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連載Cocotame Series

Tech Stories~技術でエンタメを支える人々~

コスパ最高! 6人のスタジオマンが『MDR-M1ST』の音質を本音で語った【後編】

2019.10.02

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レコーディングスタジオをはじめ、音作りのプロたちが自らの仕事を磨き、音楽を仕上げるために使用するモニターヘッドホン。そんなプロ御用達のヘッドホンに、新たなモデルが加わる。それがソニーとソニー・ミュージックスタジオが共同で開発した『MDR-M1ST』だ。

ハイレゾ音源にも対応し、これからの音楽制作に必須の新世代ツール。その誕生の裏側には約4年半もの歳月をかけて音を作り込んでいったエンジニアたちの姿があった――。

「Tech Stories」の連載5回目は、『MDR-M1ST』の音質を決定づけたソニー・ミュージックスタジオの開発メンバーが実際に使用した印象を語る後編をお届け。後編では、メンテナンスエンジニアにも登場してもらい、プロの現場で求められる品質についても話を聞いた。

なお、前編で語っている開発メンバーの声と、後編で語っているメンバーの声をぜひ読み比べてもらいたい。いくつかの共通点に気付くはずだ。

  • 鈴木浩二

    Suzuki Koji

    ソニー・ミュージックソリューションズ
    ソニー・ミュージックスタジオ
    レコーディング&マスタリングエンジニア

    1985年入社。ソニーミュージック信濃町スタジオからソニー・ミュージックスタジオへ。ホール録音やミュージカル、ジャズ等のレコーディングからマスタリングまでマルチに行なう。レコーディングエンジニアとしては数々の名盤のレコーディングを手がけ、最近は特にジャズ、クラシックなどアコースティックを中心とした作品で高い評価を得ている。

  • 内藤哲也

    Naito Tetsuya

    ソニー・ミュージックソリューションズ
    ソニー・ミュージックスタジオ
    レコーディング&マスタリングエンジニア

    1985年入社。ソニーミュージック信濃町スタジオからソニー・ミュージックスタジオへ。現在はクラシックのホール録音や落語の収録などのレコーディングからマスタリングまでマルチに行なう。20年以上のキャリアで培った、アナログレコーディングからデジタルマスタリングまでの豊富な知識と技術で、多くのアーティストや音楽ディレクターの信頼を得ている。

  • 堺 清

    Sakai Kiyoshi

    ソニー・ミュージックソリューションズ
    ソニー・ミュージックスタジオ
    テクニカルエンジニア

    1989年入社。ソニーミュージック信濃町スタジオを経て、現在のソニー・ミュージックスタジオに。スタジオにおけるレコーディング機材全般のサポートとメンテナンスを担当している。

  • アーティストが意図した思いを直接感じ取ることができる

    完成版の『MDR-M1ST』を聴いて最初に感じたのは、音の情報量が圧倒的に多いということです。低域は豊かに、高域は繊細に聴きとれるので、一つひとつの音が際立ち、音楽が立体的に聴こえてきます。囁くようなヴォーカルのニュアンスもしっかりと伝わってきて、それぞれの楽器の音表現もきちんと把握できるので、音楽のエネルギー感が増しているように感じました。

    この音響特性があれば、歌や演奏を録るときのプレイヤーの表現力拡大にもつながり、アーティストがその楽曲に込めた想いや意図が、よりダイレクトに伝えられるようになるのではないかと思います。

    スタジオに『MDR-M1ST』が導入された頃、ちょうど作業が立て込んでいて、異なるジャンルの音楽で、リズム録りやダビング、ボーカルレコーディングを行なっていたのですが、『MDR-M1ST』を使うことでかなり作業がはかどりました。マスタリングで音決めをする際は、ひとつの楽器を集中的にチェックすることがありますが、そういった作業でも音が鮮明なので非常にやりやすかったです。

    それと冷静に音をチェックしたいとき、音量を下げてもバランスの良い状態が保てているのに対し、音量を上げて聞きたいときは、トゲのない音で耳が痛くならず、圧迫感も感じないので、気付くとどんどんボリュームをあげてしまっていて、これはいかんなと(笑)。

