『スヌーピーミュージアム』が過去最大のリニューアルを実施! コロナ禍を経て見えた課題と対策【前編】
2024.03.10
2024.03.11
連載企画「ミュージアム ~アートとエンタメが交差する場所」では、アーティストや作品の魅力を最大限に演出し、観る者の心に何かを訴えかける空間を創り出す人々にスポットを当てる。
今回取り上げるのは、2024年2月1日にリニューアルオープンした『スヌーピーミュージアム』。数えきれないほどのスヌーピーグッズで埋め尽くされた「スヌーピー・ワンダールーム」が新設されたほか、全長約8mの巨大スヌーピーが横たわる「スヌーピー・ルーム」には、映像、光、音楽によってショウアップされた演出も加わり、うれしさ、楽しさがさらにアップ。貴重な原画を中心に展示する企画展「旅するピーナッツ。」も新たにスタートしている。
このリニューアルプロジェクトを主導した、『スヌーピーミュージアム』のクリエイティブディレクター・草刈大介氏と、『スヌーピーミュージアム』を運営するソニー・クリエイティブプロダクツ(以下、SCP)でLBE(ロケーション・ベース・エンタテインメント)を担当する吉岡達哉に、リニューアルの目的と新設された展示内容の詳細、さらには企画展の見どころを紹介してもらう。
後編では、企画展のおすすめポイントを聞いていくとともに、実際に現地を訪れたレポートをお届けする。
草刈大介氏
Kusakari Daisuke
『スヌーピーミュージアム』クリエイティブディレクター
吉岡達哉
Yoshioka Tatsuya
ソニー・クリエイティブプロダクツ
LBEプロデューサー
──(前編からつづく)新しく始まった企画展「旅するピーナッツ。」についてもお話を聞いていきます。まずは、今回の企画展のテーマを“旅”にした理由を教えてください。
草刈:やはりコロナ禍が収束し、海外も含めて自由に旅ができるようになった今、改めて旅の楽しさを感じてもらいたいという思いがありました。
加えて『スヌーピーミュージアム』の企画展は、コロナ禍を除いて半年ごとにテーマを変えていますが、キャラクターに関する企画と“食”や“笑顔”といったキーワードの企画を交互に行なっていたんですね。後者の場合、やっぱり主役はスヌーピー。そして、今回は『スヌーピーミュージアム』の大幅リニューアルに合わせての展示であり、旅にまつわるスヌーピーのエピソードもたくさんあることから“旅”をテーマに選びました。
──実は原作者のチャールズ M. シュルツさんは、それほど旅行が好きではなく、むしろ苦手だったというエピソードを聞きましたが、展示スペースでは原画とともにシュルツさんの旅先でのスナップもたくさん飾られていました。
草刈:これまでにも、企画展では原画とシュルツさんの写真を併せて紹介してきました。今回は、思った以上に旅関係の写真がアーカイブから出てきたんですよね。シュルツさんの妻であるジーニーさんは社交的な方で、旅行も大好き。シュルツさんはマンガ連載があるのでなかなか海外に行く機会はありませんでしたが、彼女に連れられて旅行に出かけ、そこでたくさん写真を撮ったのだと思います。
──おふたりが今回の企画展でおすすめするコミックを教えてください。
草刈:おすすめはたくさんあるのですが、実は今回、特に注目の原画を展示しているんです。もし『ピーナッツ』コミックから100点を選ぶとなれば、確実にそこに含まれるような作品。それが、“フランクリン”が初めて登場した回です。
『ピーナッツ』の連載中、シュルツさんが読者からもらった手紙に「『ピーナッツ』には黒人が登場していない。それはなぜですか?」と書かれていたんです。その手紙がきっかけで、彼はその約2カ月半後に黒人の少年・フランクリンを登場させました。それが1968年のことです。
1968年は、世界各地で暴動や学生運動などが起きた動乱の年と言われています。アメリカでも、キング牧師が暗殺されるなどさまざまな事件がありました。そういう時期だったからこそ、シュルツさんもいろいろな考えがあって、フランクリンを登場させたのだと思います。
そんなフランクリンが、ビーチで初めてチャーリー・ブラウンに出会うエピソードがあるんです。今回の企画展では、その原画を展示しています。
『ピーナッツ』の原画のなかには、余白にシュルツさんの愛称「Sparky(スパーキー)」とサインが入ったものがあります。シュルツさんはマンガの原稿を描いて配信会社に送っていましたが、そのなかで「この原稿は自分に送り返してほしい」というものにサインを入れていました。フランクリンが登場するこの原画にも、サインがあるんです。それだけ、シュルツさんにとって大事な作品だったのだと思います。
吉岡:私も同じ作品を挙げようと思っていました(笑)。ほかに、個人的に好きなのはスヌーピーが電車に乗っている作品。電車の描写がかっこ良くて、そこにスヌーピーがちょこんと乗っているのがとてもかわいいんです。
──ここからは、今後のミュージアムビジネスについて聞いていきます。SCPでは、ミュージアムをはじめとするLBE(ロケーション・ベース・エンタテインメント)、特定の場所を活用したエンタテインメントビジネスに力を入れています。この事業について、どんな展望を抱いていますか?
