリクス・ポターさんは、サステナビリティという言葉が広まっていなかった100年以上前に自然保護活動をされていた、そのファクトは非常に強いなと感じました。

ビアトリクス・ポター Courtesy of Victoria and Albert Museum

――昨今はサステナビリティを企業の理念に取り込み、SDGsを指針にしながらサステナブルな取り組みを強化している企業も多いのではないでしょうか。

佐藤:ご指摘の通り、さまざまな企業、キャラクター、ブランドなどでSDGs関連の取り組みをされており、我々もご提案依頼をいただくことが多くなりました。そのなかで、100年以上前から、自然保護に実際に取り組まれていたビアトリクス・ポターさんのような作者の存在は、ほかのキャラクターにはない強みであり、それをフックに差別化できる企画が作れるのではと考え、今回のフードペーパーを活用したプロモーションをご提案させていただきました。

はじめにご提案させていただいたプロモーションコンセプトとしては“Re:Peter Rabbit”というもので、“Re”にはふたつの意味が込められています。ひとつはリサイクルの“Re”で、もうひとつは、120周年をきっかけにさまざまな人に「ピーターラビット」の魅力を再認識してほしいという意味合いでの“Re”になります。

廃棄されるはずだった野菜を活用するフードペーパーとの出会い

――ポスターにフードペーパーを使用するというアイデアはどこから?

佐藤:「ピーターラビット」がサステナブルな食料環境を目指す国連のキャンペーンキャラクターに採用されたこともあり、ピーターたちの大好きな野菜や果物をいかした企画が何かできないかと考えていて、思い付いたのが廃棄される野菜を有効活用してアートを作るというアイデアでした。

それで廃棄野菜を使った画材や染料など、いろいろと調べてみたのですが、なかなか条件にあったものがなくて……。そんななかで見付かったのが、フードペーパーだったんです。“紙”であれば、原作である絵本の世界ともマッチするので、これを使ったプロモーションをご提案させていただき、SCPの皆さんにも快諾をいただきました。

――フードペーパーは、どこで製造されているのでしょうか?

佐藤:当初は、我々でイチから作ることができないか方法を模索したんですが、調べてみると、野菜などの食材から染料や紙を作るというのは想像以上に難しい技術だということがわかったんです。野菜や果物は酸化するので、匂いが付いたり、色が変わってしまったりするんですね。それを安定化させ、アートに使用できるクオリティにするためには、実験を繰り返し、原料となる廃棄野菜の保存技術や環境を整えなければならず、国内でも数えるほどしかこの技術を持っているところがない。スケジュールやコストを鑑みると、自分たちで作るのは現実的ではないとわかり、既に取り組んでいらっしゃる企業にご相談することにしたんです。

そうしてリサーチを進めるうちに、越前和紙で知られる福井県で廃棄野菜を原料とした紙を作っている老舗の製紙会社があると知りました。それが五十嵐製紙という会社で、とてもクオリティの高いフードペーパーの量産化を実現し、既にブランド化されていたんです。

五十嵐製紙は、創作和紙をはじめ、ガラスとコラボレーションした「和紙ガラス」や、「和紙あかり」(照明)など、積極的に作品、商品展開を行なっている。

横関:お話を伺ったところ、こちらの会社の五十嵐さんのお子様が、学校の自由研究でいろいろな野菜や果物を原料にして和紙を作る実験をされていたそうなんです。お父さんが食べるピーナッツの皮まで(笑)。そうしたお子様のアイデアを五十嵐さんが実現されたいという思いの詰まった紙だということで、そのエピソードにも惹かれました。

五十嵐製紙が手掛けるフードペーパーのサイト。

――今回はキャベツ、みかん、ラベンダーなど10種類の野菜や果物から、12種類のポスタービジュアルが制作されていますが、フードペーパーはどんな野菜からも作れるものなのでしょうか?

佐藤:フードペーパーは、和紙の原材料の代わりに廃棄野菜を混ぜて、手すき和紙と同じプロセスで作られています。野菜や果物の多くはフードペーパーに利用できるそうですが、野菜や果物も繊維の特徴によって向き不向きがあって、特に油分が多いものだと水になじまなくて相性が悪いようですね。

ちなみに、今回使用したB0サイズ(1030mm×1456mm)のポスターでは、1枚につき、廃棄野菜を約500g使っているとのことで、廃棄野菜を活用することで、従来の和紙の原材料の使用量を減らすことができるそうです。

鹿間:フードペーパーは、良い感じのクラフト感を醸し出し、今回の企画のコンセプトにもピッタリだと思いました。このポスターがフードペーパーでできているとわかったら、皆さんきっと触ってみたくなると思います。しかも、フードペーパーには香りもあって、ニンジンが材料だったらニンジンの香り、ラベンダーだったらラベンダーの香りがほのかにします。お茶もとても良い香りがしました。ただ、この紙は食べられないのでご注意ください(笑)。

――今回のポスターに使う10種類の野菜や果物は、どのように決められたのでしょう?

