アーティスト、クリエイター、スタッフの心と身体をサポート――『B-side』という持続可能な取り組み【前編】
2022.04.04
ソニー・ミュージックレーベルズ 他
ソニーミュージックグループでは、持続可能な社会の発展を目指して、環境に配慮した活動や社会貢献活動、多様な社会に向けた活動など、エンタテインメントを通じたさまざまな取り組みを行なっている。連載企画「サステナビリティ~私たちにできること~」では、そんなサステナビリティ活動に取り組む人たちに話を聞いていく。
第1回は、2022年に絵本出版から120周年を迎える『ピーターラビットのおはなし』に関連したプロジェクトをフィーチャー。日本でも幅広い世代にファンを持つ「ピーターラビット」だが、2021年にはサステナブルな食料環境を目指す国連のキャンペーンキャラクターに採用されるなど、SDGsの観点からもその魅力が見直されている。
今年は120周年というアニバーサリーにちなんだ数々のイベントが予定されているが、その一環として3月21日から1週間、東急田園都市線の渋谷駅構内に絵本出版120周年のメッセージを伝える巨大ポスターが掲出された。このポスターは、廃棄されるはずだった野菜や果物を原料とした紙(フードペーパー)を利用して制作されている。プロジェクトを企画した株式会社NKBとソニー・クリエイティブプロダクツ(以下、SCP)の4人の担当者に話を聞いた。
後編では、「ピーターラビット」の世界観を伝えるために心掛けていることを語ってもらう。
目次
佐藤剛氏
Sato Takeshi
株式会社NKB
横関悦子
Yokozeki Etsuko
ソニー・クリエイティブプロダクツ
原田健至
Harada Kenji
ソニー・クリエイティブプロダクツ
鹿間絵理
Shikama Eri
ソニー・クリエイティブプロダクツ
――今回のポスターのビジュアルには、『ピーターラビットのおはなし』シリーズの絵本のファンには有名な「ピーターのおとうさんがパイにされて食べられてしまう」というドキッとするエピソードの部分も使われていますね。ビジュアルに使う場面や、その組み合わせはどのように選ばれたのですか?
鹿間:メインのビジュアルは、ピーターとベンジャミンが“ハッピーバースデー”という帯を持っているもので、『ピーターラビットのおはなし』出版120周年のお祝いをイメージしています。SDGsに関連したビジュアルでは、レタスの横で眠るピーターの絵を使っていますが、これは“ピーターが自然に寄り添っている”というイメージで選びました。そのほか、絵本の抜粋から作ったビジュアルは10種類、インパクトのある絵柄を選びつつ、なんとなくストーリーの流れがわかるように並べています。
――確かに「ピーターラビット」というキャラクターには、世界中に多くのファンがいますし、「実は絵本をちゃんと読んだことがない」、「詳しいストーリーは知らない」という方も多いかもしれませんね。
横関:絵本の出版120周年に、「ピーターラビット」ってこういうストーリーだったんだなと改めて思い出していただく、読んだことのない方には、その世界観に触れていただく機会になればと思いました。美しい絵柄を楽しみながら、想像力を掻き立てられる、躍動感のある楽しいお話なんですよね。
――「ピーターラビット」には、どういった層のファンが多いのでしょうか?
原田:我々がコアターゲットと捉えているのは、30代半ばから40代の女性層になりますが、すごく幅広い層の方々から愛されているキャラクターだと感じます。それこそ、日本で『ピーターラビットのおはなし』の絵本が出版されてから50年以上が経過していて、初版を読まれていた方々は世代が上がっていらっしゃるわけですが、今でもイベントに足を運んで、展示を楽しんだり、グッズを購入されたりしています。絵本のキャラクターということで、今の子どもたちも読んでくれますから、祖父母、両親、子どもの3世代にわたるファミリーでファンという方も多いですね。また、近年は映画も公開されてヒットを記録したので、そこを入り口にされている方もいらっしゃるようです。
――先ほど作者のビアトリクス・ポター氏が自然保護活動に熱心だったというお話がありましたが、実はキャラクタービジネスを行なう上で欠かせない、ライセンスへの取り組みを世に広めたのは彼女だと言われているそうですね。
原田:はい。キャラクターライセンスの概念を導入したのは、「ピーターラビット」が最古ではないかと言われています。と言うのも、ビアトリクス・ポターさんの絵本が出版されて人気が高まってくると、その絵をモデルにしてぬいぐるみなどが作られるようになったそうです。
