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連載Cocotame Series

今、聴きたいクラシック

パブロ・フェランデス――レジェンドと新世代を繋ぐ期待のチェリスト【後編】

2023.09.22

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遠い昔に生まれ、今という時代にも息づくクラシック音楽。その魅力と楽しみ方をお届けする連載「今、聴きたいクラシック」。

今回はスペイン出身の新鋭チェリスト、パブロ・フェランデスをフィーチャー。数々の国際コンクールでの入賞、世界の名門オーケストラとの共演、“ヴァイオリンの女王”と名高いアンネ=ゾフィー・ムターとのレコーディングなど、目覚ましい活躍ぶりでクラシック界の期待を浴びる存在である。気さくな人柄でSNSでも人気を集める彼に、オンラインでインタビューを行なった。

後編では、世界を飛び回る若きチェリストの内面やスピリットについてさらに掘り下げていく。

  • パブロ・フェランデスプロフィール写真

    パブロ・フェランデス

    Pablo Ferrández

    ©KRISTIAN SCHULLER

    1991年、スペインのマドリード生まれ。2008年のリーツェン国際コンクール優勝を機に頭角を現し、2013年にはパウロ国際チェロ・コンクール準優勝、2015年のチャイコフスキー国際コンクール入賞など数々の賞を受賞している。2020年からソニー・クラシカルと専属契約を結び、2021年にアルバム『リフレクションズ~プレイズ・ラフマニノフ・ファリャ・グラナドス』をリリース。2022にはアンネ=ゾフィー・ムターとの共演アルバム『ブラームス:二重協奏曲/クララ・シューマン:ピアノ三重奏曲』をリリース。

SNSで演奏活動の裏側を見せたかった

前編からつづく)1991年生まれのパブロ・フェランデスは、SNSでの発信にも積極的に取り組んでいる。Instagramで11万人を超えるフォロワーを獲得しているほか、自身のYouTubeチャンネルでは世界中のチェリストを招いて音楽について語り合うシリーズ『TALKING CELLO』が人気を博している。こうした活動にはどんな想いが込められているのだろうか。

Pablo Ferrández“TALKING CELLO”with Zlatomir Fung

「私はSNSでの発信を心から楽しんでいます。SNSによって、コンサートに来てくださったお客さんとの繋がりを保つことができますし、演奏家もお客さんも、互いを身近に感じることができます。楽器を演奏しているか否か、プロフェッショナルかアマチュアかを問わず、音楽を愛する若い世代の皆さんに、演奏活動の裏側をお見せしたいとかねてより思っていました。ときにはほかの演奏家とも話をしながら、プロの演奏家がどのような生活をしているのか、ソリストが日々どのような練習をしているのか、お客さんに伝えたかったのです。

お客さんのなかには、プロの演奏家は既にパーフェクトな技術を身につけていて、演奏上の困難は一切ないと考える人がいます。しかし実際には、ソリストも皆と同じような問題を抱え、壁にぶつかり、それを乗り越えるために努力しています。ですから私は、そうした誤ったイメージを払拭したいと考えました。ソリストたちも同じように困難と向き合っていることを知り、憧れの演奏家たちが努力している姿を見ることは、若い人たちにとって非常に意義があることだと思います。

私がこれまでのキャリアで得た経験や知識を、若い人たち、音楽を愛する人たちとシェアしたいのです。私がムスティスラフ・ロストロポーヴィチやジャクリーヌ・デュ・プレ※のような偉大なチェリストたちから学びたいと思うように、次の世代の人々が私の動画を参考にしてくれたらとてもうれしいですね」

※ジャクリーヌ・デュ・プレ(1945~1987年)
イギリス出身のチェリスト。16歳のデビュー以来、天才少女として一世を風靡し、ピアニスト・指揮者のダニエル・バレンボイムと結婚。しかし難病に冒され42歳の若さで世を去った。

SNSでの発信は、未来の演奏家たちへメッセージを伝えるだけでなく、新しい聴衆の獲得にも繋がっていると、パブロ・フェランデスは手応えを感じている。

「SNSを見たり、活用したりするのはやはり若い世代が中心です。私の投稿を見て、“面白そうだから行ってみよう”とコンサートに来てくれる若い人が増えていますし、SNSで発信をするようになってから、お客さんの年齢層が若くなっているのを感じています。若い世代の新しいファンと繋がるには、SNSは間違いなく有効な手段なのです」

パブロ・フェランデス写真1

名手たちと歴史を刻んできたストラディヴァリウス

パブロ・フェランデスが愛用している楽器は1696年製のストラディヴァリウス「ロード・アイレスフォード」。ヴァイオリンよりはるかに数が少ないチェロのストラディヴァリウスは大変貴重で、選ばれし演奏家だけが手にすることのできる銘器である。過去にはグレゴール・ピアティゴルスキーやヤーノシュ・シュタルケルなど、音楽史に名を刻む偉大なチェリストたちがこの楽器を演奏していた。

パブロ・フェランデスは2014年から日本音楽財団よりこの楽器を貸与されている。そして今年9月には大阪と東京で開催される『ストラディヴァリウス・コンサート2023』に出演し、ベートーヴェンやチャイコフスキー、コルンゴルトの室内楽のほか、ラフマニノフの「ヴォカリーズ」でロード・アイレスフォードの美音を聴かせてくれる。

パブロ・フェランデス写真2

©KRISTIAN SCHULLER

「私はロード・アイレスフォードを10年ほど前から演奏していますが、まだキャリアを歩み始めたばかりの私を信じて、この素晴らしい楽器を貸与してくださった日本音楽財団には心から感謝しています。この楽器が、私のチェリストとしての成長にとても大きな力となってくれました。非常に繊細で、弾きこなせるようになるまでには何年もかかりましたが、その音色の美しさは言葉にならないほどですし、表現には限界がありません。