佐藤:五十嵐製紙の皆さんの努力で、既に数多くの野菜が試され、どの野菜を使うとどういう紙ができるかは、おおよそリスト化されていました。そのなかで、「ピーターラビット」の絵本に登場する野菜や、日本でも親しまれている野菜を選ぼうという話をSCPの皆さんとしました。

鹿間:今回は廃棄されるはずだった野菜を有効活用して、ポスターを作るというのが企画趣旨なので、ポスターの制作時に廃棄野菜として手に入る材料であることも条件でした。フードペーパーのためにわざわざ食べられる野菜を調達することは、当たり前ですがあり得ないので、あくまでも紙をすくタイミングに、無理なく手に入るものであるということを前提にセレクトしています。

あとは配色にも気を付けました。材料によってうっすらと出てくる紙の色が、ポスターとして並んだときに美しく見えるよう、10種類の野菜を選んでいます。

――廃棄野菜はどこから入手されたのですか?

佐藤:こちらのルートも五十嵐製紙で既に整えられていて、福井県の企業や農家の方々を中心にご協力いただき、廃棄する野菜や果物をご提供いただきました。廃棄の内容としては、缶詰工場やスーパーの惣菜部門でカットした野菜の端切れなどになります。

風合いをそのままいかしたポスター

――ポスターのサンプルを拝見すると、絵柄が絵本のイメージのままに美しく印刷されていますね。インクの乗り具合や色味などは何度も繰り返しチェックされたのですか?

原田:フードペーパーは、同じ食材を使っても時期によって色が変わってくるそうです。わかりやすい例を挙げると玉ねぎなら、新玉ねぎの方がより白っぽい色の紙になったり。しかも、今回提供していただくのは手すきの和紙なので、まさに世界に1枚しかない特別な紙でポスターを制作することになります。

逆に言うと、事前に「この色の紙に印刷したら、こういう色や質感になる」と想定して印刷することができないので、それならば、五十嵐製紙の皆さんに作っていただく紙の風合いをそのままいかしたポスターにしましょうということになりました。

鹿間:フードペーパーの和紙としての質感をいかしたほうが、面白いものができると思いました。近くで見ていただくとわかるのですが、フードペーパーは使用されている野菜や果物が細かく粉砕されて紙の一部になっているので、小さく形が残っているんです。それが良い感じのテクスチャーになっています。

また、従来のやり方なら、色味を中心に細かく仕上がりをチェックして、何度か刷り直してから、本刷りまで進めていくのですが、今回はサンプルとしてのテスト印刷はチェックしていますが、完成形を確認できたのはポスターとして掲出された本番の1回限り。

フードペーパーで刷られたテスト用のポスター。ビジュアル、テキストはすべて仮のもの。

いつもと違うやり方なので多少不安もありましたが、サンプルで見せていただいたフードペーパーの質感が素晴らしかったので、刷り上がりまでのワクワク感の方が強かったですね。ちなみに、完成形を事前に確認しないでクリエイティブを進めるやり方について、権利元に事前に共有しましたが、企画の趣旨を理解してくれて、すぐに賛同が得られました。

――ところで紙のコストとしては、フードペーパーは通常のものより高くなるのでしょうか?

佐藤:今回に関して言うと、1枚1枚、職人の方に手すきで作っていただいた和紙なので、一般的なポスターに使用する紙の価格に比べれば、比較的高いのは事実です。ただ、これでコストが跳ね上がるようなことはありません。掲出の規模にもよりますが、普通に広告ポスターとしても活用できる範囲の価格だと思います。

――手すきということでしたが、フードペーパーは機械による量産も可能なのでしょうか?

佐藤:はい。今回は企画の狙いがハッキリしていて、クラフト感をいかすために手すきの和紙をオーダーしましたが、五十嵐製紙では機械による量産にも対応されていて、大量発注も可能だそうです。実際、五十嵐製紙のホームページをご覧いただけるとわかりますが、フードペーパーのメッセージカードやノートがECで販売されています。ちなみに機械式にすると、質感はより普通紙に近いものになり、ざらざら感は減りますが、そのぶん汎用性は高くなってコストは抑えられるそうです。

■フードペーパーのECサイトはこちら

――今後、フードペーパーの可能性が広がっていきそうですね。

佐藤:1枚のフードペーパーを製作する際の廃棄野菜の使用率は約30~40%で、残りは和紙の原材料となる植物の繊維を使うわけですが、今、和紙業界ではこの原材料の不足が問題になっているそうです。また、和紙自体が使われる機会も少なくなってきていて、和紙を作る工房も閉じるところが増えていると聞きます。

我々が日本の伝統産業である和紙の新しい活用法を提案することで、和紙業界再生のために少しでもお役に立てたらとも思います。廃棄野菜を使うことで、作る人、使う人、楽しむ人、全員がハッピーの関係になれれば、最高のプロジェクトになるのではないかと。そういう意味でも、今回の企画はサステナビリティの取り組みと言えるのではないでしょうか。

(TM) & © FW & Co.,2022

後編へつづく

文・取材:石井理恵子
撮影:冨田望

関連サイト

『ピーターラビット™』日本公式サイト
https://www.peterrabbit-japan.com/
 
『Friend to Nature』キャンペーンページ
https://www.peterrabbit-japan.com/foodpaper/
 
『出版120周年 ピーターラビット™展』公式サイト
https://peter120.exhibit.jp/
 
『ピーターラビット™』公式オンラインショップ
https://www.peterrabbit-shop.jp/
 
五十嵐製紙公式サイト
http://www.wagamiya.com/
 
五十嵐製紙のフードペーパー公式サイト
https://foodpaper.jp/

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