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なぜ『人生ゲーム』は50年間売り続けることができたのか? タカラトミー開発者に聞いた、超定番の遊びを“変えずに続ける”こだわり【連載第1回】

2018.3.1

Interview

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人生ゲーム

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本日、2018年3月1日から遡ること50年――。1968年3月1日に日本で初めて外資との合弁会社として設立されたCBS・ソニーレコード株式会社。レコード会社として誕生し、その後、ソニー・ミュージックエンタテインメントと社名を変えながらグループカンパニーとして歩む道程には、音楽だけにとどまらず、アニメやゲーム、キャラクターの権利ビジネス、メディア、ライブホールの運営など、さまざまなエンタテインメント事業を多角的に展開してきた歴史を持つ。

本連載企画「50年の歩み ~meets the 50th Anniversary~」は、ソニーミュージックグループと同じく、1968年に生まれた企業や商品、サービスなどを取り上げ、その歩みを紐解きながら、この半世紀がどんな時代だったのかを切り取る企画である。シリーズ第1回目は、1968年9月に日本版が発売され、累計出荷数1,400万個を超えるという盤ゲームの超定番商品、タカラトミー『人生ゲーム』の歩みについて伺った。

安心して遊べる定番商品と、ユニークで挑戦的な商品で長寿シリーズに

これまでに発売されたシリーズは60作品を数え、累計出荷数は1,400万個を突破。日本では一家に一つと言っても過言ではない超定番商品としてのポジションを築くタカラトミー『人生ゲーム』は、実はもともとアメリカ生まれ。日本にやってきてから独自の進化を始め、現在に至ったという。

その知られざる歴史と、50年経っても魅力を失わない理由を取材した。話してくれたのは、現在タカラトミーで最新商品の企画・開発に携わり、50年分の『人生ゲーム』の歴史をもっとも研究した人物のひとりである池田 源さんだ。

株式会社タカラトミーゲーム事業部 トイゲーム企画課 池田 源 さん

株式会社タカラトミーゲーム事業部 トイゲーム企画課 池田 源 さん

――『人生ゲーム』が50年かけて変わってきたことと、変わらなかったことというのはどのあたりがポイントになるんでしょうか。

池田 まず、『人生ゲーム』は商品が大きく2種類に分かれまして、“スタンダード版”と、それ以外のサブライン(テーマライン)版があります。スタンダード版というのが、だいたい7~8年に1回ぐらいリニューアルを行なう商品になっていまして、現在(2016年以降)は7代目を発売しています。このスタンダード版では、基本的なゲームシステムは変わらないのですが、マス目の中身などは、その時代の世相を反映したトレンドを取り込んでいます。50年という歴史のあるゲームですが、プレイする方に懐かしさだけでなく、新鮮さも感じてもらえるように、毎回気を配って作っています。

1968年に9月に日本で発売された初代『人生ゲーム』。当時の価格は1,700円。

1968年に9月に日本で発売された初代『人生ゲーム』。当時の価格は1,700円。

――それを見直す周期が約7~8年ということなんですね?

池田 そうですね。あまり頻繁に変えずに、だいたい7~8年かけてしっかり根付いてから、また新しいものを出すといったスパンでやっています。

――スタンダード版と、その時々のトレンドを強調したサブライン版。このふたつを並走発売するスタイルを取られたのはなぜでしょうか。

池田 ロングランで販売する商品は、やはり何かしら手を加えていかないと、徐々に忘れられてしまいます。いくら盤面の内容を少しずつ変えていっても、それだけでは古くさいものと思われてしまう。

だから、安心して遊んでいただける定番モデルとしてスタンダード版を続けつつ、その時々でさらにトレンドを追いかけた……挑戦的な商品というのを、毎年少なくとも1作品以上は出すという考え方です。

例えば人気のキャラクターを採り入れたものやタレントさんとコラボしたもの、新しいギミックを入れたものという、そういった話題性のあるものですね。

『よしもと芸人人生ゲーム』(2012年発売)

『よしもと芸人人生ゲーム』(2012年発売)

『ビックリマン 悪魔VS天使 人生ゲーム』(2015年発売)

