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宇多田ヒカルのライブを語る【特集第1回】

2018.12.12

Report

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宇多田ヒカル

Live/Event

宇多田ヒカルが、12月9日に全国ツアー「Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018」のファイナル公演を千葉・幕張メッセにて行なった。11月6日横浜アリーナで幕を開けた全6都市12公演、14万人を動員した同ツアーは、活動休止前に行なった2010年の横浜アリーナ以来8年ぶりのライブであり、全国ツアーとしては実に12年ぶりとなる。

Cocotameでは、「宇多田ヒカルのライブを語る」特集を展開。各方面で活躍するアーティストや作家が「Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018」を語る。特集第1回は、ツアーファイナルのレポートを届ける。

ライブにこそあった、再始動のリアル

振り返れば、宇多田ヒカルは1998年12月9日に「Automatic/time will tell」で15歳でデビュー。1stアルバム『First Love』は全世界で1000万ユニット以上のアルバムセールスという、現在に至るまで誰も破ることができていない大記録を打ち立て、時代の象徴となった。その後も、「Flavor Of Life」がダウンロード数にて世界記録(当時)を作るなど、人気絶頂のなか、2010年12月9日、横浜アリーナでのライブを最後に、人間活動をするためと活動を休止した。

2016年4月「花束を君に」「真夏の通り雨」の同時解禁により再始動するまでの間、彼女は宇多田光として生きて行くための、基本的な生活の術を身につけ、さらに母親の死と出産を経験する。復帰後初のアルバム『Fantôme』は大ヒットするが、このタイミングでは全国ツアーを行なっていなかった。その後も新曲、さらに2018年6月に発表したアルバム『初恋』で表現の深化をみせ、今回のツアーは、まさに待望のライブだった。

デビューから20周年となる12月9日、幕張メッセ。驚いたのは、ライブ前に会場で流れているBGMがなかったことだ。なにか、神聖な場で宇多田ヒカルの登場を待つような厳かな空気。そこにいるみんなの意識が、このあとはじまるライブに集中し、全員の緊張感が漂っているようにも思えた。

いよいよ、バンドメンバーが登場し大きな拍手があがったが、宇多田ヒカルがステージに登場すると、どよめきと同時に「あなた」の歌い出しで会場中がスッと歌声に聴き入った。流れるように「道」「traveling」と続いたが、「みんなー、待たせてごめん!」と彼女は手拍子を誘い、「最終日だよ。もっと声出してー!」とマイクを差し出す。

「今日、デビュー20周年の記念日なんですけど。そんな日をこんな風に過ごせて。誕生日とか祝ってもらったり、会の主役みたいな感じは苦手なんだけど、素直に喜んでおきます。ありがとう!」と彼女らしいMCの後、鳴り止まない拍手に「うん」と頷く。宇多田ヒカルはライブ冒頭から泣きそうになっていた。「SAKURAドロップス」では、アナログシンセのつまみをいじる場面もあったが、偶像でも虚像でもなく、神々しいというものでもない、誰もが彼女の歌声と一挙手一投足に、生々しい「人間」を強烈に感じていた。

「ともだち」「Too Proud」では、「Forevermore」のミュージックビデオにて宇多田ヒカルのコンテンポラリーダンスの振り付けを担当した高瀬譜希子が登場し、歌とダンスのコラボレーションを披露。「ともだち」はLGBTをテーマに、「触れたくても触れられない」秘めた思いが描かれている曲だが、実際にダンスのなかでも、宇多田と高瀬は、それ以上近づけない距離のまま、決して触れ合わない。“恥ずかしい妄想や 見果てぬ夢は 持っていけばいい 墓場に”のシーンでは、宇多田と高瀬がしなやかに手を広げ、二人で十字架が表現された。とても切なく、美しい瞬間だった。

続く、「Too Proud」もひとつのハイライト。同曲は、11月に、中国、ベトナム、韓国のラッパーが、それぞれの母国語でラップしたリミックス楽曲「Too Proud featuring XZT, Suboi, EK (L1 Remix)」をサブスクリプション/ダウンロード配信でリリースしたばかりだったが、なんと、そのラップパートを、宇多田ヒカル自身が“男と女は出会った瞬間が最高って ビートたけしが言ってるインタビュー ネットで読んだ”“ともだちには戻れないわ”など、日本語のリリックで披露し、度肝を抜かれた。