吉岡:個人的には、遊べる場所、楽しい場所がもっと増えてほしいと思っています。そういう場所が増えれば日常をハッピーに過ごせますし、家事や仕事が大変でもその楽しみを活力に頑張れる。そういう楽しい場の提供に貢献していきたいと考えています。
SCPでは『スヌーピーミュージアム』をはじめ、六本木ミュージアム、今秋のオープンを予定している京橋の新TODAビルのミュージアムなど、さまざまなミュージアムの立ち上げ、運営を行なっていますが、そこにも“楽しさ”や“ワクワク感”というエッセンスが入っています。それはミュージアムのひとつの存在意義ですし、その強度をもっと高めていきたいですね。
あとソニーミュージックグループには、展覧会の企画や運営・制作を行なうチームはあっても、自分たちがオーナーになってロケーションを運営する事業は限られています。我々が蓄積したノウハウをいかし、ソニーグループが関わるアーティストやIPと連携もして、ロケーションベースエンタテインメントという新しいビジネスを創り出せればとも考えています。
──まだリニューアルしたばかりですが、今後『スヌーピーミュージアム』が目指すところ、挑戦したいことも教えてください。
草刈:まず我々としては、とにかくこの場に足を運んでもらうために何をすべきか、常に考えつづける必要があると思っています。それと同時に、常設展や企画展の内容を充実させ、見せ方の工夫やブラッシュアップも必要です。少しでも手を抜けば『シュルツ美術館』の信頼を失いますし、『スヌーピーミュージアム』に来てくださる方々の気持ちも離れてしまいます。なので、これからも、展示企画とビジネスを両輪で動かしつづけていきたいですね。
吉岡:私も、手を抜いたら終わりだと思っています。今回のリニューアルをスタート地点として、これからも“キャラクターが好きな人にはこういう企画を”“原作が好きな方にはこういうものを”とニーズの偏りがないよう、いろいろな刺激をつくっていきたいです。
『ピーナッツ』をより深く知っていただくために、そして、多くの方々に『スヌーピーミュージアム』に足を運んでいただけるよう、常に刺激を与えつづけていきたいです。
一般公開に先駆けて行なわれた内覧会では、クリエイティブディレクターの草刈大介氏、『シュルツ美術館&リサーチセンター』 キュレーターのベンジャミン・L・クラーク氏によるギャラリートークが実施された。館内の写真とともに、リニューアルポイント、企画展「旅するピーナッツ。」について紹介しよう。まずは、大きく変わった4つのポイントから。
POINT1 スヌーピーが大きな口をあけた「スヌーピー・エントランス」
エントランスには、大きく口を開けたスヌーピーのモニュメントが登場。来場者は、スヌーピーの口を通り抜けてミュージアムに入るようになった。
「スヌーピーの口に入って、食べられちゃう。リニューアルのシンボルとして、まずこの口から会場に入ってもらうようにしました」(草刈氏)
POINT2 まるで、天井でみんながお出迎え! 「ウェルカム・スヌーピー」
スヌーピーの口を通り抜けると、天井のミラーに描かれたピーナッツ・ギャングがお出迎えしてくれているかのよう。ここでチケットを購入し、常設展示がある3階に上がるのが順路になっている。
POINT3 ファンの寄贈品を1,000点以上展示! 「スヌーピー・ワンダールーム」
ぬいぐるみ、ステーショナリー、キッチン雑貨など、1,000点以上のスヌーピーグッズで埋め尽くされた「スヌーピー・ワンダールーム」。展示グッズの大半は、ファンの方々の寄贈品。“みんなでつくる、みんなのミュージアム”というコンセプトが感じられる。
ベンジャミン氏によると「ワンダールーム」という名称にも、ちょっとした意味があるという。
「ルネサンス時代、ヨーロッパの君主たちの間で『ヴンダーカマー』というコレクションルームが流行しました。世界各地の珍品をこぞって集め、陳列したため、『驚異の部屋』とも言われています。それを英語にすると『ワンダールーム』。きっと現代に移し替えたら、こんな部屋になるのではないでしょうか。ファンの人生の一部であるグッズをこちらに集め、皆さんと一緒に観ることによって新しい思い出が生まれる。そう考えています」(ベンジャミン氏)
POINT4 「スヌーピー・ルーム」に映像、光、音楽によるショウアップ演出が追加
