mora20周年後編PCバナー
mora20周年後編SPバナー
連載Cocotame Series
story

音楽ビジネスの未来

ファンダムとの向き合い方で勝負する「mora」の音楽ビジネス②

2024.09.09

  • Xでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Facebookでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • LINEでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • はてなブックマークでこのページをシェアする(新しいタブで開く)
  • Pocketでこのページをシェアする(新しいタブで開く)

20周年を迎えた音楽ダウンロード・音楽配信サイト「mora」。サブスクリプションサービス全盛の今、高音質のハイレゾ、ロスレス音源の配信を中心にポジションを築き、音楽を購入し所有する喜び、じっくり聴き込む楽しさを伝える同サービスの次なる一歩とは? 後編では、「mora」が目指す未来について語る。

  • 高橋悠紀プロフィール画像

    高橋悠紀

    Takahashi Yuki

    ソニー・ミュージックソリューションズ

  • 栗原大輔プロフィール画像

    栗原大輔

    Kuribara Daisuke

    ソニー・ミュージックソリューションズ

  • 植村亜矢子プロフィール画像

    植村亜矢子

    Uemura Ayako

    ソニー・ミュージックソリューションズ

記事の前編はこちら:ファンダムとの向き合い方で勝負する「mora」の音楽ビジネス①

信頼性と安心感を両立

──購入特典やハイレゾ市場へのアプローチの話を聞いていると、これからの音楽ダウンロードストアには、レコメンデーションやコンテンツに対する目利きの力が求められていくように感じました。「mora」の今後を、どのように展望していますか?

高橋:国内外を含め、いくつかの音楽ダウンロードサービスがありますが、各レーベルに協力を仰ぎながらこれだけの施策を提案できているのは、「mora」の強みだと思います。また、ストア内で展開する特集の更新頻度、読み物の充実度も特徴です。特典も、各レコード会社の協力のもと、ファンの方々に喜んでいただけるものを企画、提供できていると思います。

サブスクとダウンロード、両サービスを運営しているストアは、サブスクへの移行を推進しています。そんななか、「mora」はダウンロード販売に特化したサイトとして、お客様に喜ばれる施策を継続していきたいと思っています。品揃えは豊富でありつつ、お店としての個性もしっかり打ち出し、ミュージックラバーに愛用してもらえるストア運営を目指したいですね。

真剣な表情で語る高橋悠紀

──「mora」は20周年を迎えましたが、ブランディングという観点ではどういったことを意識してきましたか?

高橋:「mora」は各レコード会社から音源をお預かりし、お客様にお届けする配信サービスです。サービスのブランディングを前面に押し出すのではなく、販売しているコンテンツを探しやすく、そして買いやすくという点に比重を置き、ユーザーファーストの意識を常に持ちながら運営しています。

栗原:ストアの運営に関しても、コンテンツがしっかり管理されていなければユーザーの方々に迷惑がかかりますし、ひいてはレコード会社からの信頼を損ねることにもなります。ユーザーとレコード会社双方の信頼を得ることで、オリジナル特典も増やせますし、次の施策も打ち出しやすくなります。その点も重視していますね。

植村:遊び心も大事ですよね。ストアの運営も各担当者の裁量に任される部分が大きくて。大所帯のチームではないので、横連携もしっかりしていて「これをやったら面白いかも」というアイデアが出たら、フットワーク軽く対応しています。アーティストが本来伝えたいスタジオクオリティの音源が揃っているという信頼感、お客様に楽しんでいただける遊び心の両立を目指しています。

自社開発システムならではの強み

──システム面の独自性についても教えてください。「mora」は20年以上前から配信システムを構築していますが、ほかにはない特徴というのはあるのでしょうか。

栗原:今、話に挙がった「mora」というチームのなかで、各メンバーがそれぞれの裁量でストアの運営に携わってきたこと自体が、強みになっていると思います。自社で一からデジタルマーケティングを学び、現在まで引き継いできたことそのものが大きな財産なのかなと。売れた商品、売り上げ、ユーザーのペルソナ、購買行動について自分たちでデータを分析し、次のアクションにつなげていく。そういう取り組みを日々つづけてきた結果、非常に強いチームになったと思っています。

