柔軟性と協調性と好きだという思い――ライブイベント「@JAM」スタッフが語る裏方に必要なもの①
2024.08.28
アニプレックス(以下、ANX)内でキャラクターフィギュアの企画、開発に取り組むチームをフィーチャー。企画立ち上げから、原型師との緻密なやり取り、工場との何往復にもおよぶ製造工程の調整など、フィギュアがファンの手元に届くまでの舞台裏と、そこに込めている思いを聞いた。後編では、ANXならではのフィギュアづくりや、今後のビジョンについて、それぞれが思いを語る。
笠原昇
Kasahara Noboru
アニプレックス
加藤隆弘
Kato Takahiro
アニプレックス
齋藤はるか
Saito Haruka
アニプレックス
柏田弘晶
Kashiwada Hiroaki
アニプレックス
記事の前編はこちら:プレッシャーはあるけど楽しい仕事――アニプレックス・フィギュア開発チームの話【前編】
――昨今、アニメ作品のフィギュアは世界的にも注目を集めているかと思いますが、ANXでは、どのように対応していますか?
笠原:ANXの自社ECサイトであるアニプレックス オンラインは現状、国内向けの販売のみとなりますが、ANXのフィギュアは協力会社を通じて、海外の小売店でも買えるようになっています。また、海外への展開に関しては、マーケットを調査しながら協力会社の方々といろいろなトライを繰り返しているところです。
加藤:昨年、アメリカ・ロサンゼルスで開催された『Anime Expo 2023』に視察に行ったのですが、コスプレイヤーが多かったり、映像を食い入るように見ている人がいたりと、改めて日本のアニメファンに負けないほど熱量が高くて、アニメ作品が深く受け入れられているんだと実感しました。
また、フィギュアの会場展示についても、大きな反響をいただきました。強い手応えを感じたのと同時に、この熱量に応えられる商品をつくらなければいけないと気が引き締まりました。
笠原:アメリカではアクションフィギュアのニーズが高いと聞いていて、そこはアクションフィギュア「BUZZmod.(バズモッド)」シリーズの担当者として、攻めていきたいと考えています。
また、欧州やアジアのマーケットにもフィギュアのニーズがあることがわかっていますが、やはり地域ごとに特性があるので、マーケティングを怠らず、熱量の高いファンの方の手元にしっかり届く海外戦略を展開していければと考えています。
――皆さんがフィギュアの制作に関わっていて、醍醐味を感じるのはどんなところでしょうか。
笠原:アクションフィギュアに関して言うと、醍醐味は世界で最初に遊べる人が自分だということですね(笑)。フィギュアの捉え方は人それぞれですが、自分としては、やはり“玩具”をつくっているという意識があるので、しっかり遊べることが大事だと思っています。
原型を工場に納めた後、数カ月してT1(テストショット、工場が生産した形状サンプル)が送られてくるのですが、それはつまりできたてほやほやの、玩具としてのアクションフィギュアなわけです。まずはそれを全力で遊び倒すのですが、その際にいろいろ気になるところが出てしまうんですね。
ほんのちょっとパーツの噛み合わせが悪いだけで、本来ぐりぐり動く部分が思い通りに動かなくなってしまうとか、原型通りではあるけれども、この部分をちょっと削ったらもっと動くようになるかも! と思ってしまって金型を修正したりとか。周りから見ると遊んでいるようにしか見えないかもしれないこの瞬間が、最もテンションが上がると同時に、ドキドキする瞬間でもありますね。
柏田:自分はフィギュアの原型ができ上がったときが一番うれしいですね。アニメキャラクターのフィギュアを企画するとき、元となるものは1枚のイラストであることが多いんですよね。それを原型師さんと一緒に立体化していく。
イラストでは描かれていない部分……例えば髪の毛であるとか、背中の部分であるとか、そういうところも含めて立体化することが、やはりフィギュアの魅力のひとつだと思うんです。原型師さんを交えて「もっとこうしたら良いのではないか」「見栄えを良くするためにここを際立てよう」と議論しながら造形を突き詰めていく作業は、フィギュア制作ならではの楽しさだと感じています。
齋藤:私は幸せなことに、これまで自分が好きな作品のフィギュア化に携わることが多かったんですね。だから“自分の推しの子を立体化できる”というのは、やはり格別だなって思って取り組んでいます。そして、原型師さんが自分の推しの子を立体化してくれて、その3Dデータが届いたときは、格別なうれしさを感じますね。
あとは、原型のイラストを描いてくださったアニメーターの方や、作品を手がけた作品の制作スタッフの方々、ライセンスの担当者と造形の監修作業を進めていく最中に、たまに「すごく素敵な原型です」とか、「フィギュアすごく良かったです。特にここが……」とメモをいただくことがあって。そういうときにもすごくやりがいを感じます。
加藤:自分の商品が作品に貢献できたと実感したときに、この仕事をやっていて良かったと強く思います。これまで『ぼっち・ざ・ろっく!』のフィギュアをいくつかつくっているんですが、そもそもこのシリーズを始めたのはTVアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』の第7話を見ていたことがきっかけだったんです。