巨大スヌーピー像をはじめ、6体の像が飾られた「スヌーピー・ルーム」に、圧巻のショウアップ演出“覚醒”が加わり、パワーアップ。数分に一度、映像と光、音楽による約2分の映像が投影される。
「最初にこの展示室をつくったときは、白い空間で見たことのないスヌーピーを体験してもらいたいという気持ちがありました。今回のリニューアルでは、そこに照明や音楽による演出を加えています。スヌーピーの立体像から影がにゅーっと伸びて、この空間のなかを縦横無尽に駆けめぐる。そういったストーリーを楽しめます」(草刈氏)
2024年2月1日(木)~9月1日(日)まで展示される新企画展のテーマは“旅するピーナッツ。”。ピーナッツ・ギャングの旅を、約45点の貴重な原画とともに辿ることができる。
この企画展について、ベンジャミン氏は「旅には新しい発見、新しい出会いがあります。マンガのなかで、シュルツさんはユニークなキャラクターをユニークな場所に登場させています」と解説。
だが、実を言えばシュルツさん自身は旅が好きではなかったそう。「むしろ旅行嫌いで知られるほど。あるとき『なぜ旅が嫌いなのですか?』と聞かれたシュルツさんは『旅行は好きですよ。ただ昼の12時までに戻ってこられるならね』と答えたそうです」と、ベンジャミン氏はエピソードを明かした。
さらに、今回の展示のなかでも、ベンジャミン氏が特に気に入っている作品も紹介してくれた。
・エッフェル塔の記憶
「ペパーミント パティがエッフェル塔にいくマンガです。シュルツさんは、アーティストとしてエッフェル塔を非常に巧みに描いている。そういった点でも面白い作品です」(ベンジャミン氏)
・どこにいても我が道を行く
「このコミックには、珍しくマンガのなかでフランス語が使われています。ショルツ氏の妻・ジーニー氏はフランス語を話し、フランス語クラブにも入っていました。あるとき、夫妻はフランスからのお客様と食事をすることに。でも、シュルツ氏はフランス語を話せません。この経験から『彼らが喋っていることが何もわからない。夕食のとき、普段犬がどう思っているのかわかった』という冗談を残しています」(ベンジャミン氏)
・孤高のアーチスト、ルーシー
「こちらは日曜版に掲載された大きいコミックです。ルーシーがフライドポテトでパゴタ(仏塔)を作るのも面白いですし、流木が描かれているのも特徴です。シュルツ氏が暮らしたソノマカウンティの北側には林業が盛んな地域があり、木がよく流れ着くのです。
また、このコミックは1976年7月4日、アメリカの独立記念日に発表された作品です。しかもちょうど独立200周年でしたが、そのことについてはひと言も触れられていません。国の独立よりも、それぞれの個人を大事にしているというテーマが感じられます」(ベンジャミン氏)
・方向音痴たちの旅、はじまる
「旅と言えば、スヌーピーのきょうだい、アンディとオラフは外せません。彼らは『ピーナッツ』のなかでも一番の方向音痴で、迷ったあげく北極まで行ってしまったことも。ふわふわのアンディもかわいらしいですよね。この犬は、シュルツ氏が飼っていた愛犬アンディがモデルになっています」(ベンジャミン氏)
原画の展示以外にも、見どころは盛りだくさん。今回のリニューアルを機に、1階のミュージアムショップでは165点の新グッズが登場。また、入場特典として、来場日に発表されたコミックをプリントした「スぺシャルコミックチケット」の配布も開始した(1日4種類、ランダム配布)。
さらに、ミュージアムに隣接する「PEANUTS Cafe SNOOPY MUSEUM TOKYO」のグランドメニューもリニューアル。スヌーピーのイラストがデザインされたデザートをはじめ、かわいくておいしいメニューを味わえる。初めて訪れる人もリピーターも、新鮮な感動を味わえるはずだ。
文・取材:野本由起
撮影:干川 修
Peanuts and all related titles, logos and characters are trademarks of Peanuts Worldwide LLC
© 2024 Peanuts Worldwide LLC.
2024.09.15
2024.09.12
2024.09.09
2024.08.28
2024.08.23
2024.08.02
ソニーミュージック公式SNSをフォローして
Cocotameの最新情報をチェック!