石原詢子インタビュー:「古いものを大事にしつつ、若い人にも響く新しい演歌というジャンルを作っていく」【前編】
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ソニー・ミュージックレーベルズ
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日本の音楽シーンで存在感を放ち、時代を超えて支持されつづけるレジェンドアーティストをクローズアップ。本人へのインタビューで、過去と現在の活動を辿る連載「THEN&NOW 時を超えるアーティスト」。
今回は、1988年10月にシングル「ホレました」でCBS・ソニーから歌手デビューを果たし、2023年にデビュー35周年を迎えた演歌歌手、石原詢子にインタビュー。
爽やかで透き通った歌声、明るく温かな“しあわせ演歌”でファンを虜にする石原詢子のこれまでの道のりに加え、2023年にリリースされた自作曲「五島椿」制作時の想いや、日本のソウルミュージックである演歌の魅力ついて聞いた。
後編では、原点である“しあわせ演歌”や演歌の在り方について語る。
石原詢子
Ishihara Junko
1968年1月12日生まれ。岐阜県出身。詩吟揖水流宗家の長女として生まれ、のちに詩吟、剣舞、詩舞の師範代となる。1988年10月21日に「ホレました」で歌手デビュー。2000年、2003年には『NHK紅白歌合戦』への出場を果たす。2023年にデビュー35周年を迎え、同年5月24日に“いとう冨士子”名義で作詞、作曲した通算41作目のシングル「五島椿」をリリース。
――(前編からつづく)石原さんはこれまでさまざまな楽曲をリリースして、演歌ファンの皆さんに想いを届けてきました。2023年5月には、“いとう冨士子”名義で作詞、作曲された通算41作目のシングル「五島椿」をリリースし、話題になりました。石原さんの演歌というと、マイナーで哀しげな曲調ではなく、ミドルテンポでメジャー調の明るい“しあわせ演歌”で知られますが、「五島椿」はまさに“しあわせ演歌”の真骨頂ですね。
そうですね。振り返ると、「みれん酒」が売れたことによって、メジャー演歌が石原詢子に合っているということになって、そこからは、ほとんど明るい曲調がつづいていったんです。それが“しあわせ演歌”でした。
でも、実は途中で私もだんだん、もういいんじゃないかな? と思うようにもなりまして……(苦笑)。似たような曲があまりにも増えたので、一度リセットして違うタイプの曲を歌いたいと、「逢いたい、今すぐあなたに…。」(2011年)を出してからは、しばらく“しあわせ演歌”は封印していたんです。なので「五島椿」は実に十数年ぶりになりますね。
――原点に立ち返られたんですね。
もうたぶん、ファンの皆さんも「詢ちゃん、そろそろ明るい歌を歌ってよ」と思っていらっしゃるころかな? というのもありました。作詞、作曲をさせていただいて、自分がもし明るい“しあわせ演歌”を歌うのであれば、こういう感じが良いなというものが、自分のなかからも出てきたんです。ほかの方からすれば、今までと変わらないじゃない、と思われるかもしれないんですけど、私のなかでは、ちょっと今までとは違う明るい歌になりましたね。
――この曲をきっかけに、石原さんは長崎県五島市「五島市ふるさと大使」と、新上五島町の「新上五島町観光物産大使」にも就任されました。異国情緒の香りがする、温かな曲調も素敵です。
私が五島列島を初めて訪れたのは、今から20年ほど前になるんですが、本当にすばらしい土地だったんです。それはずっと心のなかにありましたから、新曲を書くならぜひ五島の歌にしたいと思いました。そこで改めて2023年の2月に訪れたんですよ。教会がとても多く、キリシタンの歴史を辿ってみたときに、異国の風というか……そういうものを音楽のなかで表現できたらな、という感情が生まれてきたんです。
編曲してくださった若草恵先生にもその想いをお伝えしたら、ポルトガルギターとパンフルートを入れてくださり、島に吹く風のようなイメージを作ってくださいました。ぽかぽかとした五島の風を感じていただけたらうれしいです。
――歌詞も、春の訪れと恋の気持ちを鮮やかな椿の花になぞらえていますね。「五島椿」のミュージックビデオでも、五島市福江島の美しい風景のなかで歌っていて、見ていて気持ちが癒されます。
はい。まるで映画のような映像になりました。たくさんの皆さまにぜひ見ていただいて、五島の美しさを感じていただきたいですね。
石原詢子「五島椿」ミュージックビデオ
――作詞、作曲も手がけている石原さんですが、楽器もお得意だとか。作曲されるときはピアノでメロディを作っていると聞きました。
ピアノは、30周年記念リサイタルで弾き語りをすると決めて始めたんですよ。地方のお仕事にも、あの……クルクル巻ける電子鍵盤を持っていって(笑)、明けても暮れても必死で練習しましたね。その後も、ツアーで披露したりはしているんですけど、最初はファンの方もびっくりしたと思います。何より、誰よりも驚いていたのはデビューからずっとかわいがってくださっている伍代夏子さんでした(笑)。
楽器でいうと、実はギターも少し練習中なんですけど……向いてないのかなぁ、すごく苦労してます(苦笑)。自分で楽器を弾きながら歌うのは夢なんですけど、歌いながら何か別のことをするっていうのは、ほんとに天才だと思うんです。でもせっかくやるなら目標を立てておかないと、いつまでもダラダラしちゃう。次のリサイタルぐらいまでには、皆さんの前でちゃんとギターの弾き語りができるように……頑張りたいですね。
――さらに2018年からは、お父様の遺志を継いで、詩吟揖水流詢風会を発足し、詩吟の指導にも精力的に取り組んでいますね。
はい。私が元気なうちはつづけていきたいです。ただ、指導者がまだ私ひとりしかいないので、これからは指導者となる人たちも育てて、会を大きくしていけたらなとは思っています。詩吟は日本の伝統文化でもありますし、日本語って本当に美しいんですよね。その日本語に節をつける詩吟を、日本の伝統芸能として継承していきたいです。
――キャリアを重ねつつ、ライブでは洋楽をカバーしたり、弾き語りにも挑戦したりと、幅広いチャレンジをつづけている石原さんですが、その根底にはやはり演歌への想いは深くあると思います。改めて伺いますが、演歌の魅力をどこに感じていらっしゃいますか?