『ビックリマン 悪魔VS天使 人生ゲーム』(2015年発売)

これらを発売することによって、「『人生ゲーム』がまた何か面白いことやってるね」と目を向けてもらえれば。また一方では「そう言えば『人生ゲーム』って昔遊んだよな」とスタンダード版の方にも目を向けてもらえたらと考えております。

――話題作りを欠かさずに、『人生ゲーム』のベーシックな部分は守るということですね。

池田 そうですね。『人生ゲーム』は根っこの、一番大事なゲームシステムはほとんど変えずに50年続けてきました。ルーレットを回して、出た数の分だけ進んでいくという…… “運ゲー”とも言われていますが(笑)。ほかの盤ゲームと比較して戦略性が強くないのは、初代『人生ゲーム』からの特徴ですね。

マス目に入るテキストは、7~8年周期の“トレンド会議”で決められる

――『人生ゲーム』の醍醐味のひとつに、盤面のマス目のコピーを見ているだけでも楽しいというのがあります。このマス目のネタはどのように決められているのでしょうか? 特にスタンダード版は7~8年は変えないものとお聞きしたので、ネタの選定方法が気になるところです。

池田 マス目のネタ作りに関しては、開発チームの“トレンド会議”というようなものがありまして。『人生ゲーム』には昔から特徴的なワードがいくつかあるので、そういうものだったり、あとはその時々のトレンドをホワイトボードに書き出していって、それをマス目にどう落とし込んでいくかっていうのが、最初の作業になりますね。

――やはり“トレンド会議”っていうものが存在するんですね(笑)。これは何人ぐらいで行なわれているのですか?

池田 基本的には3人のチームでやっています。トレンドとは言いつつも、特にスタンダード版に関しては瞬間的なトレンドワードを選んでしまうと、何年か経った後に「これ何?」ということになってしまいます。しばらくはトレンドであり続ける、もしくは、そのトレンドが世の中的にスタンダードになっていく、というようなワード選びになるよう気をつけてはいますね。

――そういう意味では、流行り廃りに惑わされない、時代を読み解く力みたいなものが問われますね。

池田 そうですね。それは多少なりとも必要かもしれません。

――ちなみに、最新のスタンダード版(2016年発売モデル)ではどんなワードが選ばれているんでしょうか。

池田 「電動自転車」とか「家庭菜園」、「外国人の旅行客」とかですね。ちょうど外国人の旅行者の方たちが増え始めた時期でもありましたので。あとは、「町工場の世界進出」がフィーチャーされていたり。「副業」なんてワードもあります。

――一つひとつ見ていくと結構あるんですね。スタンダード版のマス目の内容は前作から何パーセントぐらいリニューアルされるものなんですか?

池田 基本的に、マス目のネタは全部入れ替えます。いったんフラットにしてトレンドを洗い出して。

ただすべてを最新のトレンドに変えてしまうわけにはいかないので、これまでの定番のネタで何を残すかっていうのを考えていくという。昔遊んでくださった方が見たとき、「ぜんぜん違うじゃん!」というのも良くないので。「あった、あった! 『人生ゲーム』にこういうマス目!」と懐かしんでもらえる部分も残しつつ、そのバランスが大事だと考えています。

“ルーレット”や“お金”の仕様を50年間ほとんど変えてこなかった理由

――50年経っても変わらない部分について伺います。『人生ゲーム』の場合はやはり、このルーレットですよね。

池田 はい。初代『人生ゲーム』が発売された当時は、ルーレットというもの自体が珍しかったんですよ。それまではサイコロで遊ぶ双六みたいなものが主流だったんですけれども、『人生ゲーム』はアメリカが発祥ということもあり、ルーレットを使うゲームで。これが当初、話題になったきっかけでもあります。

この、回してパチパチッ……と音を立てながら止まるというのは、『人生ゲーム』のアイデンティティとも言えるので、このギミックはいじらずに、初代からほとんど変わってないですね。

人生ゲーム
人生ゲーム

写真1枚目が初代『人生ゲーム』のルーレット、写真2枚目が最新版(7代目)のルーレット。数字の地色が違うなど、若干の違いはあるものの、ルーレットの回し心地は確かに変わっていない。