「mora」は販売店なので直接お客様と向き合い、そこで得た情報を各レコード会社にフィードバックして、次の施策につなげられる。お客様のデータを分析して、パーソナライズした施策を打ったり、新しいサービスを企画したりすることも可能です。

また、システム面に関して言えば、配信の黎明期からブラッシュアップしつづけたことで、必要なものだけが揃った、無駄のない安定稼働のシステムになっています。このシステムを自分たちで作り上げてきたことが、独自性につながっていると思います。

こぶしを使い、微笑みながら語る栗原大輔

──施策に対して軽いフットワークで対応でき、稼働も安定しているシステムというのは、ECのストアとして理想的ですね。

栗原:音楽の聴き方は、蓄音機からレコード、カセットテープ、CDと技術の革新とともに変わってきました。なかでも、この20年間のデジタルテクノロジーの変化は大きく、スピードも速かった。「mora」は、レコード会社やハードメーカーの要求に応えながら、こうした進化に常に追従してきたので、エンジニアリングの知見や経験値が蓄えられ、実現できたのだと思います。

歌詞の朗読コンテンツ「うたをよむ。」をスタート

──独自コンテンツの新たな取り組みとして「うたをよむ。」というシリーズもスタートすると聞きました。これはどういったサービスですか?

「うたをよむ。」ロゴ画像
「うたをよむ。」のサイトはこちら(新しいタブを開く)

植村:動画配信サービスでは、NetflixやAmazon Prime Videoのように独占コンテンツを配信することで、他社との差別化を図ろうとする動きが加速しています。「mora」もハイレゾ音源のダウンロード販売サイトとしてのアイデンティティを高めるため、独自コンテンツの配信を企画していて、そのひとつが「うたをよむ。」です。「うたをよむ。」は、簡単に言うと声での表現を生業とされている方々による歌詞の朗読コンテンツです。

「mora」では、声優さんのスペシャルボイス音源を購入特典にすることがありますが、その収録に立ち会うと、プロならではの職人芸があることに気づかされます。さらに、声優さんそれぞれに楽曲や歌詞に対する思いがあることもわかりました。声優としての技術とその思いを、高音質の朗読によって精緻に伝えられたらと思い、この企画を立ち上げました。

また、「mora」では膨大な数の曲を配信しているため、なかには埋もれてしまう曲もあります。そこで、どうしたら曲の魅力をもっと伝えることができるのかと考えていき、歌詞をフックにするのはどうだろうと思いつきました。

「うたをよむ。」では、演者ご本人に好きな楽曲を選んでいただき、歌詞を朗読していただきます。「あ、良い歌詞だな」とファンの方々に感じてもらえれば、新たな楽曲との出会いにつながりますし、その声優さんが触れてきた音楽を知ることができるだけでもうれしいですよね。

歌から歌詞だけを取り出したときに、どんな世界観が生まれるのか。ファンの皆さんにとっても、新たな感動体験になるんじゃないかと期待していますし、私たちも楽しみです。

笑顔で話す植村亜矢子

──楽曲の隠れた魅力も引き出せそうな企画ですね。

植村:やっぱり歌詞の力ってすごいですよね。私は「mora」に配属される前、別の部門でCDの制作進行業務を担当していたのですが、そこでは曲は聞かずブックレットに掲載された歌詞だけを読む機会も多かったんです。そのとき、メロディーは知らなくても、歌詞の世界観に引き込まれることが、数えきれないくらいありました。

