アナログゲームとしての再評価も追い風に。50周年『人生ゲーム』の今までとこれから
2018.03.23
外部企業
遡ること50年。ソニーミュージックグループの誕生と同じ年に生まれた、企業や商品、サービスなどを取り上げ、その歩みを紐解きながら、この半世紀がどんな時代だったのかを切り取る連載企画「50年の歩み~meets the 50th Anniversary~」。第1回目に続き、今回も『人生ゲーム』の歴史を見て行こう。
これまで発売されたシリーズは全60作品、累計出荷数は1,400万個を突破しているという『人生ゲーム』。一度は遊んだ経験があるという人も多いであろう“盤ゲーム”の国民的商品だ。しかし、シリーズ全60作品を記憶している人がどれほどいるだろか? 『人生ゲーム』がたどった50年。意外と知られていないその変遷をメーカーに伺った。
取材に応じてくれたのはタカラトミー ゲーム事業部 トイゲーム企画課の池田 源さん。今回は歴代ラインナップをずらりと並べながら、こんなのあったの!? と驚くような変わりダネ商品などを詳しく振り返っていきたい。
これまで60作品を発売してきた『人生ゲーム』だが、商品の性質は大きく2種類に分けることができる。初代モデルから基本コンセプトを踏襲し続けているスタンダード版と、それ以外のサブライン(テーマライン)版という2つのパターンだ。
このうちスタンダード版がおおよそ7~8年周期でリニューアルされながら、その間に派生モデルであるサブラインの商品が発売されるというのが大まかな流れとなっている。
まずは『人生ゲーム』の王道であるスタンダード版を一挙にご紹介。アメリカで発売された『THE GAME OF LIFE』を原典とする初代モデルから、日本独自の進化を始めた80年代以降、そして現在発売中の最新モデルまでを順に見てみよう。
『人生ゲーム』(初代) 1968年発売
初代モデルにして最大のヒット作。「人生山あり谷あり~」というフレーズが印象的なテレビCMが話題を呼び、累計約300万個を売り上げた。
アメリカを発祥とする“タカラ・アメリカンゲーム”シリーズのひとつとして誕生し、盤に記載されるマス目のコピーはオリジナルの英語版(『THE GAME OF LIFE』)を直訳したものだった。
「『人生ゲーム』には“羊”にまつわるネタがよく出てくるんですが、実は初代モデルで “山羊”(ヤギ・goat)を“羊(ヒツジ・sheep)”に誤訳してしまったのが現在に至るまで残っているんです」(池田)
『人生ゲーム』(2代目) 1980年発売
本家アメリカ版のリニューアルに合わせて初のモデルチェンジ。盤面には細かいイラストが描かれ、よりカラフルに進化した。
初代モデルから12年もの歳月を経て発売されるも、実は『人生ゲーム』スタンダード版の中ではもっとも短命だった商品でもある。
「3年しか売られていないので流通量が少なくて。実は社内にある商品もかなり貴重なものになってしまったんです」(池田)
『人生ゲーム』(3代目) 1983年発売
日本独自の進化が始まった3代目モデル。マス目の内容が日本人になじみ深い内容になったのが大きな変化で、「お世話になった人達にお歳暮を送る」、「正月休みに4泊5日のスキーツアーに行く」などのコピーが登場した。
「職業カードが初めて登場したのも3代目モデルです。シンプルなカードですが、プレイヤーが職業を手元で確認できるようになりました」(池田)
『人生ゲーム』(4代目) 1990年発売
これまで写実的だった盤面のイラストが、あっさりとした抽象的なものに変化。また、従来は単なる飾りだった盤上の建物を選んで買えるようになり、当時の流行語となった“リハウス”も可能となっている。その他にも日本の世相や流行を採り入れることで、よりオリジナル要素が強くなった。
『人生ゲームEX(エクストラ)』 1997年発売
盤上に重ねられる追加ステージを用意し、2種類の盤面が楽しめる豪華版として登場。盤上の建物に彩色が施されるなど、見た目もよりカラフルになっている。それらの性質から“EX”と付けられたが、シリーズでの位置づけはスタンダード版の5代目。
「パッケージが大きくなり、現在のものに近い“かぶせ箱”タイプになりました。また、このモデル以降は盤をしまうときに外向きに折る形に変わり、盤面にある建物などが付け外しできるようになっています」(池田)
『人生ゲーム初代復刻版』 1998年発売
初代『人生ゲーム』発売から30周年を記念して発売された限定モデル。盤面は1968年発売のオリジナルを可能な限り再現したほか、パッケージも当時のものにかなり近い見た目になっている。
『人生ゲーム』(6代目) 2008年発売
前作にあたる『人生ゲームEX』から11年を経て、再び『人生ゲーム』という名前で生まれ変わった6代目スタンダード版。2つのステージを組み合わせることで30分・60分・90分とプレイ時間を変えて遊べるようになった。
『人生ゲーム』(7代目) 2016年発売
現在も発売中の最新スタンダード版。通常の盤面以外に4つの追加エリアを組み合わせ、16通りの盤面で遊べるようになった。
またユーザーの声を反映し、お金や建物のパーツなどの片付けがしやすいトレーを新たに付属。人物ピンの頭部を車に抜き差ししやすい形状に変更するなど、使い勝手の面でのリニューアルが図られている。
『人生ゲーム』のスタンダード版は、ルーレットやお金、ゲームシステムの基本といった部分をあえて変えずマイナーチェンジで進化を続けてきた商品だ。
一方、50年間で60もの商品が登場したということは、それだけ派生モデル(サブライン)の数も拡大しているということだ。ここでは、“一番○○な『人生ゲーム』”というテーマで『人生ゲーム』の個性的なサブライン商品をいくつか見ていきたい。
一番新しい『人生ゲーム』!
