トーマス号×大井川鐵道――ともに走った10年という時間が笑顔をつなぐ未来への懸け橋になる➁
2024.08.02


蒸気機関車の動態保存に長年取り組み運行している大井川鐵道と、『きかんしゃトーマス』のキャラクタービジネスを展開するソニー・クリエイティブプロダクツ(以下、SCP)のパートナーシップで毎年開催している『DAY OUT WITH THOMAS™』。
『きかんしゃトーマス』の世界観を再現する本イベントでは、2014年より蒸気機関車きかんしゃトーマス号の運行が開始され、今年でいよいよ10周年という節目を迎えた。コロナ禍などの困難も乗り越えながら、たくさんの笑顔を運んできた『DAY OUT WITH THOMAS™』。プロジェクト関係者に集まってもらい、これまでの振り返りと、未来への展望を聞いた。
目次

山本豊福氏
Yamamoto Toyofuku
大井川鐵道株式会社
広報室

坂下裕之氏
Sakashita Hiroyuki
大井川鐵道株式会社
新金谷運輸区

西岡敦史
Nishioka Atsushi
ソニー・クリエイティブプロダクツ

朝倉精吾
Asakura Shogo
ソニー・クリエイティブプロダクツ

渡辺 創
Watanabe Hajime
ソニー・クリエイティブプロダクツ
記事の後編はこちら:トーマス号×大井川鐵道――ともに走った10年という時間が笑顔をつなぐ未来への懸け橋になる➁
――『きかんしゃトーマス』は世界中の子どもに大人気で、『DAY OUT WITH THOMAS™』も本国イギリスを筆頭に、アメリカ、オーストラリア、オランダ、ニュージーランド、カナダなど世界各国でさまざまなイベントが開催されています。日本では2014年から大井川鐵道でトーマス号の蒸気機関車が走行するイベントが開始され、今年で10周年を迎えました。トーマス号を本物の蒸気機関車として走らせるというのは、当時、『きかんしゃトーマス』のキャラクタービジネスを担当していた西岡さんの働きかけがきっかけだったそうですね。
西岡:はい。もう10年以上前の話ですが、『きかんしゃトーマス』は世界中で人気があり、イギリスなどで走っているリアルなトーマス号も視察して、子どもたちに夢を与える『DAY OUT WITH THOMAS™』のイベントを日本でもなんとか実現できないものかと、当時のチームでずっと考えていました。
実際、複数の鉄道会社に企画のご相談をさせていただいて、大井川鐵道の皆さんもその一社です。ただ、本物の蒸気機関車としてトーマス号を運行させるわけですから、実現させるには大きなハードルを越えなくてはいけません。なので、どちらからもなかなか良いお返事はいただけなくて。
しかし、大井川鐵道のご担当者の方から「一緒にやりましょう」というご連絡をいただきまして、2014年7月に初走行が実現しました。
山本:私は現在、大井川鐵道の広報という立場でSCPの皆さんとやり取りをさせていただいているんですが、西岡さんたちから最初にご提案を受けたのは当時の営業部長で。
私たちも『きかんしゃトーマス』というキャラクターのことは知っていましたが、実際にトーマス号の蒸気機関車をうちの路線で走らせるというのは、当初はなかなかイメージができませんでしたし、私も営業部長に「本当にできるんですか?」と聞いた覚えがあります(笑)。
西岡:そうですよね(笑)。
山本:当時の大井川鐵道は、蒸気機関車を懐かしく楽しんでくれる年輩のお客様をバスツアーでお迎えするというのが観光メニューの柱でした。しかし、さまざまな社会情勢があるなかで、この観光メニューの売り上げが徐々に落ち込んできていて。先々の未来を見据えて“子どもたちを中心とした新しい観光客層も開拓しなければ”という課題と危機感を抱えていたんです。
そこにぴったりな企画だったのが『DAY OUT WITH THOMAS™』のお話でした。ただ、西岡さんがおっしゃった通り、予算面や施策のことでクリアしなければならないことが多く、実は一度、企画を断念するご連絡もさせていただいたんです。
ただ、SCPの皆さんの熱意は非常に感じていましたし、社内で改めて検討した結果、「みんなでトーマス号の運行を実現させよう!」となったことを覚えていますね。
西岡:私たちとしても、『DAY OUT WITH THOMAS™』を大井川鐵道で実現したいという想いが強かったんです。オールシーズン毎日、蒸気機関車が走行可能な路線は限られていますし、キャラクターを再現した車両を製作して走らせることは、とてもハードルが高い。
しかし、平時から蒸気機関車を動態保存し、実際に運用されている大井川鐵道の皆さんとなら、きっとお子さんたちの記憶に残るイベントが実現できるだろうとアプローチをつづけました。お互いに全く新しい取り組みのなかで試行錯誤がたくさんありましたが、こうして10周年を迎えられたことは感慨深いですね。
――SCPの朝倉さんと渡辺さんは、それぞれ引き継ぐ形で『DAY OUT WITH THOMAS™』プロジェクトに参加したと聞きました。
朝倉:はい。私は、2019年に西岡から『きかんしゃトーマス』のキャラクタービジネスのプロデューサーを引き継ぐことになって、『DAY OUT WITH THOMAS™』にも関わるようになりました。現在は、主に『きかんしゃトーマス』のクリエイティブ面のディレクションを統括しています。
