amazarashi初の日本武道館ライブ「朗読演奏実験空間“新言語秩序”」レポート

2018.12.7

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秋田ひろむ(以下、秋田)を中心とするバンドのamazarashiが、自身初となる日本武道館でのワンマンライブ「朗読演奏実験空間“新言語秩序”」を、11月16日(金)に開催した。

これまでも楽曲自体のメッセージ性を重んじるがゆえに、ライブにて自身の姿を見せることはなく、ステージ前面に張った半透過スクリーンに歌詞のタイポグラフィーや映像を投影しながら、独自のステージングを展開してきた彼ら。

今回の公演はそれらのメディアアート的な手法をさらに一歩先へと推し進め、「新言語秩序」と呼ばれるオリジナル小説およびスマートフォン向けアプリを用いたユーザー参加型のプロジェクトとして、かつてないライブ体験の創造が試みられた。

今年4月から6月にかけて行なわれた前回のライブツアー「地方都市のメメント・モリ」で「amazarashiを始めたときに目標にしていた音楽と表現に一先ずではありますが、到達したのです」と語る秋田が、その先をめざして新たに取り組んだ表現、そして日本武道館で見た光景とはどんなものだったのか? 公演に向けた様々な施策と当日のライブレポートを通して、その真意に迫る。

秋田が作り出した「新言語秩序」とは?

今回の日本武道館公演のメインテーマに掲げられた「新言語秩序」とは、同公演のために書き上げられた「言葉」をめぐるディストピア(ユートピアの対義語)の物語。言語表現全般の検閲を行ない、「テンプレート言語」以外の使用を禁ずる団体「新言語秩序」と、それを自由への侵犯とみなして抵抗する「言葉ゾンビ」との対立が主軸になっている。

秋田はこの物語について「ディストピア物語では、権力や大きな企業が支配する監視社会がよく描かれますが、今回問いかけたいのは、一般市民同士が発言を見張りあう監視社会です。そしてそれは、現在のSNS上のコミュニケーションでよく見る言葉狩りや表現に対する狭量さをモチーフにしています」と説明。

それはいわば現代社会の在り方に対するアンチテーゼであり、秋田が伝えたいメッセージを物語の形にして託した、寓話的な物語と言えるだろう。

ライブへの期待を高めるリアル施策

この物語は、ライブに先立って配信された専用アプリ『新言語秩序』において第一章から第四章までが順次公開。アプリ上にアップされた小説は最初、検閲によって一部が黒墨で塗りつぶされた状態になっているが、ユーザーが操作を加えることでその検閲を解除することができ、公演に向けて段階的に物語の内容を知ることができるという仕組みだ。

専用アプリ『新言語秩序』

*専用アプリ『新言語秩序』

 

解除することで黒墨で塗りつぶされた箇所を読むことが可能になる。

*解除することで黒墨で塗りつぶされた箇所を読むことが可能になる

さらにその解除を進めることによってギャラリーや動画といったコンテンツのロックも解除され、「新言語秩序」を彩る物語の全容に徐々に近づいていくという、ある種の謎解きゲーム的な感覚でも楽しめるものとなっていた。

解除を進めることで、ギャラリーのコンテンツが閲覧可能になっていく

*解除を進めることで、ギャラリーのコンテンツが閲覧可能になっていく

なおかつ、バンドはこれらの公演やアプリと連動した作品として、「リビングデッド」を11月7日にリリース。表題曲の「リビングデッド」はシングルの発売に先駆けて「検閲済み」バージョンのミュージックビデオ(以下、MV)がYouTubeに公開されたが、そこで視聴できたのは規制によって「テンプレート言語=ありふれた言葉」で上書きされた歌詞とノイズまみれの音楽のみ。

検閲が施されていない本来の形の楽曲は、シングルを購入するなり、専用アプリ『新言語秩序』の操作を進めることでコンテンツに加えられる「検閲解除済み」バージョンのMVを視聴するなりしないことには、聴くことができない状態だった(日本武道館公演後の11月19日には「検閲解除済み」バージョンのMVもYouTubeにアップされた)。