そんな驚きのなか、暗転。演者はステージを降り、ビジョンに宇多田ヒカルと又吉直樹の対談映像が流れ始めた。ツアータイトルにある「Laughter in the Dark」が何を意味するのか? 「絶望のなかのユーモア」について真面目に語り合っているのだが、どこまで本気なのか、どこかおかしさを含む。そして、いよいよ宇多田が又吉をどつくシーンで笑いを誘った。

「First Love」と「初恋」

そんなインタールードを挟み、再び、宇多田ヒカルが現れたのは、四方を囲まれたセンターステージ。オーディエンスに、またぐっと近づき、「誓い」を披露するのだが、自分の足で360度、それぞれの方向に顔を見せ、歌う。

続く「真夏の通り雨」では、ずっと止まない雨と、鼓動のようなドラムの音がリンクし、音の世界に引き込む。「花束を君に」を終えると、客席の合間を縫って、メインステージまで歩いて戻っていった。そういう、一つひとつが、彼女の存在をリアルにしていくのだ。

終盤は、「First Love」に続けて「初恋」を披露した流れがすばらしかった。彼女が10代のころに作った「First Love」は、当時のままのみずみずしさにあふれているのだが、そこから20年後の「初恋」との対比。時間の経過がなければにじみ出ない、何気ない言葉にひそむ深み。いずれも、感情を呼び起こしてくる。

そして、「久しぶりに気持ちよくなりたーい! って作った曲。いってみよー!」と「Play A Love Song」。会場を生命力いっぱいに盛り上げ、本編を終えた。

アンコール。本編とまた雰囲気をガラリと変え、「俺の彼女」を披露。本編で披露した「Forevermore」もゴージャスだったが、バンドのすばらしさを改めて感じる。バンマスのジョディ・ミリナー(グラミー賞を受賞したサム・スミスのアルバム『In The Lonely Hour』にも参加)の太いベースが響き、ジャジーな展開で、極上のグルーヴ。デビュー曲「Automatic」そして、8年前に横浜アリーナで冒頭に披露した「Goodbye Happiness」で幕を下ろした。

宇多田ヒカルの「ありがとう」

20年の重みと、初々しさが同居し、一言では表せない。さまざまな流れを感じるライブだったが、このツアーで宇多田ヒカルが何度も言葉にしたのは、「ありがとう」という言葉だった。会場で待っていてくれたファンに対して「ありがとう」を伝え、その日のライブを感じていた。

そして、バンドメンバーをはじめ、今、自分がステージに立っていることに、彼女を支えてきたレーベルスタッフ、音響、照明、運営、設営と、どれだけリアルに人の手がかかっているのかを彼女は理解していて、賛辞を述べていく。

そして、「今日言おうかどうか、迷ったけど、私がありがとうと言いたい人が二人います。産んでくれた母と父に。一緒に仕事をしているから、父とはよく会うし、照れ臭くて言えなかったけど、この場を借りてありがとうと言わせてください」と両親に尊敬と感謝を述べた。そして、ステージを降りる時も、ファンの表情をできるだけ長く、感じようとしていた。このツアーは「終わり」を迎えたが、明らかに何かの「始まり」だった。

なお、同ライブの模様は、1月27日21:00より「BSスカパー!」にて放送。3月10日20:00より「MUSIC ON! TV」では、ツアードキュメンタリーも加えた完全版が放送される。また、宇多田ヒカルのPlayStation®VR向けコンテンツ「Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018 – “光” & “誓い” – VR」として、「光」と「誓い」のライブライブパフォーマンスがPS VR向けに配信決定。有料会員サービスPlayStation®Plusの加入者には「光」のVR映像の先行配信が12月25日にスタート。「誓い」は2019年に「光」とともに一般向けに無料配信が行なわれる。

1月18日スクリレックスとのコラボ曲「Face My Fears」がシングル発売。同曲はゲームソフト「KINGDOM HEARTS III」のオープニングテーマとして使用される。このジャケットは、ディレクター・野村哲也が描きおろしたもの。同シングルに収録される「誓い」「Don’t Think Twice」は配信中。3月6日にはシングル「Face My Fears」のアナログ盤の発売も決定。

特集2回目は、「宇多田ヒカルの言葉」でも寄稿している詩人 最果タヒさんに宇多田ヒカルのライブを綴ってもらう。

関連リンク

宇多田ヒカル 公式サイト
宇多田ヒカル 公式Twitter
宇多田ヒカル 公式Instagram

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写真=岸田哲平(12月9日千葉・幕張メッセ)

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