    また、高域に入りやすいノイズもしっかり聞こえきて、物理的に発生するヘッドホンのメカニックノイズも低減されているので、マスタリング作業のノイズチェックにも重宝しました。着け心地も柔らかく疲れにくくなっているから、4時間ぶっ通しの作業も苦に感じなかったのは『MDR-M1ST』を使って驚かされた点ですね。音響的にも、機能的にも申し分のないモニターヘッドホンに仕上がったと感じています。

    音楽を楽しく感じる要素を備えている

    僕らは、どうしたらアーティストの表現が最高の状態で皆さんの耳に届くか、そのことを常に意識して作業を行なっています。そしてアーティストがいかにして一つひとつの音を積み上げ、楽曲に仕上げていったかを過不足なく伝えることがスタジオエンジニアの仕事だと考えています。

    歌い手の声の揺らぎや張りのある発声、強く叩いたドラム、ギターの弦の響きなどが、よりリアルに伝わることが大事であり、音楽を楽しいと感じる要素がそこに詰まっていると思います。『MDR-M1ST』を介して、リスナーが普段の音楽生活においても、スタジオに近い環境でアーティストの表現に触れられるようになったのは素晴らしいことなのではないかと感じます。

    普段聴き慣れているCDも新鮮に聴こえる

    まずは非常にコスパが良い、ということを感じましたね。『MDR-CD900ST』も30年以上、値段が変わっていないという驚異のヘッドホンですが、『MDR-M1ST』はこの表現力を実現しながら3万円台というのはかなりお買い得なのではないでしょうか。高音域から低音域まで、現在の音楽制作のトレンドに合わせた帯域に対応しつつ、音の粒子が見えるような微細な再現力も兼ね備えています。

    今回の開発に際してさまざまなハイレゾ対応のヘッドホンを試聴しましたが、それらの長所を取り込みながら、短所は解消していったと言えるような、非常にバランスの良いヘッドホンに仕上がったと思います。

    もし環境が整っているなら、ぜひ『MDR-M1ST』を使ってハイレゾとCDの聴き比べをしてもらいたいですね。ハイレゾならではの情報量豊かな音の鳴りをじっくりと味わえますし、ハイレゾ音源の良さをどこに見出せばいいかわからないという方も、『MDR-M1ST』なら感覚的にわかりやすくなると思います。ハイレゾはCDではカットされている高音域成分が含まれているからというだけではなくて、微細な表現力も感じられるという点もハイレゾならではなので。

    また、普段聴き慣れているCDも音の解像感が高くなり、こんな音が入っていたのかというような気付きも得られて、音楽を聴く楽しみが増えるのではないかと思います。

    スタジオエンジニアにとして新しい武器を手に入れた

    先日、『MDR-M1ST』をコンサートホールのライブレコーディングに使ってみたのですが、絶えずざわついていて、スピーカーの音に頼れない環境下において、その真価を発揮してくれました。

    ホールでのレコーディングの良し悪しというのは、音の奥行きがどれだけ感じ取れるかにかかってきます。その意味で、音の奥行きや距離感を忠実に再現できる『MDR-M1ST』に助けられたと思います。また、イヤーパッドのサイズ感や圧迫感も絶妙で、密閉性も向上しているので外来からのノイズにも邪魔されずにレコーディングに没頭できました。

    開発当初は、『MDR-CD900ST』のような超定番品と比べられるものを作るのは大変だろうなと感じていました。それこそ下手なものを出したら『MDR-CD900ST』の名も汚してしまうので。

    ただ、潮見さん、徳重さん(ともにソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ株式会社)をはじめとしたソニーの皆さんが、我々の無理難題に丁寧に対応してくれたことで素晴らしいモニターヘッドホンが完成しました。エンジニアとしては、まさに新しい武器をひとつ手に入れたという思いですね。

    30年の間に気付いた改善点を解消

    私は日頃、ソニー・ミュージックスタジオでレコーディング機材全般のサポートとメンテナンスを担当しています。そのため『MDR-M1ST』の開発においては、松尾(順二)とともに初期から参加して、音だけでなくモニターヘッドホンとしての使い勝手や仕様についても、いろいろと意見をさせてもらいました。

    その上で、メンテナンスエンジニアとして新世代のモニターヘッドホンに求めたかったのは、やはり耐久性です。『MDR-CD900ST』がソニー・ミュージックスタジオで使用されて30年以上経ったわけですが、その間に修理・点検を重ねていって、どの箇所が長く使っていると傷みが出やすいのかがわかっています。その改善点を『MDR-M1ST』に可能な限り反映しました。