また、アプリでは11月10日に1日限定でオープンしたシークレットゲリラショップの場所もアナウンス。このお店では、秋田自身がセレクトしたという「テンプレート逸脱した言葉=amazarashiの楽曲の歌詞」を背面にプリントしたTシャツを始め、言葉を取り戻す活動を行なう「言葉ゾンビ」としての連帯感を高める限定グッズが販売された。

このようにアプリなどのオンライン展開のみならず、シングルやポップアップショップといったリアルな施策も盛り込むことで、ユーザーの日本武道館公演に対する参加意識や「新言語秩序」という物語への没入感が極限まで高められたなかで、ライブは当日を迎えることになったのだ。

「検閲解除モード」にしてライブがスタート

11月16日、日本武道館にはゲリラショップで販売された衣装や過去のamazarashiのツアーグッズ、シングル「リビングデッド」の初回生産限定盤に特典アイテムとして封入されたバリケードテープなどをアレンジし、思い思いの格好に身を包んだファンが集結。

アリーナ中央に組まれたステージは、四方が透過性LEDスクリーンに囲まれており、さらにその周囲をアリーナ、1階席、2階席まで埋め尽くされた観客がぐるりと囲む形だ。

やがて「本公演は検閲の対象となっております。アプリを起動して参加ボタンを押してください」というアナウンスが流れ、アプリの動作確認テストへ。観客が『新言語秩序』を起動し、スクリーンに向けてスマホをかざすと、そのバックライトが一斉に光を放ち、客席からは驚きの声が上がる。

この日の公演ではアプリが「検閲解除モード」となり、公演中の特定のタイミングでスマホをスクリーンに向けてかざすと、スクリーンの文字の規制解除や発光が行なわれるという仕組みになっていた。

そしてamazarashiの初日本武道館公演が幕を開ける。まずはノイズにまみれたイントロダクションが流れ出し、このステージが「新言語秩序」の検閲下にあることが示されるなか、バンドは「ワードプロセッサー」からライブをスタート。

激しい音の塊に乗せて言葉を奔流のように吐き出す秋田だが、スクリーンに映されるその歌詞は次々と黒く塗りつぶされていく。「新言語秩序」による言葉狩りと、それに抵抗する「言葉ゾンビ」の秋田およびamazarashiとの戦いの火ぶたが切って落とされたのだ。

曲の終わりに「日本武道館、新言語秩序。青森から来ました、amazarashiです」と名乗りを上げた秋田の声に反応して、場内は拍手と歓声に包まれる。

そしてライブは2曲目「リビングデッド」へ。スクリーンにはSNSのタイムラインをイメージさせる映像が映し出され、そこに書かれた文字が次々と検閲され、黒く塗りつぶされていく。

そんな管理社会のディストピア的な世界観のなかで、秋田が〈死に切れぬ人らよ歌え〉と檄を飛ばす「リビングデッド」は、まさに「言葉ゾンビ」の抵抗活動を象徴する歌であるとともに、狭量な現実社会に対するメッセージとしても響くものだ。その言葉に共鳴するように、観客の掲げたスマホはライトを瞬かせて、ステージの周囲360度が光に包まれる。

そこから虚無的な街並みのCGが映し出された「空洞空洞」、新聞の見出しを通じて「新言語秩序」と「言葉ゾンビ」の争いの激化が伝えられていく「季節は次々死んでいく」と、スクリーンの映像と楽曲の詞世界を絡めながらライブと物語は同時に進行。

従来から存在する楽曲も「新言語秩序」を取り巻く物語のなかに組み込むことで、新しい意味が与えられていく。それはamazarashiが過去に行なってきたライブにおいても提示されてきた手法で、今回はその発展形であり、それらの取り組みの最新の成果と言えるものだろう。

「新言語秩序」第一章~「私は言葉を殺さなくてはならない」

ここでバンドの演奏は一旦中断され、透過スクリーンの向こう側にうっすらと見える秋田がイスに座り、アプリに公開された小説「新言語秩序」の第一章を朗読し始める。

物語は「新言語秩序」側のメンバーである女性・実多(みた)の視点で紡がれたもの。第一章では彼女が「言葉の潔癖症」になった理由と壮絶な過去が明かされ、最後は「私は言葉を殺さなくてはならない」という一節で締め括られる。

