ムーミン谷の音を現実に拡張させる技術『Sound AR™』――音で伝えるムーミンの物語の世界観【前編】
2020.02.18
2019.12.28
去る12月7日、秋元康氏がプロデュースするデジタル声優アイドル、22/7(ナナブンノニジュウニ)が、2020年1月から始まるTVアニメ『22/7』の放送開始記念としてミニライブを開催した。
同ライブは、会場のGinza Sony Parkに集まったオーディエンスだけでなく、VR生配信によりPlayStation®VR(以下、PS VR)で見るユーザーも同時に楽しめるというもの。しかも、会場のステージ前3箇所に設置されたVRカメラシステムの映像をユーザー側で任意で選択し、切り替えられる上、切り替え時に音声が途切れないという世界初の「4Kトライアングルストリーミング方式」を採用している。ライブ会場に自分がいるかのような臨場感を損なうことなく、視点を自在に変えながらライブを楽しめるのが特徴だ。
このテクノロジーの結実は、ソニーグループが一体となって価値あるVR体験を創出することを目指すプロジェクト「Project Lindbergh(プロジェクト リンドバーグ)」によるもの。本連載では、今回のVRライブにおけるテクノロジーをクローズアップ。その革新性、VRライブの未来について、プロジェクトメンバーに語ってもらった。
後編では、ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)の担当者に、アーティストサイドから見たVRテクノロジーの進化と未来について語ってもらう。
三浦 紹
Miura Sho
ソニー・ミュージックエンタテインメント
VRライブの配信には、アーティストサイドの協力も欠かせない。22/7は、これまでにもPS VR専用アプリ『メゾン22/7』をリリースしたり、キャラクターによるバーチャルハイタッチ会を開催したりするなど、VRと深い関わりを持ってきた。22/7とVRの親和性、エンタテインメント×テクノロジーの可能性について、SME(以下、SME)の三浦紹に聞く。
──今回、22/7が「4Kトライアングルストリーミング方式」のVR配信ライブに起用されたのはなぜでしょう。
三浦:VRライブは、音楽を生で聴くそのものの価値はもちろん、アーティストに"会える"ことにも大きな価値を置いています。アイドルであれば、メンバーと目線が合ったり、その場を共有する体験をファンの皆さんにも喜んでいただけるはず。しかも、22/7は11人グループなので、複数視点を切り替える今回のVRライブにも適しているのではないかと思いました。
──22/7は、これまでにもVRコンテンツを発表するなどテクノロジーとの親和性が高い印象があります。
三浦:そうですね。そもそも22/7は2Dキャラクターと3Dアイドルの融合ですし、新しいことにも次々チャレンジしてきました。おそらくファンの皆さんにも「22/7は新しいことをやってくれる」という期待感がありますし、それを理由にファンになったという方もいます。だからこそ、22/7では新しいチャレンジをどんどんやっていきたいと思っています。
──通常のライブと今回のVRライブで、演出面に大きな違いはありましたか?
三浦:通常のライブは、会場にいるお客様にパフォーマンスを届けることを最優先にしています。一方VRライブは、会場のファンと同じようにVRライブを見ている方へのホスピタリティが必要です。今回はVRだからと言って振り付けを変えることはしませんでしたが、カメラの先にいるファンの方にしっかり視線を送ったり、指を指したり、カメラの前にメンバーが集まったりというVRならではの演出を取り入れています。
──VRライブにおいて、大切にしていることは何ですか?
三浦:私がVR×アーティストのコンテンツで最も大事だと思うのは、「映像だと思うな。そこにいると思え!」という感覚です。VRライブを映像サービスだとアーティストが思ってしまうと、例えばメンバーのMCでも「カメラ」「スイッチング」「画質」といった言葉が無意識に出てしまいます。でも、それではVRのユーザーが現実に引き戻されてしまいます。「見てくれてありがとう」ではなく「会いに来てくれてありがとう」、「カメラを切り替えてね」ではなく「この場所で見てね」など、ユーザーとのコミュニケーションワードは非常に重要だと感じています。
──今回もそうでしたが、VRライブを体験中にメンバーと目が合うと、本当にドキッとしますよね。
三浦:ライブ会場でアーティストと目が合うのもうれしいですが、VRで目が合ううれしさには特別感があるような気がします。会場では「多くのファンのなかから、僕が、私が選ばれた!」という感覚ですが、VRはふたりきりでいるときに目を合わせてくれたような"自分だけ"感がある。同じドキッとする感覚でも、何か違うんですよね。この違いについては、今後もう少し言語化したいと思います。
──今回のVRライブの手ごたえについてお聞かせください。
三浦:会場およびイベントでご協力いただいたGinza Sony Park、ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ、ソニーPCL、ソニー・インタラクティブエンタテインメント、SMEなどなど、ソニーグループが協力して、大きなトラブルもなく終わり、ほっとしました。この安定感は、お互い率直な意見交換ができるグループならではの強みだと感じました。
──逆に、反省すべき点はありましたか?