そこで彼女は自分自身で造形を決め、「ピーターラビット」のぬいぐるみを作り、「これが正式な『ピーターラビット』のぬいぐるみ」と特許の申請を行ないました。まさにキャラクタービジネスの核と言える取り組みを約120年前に展開していたというのには驚きましたね。グッズがあることによって、絵本の人気もつづくとビアトリクス・ポターさんも考えていたそうです。
横関:そうやってビアトリクス・ポターさんが作り上げた「ピーターラビット」の世界観を、現代向けにリファインして伝えるということも我々SCPの役割だと感じています。今回のポスター掲出も、そのことが根底にあって取り組んでいる施策ですね。
――なるほど。しかし、2022年の現在では、作者であるビアトリクス・ポター氏と直接会って、ご本人の意向や「ピーターラビット」という作品に対する考えを確認することはできません。キャラクターを次の世代にバトンタッチさせていく上で、原作者の思考へのタッチポイントが資料だけだと、難しい部分もあるのではないかと思うのですが、その点はどう捉えていますか。
原田:確かに現在ではご本人に直接会って、その思考に触れられたことがあるという方は少なくなっていると思います。そういった意味では、ビアトリクス・ポターさんの残した作品のなかから、自分たちなりに解釈していかなければならない部分があるIPだと思います。
横関:「ピーターラビット」を広く一般の方々に向けて発信するにあたっては、あれこれいじらずに、オリジナルの素晴らしさをそのまま手渡すのが良い、それが「ピーターラビット」の魅力だということはチームで共有していることです。
そのなかで新しいチャレンジと、守る部分とのバランスを取りながら、「ピーターラビット」の世界観をもっと多くの人に届けたいと考えています。
――そう考えると、120年つづいているキャラクターというのは、改めてすごいですね。
佐藤:私もそう思います。今回、我々は第3者の立場でプロジェクトに参加させていただきましたが、企画を進めるミーティングのなかで、SCPの皆さんが作品の世界観を本当に大事にされているということがよくわかりました。
だからこそ我々も、このプロモーションを通して、ファンの方々はもちろんのこと、ライトユーザー、もしくは作品名ぐらいしかご存じない方にも、「ピーターラビット」の魅力をしっかり伝えられているかという点には、非常に気を配りました。
――ポスター以外にも「ピーターラビット」でサステナブルな活動やSDGsに則したようなプロジェクトはあるのでしょうか?
横関:「ピーターラビット」のグローバルサイトでは、“Friend to Nature”というキーワードが掲げられています。イギリスの湖水地方を舞台に、高い理念を持った作者から生まれた「ピーターラビット」。その存在が、持続可能な社会の発展に向けて、私たち一人ひとりが貢献できることは何か? を考えるきっかけとなるメッセンジャーのような存在になってくれたらと思っています。自然と友だちになることが、サステナビリティにもつながるというメッセージを伝えていきたいですね。
原田:今回のポスターにも“Friend to Nature”というキーワードを入れましたが、「ピーターラビット」のSDGsでのブランディングは、もっと強化していきたいと考えています。そして、今後はそれをビジネスにも落とし込んでいかなければなりません。具体的には、私たちのライセンスビジネスにおいて、“Friend to Nature”という大きな枠組みのなかでグッズを作ったり、イベントを開催していきたいと考えています。
渋谷駅に掲出された“Friend to Nature”のポスター。
――今後、どういったかたちでサステナビリティへの取り組みやSDGsの活動にキャラクターをトレースしていく可能性があると思いますか?
横関:身近なところであれば、「ピーターラビット」と一緒に子どもたちと自然を親しめるようなワークショップを展開したいなと思っています。
中長期的な視点では、企業の方々とパートナーシップを図り、サステナブルな取り組みに「ピーターラビット」をキャラクターとして使っていただくということが考えられます。例えば、アパレル業界では、リサイクル原料やオーガニックコットンを使って商品を作るといった取り組みをしている企業が急激に増えました。そのような活動とキャラクターをマッチングするチャンスを図っていけたらと考えています。