事前にアプリで公開されていた小説が、秋田の生の肉声であらためて朗読されることによって、より生々しい臨場感を伴って観客の心に突き刺さっていく。

そしてライブは「自虐家のアリー」で再開。スクリーンには動画サイトのamazarashiのチャンネルの画面が投影され、そのコメント欄にアップされた言葉が次々と検閲によって削除されていく。

最終的にはamazarashiのバンド名も消され、検閲済みの状態に。さらに「フィロソフィー」では激情的なサウンドに乗せて、ニーチェ「道徳の系譜」といった哲学書が次々と検閲対象に指定される様子が映し出され、言葉狩りが過激化していく様子が表現される。

一転して穏やかなフォークロック「ナモナキヒト」が、それでもなお自分の生き方を貫くために抵抗する人の心を鼓舞するように歌われると、続くバラード曲「命にふさわしい」ではスマホの光が満点の星空のように瞬き、感動的な光景のなかで生きることの厳しさと尊さが楽曲となって昇華されていく。

「新言語秩序」第二章~「新言語秩序」VS「言葉ゾンビ」

ここで再び秋田の朗読が始まり、小説は第二章に突入。物語には新しく「言葉ゾンビ」側の活動家である希明(きあ)が登場。彼はテンプレート逸脱行為を行なったために「新言語秩序」側に拘束され、「再教育」を施されることになる。

実多に向けて「おいあばずれ、お前も言葉殺しか」と侮蔑の言葉を放つ希明、「言葉を取り戻せ!」とシュプレヒコールを繰り返す「言葉ゾンビ」のシンパたち――彼らの対立はますます深まっていく。

ライブはどこか不穏な空気の漂う「ムカデ」へと続き、最新シングル「リビングデッド」のカップリング2曲目に収められた新曲「月が綺麗」では、武道館の天井に幾何学的な紋様の照明演出が施されるなか、秋田はゆったりしたミディアム・ロックに乗せて言葉を重力の枷から解き放つように歌を歌っていく。

次のバラード「吐きそうだ」ではスクリーンに雑誌の記事をモチーフにした映像が流され、そこにアプリのギャラリーにアップされていた希明の画像が用いられて物語の世界観とリンクしていく。そしてポエトリーリーディング調の「しらふ」を経て、今度は小説の第三章の朗読へ。

「新言語秩序」第三章~「人は言葉で変われる」

「再教育」中の希明に面会するために病院を訪れた実多。拷問まがいの行為を受けながらもなお「暴力で言葉を奪えると思うなよ」と抵抗を続ける希明に向けて、実多は「言葉を憎む人間を作ったのは言葉だ」と言葉狩りの価値を主張するが、希明は「人は言葉で変われる」と反論する。実多は言葉自体を憎みながらも、自らの思考そのものが言葉であることに苛立ちを覚え、さらに憎しみを募らせていくのだった。

次いで披露された「僕が死のうと思ったのは」は、秋田が中島美嘉に提供したナンバー。ピアノを軸にした優しくも力強いバラードが、スクリーンに映された手紙の便箋とそこに書かれたリリック、そして絶望のなかから希望を見出したことを象徴するような桜が舞い散るラストシーンとともに、あたたかな感動を巻き起こす。

さらにフォーク調のエモーショナルな「性善説」、空っぽの虚しさに抵抗するように感情を爆発させた「空っぽの空に潰される」と続け、次の「カルマ」ではスマホの光の海のなかで秋田の〈どうかあの娘を救って〉という絶叫が激しく響き渡る。

「カルマ」はamazarashiの初期からのレパートリーではあるが、この日このタイミングで歌われたことで、秋田が実多という存在に向けて送った力強いエールのようにも聴こえたし、彼女の救済を願う切実な歌のようにも思えた。

