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開発者は麺に絡みつかれる夢まで見た!? 『出前一丁』50年前の誕生秘話【連載第9回】

2018.6.7

Interview

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出前一丁

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2018年は、ソニーミュージックグループが生まれて50年という節目の年。本連載「50年の歩み ~meets the 50th Anniversary~」は、同じく50年目を迎える企業、商品、サービスを取り上げ、その歴史を紐解くことで、「時代」を浮き彫りにするという特別企画だ。

今回から3回に渡ってお送りするシリーズ3で取り扱うのは、50年前、日清食品が社運を賭けて開発した高品質袋麺『出前一丁』。即席麺の生みの親・安藤百福と、日清食品の開発者たちが、どのような思いを込めてこの商品を立ち上げたかを明らかにする。

日清食品株式会社 マーケティング部 第3グループ主任 三浦由視さん

日清食品株式会社
マーケティング部 第3グループ主任
三浦由視さん

特製「ごまラー油」で他社商品との差別化に成功!

──はじめに、日清食品という会社の成り立ちについて教えてください。

三浦:日清食品は、創業者・安藤百福(あんどうももふく)が世界初の即席麺『チキンラーメン』を発明した1958年に創業した食品メーカーで、今年で60周年を迎えます。安藤百福は、『チキンラーメン』のほかにも、1971年に世界初のカップ麺『カップヌードル』を、2005年に世界初の宇宙食ラーメン『スペース・ラム』を発明するなど、生涯をかけて新しい食の創造に挑戦し続けました。

──そんな日清食品が、1968年に『出前一丁』を発売した経緯について教えてください。まだ『カップヌードル』は登場していませんでしたが、『チキンラーメン』という大看板商品がある中で、なぜ新たな商品を開発されたのでしょうか。

三浦:『出前一丁』を発売した1960年代後半は、即席麺メーカー各社の競争が熾烈を極めており、消費者のニーズもより高品質な商品に向かいつつありました。特に、スープ別添タイプの即席麺の人気が高まっており、『チキンラーメン』によって、あらかじめ麺にスープを染み込ませた着味麺のイメージが強かった日清食品は強い危機感を持っていました。実際、関東地区における当時の日清食品のシェアは10%程度だったんです。この危機感を踏み台にして、新たな挑戦の末に誕生したのが、1968年に発売した『出前一丁』なんです。

1958年に誕生した『チキンラーメン』

1968年に誕生した『出前一丁』

 

 

 


1958年に誕生した『チキンラーメン』と、その10年後に誕生した『出前一丁』。

──1968年には、既に他社からも「即席袋麺」が多数発売されていました(サンヨー食品『サッポロ一番』シリーズ、明星食品『明星ラーメン(明星チャルメラ)』など)。それらと比べて『出前一丁』が優れていた点、こだわっていた点はどこでしょうか?

三浦:まず、最初にこだわったのが麺の品質です。当時の開発スタッフたちが、国産の小麦粉はもちろん、外国産の小麦粉も入手可能なものを全て吟味し、何度も試作を繰り返して麺を開発していきました。最終的には、小麦粉は灰分の含有量が低い上質品を厳選し、麺を整形する切刃も、『チキンラーメン』で採用していた角刃ではなく、口当たりが滑らかになるよう丸刃に変更しています。これによって、滑らかでありながらコシが強く、歯切れが良くて弾力性に優れた麺の開発に成功しました。こうして誕生した『出前一丁』の高品質な麺は、その後の商品開発においても“原型”として大きな影響を与えています。

その上で、当時の既存商品との「差別化」も徹底的に検討しました。コショウを小袋に入れる案など、さまざまなアイデアが登場しては消える中、辿りついたのがゴマ油をベースに13種類の味をブレンドした特製「ごまラー油」です。ゴマの香りは食欲を促進し、健康のイメージにも繋がります。また、ラー油にも食欲促進と本格中華感を盛り上げる効果がありました。

──ひらめきではなく、地道なトライアル・アンド・エラーで新しい味を生み出そうとしたんですね。

三浦:そうなんです。当時の開発スタッフは、「開発に携わっていた約6カ月間は、寝床に入ると天井に麺が渦巻いて見えたり、麺にからみつかれる夢で目が覚めた。それだけに完成したときの喜びは大きかった」と、語っているほどです。

『出前一丁』ファンはどんな人?

──『出前一丁』に対して、発売当時はどのような反応があったのでしょうか?