――ルーレットを回したときの手ごたえ、回り具合などもずっと変わらずなんでしょうか。

池田 基本はそうですね。遊ぶときのテンポも大事で、ルーレットが長く回りすぎると、プレイ時間が長くなってしまうので。あとはルーレットの部分も含めてですが、盤面にこういう建物とか、山があるような……普通の双六だと平面なところに、立体的なモノが存在するっていうことも、当時は珍しかったんですよ。そのときの見た目のインパクトは、基本的に今も踏襲しているところです。

それと結構重要なのが、ゲームに使うお金ですね。これも初代からほとんど変わっていなくて。未だにこのドル札で、中に誰だかよく分からないような人が描かれているという。

――これって本当に“よく分からない人”ということになるんですか?

池田 いえ、実は『人生ゲーム』を開発した人だとか、当時アメリカで人気があったタレントさんだとかが描かれているんですよ。ただ、日本人にはほぼ馴染みがないと思います(笑)。これによって、“なんとなく海外のお金っぽい”と認識していただけるのではないかと。

――このお札のサインに書かれている名前も、そういう方たちの名前になるんですか?

池田 10万ドルに描かれているのはアート・リンクレターという、その当時人気だったラジオ・TVパーソナリティーの名前がなぜかここに書かれていて。その人の顔がお札にも描かれています。他にはミルトン・ブラッドリーという、商品をもともと作った会社の人物も描かれていますね。

写真上列が『人生ゲーム』初代モデルのお札。印刷の濃度が違うなど多少の違いはあるものの、基本的なカラーリングは同じ。最も異なるのは、当時は500ドル紙幣が存在していたことだ。

写真上列が『人生ゲーム』初代モデルのお札。印刷の濃度が違うなど多少の違いはあるものの、基本的なカラーリングは同じ。最も異なるのは、当時は500ドル紙幣が存在していたことだ。

“お金”にまつわる価値観の違いと日本独自の進化

――あえて初代版からドル札を変わらずキープしていることも含めですが、そこでアメリカと日本の考え方の違いが表われていると思います。

池田 そうですね。アメリカと日本では『人生ゲーム』の進化の仕方が違っていて、当初はアメリカで『THE GAME OF LIFE』という名前で発売された商品をそのまま日本版にしたので、マス目に書かれたコピーも、全部アメリカ版の商品からの直訳だったんです。

だから日本ではあまり馴染みのないような……例えば「ラスベガスに行く」だとか「石油が出た」というようなマス目もあったのですが、スタンダード版の3代目モデル(1983年発売)の頃には日本でも『人生ゲーム』が浸透していたので、そこからマス目が日本版オリジナルに変わりました。

「前の橋か危ない15コマもどる」は前の橋“が”あぶない? 直訳のためか時代を感じさせるコピーになっている。

「前の橋か危ない15コマもどる」は前の橋“が”あぶない? 直訳のためか時代を感じさせるコピーになっている。

――いわゆる“ローカライズ”ですね。

池田 まさにそうですね。3代目モデルでは、例えば「お歳暮」とか「お正月」というワードが入ってきたりとか。このあたりから、版権元は海外になるんですけど、モノとしては日本独自の進化を遂げていくことになります。あとはやっぱり、日本人ってリアルなお金のやりとりをあまり好まなかったりするんですよ。そこで、ドル札にしていることで、リアル感を薄めているというのもポイントになっています。

――生々しくしすぎない?

池田 はい。そのうえで、レートも現実のものから多少上下した数値になっています。あくまでリアルなものよりも仮想の通貨に近い形で。ただ、やっぱりお金のやりとりっていうのは楽しみのひとつであって、大事な要素ではあるんです。それはお子さんの教育にもいいと、親御さんからおっしゃっていただいたくこともあります。

――このお札の色も、昔からずっと変わらないですよね。

池田 そうですね。最初にどういう意図でこの色にしたかっていうのは定かではないんですが、見分けがつきやすいのが大きいのかなと思います。

あとは『人生ゲーム』のお金って、何となくみなさんの中でイメージがあったりもするので。この色合いも『人生ゲーム』を形づくるモチーフのひとつかなと考えています。何枚か手元に集まったときに「あ、『人生ゲーム』のお金だな」というイメージが湧くように。