難しい質問ですよね……。私に関していえば、もう体に染みついているものなので、言葉にするのはとても難しいです。私自身、それこそアメリカに行って出会ったカントリーミュージックのアラン・ジャクソンが大好きだったり、兄の影響でザ・ビートルズを聴いていたり、日本の1970年代フォークミュージックを聴いたりと、音楽全般が好きなんですけど、私のなかでの一等賞は、ずっと演歌なんです。
もちろんライブでは最近の曲にも挑戦しますし、私の「ただそばにいてくれて」を古内東子さんに書いていただいて大きな影響を受けました。また、ボイストレーニングではJUJUさんやミスチル(Mr.Children)さんの曲も歌うんですけど、演歌はすぐ覚えられるのに、ポップスはなかなか覚えられないんです(笑)。やっぱり演歌が好き、演歌を歌いたいというのは、もう理屈じゃないんですね、きっと。
――いろいろな音楽を、ご自身の演歌に吸収されていく?
そうですね。「五島椿」を作ったときも思いましたが、最近の音楽はすごく複雑で、分厚すぎるなと思うんです。もちろん、それが今の流行であることはわかっています。でも私が親しんできた演歌にしろ、ずっと心に残る歌はメロディもアレンジもとてもシンプルなんですね。「五島椿」もそれを目指しましたし、歌詞も五島の風景を描くことで、そこに気持ちが乗ってくる。今後も曲を作っていくのであれば、シンプルな作りでやりたいなというのはあります。
やはり歌手になったからには、いつの時代でも愛される、後世に残るヒット曲を歌いたいですね。ただ、演歌そのものの行方を考えると、最近の音楽のなかでは寂しいことに、演歌の土台を作っている世相ですとか、言葉遣いは死語になりつつあるんです。
――描かれている男性像、女性像も今とは違うことが多いですよね。男性が女性を守り、女性は男性をずっと待ちつづけ、耐え忍ぶことが美徳とされているとか。
そうなんです。そういう世界観をずっと見てきたので、個人的には理解できるのですが、今の時代にはやはりそぐわないですよね。美しい日本語を大切にしていることはわかりますが、もっとカタカナ語が入ったりしても良いとも思いますしね。
ただ同じような作り方をしていくのではなく、例えばアレンジを今のポップスの方にお願いするとか、何か面白いことをやっていくほうが、演歌にとっても幸せなんじゃないか。古いものを大事にしつつ、若い人にも響く新しい演歌というジャンルを作っていくのは、とても大事なことじゃないかと思います。
もちろん、演歌を愛してくださっている方を、第一のターゲットとして活動していくのですが、そうではない、演歌にまったく興味のない人でも、「あ、この曲好きだな」と思える曲も必要。そういうものを、これから作っていきたいと思うんです。
――若い歌手のなかにも、“カラオケでは演歌をよく歌います”という方が、実はたくさんいますしね。
そうなんですか!? でも、時代を超えた名曲が多いですからね。そういう名曲を、新しい形で残していくことも、私たちの役目なのかなと思います。
――さらに国外にも目を向けてみると、サブスクリプションサービスや動画配信で石原さんの歌、演歌が日本のみならず世界中で聴けるチャンスも増えています。
そうですよね。やっぱり、日本の心である美しい音楽、美しい言葉が、さまざまな国や地域の方々に伝えられるというのは、すばらしいことだと思います。配信で聴かれているのはアジアが圧倒的で、自分のInstagramなどを見ても、中国や韓国などの方々から、たくさん反応をいただくんです。なので、もっとマメに更新しなきゃなとは思うんですが……(苦笑)。
――また夢が広がりますね。
私たちが想いを込めて歌った歌が、日本だけではないたくさんの方に聴いてもらえるのは幸せなことです。ただ、日本のご高齢の演歌ファンにとっては、ネット配信だけですとなかなか難しいでしょうし、CDショップも減ってきています。コンサートやイベント会場などの即売会でないと曲を受け取れない、という厳しい状況も確かにあるんですね。ですから、より良い音楽、素敵な演歌を多くの人に届けられる方法を、私もソニーミュージックと一緒に考えていけたらなと思っています。
文・取材:阿部美香
撮影:干川 修
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