私はこの楽器を弾くようになってから、“もう言い訳はできないんだ”と自分に言い聞かせてきました。最高の楽器を弾いている以上、その演奏の責任はすべて自分にあるのです。この楽器を過去に弾いてきた偉大なチェリストたちの系譜に私も加わって、新しい歴史を加えていきたいですし、この楽器に相応しい演奏家にならなくてはいけないといつも思っています。

また、日本音楽財団がこの楽器を貸与してくださったおかげで、私は日本という国とも繋がりを持つことができ、日本は私にとって大好きな国になりました」

あまり遠い未来については考えない

今年、10~11月にはチェコ・フィルハーモニー管弦楽団のソリストとして再来日し、ドヴォルザークのチェロ協奏曲をセミヨン・ビシュコフの指揮で演奏する。チェリストにとってもっとも重要なレパートリーであるドヴォルザークの協奏曲を、作曲家の故郷であるチェコのオーケストラと演奏するのは、パブロ・フェランデスにとって感慨深いことだという。

「チェコ・フィルハーモニー管弦楽団とのドヴォルザークのチェロ協奏曲での共演は、もっともエキサイティングなプロジェクトのひとつです。ブラームスの二重協奏曲の録音でもチェコ・フィルと共演しましたが、このオーケストラのあたたかく、包み込むような音には圧倒されました。チェコ・フィルのメンバーはソリストの演奏を本当によく聴いていて、神経の行き届いた演奏をしてくれるのです。

ドヴォルザークのチェロ協奏曲を演奏するのに、チェコ・フィルより相応しいオーケストラはほかにないでしょう。セミヨン・ビシュコフさんも私が子どものときから憧れていた指揮者ですから、彼らとともに日本へ行って演奏できることが今から待ち遠しいです。これはワールドツアーなので、日本だけでなくヨーロッパでも、この顔ぶれでドヴォルザークを演奏する予定です」

パブロ・フェランデス写真3

©Petra Hajská

世界中を飛び回るフェランデスに、旅先での過ごし方についても聞いてみた。

「私は年間250日、家を留守にして、120回以上飛行機に乗っています。旅先でも練習をするのはもちろんですが、身体のコンディションが最優先なので、睡眠を充分にとり、ジョギングをして、水分をたくさんとることを大切にしています。私はスポーツ、特にテニスが大好きなのですが、旅先では相手がなかなか見つからないので、そういうときにはひとりで街のなかを走ります。数時間ジョギングをすれば、その街の様子がわかって楽しいのです」

そんなパブロ・フェランデスにとって、日本はストラディヴァリウスで結ばれた国であるだけでなく、お気に入りの旅先でもあるそうだ。

「日本と日本の人々が大好きで、プライベートでもこれまでに2度、妻と一緒に東京へ行きました。別の機会には大阪にも行きましたし、近々、京都への旅行も予定しています。日本では街を散策するのが好きで、とんこつラーメンや鉄板焼きが大好物です。今後は日本での演奏機会をこれまで以上に増やしていきたいですね」

さらなる飛躍を遂げるパブロ・フェランデスに、今後のビジョンやプロジェクトについても語ってもらった。

「チェコ・フィルハーモニー管弦楽団とのワールドツアー以外にも、ニューヨーク・フィルハーモニック、シアトル交響楽団、サンフランシスコ交響楽団、ロサンゼルス・フィルハーモニックなど、アメリカの名門オーケストラへのデビューをいくつも控えていますし、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団にも客演する予定です。次のレコーディングのプロジェクトも既に決まっています。今はまだ詳細をお話しできませんが、リリースを楽しみにしていてください。

私はあまり遠い未来については考えないようにしています。長期的なプランを立てても現実はその通りには進まないですし、5年前の自分に今の自分の姿を想像することはできませんでした。先のことを考えるよりも、目の前の一つひとつのコンサートを噛み締めながら、人生の旅を楽しんでいきたいですね」

文・取材:八木宏之
通訳:井上裕佳子

リリース情報

『ブラームス:二重協奏曲/クララ・シューマン:ピアノ三重奏曲』ジャケット写真
 
『ブラームス:二重協奏曲/クララ・シューマン:ピアノ三重奏曲』
価格:2,860円
詳細はこちら(新しいタブで開く)
 
アンネ=ゾフィー・ムター(ヴァイオリン)
パブロ・フェランデス(チェロ)
マンフレート・ホーネック指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
ランバート・オーキス(ピアノ)

パブロ・フェランデス コンサート情報

『ストラディヴァリウス・コンサート2023』
9月22日(金)19:00 大阪: 住友生命いずみホール
9月24日(日)14:00 東京:紀尾井ホール
詳細はこちら(新しいタブで開く)
 
『セミヨン・ビシュコフ指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団』
10月28日(土)17:00 愛知:愛知県芸術劇場コンサートホール 
詳細はこちら(新しいタブで開く)
10月29日(日)14:00 東京:サントリーホール
詳細はこちら(新しいタブで開く)
11月3日(金・祝)15:00 大阪:ザ・シンフォニーホール
詳細はこちら(新しいタブで開く)
 
『チャイコフスキー3大協奏曲の響宴 ―130年目の命日に捧ぐ―』
11月6日(月)19:00 東京:サントリーホール
詳細はこちら(新しいタブで開く)

関連サイト

パブロ・フェランデス ソニーミュージックオフィシャルサイト
https://www.sonymusic.co.jp/artist/pabloferrandez/(新しいタブで開く)
 
パブロ・フェランデス公式Instagram
https://www.instagram.com/pabloferrandez.cellist/(新しいタブで開く)
 
パブロ・フェランデス公式YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/user/pabloferrandez(新しいタブで開く)

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