――これが金色や銀色に変わったら馴染みがなくなるということですね。

池田 ええ。スタンダード版以外では、あえてそうした商品もあるんですが、お金ひとつとってみても、これぞ『人生ゲーム』っていうイメージが大事なのかなと。ちなみに株券などは変わってます。初代はかなり大きい紙でしたが、今はお札に近いデザインです。

――けっこう違いますね。逆に当時のほうがリアルな株券に近い感じで。

人生ゲーム
人生ゲーム

株券と自動車保険。写真1枚目が初代のもの、2枚目が7代目のもの。

池田 当時は、株のやりとりをしているのはごく一部の大金持ちとか企業ぐらいのもので、日本人にとって「株って何?」というような感じだったんですよね。それこそ、この『人生ゲーム』で初めて株の存在を知るような。保険は、ある程度日本でも浸透してきていたと思うんですけれども、この株券と保険に関しては使い勝手も考慮して、現在のサイズに統一されました。

50年がかりのブラッシュアップ。“車に空いた穴の数”には意外なヒミツも?

――他に変わらないところとしては、「車」と「人物のピン」という要素もあります。

池田 ええ、ピンを車に挿すという仕組みはずっと変えてませんので、見た目はマイナーチェンジしつつも、パッと見はほとんど変わらないようにしています。

ちなみに初代モデルと最新モデルを細かく比べてみると、車の形状が若干変わっているのと、人物ピンについては7代目から変わってますね。変更理由はお子さんでも掴みやすい形にするためで、挿し込む穴の大きさは変えていません。

写真左が、誤飲対策がされている現在の車。人物のピンも、子供が持ちやすいように改良されている。

写真左が、誤飲対策がされている現在の車。人物のピンも、子供が持ちやすいように改良されている。

――よく見ると、車の穴の数が増えていますね。これは挿せるピンの数が増えたんでしょうか?

池田 いえ、真ん中に貫通している穴は、誤って飲みこんでしまったときの気道確保のための穴なんです。お子さんが誤飲してしまったときに、小さい部品は穴を開けておかないと気道を塞いでしまうので。

――なるほど! 誤飲対策の穴なんですね。

池田 これはシリーズの途中から玩具の基準ということで決まったものでして。最初はなかった穴ですね。間違えてピンを挿してしまう方もいるかもしれませんが、実はここは関係ないんです。挿せる穴は6カ所のまま変わっていません。

――ところで『人生ゲーム』のスタンダード版って対象年齢は何歳でしょうか?

池田 最新モデルでは6歳以上が対象になっています。初代モデルは実は9歳以上が対象でした。

――「9歳以上」というのは、今はあまり聞かない設定ですね。逆に、50年前にもそういう基準があったんだというのが驚きです。

池田 言われてみればそうですね。ちなみに遊べる人数については、昔は8人まで遊べたんですが、今は6人までとなります。

――プレイ人数が変わったのには理由があったんでしょうか?

池田 初期の『人生ゲーム』が今よりも簡素なゲームシステムだったのに対し、現在はゲーム内容にボリュームがあるので、そのことが関係しています。最大6人まで遊べるゲームですが、実際に6人で遊ぶとそれなりに時間がかかるんですよ。待っている時間が長くなると間延びしてしまったりもするので、弊社としては基本的に4人で遊ばれることを推奨しています。4人で遊ぶとだいたい1時間くらいで終わります。また1時間というのが、だいたいお子さんが集中できる長さでもありますし。

話を聞けば聞くほど、50年前から現在への社会の変化、日米での事情の違い、さらに玩具づくりのノウハウまで、あらゆる発見の尽きないインタビューとなった。

次回は、スタンダード版を含めるとシリーズ総計60作品までにも及んだ『人生ゲーム』について、よりバラエティ豊かに紹介予定。「こんなのもあったのか!」という、今見ると驚きの商品もぞくぞく登場するのでお楽しみに。

人生ゲームの公式サイト

取材/文:柳 雄大
撮影:松浦文生

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