三浦:1968年2月6日、東京都の帝国ホテルに関東地区の主要卸店を招いて発表会を開きました。その後、2月12日に関東地区での販売を開始。高品質の麺にしたことや積極的な販促活動が功を奏して、発売1カ月後には関東地区の単品シェアで10%強を獲得する大ヒットを記録しています。その後も販売エリアを徐々に拡大し、全国に展開していきました。

──それまで全商品で10%だったシェアを『出前一丁』だけで達成してしまったというのはすごい勢いですね。

三浦:1968年度の販売実績は3,531万食、翌1969年度の年間販売数は一挙に3億1,104万食になり、さらに1971年度には3億3,597万食を達成しています。初出荷の数量で新記録を達成したほか、発売後1年間で即席麺全商品中、販売数量が1位になるなど、当時の記録を次々と塗り替えていったんです。

──それでは、現在の『出前一丁』の販売動向はどのようになっているのでしょうか? 現在の、即席麺の市場動向と併せて教えていただけますか?

三浦:即席麺の市場は微増ながらも、全体としてはほぼ横ばいです。ただ、人口動態の変化(単身者の増加や若年層の減少など)や、スーパーからコンビニエンスストアに販売チャネルが変化したことによって、袋麺よりもカップ麺が主流になっています。そんな市況の中、『出前一丁』に関しては、カップ麺の『出前一丁 どんぶり』(1991年に発売)が伸びている上で、袋麺の方も販売数をしっかりと維持しています。

──『出前一丁』の場合、袋麺とカップ麺では購入者像が異なるのでしょうか?

三浦:はい。カップ麺は20~30代の男性がメイン、袋麺の方は30~40代の男女がメインになっています。袋麺は5食パックでの販売が中心ですので、ファミリー層からの支持が強いのが特徴です。

──地域による売り上げ偏差のようなものはありますか? 例えば、ある地域でものすごく売れているとか。

三浦:日清食品が関西発祥の企業ということもあって、全体的には近畿地方が強いんですが、『出前一丁』の場合は名古屋が圧倒的に強いんです。他の商品は、関東エリアのシェアの方が高いのですが、『出前一丁』は中部エリアでの人気が高く、関東と中部がほぼ同じぐらいのシェアになっております。ただ、なぜ名古屋で強いのかはよく分かっていません。これは『出前一丁』だけの傾向で、他の商品には見られない現象です。

今年、「ごまラー油」がさらに美味にリニューアル!

──『出前一丁』と言えば、王道の「しょうゆ味」が基本というイメージがありますが、この味付けは、50年間不変なのでしょうか? それとも、日本人の食生活の変化や技術の進歩に合わせてアレンジされてきているのでしょうか?

三浦:『出前一丁』ならではのしょうゆをベースとしたコクのあるスープは変わっていませんが、細かなリニューアルは何度か行なっています。直近では、2018年2月に、「ごまラー油」のベースとなる豊かなごま油の風味はそのままに、フレッシュなごまの香りをアップした「香り華やぎごまラー油」にリニューアルしました。

香り華やぎごまラー油

リニューアルされた「香り華やぎごまラー油」。投入するとごまの良い香りが湯気とともに立ち上がり、食欲が刺激される。

──袋麺とカップ麺では、味の違いはありますか?

三浦:スープの味付けは基本的に一緒です。ただ、カップ麺には具材としてワンタンが入っていて、そこから美味しい油がにじみ出ることで、スープがより豊かな味わいになります。対して、袋麺は麺が違います。ガスコンロを使って大きな熱量で調理しますから、カップ麺と比べ、麺がモチっと、プルっとしているんですよ。

──つまり、スープはカップ麺の方が、麺は袋麺の方がリッチな味わいだということですね。

三浦:そうですね。なので、片方しか食べたことがないという方には、ぜひ両方を食べ比べていただきたいです。

──今後、「しょうゆ味」以外の味を増やしていく予定はありますか?

三浦:2001年には、「ごまみそ」「とりしお」「ごまとんこつ」などのバリエーションも発売したのですが、現在は、スタンダードな「しょうゆ味」に絞り込んでいます。ただ、昨年の春に「担々麺」を、今年1月には香港で人気の「辛辣XO醤海鮮味」を期間限定商品として発売しました。「しょうゆ味」だけでなく、味のバリエーションを楽しんでいただきたいと思っていますので、今後の展開にご期待ください。

出前一丁の公式サイトはこちら

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取材/文:山下達也(ジアスワークス)
撮影:松浦文生

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