あのエピソードではとろとろに溶けた主人公の(後藤)ひとりの人形の周りをグルグルと埴輪みたいな人形が走り回るという実写のシーンがあるんです。もう立体物があるのであれば、すぐに発売できるなと思いついて、そこから1カ月くらいで受注にまで持っていくことができたんです。しかも、反響もかなり良くて(「後藤ひとり デフォルメフィギュアセット 体育祭妄想Ver.」2023年11月発売/販売期間終了)。
じゃあ、このテイストでシリーズをつづけていこうということになり、ふたつ目の商品として発売されたのが「後藤ひとり ツチノコ&めんだこフィギュア」(2024年4月発売/販売期間終了)です。つづいて「後藤ひとり 承認欲求モンスター ソフビフィギュア」(2024年6月発売予定/販売期間終了)を展開しました。
――この「後藤ひとり 承認欲求モンスター」は先日開催されたイベント『Anime Japan 2024』で着ぐるみが登場していました。
加藤:そうでしたね。SNSで話題になっていました(笑)。私は、「〈物語〉シリーズ」や『魔法少女まどか☆マギカ』、『Fate/Zero』といった作品がすごく好きで、それがきっかけでANXに転職したという経緯があります。好きなフィギュアをつくり、作品や会社に貢献できるというのは自分にとってうれしいことしかないなって思っています。
――今後、皆さんがフィギュアという分野で挑戦したいことを教えてください。
齋藤:このことは、よく加藤さんと話しているんですが、女性層にも受け入れやすいフィギュアを出してみたいなと思っています。女性層のファンはアクスタ(キャラクターがプリントされたアクリルスタンド)をよく購入されるんですよね。
あと、トレーディングカードも購入されている方が多いんですが、いっぽうで、フィギュアのような、部屋に飾るアイテムにはあまり手を出さない。そういう傾向から考えて、例えば価格帯を下げて手に取りやすいシリーズを展開するとか、部屋に飾ってもおしゃれなフィギュアを考案するとか。いろいろと考えていきたいと思っています。
柏田:『魔法少女まどか☆マギカ』の新作が公開される予定ですが、自分は『魔法少女まどか☆マギカ』が大好きで、劇場版『魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』も30回以上見ています。
そのうえで、ANXのフィギュアも買ったことがありますし、いつか自分でも『魔法少女まどか☆マギカ』に関わる仕事ができたら良いなと思って、ANXに転職したところがあるので。ぜひ、今度の新作『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉』では、担当者としてフィギュアの制作に携われるとうれしいですね。
加藤:フィギュアでやってみたいことを挙げるとなると……癒しを与えられるフィギュアをつくってみたいですね。
――癒し?
加藤:自分は仕事中に不安なことがあると、ソフビフィギュアを胸に抱えて撫でるという癖があって(笑)。ソフビは手触りが柔らかいので愛でていると、心が癒されるような気持ちになるんですね。
今、心が殺伐とするような事件とか、社会問題が多いじゃないですか。そういうときに息抜きになるような、皆さんをホッとさせることができるフィギュアをつくってみたいですね。みんなの心の安定剤になる、かわいいものをたくさんつくってみたいです。
笠原:私が担当しているアクションフィギュアの購買層は、40代が中心で、30代と50代がその次という感じなんです。「BUZZmod.」シリーズは第1章として『鬼滅の刃』のアクションフィギュアを複数ラインナップし、第2章としてANXが手がける作品のアクションフィギュアを発売しているところです。
来るべき第3章は従来の購買層をさらに広げるようなタイトルで商品化を考えたいですね。そういうなかで、ANXの枠を超えてソニーミュージックグループであったり、ソニーグループであったり、グループシナジーをいかしたアクションフィギュアも出してみたいなと考えています。
例えば、ソニーミュージックグループであれば、アーティスト自身をアクションフィギュア化するのも面白い。誰もが知るアーティストのミュージックビデオを、衣装別に順番に出していくなんていうのはむしろ自分が欲しいです。
また、ソニーグループに目を向ければ、ソニー・インタラクティブエンタテインメントが展開するPlayStation®で何かご一緒できたらと常々思います。ゲームキャラクターのアクションフィギュア化はぜひ企画してみたいもののひとつですね。
第3章は、何かが具体的に動いているわけではありませんが、それぞれのファンの方たちが、フィギュアという形で喜んでもらえるものをつくれたら良いなと考えています。
フィギュアの世界は奥深いですし、まだまだ可能性もたくさんあると感じています。そして、ヒットIPが生まれれば、そこからフィギュアというヒットも生み出せます。現在、ANXは、アニメやゲームが主力のビジネスですが、そのなかで我々フィギュア制作チームの存在感を高めていければ、エンタテインメントを好循環で生み出せているということにつながります。そのためにも、さまざまなフィギュア制作にチャレンジしつづけたいですね。
文・取材:志田英邦
撮影:干川 修
©北条司/コアミックス・「2023 劇場版シティーハンター」製作委員会
© TYPE-MOON / FGO PROJECT
©はまじあき/芳文社・アニプレックス
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