『人生ゲーム MOVE!』 2017年発売
記念すべきシリーズ通算60作目として昨年発売されたモデル。人生を変えてしまう運命の歯車(ギア)ギミックを初めて搭載した。
この歯車を回すことでプレイヤーの進むルート、マス目、もらえるお金や転職、結婚など、リアルタイムでゲーム全体に影響があり、最後まで勝者がわからないようになっている。
一番デカい『人生ゲーム』!
『大人生ゲーム』 1996年発売
ビーチマットと同じ素材で作られ、盤面がなんと畳1畳分(!)という規格外の大きさを誇る『人生ゲーム』。ただしマス目や車などもすべてビッグサイズなので、プレイ内容じたいは通常の『人生ゲーム』に近いものとなっている。
「これはある意味『人生ゲーム』であって『人生ゲーム』でないような(笑)、かなり特殊な商品なんですが、サイズで言えば間違いなく一番大きいです」(池田)
一番ハイテクな『人生ゲーム』!
『人生ゲームICルーレット』 2008年発売
IC搭載のキャッシュカードと、カード読み取り機能のついたデジタルのルーレットによってお金の自動計算が可能に。ゲーム中に面倒なお金のやりとりを管理してくれるという画期的なモデルだった。
「実はこれ、当時アメリカで発売していた商品のシステムを日本に持ち込んだものだったんです」(池田)
今から50年前、アメリカ生まれの『人生ゲーム』が翻訳されて日本にやってきた。そこからは徐々に日本版独自の進化を遂げていくことになるわけだが、本国のオリジナルである『THE GAME OF LIFE』も脈々と歴史をつむいでいる。
先述の『人生ゲームICルーレット』で話題は再びそこにリンクすることとなったが、アメリカにおける『人生ゲーム』事情もなかなか興味深いところだ。
「アメリカの『THE GAME OF LIFE』は、実は日本ほどメジャーな存在ではないんです。向こうでは『モノポリー』がメジャーで、『モノポリー』と『人生ゲーム』の位置づけが日本とは逆転しているような感じです。アメリカでウケるボードゲームは“勝ち負けをしっかりつけるもの”という風潮があります。
だからより戦略的なゲームが人気で、『人生ゲーム』のように運が勝敗を決めるようなゲームはあまり好まれないんですよ。子ども向けのような位置づけになるんですね。
一方、日本は昔ながらの双六文化が根付いていて、勝ち負けよりもゲームの途中のコミュニケーションを楽しんでいる人が多いんです。
『人生ゲーム』は一番最初にゴールできた人ではなく、最終的にお金を一番たくさん持っていた人が1位という仕組みですよね。でも、遊んだあとって誰が1位になったかということは案外気にしていなかったりする(笑)。それよりは、途中で誰かがすごく借金しただとか、子供がむちゃくちゃ産まれたとかっていうのを皆さん覚えていたりしますね」(池田)
そこに、日本人ならではのゲームの遊び方の特徴が表れているというのだ。
「みんなが集まってワイワイ楽しんで、最終的に勝ち負けの結果がついてくる……という考え方ですよね。勝ち負けをまったく無視しているわけではないんですが、ゲームの経過そのものが大きな楽しみになっている」(池田)
遊びの経過をより楽しくする工夫やギミックにこだわった商品作りは、まさに『人生ゲーム』が日本での長寿シリーズとして定着することにつながったポイントだろう。
スタンダード版の『人生ゲーム』では、盤面のマス目のコピーを時代に則した内容にアップデート。また派生シリーズでは、スタンダード版ではみられないような凝ったギミックが長年にわたりユーザーを楽しませてきた。
次回は、『人生ゲーム』から派生したサブライン(テーマライン)版をさらにたっぷりと取り上げながら、奥深い『人生ゲーム』ワールドを掘り下げていくことにしよう。
取材/文:柳 雄大
撮影:松浦文生
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