「新言語秩序」第四章~観客の検閲解除活動によって生まれたもう一つの結末~

そして秋田の朗読はついに小説の最終章となる第四章に。この第四章、事前にアプリで公開されていたものは、実多も希明も救われない状態で完結を迎える、非常に後味の悪いものだった。

だが、ここで秋田が読み上げた第四章は、途中から物語の内容が変化。実多は希明の行動をきっかけに、これまで自分のなかに抑えつけてきた言葉を吐きださんとするのだ。従来の第四章が「バッドエンド」だとすると、こちらは「トゥルーエンド」。そしてこの日のライブの最後の楽曲、「独白」の演奏がスタートする。

「独白」はバンドの最新シングル「リビングデッド」のカップリング3曲目に収録されているナンバー。ただしこのシングルに収められていたのは、ノイズが被されていて歌詞も楽曲もほとんど判別できない、いわば「検閲済み」バージョンと言えるものだった。

だが、日本武道館に集まった「言葉ゾンビ」のシンパたちによる検閲解除活動によって小説の物語の結末が「トゥルーエンド」へと分岐した今、「独白」も検閲を解除した真のバージョンとして披露されることに。

スマホの画面には「新言語秩序」プロジェクトのキーワードでもある「言葉を取り戻せ」という文字がいっぱいに溢れ、秋田は実多自身の独白とも取れるドラマティックな内容の「独白」を、劇的なロックサウンドとともに歌っていく。

突然スマホの画面いっぱいに「言葉を取り戻せ」というワードが溢れた

*突然スマホの画面いっぱいに「言葉を取り戻せ」というワードが溢れた

そしてラスト、彼は〈言葉を取り戻せ〉と何度も訴えかけるように叫び、彼のメッセージに共感を覚えた人々からの万雷の拍手に包まれるなか、「日本武道館! ありがとうございました!」と感謝の言葉を残してステージを降りた。

ライブの内容とアプリがリンクした仕掛けで観客がライブ演出にも参加するとともに、「新言語秩序」という物語の世界に入り込む感覚をもたらし、インタラクティブなライブ体験を作り上げた今回の公演。おそらく世界的に考えても他に類を見ない画期的な試みと言えるだろう。

さらに専用アプリ『新言語秩序』では、公演後にその参加実績に応じてさらなる追加コンテンツを開放。小説「第四章-真」のテキストやライブ当日の写真、そして「独白」の検閲解除バージョンの音源も聴くことができ、公演後も「新言語秩序」の世界観を楽しむことができる仕組みだ。

ライブ後、84点のライブ写真が公開された

*ライブ後、84点のライブ写真が公開された

「独白」の検閲解除バージョンの音源も公開された

*「独白」の検閲解除バージョンの音源も公開された

「言葉」を音楽表現の核に置き、それを作品や映像演出などを用いたライブパフォーマンスによって拡張してきたamazarashiにとって、「新言語秩序」プロジェクトはひとつの到達点であり、今後の活動の可能性を示すものになったのではないだろうか。

【セットリスト】

01. ワードプロセッサー
02. リビングデッド
03. 空洞空洞
04. 季節は次々死んでいく
05. 自虐家のアリー
06. フィロソフィー
07. ナモナキヒト
08. 命にふさわしい
09. ムカデ
10. 月が綺麗
11. 吐きそうだ
12. しらふ
13. 僕が死のうと思ったのは
14. 性善説
15. 空っぽの空に潰される
16. カルマ
17. 独白

New Single『リビングデッド』


[収録曲]
01. リビングデッド
02. 月が綺麗
03. 独白(検閲済み)
04. リビングデッド -instrumental-
05. 月が綺麗 -instrumental-

初回生産限定盤[CD+GOODS]
スペシャルボックス仕様
¥2,130(tax out) AICL-3590~3591
[CD] 3tracks + 2instrumental
[GOODS] 新言語秩序バリケードテープ

『リビングデッド【初回生産限定盤】』の購入はこちら


[収録曲]
01. リビングデッド
02. 月が綺麗
03. 独白(検閲済み)

通常盤[CD]
¥1,185(tax out) AICL-3592
[CD] 3tracks

『リビングデッド【通常盤】』の購入はこちら

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