渡辺:私は、今年から朝倉より『きかんしゃトーマス』のプロモーション面を引き継ぎ、マーケティングを統括しています。『DAY OUT WITH THOMAS™』に関しては、SCPで3代目の担当者ということになります。
――プロジェクトの始まりから振り返って、印象に残るできごとがいくつかあるかと思います。トーマス号の車両は大井川鐵道で製作されていますが、キャラクターをリアルに再現するのにはご苦労もあったのではないでしょうか。
山本:ありましたね(笑)。最初のトーマス号は、技術面では相当苦労しました。過去にもコラボ列車はやっていましたが、トーマス号のように細部までしっかり作り込んだ経験はなかったですし、本当に上手く再現できるのだろうか? という不安が大きくて。
大人気のキャラクターですから、ファンの皆さん、特にお子さんの期待は裏切れないですし、SCPの皆さんにも懇切丁寧に監修をしていただき、作り上げていった思い出があります。
――当時、そのトーマス号を運転されていたのが、坂下さんだったそうですね。
坂下:はい。私が一番印象に残っているのは、2014年7月の運行開始の半月くらい前、初めてトーマス号を試運転したときです。なんとか車両は完成しましたが、当然大きさもあるし、線路を走る機関車としては見た目もかなりのインパクトがあって、非日常感が強い。
路線沿線の住民の皆さん含めて、果たして受け入れてもらえるのかな? と、正直、不安のほうが大きかったです。でも、いざ走り出してみると、線路沿いの道路に沿線にお住まいの皆さんが続々と出てきて、トーマス号が走る姿を眺めていたんです。これはかつてないリアクションでした。
山本:もちろん、試運転の日程も運行時間も公開してはいなかったので、突然きかんしゃトーマス号が現われて、沿線住民の方も驚かれたと思います(笑)。
坂下:試運転を終えて新金谷駅に戻ってみると、予想を超える数のギャラリーがトーマス号の帰えりを待ち構えていて、写真や動画を撮っていました。当時はまだ今ほどSNSも盛んではなかったので、おそらく口コミで集まったのだと思いますが、その様子を見たときに、「これはとんでもないことになるかもしれない!」と思いましたね。
山本:試運転の様子を撮影した動画をYouTubeに上げている方もいましたね。
西岡:私もそれを見て、前評判が上がっていることを実感していましたが、さらにこの企画の手応えに拍車をかけたのは、マスコミ各社を招いて7月上旬に試乗会を開催したプレスデーでした。
山本:テレビ、新聞、雑誌、ネット媒体などものすごい数のメディアが、トーマス号の運行を取り上げてくださいましたよね。
西岡:そうなんです。記者の皆さんの盛り上がりも現地で感じていましたが、何より驚いたのは、我々が東京に戻る新幹線の車内の電光ニュースに早速、トーマス号が取り上げられていたことです。
ネットニュースでも大きな記事になり、翌日は主要新聞の一面にカラーで写真が載っていて。私も長年キャラクタービジネスに関わっていますが、こんなに大きな反響がもらえたのは、このときが初めてだったかもしれません。
山本:私たち大井川鐵道も、そこから環境が一変しましたね。トーマス号への乗車は予約制で、当時は自社サイトで受付を行なっていたのですが、アクセスが集中して、サイトに繋がりにくい状況がつづいたんです。
実際に7~8月の実施期間中も、予約はいつも満席で、毎日があっという間に過ぎていきました。私のこれまでの鉄道人生のなかでも、一番熱い夏だったことを鮮明に覚えています。
坂下:予約が取れなかったお客様も、ひと目、孫にトーマス号を見せたいという年輩の方々や、一緒に写真が撮りたいというファンの方が沿線に詰めかけてくださり、爆発的な人気を感じました。
そこから10年が経ちましたが、トーマス号のおかげで多くのお客様に大井川鐵道を改めて認知していただくことができましたし、沿線住民の皆さんも『DAY OUT WITH THOMAS™』が開催される期間を、楽しみにされていることを毎年実感しますね。
西岡:確かに運行期間中は、トーマス号に乗っているお客さんと沿線の皆さんが、お互い楽しそうに手を振り合っている姿をよく見かけます。畑作業をされている農家の方、踏切で車を停めているドライバーの方、お散歩中の方々まで、本当に優しい光景だなと毎年感じています。
坂下:そうなんですよ。車内から見ていても、トーマス号の周りは笑顔が絶えないんです。大井川鐵道の沿線には、風光明媚な川根温泉という温泉地があるんですが、お風呂に浸かりながらトーマス号に手を振ってくれるお客様もいらして、とても温かい気持ちになります。
後編では、コロナ禍や台風被害といった困難との向き合い方と『DAY OUT WITH THOMAS™ 2024』の見どころ、そして今後の展望について聞いた。
文・取材:阿部美香
撮影:干川 修
大井川鐵道 公式HP
https://daitetsu.jp/
©2024 Gullane (Thomas) Limited.

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