『EVO Japan 2024』運営担当者が解説――eスポーツの拡大に欠かせないこと【後編】
2024.06.21
国内最大級の格闘ゲームの祭典『EVO Japan 2024』。今年は3日間すべての入場およびメイントーナメントへのエントリーも有料化するという、賞金つきの一般参加型大会としてはeスポーツ業界初の試みのもとで開催された。
今後、eスポーツ業界がさらなる発展を遂げるために必要不可欠と言われてきた有料大会の運営。その実現のために、社内外を奔走したソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)の担当者と、格闘ゲーム業界ではレジェンドとして知られ、『EVO Japan 2024』では大会運営委員長を務めた松田泰明氏に話を聞いた。中編では、有料化で生じたメリット、運営上の苦労について語る。
松田泰明氏
Matsuda Yasuaki
『EVO Japan 2024』大会運営委員長
ユニバーサルグラビティー代表取締役社長
ゲームセンター「ゲームニュートン」オーナー
格闘ゲームを中心にした老舗ゲームセンター「ゲームニュートン」を2店舗経営しつつ、格闘ゲームのイベントの企画、制作、運営に長年携わっている業界の第一人者。
五十嵐知行
Igarashi Kazuyuki
ソニー・ミュージックエンタテインメント
辻郷孔凡
Tsujigo Yoshitsune
ソニー・ミュージックエンタテインメント
記事の前編はこちら:『EVO Japan 2024』運営担当者が解説――eスポーツの拡大に欠かせないこと【前編】
記事の後編はこちら:『EVO Japan 2024』運営担当者が解説――eスポーツの拡大に欠かせないこと【後編】
──今年の『EVO Japan 2024』は、入場、エントリーともに有料化となりました。その結果、どのような効果がありましたか?
松田:自分としては、有料化でお客さんにとってマイナスが発生するようなことはしたくないという気持ちが一番強かったんですよね。もともと自信はありましたが、その自信を保険に変えるためにあらゆる面でスタッフの数を増やしました。
まずトーナメントに関しては、各ゲームに精通したスタッフを増員。メインタイトルは7作品でしたが、普段そのゲームのイベントのみを運営しているスタッフを10人以上投入しました。
もちろん、予選も含めたすべての試合にレフェリーをつけています。熟練者のレフェリーはひとりで4試合ぐらいを同時に見ることができますが、全員が同じスキルではないので1試合をひとりで見るケースもありました。そのうえで、ボランティアで参加してくれているスタッフはどうしても不慣れな部分があるので、4つの試合を3人で見てもらうようなこともありましたね。
また、何か問題が発生した場合はディレクターがすぐに飛んでいけるようにスタンバイ。会場中央にコマンドセンターを設置して、僕ら運営本部もすぐに稼働できるようにしていました。
──格闘ゲームでは、数フレーム(コマ)でも映像に遅延が生じるとプレイに大きな影響を及ぼします。有料化により、機材のメンテナンスにも力を入れられたのではないでしょうか。
松田:遅延に関しては毎年の課題で、以前から対策を取っていました。なので、遅延はゼロです。僕らも大会の数カ月前から事前に機材を借り、細かいところまで検証を行なっていましたし、参加した方々からも好評でしたね。
五十嵐:機材は長時間稼働させるとどうしても熱が籠ってしまい、それが遅延や機材トラブルの原因にもなります。そのため、必要台数よりも1割多く機材を用意していました。
辻郷:機材をクールダウンさせるために、1時間半ごとに電源を落とすというルールも徹底していましたね。
──ゲーム大会では、ほかにどのようなトラブルが起こり得るのでしょうか。
松田:試合中に何らかの操作が効かなくなるという機材トラブルや、うっかりストップボタンを押してしまうという人的トラブルなどですね。これらに関しては事前にレギュレーションを用意して対応します。
基本的には、どんなトラブルも熟練のディレクターたちがその場で収めてくれますが、機材のトラブルか人的ミスかわかりにくい場合や、どうしてもプレイヤーに納得していただけない場合は、僕も含めた本部の人間が調整役として話をしに行きます。
また、『EVO Japan』はダブルエリミネーション(敗者復活戦があるトーナメント方式、1回戦で敗退しても敗者復活戦を勝ち上がれば優勝できるシステム)という少し複雑な形式を採用しているので、敗者の組み分け配置が難しいんです。
慣れているレフェリーでも、ときどきトーナメント表のどこに誰を入れるか間違えてしまうことがあります。たいていはすぐに気づいて修正しますが、プレイヤーからクレームが入ることもあるのでこちらで対応しています。
──今回は何かトラブルはありましたか?
松田:膨大な数の試合を行なっているので、人的なミスが要因であるトラブルを含めて、ゼロにするのは難しいのですが、大きなものはありませんでした。
ただ、会場で使っていた照明が試合中のモニタに一部映り込んでしまい、モニタが見えづらいという問題が2カ所ほどあって。事前にわかっていれば反射を防ぐための対策をしたんですが、初めての会場で設営もギリギリのスケジュールのなかで頑張ってもらっていたために、そこまで気を回すことができず、今回の反省点として最終報告書にも記載しました。
──ほかに懸念していたことなどはありましたか?