佐藤:サステナビリティやSDGsへのアプローチは、数年前とは比べものにならないほど注目度が高く、それに取り組むことによって企業価値も高まるということに、皆さんが気付き、大きなうねりになっているのを感じますね。ただ、それを瞬間で終わらせないよう、どう定着させていくかが重要だと思います。
――確かに今の若い世代にとって、企業がサステナビリティへの取り組みにどれだけ積極的かは、就職先を選ぶ基準にもなっていると聞きます。そのあたりの意識の変化は感じられますか?
原田:自分たちやその下の世代で、そういう意識が高まっているのを日常的に感じるかと言われると、まだそこまでではないのかなと思います。ただ、メディアや仕事関係ではサステナビリティという言葉を聞く機会が多くなったのは確かです。
その上で、自分が関わる仕事のなかで気を付けたいと思うのは、“サステナブルな商品だから買ってほしい”というようなアピールはしないこと。今回のフードペーパーのポスター制作にしても、廃棄野菜を原料にした和紙があって、その質感と「ピーターラビット」の世界観がマッチしたので取り組んだことです。
つまり、ファンの方々を中心に、受け手側がコンセプトに共感してくれたり、かわいいとか、私も欲しいとか、ポジティブに感じてもらえるところを起点にアプローチしないと、結局、ビジネスとして定着させるのが難しいですし、それはイコール、サステナビリティの取り組みになっていかないと思います。
鹿間:なので「ピーターラビット」は、“Friend to Nature”をテーマにして、日々の生活のなかで“これってサステナビリティに役立つのかな?”といった、小さくても気付きを与えられる存在として、寄り添っていけたらと思っています。
――出版120周年を記念して、今年はさまざまなプロジェクトやイベントが行なわれる1年間になりますが、今後の展開についてお聞かせください。
原田:大きなイベントとしては、3月26日から世田谷美術館でスタートした『出版120周年 ピーターラビット™展』があります。これは『ピーターラビットのおはなし』の彩色原画全点をはじめ、貴重なスケッチやイラストレーションなど約170点を展示するファン必見のイベントです。春に東京、夏に大阪、秋に静岡というかたちで、全国3カ所を巡回します。
また、全国の百貨店でも『ピーターラビット™ バースデーパーク』が開催中です。西武池袋本店をスタートに、150坪ぐらいのかなり大きな売り場で、「ピーターラビット」のグッズが約800点揃うというかつてない規模になっています。こちらは、長期的に日本全国の主要都市の百貨店を巡回する予定です。
加えて、4月16日に『ピーターラビット™ イングリッシュガーデン』という、本格的なイングリッシュガーデンに「ピーターラビット」の世界観を表現した施設がオープンします。富士山近くの本栖湖のリゾートエリアで、マーク・チャップマンさんというガーデンデザイナーの方にデザイン監修をしていただきました。この3つが120周年の大きなイベントになると思います。
『ピーターラビット イングリッシュガーデン』のイメージイラスト。
横関:120年引き継がれ、愛されつづけてきた「ピーターラビット」という作品、作者、さらには取り組みも含めて、キャラクター業界でのサステナブルな象徴のひとつと言えるのではないかと思います。その上で、SCPとしてはこの素晴らしい作品を120年に止まらず、150年、200年と、さらにその先へとつないでいかなければいけないと考えています。そのための施策を今後もいろいろな形で展開していきますので、ご期待いただければと思います。
(TM) & © FW & Co.,2022
文・取材:石井理恵子
撮影:冨田望
『ピーターラビット™』日本公式サイト
https://www.peterrabbit-japan.com/
 
『Friend to Nature』キャンペーンページ
https://www.peterrabbit-japan.com/foodpaper/
 
『出版120周年 ピーターラビット™展』公式サイト
https://peter120.exhibit.jp/
 
『ピーターラビット™』公式オンラインショップ
https://www.peterrabbit-shop.jp/
 
五十嵐製紙公式サイト
http://www.wagamiya.com/
 
五十嵐製紙のフードペーパー公式サイト
https://foodpaper.jp/
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