アーティストの皆さんは、歌詞1文字1文字を大切にしていますし、それこそスペースが半角か全角かにもこだわっています。そうやって思いを込めたものだからこそ、歌詞から伝わるものってすごく大きいと思うんですね。歌詞の朗読をダウンロード販売するには、著作権処理などさまざまな課題をクリアする必要がありますが、その価値がある試みだと思っています。

うたをよむのコンセプト

「うたをよむ。」のコンセプト

独自コンテンツで「mora」ならではの特色を

──最後に、より広い視点で音楽のダウンロード販売の未来、「mora」の未来について考えを聞かせください。

高橋:サブスクリプションサービスが普及するなか、我々はユーザーの皆さんが音楽を聴く際の選択肢を増やすお手伝いをしていきたいと考えています。音楽業界全体の市場動向はもちろん認識しつつも、ダウンロードサービスとして生き残っていくために他社と違う特色を打ち出し、さらなる差別化を図っていきます。

そして、数年前はハイレゾ音源の配信が差別化につながっていましたが、この市場も成熟してきたため、次の一手が必要になってきました。そのため、独自コンテンツを積極的に開発したり、3月から配信がスタートしたロスレス音源のラインナップを拡充したりと、「mora」だから購入できるコンテンツを増やしています。

我々が目指すのは、ダウンロード市場だけでなく、音楽配信サービス全般と比較しても優れたサービスだと思っていただけるようなストアにしていくこと。そのためには、お客様のニーズを的確に捉え、アーティストごとのファンダムに応えることが重要だと考えています。

栗原:音楽を楽しむ選択肢は、レコードでもCDでもサブスクでもダウンロードでも何でも良いんですよね。お客様あってのエンタテインメントなので、それぞれに適した選択肢を選んでいただくのが一番良い。そして、その選択肢を増やすのが「mora」の役割だと思います。

利便性を追求すれば、サブスクリプションサービスを追い越すことはできませんが、そもそも我々に求められているのは、そこではないのかなと。アーティストの声や演奏、音楽が鳴らされているその場の空気にまでどっぷり浸りたい、ファンエンゲージメントが高ければ高いほど、自然とあふれるこの欲求に対して「mora」は真摯に向き合っていきたいですね。

今の時代、デジタルコンテンツの世界も変化が激しいので未来がどうなるのか予測できません。ユーザーファーストで、その時代に適した音楽の聴き方、入手の仕方を提供していければと考えています。

植村:「mora」の部署に配属され、面白いなと思ったのがメジャーレーベル以外の音源も扱っていることでした。そのなかには、インディーズのアーティストの楽曲もあって、自分たちが良いなと感じたアーティストは独自にプッシュしたりもしているんですね。そのなかから「mora」発でヒットが生まれたらうれしいなと思います。

──CDショップでは、店員さんの手書きPOPで売り上げが伸びることもあります。「mora」では何かアイデアはありますか?

植村:「うたをよむ。」の企画もそうですが、素晴らしい音楽、素晴らしい才能の発掘につながるオリジナルコンテンツは重要だと考えています。そのコンテンツがきっかけでヒットが生まれて、「『mora』がプッシュするアーティストはチェックしておいたほうが良いよね」という信頼につなげていきたいです。

そのためには、我々現場のスタッフもアンテナを常に張りつづけることが大事。ライブやフェスにも足を運んで知見を高め、魅力的なアーティストを見出して「mora」で実績を作っていけたらと思います。

人気VTuberの星街すいせいさんも、「mora」では1stアルバムのころから大々的に展開させていただきました。配信シングルの動きが良かったので、ここで施策を打てば一気に火がつくと思い、ご相談させていただいて。その甲斐あって、「VTuberと言えば『mora』」というブランディングもできつつあります。このように、種火が見えたところにガッツリと施策を打ち、ムーブメントを後押しする役割も担っていければと考えています。

記事の前編はこちら:ファンダムとの向き合い方で勝負する「mora」の音楽ビジネス①

文・取材:野本由起
撮影:干川 修

関連サイト

 

連載音楽ビジネスの未来