五十嵐:今回人気のストリーマーが多数参加されていたので、会場でファンの方たちに囲まれてしまうのではないかと、ちょっと心配していたんです。でも、『EVO Japan』のお客さんは皆さん、本当にマナーが良くて。ストリーマーや彼らが応援している選手が試合を控えている状況をちゃんと把握して、不要な声がけなどはせず静かに見守っていました。
松田:SNSでも、「自分の推しに声をかけたいのはわかるけど、ルール、マナーはちゃんと守ろう」という呼びかけが見られました。有志による自発的な声がけのおかげで、驚くほどマナーが良かったです。
辻郷:もちろん運営側でもプロゲーマーや人気ストリーマーの来場状況を把握したり、動線を事前に案内したりと対策は取っていました。ですが、松田さんのおっしゃる通り、「推しが集中できるよう、試合前には話しかけないようにしよう」「せっかくの晴れ舞台を邪魔しないようにしよう」と周知されていたので、非常にありがたかったです。
──有料化にあたり、エントリーした方たちからは否定的な意見はありませんでしたか?
五十嵐:ネガティブな意見は少なかったですね。
辻郷:SNSの書き込みも分析しましたが、“応援する”“どちらかというと賛成”という肯定派の意見が大多数でした。大会後にも感想をヒアリングしましたが、「有料化によって大会運営が良くなった。ここをスタートラインとして、これからもぜひ頑張ってほしい」という意見をいただきました。当然、改善すべきことはまだまだありますが、大会をもっと良くしていくために、この一歩は非常に重要なものだったと考えています。
──有料化によりイベント収支が安定すれば、eスポーツ大会がビジネスとしてより成長し、さらに業界を盛り上げることもできます。
五十嵐:そうですね。それについては、参加してくださった方たちも理解してくださっていると思います。そして、『EVO Japan 2024』がターニングポイントだったと言ってもらえるように、このスキームとノウハウを今後にいかしていくことが大事だと考えています。
──会場の物販コーナーも大人気でした。各企業ブースでの物販のほかに、オフィシャルグッズも販売していましたが、反響はいかがでしたか?
辻郷:過去の大会ではグッズの売れ行きが鈍いことが多かったのですが、今回はほぼ完売という状況でした。去年のグッズも持っていきましたが、そちらもほぼすべて売り切れ。格闘ゲームで盛り上がるのと同時に、お金を使うイベントとしても認識され始めたような気がします。
松田:これまでの『EVO Japan』は、最終日以外誰でも無料で入場できるゲーム大会というイメージでしたが、今年は有料化によってお客さんの雰囲気も変わりました。お金を使うことを、最初から決めてきている人が多かったように思いますね。あとは、インバウンド効果もあって、海外からの参加者もたくさん物販の列に並んでいました。
──オフィシャルグッズのなかでも、特に評判が良かったのは?
辻郷:我々が驚いたのは、スカジャンですね。開場から約2時間で3万円のスカジャンが完売しました。そもそも『EVO Japan』のオフィシャルグッズで、1万円を超える高額商品を販売するのは初めてで。どうなることかと見守っていましたが、リバーシブルで刺繍入り、品質も良いものなので割安に感じられたのかもしれません。結果的に『EVO Japan 2024』を象徴するアイテムになり良かったです。好評につき、初めてECサイトをオープンし、一部商品の再販も実施しています。
『EVO Japan 2024』のECサイトはこちら※販売期間限定
──ラインナップやデザインも、今までとは違うものを意識したのでしょうか。
五十嵐:今までは格ゲーマーに向けたアイテムを強く意識していましたが、辻郷さんが加わったことでデザインもラインナップも大きく変わりました。ストリーマー文化を意識し、デザインに若者目線を取り入れたことで、より多くの方々に訴求するグッズを提供できたと思います。
辻郷:格闘ゲームをプレイする方は、30~40代の男性層がメインです。ただ、その年代をターゲットにしたグッズを制作すると、若年層のニーズと乖離が発生してしまうと思ったんです。
逆に、今のネット文化を取り入れたグッズ、若年層が好む可愛げのあるデザイン、アニメっぽい絵柄のアイテムは、30~40代の方にも受け入れてもらえますし、若い世代からも“流行りをわかっているな”と見てもらえるはず。そこで、ストリーマー文化、オタクカルチャーなどを全部混ぜ合わせ、より広い層にアプローチできるグッズを考えていきました。
──企業の物販ブースも大盛況でした。
松田:どのブースに行っても、「すごい売れ行きなんです」と皆さん驚いていましたね。コントローラーのボタンなどを自分好みにカスタマイズするためのカスタムパーツ屋のショップもほぼ全社出展していて、どこも行列ができるほどでした。
後編は、梅田サイファーとのコラボレーションやeスポーツ業界の今後について語る。
文・取材:野本由起
撮影:干川 修
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