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連載Cocotame Series

Tech Stories~技術でエンタメを支える人々~

良い音を再定義! 6人のスタジオマンが『MDR-M1ST』の音質を本音で語った【前編】

2019.10.01

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レコーディングスタジオをはじめ、音作りのプロたちが自らの仕事を磨き、音楽を仕上げるために使用するモニターヘッドホン。そんなプロ御用達のヘッドホンに、新たなモデルが加わった。それがソニーとソニー・ミュージックスタジオが共同で開発した『MDR-M1ST』だ。

ハイレゾ音源にも対応し、これからの音楽制作に必須の新世代ツール。その誕生の背景には約4年半もの歳月をかけて音を作り込んでいったエンジニアたちの姿があった――。

「Tech Stories」の連載4回目は、『MDR-M1ST』の音質や仕様を監修し、実際に開発に携わったソニー・ミュージックスタジオの6人のスタジオマンに話を聞く。それぞれ音に対して強いこだわりを持つスタジオマンたちは、自らの仕事道具となった『MDR-M1ST』を実際に使用して、どのような感想を持ったのだろうか? それぞれの本音を語ってもらった。

  • 原 剛

    Hara Takeshi

    ソニー・ミュージックソリューションズ
    ソニー・ミュージックスタジオ レコーディングエンジニア

    1988年入社。ソニーミュージック信濃町スタジオからレコーディングエンジニアとしてのキャリアをスタート。エンジニアとして20年以上のキャリアを持ち、幅広いジャンルに対応。なかでもボーカルのレコーディングに定評があり、加藤ミリヤ、JUJU、YUKI、松田聖子、May J.などの作品で高い評価を得ている。

  • 野口素弘

    Noguchi Motohiro

    ソニー・ミュージックソリューションズ
    ソニー・ミュージックスタジオ レコーディングエンジニア

    2002年入社。学生時代に自身が結成したバンドの活動を通じてPAに興味を持ったことがきっかけとなり、レコーディングエンジニアの道へ進む。浜田省吾、大貫妙子、TOTALFAT、FLOW、ねごと、チャットモンチーなど、多彩なジャンルの作品に携わる。

  • 松尾順二

    Matsuo Junji

    ソニー・ミュージックソリューションズ
    ソニー・ミュージックスタジオ レコーディングエンジニア

    1986年入社。ソニーミュージック信濃町スタジオ時代からキャリアをスタートさせ、30年以上、音楽が生まれる現場に立ち会ってきたベテランエンジニア。ポップスやロックを得意とし、浜田省吾、玉置浩二など数多くのアーティストのレコーディング、ミックスを手がける一方、インストゥルメンタル・ミュージックのレコーディングでも定評がある。

  • アコースティック楽器の音色が美しく響く

    『MDR-M1ST』は音の存在感をしっかりと感じられるモニターヘッドホンになったと感じています。一つひとつの音が、実在感のある塊のように感じられて、遠近感もしっかりと認識できるので、音楽表現の深い部分まで音像がしっかり見えてくる。特にアコースティック系の楽器の音色が美しく、響きもうまく再現できているので、それぞれの楽器の特徴もしっかり聞き分けられます。

    最近のヘッドホンはワイヤレスをベースに、ノイズキャンセリングをはじめとしたデジタルテクノロジーで良い音を楽しませてくれますが、『MDR-M1ST』は設計からパーツ選定まで、アナログ的な志向性を持って作られているので、アコースティックな音楽との相性はバツグンです。ぜひその音色を楽しんでもらえたら思います。

    プロのレコーディングエンジニアにとって“良い音”の基準とは?

    レコーディングエンジニアとして音の良し悪しを判断する際、私は客観性を重視しています。客観性とは、ふたつの音を聴き比べて多数決を取ったときに、好きが多くなるほうの音だと私は考えていて、レコーディングではそれを狙って録ります。ただ、これは私の考え方であって、良い音の判断基準はエンジニアによって異なるもの。今回の『MDR-M1ST』の開発でも、6人もスタジオマンが参加して意見を述べ合うと、方向性がまとまらないのではないかと最初は心配していたんです。

    しかし、いざ始まってみると、表現や細かいニュアンスは異なるものの、改善したいと感じるポイントはみんな同じで、そこを修正してもらううちに、我々が新しいモニターヘッドホンに望んだ音が具現化されていきました。

    近年、音楽表現のレンジが広がってきて、ジャンルによっては今まで使われなかった低音域まで踏み込んでくるような作品も多くなっています。そして高音域が格段に伸びやかで鮮明なハイレゾも普及してきています。音楽が変化していくなかで、その源流となるレコーディング現場においても、その超低音が歪んだり、他の音がつぶれてしまわない、『MDR-M1ST』のようなモニターヘッドホンの登場は必然だったのではないかと改めて実感しています。

    フラットな音が“良い音”という認識を見直す

    プロが使うモニターヘッドホンのフラットな音が“良い音”の価値基準であるように語られることがありますが、その意見に自分は違和感を覚えていました。なぜなら音楽の好み、音の好き嫌いには絶対的に個人差があって、わくわくしたり、心地良かったり、その人の感情が揺さぶられる音こそが“良い音”だと考えているからです。

    その上で、レコーディングスタジオで使われるモニターヘッドホンは、どんな音楽のジャンルでもバランス良く聞こえないと仕事道具として使えない。僕は新世代モニターヘッドホンの開発で、自分が音楽を聞いて楽しいと感じられる主観と、すべての帯域で音のエネルギー感がバランス良く出てくるという客観、両方を満たせるものが理想だと思っていました。