    例えばネジ。ヘッドホンをしていると、どうしても汗をかきます。それこそアーティストや演奏者は、レコーディングで緊張もしますので、大量に汗をかくことがあります。当然、使用後にメンテナンスは行なうものの、その汗の塩分によってどうしても錆びてしまうことがあるんですね。そうなると当然ネジを用意して我々が修繕しますが、この手間をなくすために『MDR-M1ST』では錆びにくいネジを採用してもらいました。

    また、マスタリングのノイズチェックなどの際にメカノイズが作業の邪魔になるので、スイーベルもカチャカチャと音がしないような部材にしてもらったり、ケーブルの強度、プラグの形状や重さも改善してもらっています。

    さらに、モニターヘッドホンはレコーディングスタジオだけでなく、放送局を始めとする音にまつわるさまざまなシチュエーションで使用されていますので、その現場の方たちにもご意見をいただいてフィードバックさせてもらいました。

    ただ、色々と改善してもらいましたが、全体のパーツ数はかなり減っています。これはメカニックエンジニアの徳重さん(ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ株式会社)の努力の賜物ですが、これによって修理も本当に簡単になりました。修理の保証外になってしまうので、絶対に推奨はできませんが、構造が分かっている方ならご自分でも直せるぐらいの簡単さです。

    一方で『MDR-CD900ST』と同様にソニー・太陽による確かな手作業と厳しい品質管理で生産してもらっているのと、部材の進化で個々のパーツの信頼性も高まっていますので、修理するケース自体も減ってくるのではないかと考えています。

    私自身、『MDR-M1ST』で音楽を聴いてみて、自然とわくわくするような気持ちが湧き上がってきました。音量を変えても音楽のダイナミズムが変わらないというか、車で言うとどの速度でも安定して走ることができるというか。その非常に懐の深いところが『MDR-M1ST』の真髄だと感じています。

    『MDR-M1ST』が完成して、キャッチコピーを決める際にいくつか案が出たんですが、そのなかで決定したのが「感動はここから生まれる」です。スタジオという楽曲が生み出される場所で使われるモニターヘッドホンとして、感動を生み出す側のプロにも、感動を受け取る側の一般ユーザーの方にも届くメッセージとして選ばれましたが、最終的にこれを選んで良かったなと改めて思いました。それほどに、我々もプロとして自信を持ってお勧めできるモニターヘッドホンが完成しましたので、興味のある方はぜひ手に取っていただければと思います。

    MDR-M1STの評価まとめ

    前後編でお届けしたスタジオエンジニアたちの『MDR-M1ST』レビューはいかがだっただろうか。各エンジニアのコメントを精査してもらうとわかるが、それぞれ着眼点や表現は少しずつ異なるものの、本質的に語っていることを箇条書きでまとめると下記となる。

    <MDR-M1STの評価>
    ■ハイレゾ音源に対応する豊かな表現力
    ■音量の大小にかかわらずバランス良く鳴らし切る音響特性
    ■奥行感を含め、音に立体感が生まれることで実現される楽曲の臨場感
    ■高い密閉性を実現しながら長時間の作業も苦にしない快適な装着感
    ■微細なノイズも判別できるクリアな音質とメカノイズを低減する独自構造

    『MDR-M1ST』が気になるようであれば、ぜひ上記のポイントに注目しながら試聴してもらえたら、その性能が理解いただけるだろう。

    次回は、『MDR-M1ST』を一つひとつ手作業で組み立てる製造工場、ソニー・太陽のスタッフに生産面の話を中心に聞く。『MDR-CD900ST』と同じく、長年にわたって手作業で生産してきたソニー・太陽が、30年ぶりとなる新たなモニターヘッドホンに対してどのように向かい合っているのだろうか。

    文・取材:油納将志
    撮影:篠田麦也

    ソニーとソニー・ミュージックスタジオが共同で開発した新たなモニターヘッドホン『MDR-M1ST』

    ハイレゾ音源にも対応する、新たなモニターヘッドホン。音作りのプロたちの技術の粋を結集して開発され、新世代の音作りに欠かせないツールとなる。

    価格:オープン(2019年8月23日発売)

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