    それと装着感もすごく重要で、着けた瞬間の肌ざわりやフィット感で良いヘッドホンだとわかるものを求めました。やはり、着け心地が快適で、自分の歌や演奏が良い感じに聴こえるほうが、アーティストも気持ち良くレコーディングできますし、その状態のほうが絶対に“良い音”が録れると思うので。

    完成した『MDR-M1ST』は、高音域とともに低音域の音響特性も伸びていて、音のレベルを上げてもひずまなくなっていることに注目してください。ハイレゾの登場以降、それまで表現できなかった低音域が使えるようになり、アーティスト側も意識してその帯域を使い始めています。そんな低音をかなり強調したスーパーローな楽曲が洋楽に多くなってきているなか、それだけ特徴ある音もナチュラルに楽しく聴くことができるのが『MDR-M1ST』です。加えて、音の奥行きや立体感、楽器の位置関係もリアルに感じることができるので、その臨場感が楽しくなり自然と音量を上げたくなってしまうと思います。

    リスニング用としても楽しめる音

    スーパーローに代表されるように、今の音楽の作り方や流行にしっかりと対応できるモニターヘッドホンを待ち望んでいましたが、まさにこの『MDR-M1ST』が応えてくれたと思います。僕の主観としても音が流れた瞬間からわくわくするような、聴いていて楽しいと感じられるヘッドホンにもなっていますので、リスニング用としても、ぜひ多くの方に使ってみてもらいたいですね。

    レコーディングエンジニアとして17年のキャリアを積んできましたが、『MDR-M1ST』の開発に携わった6人のスタジオマンのなかでは一番の年下で、大先輩の輪に加えてもらうことになり恐縮しました。

    しかし、我々の大事な道具となる新世代モニターヘッドホンの開発に参加できるのは単純にうれしかったですし、このプロジェクトを通じて学んだことも多かったです。また、音響設計の潮見さん(ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ株式会社)とは、歳が近かったこともあって、同世代として刺激を受けながら、時に励ましあいながらプロジェクトをやり遂げられたのも感慨深かったです。

    課題を克服して辿り着いたリッチな音楽体験

    『MDR-M1ST』の開発に着手する際、決めていたことがふたつあります。ひとつは開発に携わった全員が納得するものができなかったら商品化はしない。もうひとつが『MDR-CD900ST』をベースとせず、現在の技術、素材を使った全く新しいモニターヘッドホンを生み出すことです。

    『MDR-CD900ST』の音を開発のベースにしなかったのは、当然ながら、このヘッドホンに対してリスペクトがあるから。スタジオで使うヘッドホンと言えばこれ、と誰もが答えるような超定番モデルで、我々も30年以上使っています。そしてその年数分だけ耳になじんでしまっているので、中途半端に『MDR-CD900ST』に寄せたり、延長線上の音にしようとすると、『MDR-CD900ST』のままでよかったと言われかねません。

    『MDR-CD900ST』とは異なる志向性で、時代が求める音をプロの耳に正確に届けることができる新世代モニターヘッドホン。我々がチャレンジしたのは、そういうプロジェクトでした。

    その上で『MDR-M1ST』の音は、開発当初から私が求めていた、音の歪みが少なく、立ち上がりが速くて、レスポンス性能も高いという条件を見事にクリアできていると思います。そして実際に使っていて重宝するのが、ミックスなど繊細な音を聴き分ける作業でも、音量を上げずに済むということ。適度な音量でもバランス良く聴こえますし、一つひとつの楽器の音もしっかりと把握できる。

    また、スタジオで長い時間作業していると、どうしても耳に負担がかかるものですが、『MDR-M1ST』は聴き疲れしにくいヘッドホンになっています。それはミュージシャンの方々も同じようで、実際に『MDR-M1ST』を使ってもらったギタリストの方に話を聞いたところ、音量を上げなくてもギターの歪み感がよくわかると言っていました。

    それと『MDR-M1ST』は、リスニング用としてハイレゾを聴くのにも適していますね。スペックを見てもわかるように『MDR-M1ST』の再生周波数帯域は5Hz~80kHzで、人の可聴領域を超える高音域まで鳴らすことができます。高音域が伸びていて、大人しい音の鳴りになるのがハイレゾだと思われがちですが、ハイレゾのポテンシャルを十分に受け止められる『MDR-M1ST』で聴くと、楽曲の躍動感や臨場感が伝わってきます。今回開発に参加してくれたスタジオマンたちと音楽を聴き比べているときに「音に高級感があるよね」という話をよくしていたのですが、『MDR-M1ST』はそんなリッチな音楽体験をもたらしてくれるヘッドホンになったと思います。

    プロと同じ環境で音楽にどっぷりと浸る

    モニターヘッドホンは、耳の近くで音が鳴り、歌声や一つひとつの楽器の音が明瞭に聴こえるのが特徴ですが、『MDR-M1ST』はそれが十二分に引き出されています。特に楽器の音色や声の艶などを楽しみたい方は、ぜひ『MDR-M1ST』で聴いてみてほしいです。プロユースとされていますが、『MDR-M1ST』を用いて作られた音楽を『MDR-M1ST』で聴くという、プロと同環境という新しい音楽の楽しみ方もできるんじゃないかと思っています。

    後編につづく

    文・取材:油納将志
    撮影:篠田麦也

    ソニーとソニー・ミュージックスタジオが共同で開発した新たなモニターヘッドホン『MDR-M1ST』

    ハイレゾ音源にも対応する、新たなモニターヘッドホン。音作りのプロたちの技術の粋を結集して開発され、新世代の音作りに欠かせないツールとなる。

    価格:オープン(2019年8月23日発売)

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