三浦:ステージの奥行きが短いことに、当日になって気づいたことでしょうか(笑)。本来のステージは奥行き450cmだったのですが、映像を映し出すスクリーンを設置するので60cm削られ、さらにカメラと一定の距離をとらなければいけないので前方も削られ、最終的には300cmぐらいに……。だいぶ窮屈なステージで、パフォーマンスをしてもらうことになってしまいました。
──とは言え、技術スタッフがカメラの位置をステージ上から客席側に下げようとした際、三浦さんは「そのままでいい」と言っていましたよね。
三浦:カメラを下げることで、もし機材にトラブルが発生したら大変です。22/7のメンバーは経験値があるので、ステージがコンパクトになっても臨機応変に対応できます。実際、リハの段階から問題なく動けていました。
──今回の成功を受けて、VRライブが現実のライブ体験を超える日は来ると思いますか?
三浦:それはまだ難しいでしょうね。どんなにVRの体験価値が進化しても、一次体験である現実のライブの座を奪うところまで行くかどうか……。ただ、お客様を入れずにVRだけでライブを行なったり、バーチャルYouTuber輝夜月のようにVRライブを一次体験化できれば、また話は違ってくると思います。VR専用ライブということであれば、違った魅せ方もできるので。
──エンタテインメントとテクノロジーを掛け合わせることで、どのような価値が生まれると思いますか?
三浦:新しいテクノロジーは人をワクワクさせ、惹きつける力を持っています。だから新しいテクノロジーの周りには、おもしろい人たちが集まる。そのこと自体にエンタテインメントとしての価値があるのではないでしょうか。今回のVRライブ生配信にしても、普通のライブ配信を行なうときにはない熱量、アイデアが生まれました。それが大事なことだと思います。
──今後「Project Lindberg」として、チャレンジしたいことは?
三浦:やりたかったバーチャルハイタッチ会とチェキ会は、すでに実現できました。今後は、この技術をビジネスレイヤーにもっていけたらと思います。また、VRはヘッドセットを装着するのでツイートもできず、ユーザー同士のつながりが生まれにくくなります。インタラクションは大きな課題として、何かしらの方法を模索したいと思います。
ここからは、VRライブのレポートをお届けしよう。今回の22/7 VRストリーミングライブは、PlayStation®4とPS VRを使って楽しむもの。スタート時間になったらPS VR専用アプリ『メゾン22/7』からメニューを選ぶだけで、そこはいきなりステージ前のベストポジション。ライブ会場には、ステージのセンターと左右にカメラが設置され、PS VRユーザーは3つの視点を好きなように切り替えてライブを楽しむことができた。
ライブが始まって、まず驚いたのはメンバーとの距離感! 今回はステージの最前列、つまり客席よりも前方にカメラが設置されているため、一瞬「近すぎるっ!」とたじろいでしまうほど22/7のメンバーの存在感を近くに感じることができた。アップテンポなナンバーでは、メンバーのスカートがひるがえった瞬間、ファサッと風圧を感じるほどの迫力だ! しかもこの至近距離で、メンバーと目が合うのだからドキドキせずにいられない。自分は直視できずに、目をそらしてしまったほどだ。
コントローラーで視点を切り替えると、左右からもステージを眺めることができる。切り替え時は「移動中」と画面に表示され、ほんの数秒だけ待つことに。もちろんその間も音声が途切れることはなく、自分が本当はライブ会場にいない疎外感を覚えたり、臨場感が削がれたりすることもない。しかも、時折メンバーがこちらを覗き込んだり、それぞれのしぐさでコミュニケーションを図ってくれるので、そのたびにドキッとさせられる。曲中のフォーメーションがわかっていれば、推しのメンバーを追って視点をどんどん切り替え、その子だけを見続けるといった楽しみも味わえそうだ。
こちらにめがけて巨大クラッカーを打ったり、ステージ上のスクリーンにライブ映像を流してメンバーと一緒に鑑賞したりと、VRならではの演出も光っている。SMEの三浦氏によると、「PS VR専用アプリ『メゾン22/7』を制作したとき、『実写VRでアイドルコンテンツを作るときの正解は何だろう』と真剣に考え抜いたんです。そのなかでたどりついた答えが、今回のライブにも活きています」とのこと。VRユーザーを意識したMCも多く、ドキドキそわそわしているうちにあっと言う間に40分のライブが終了。自分だけのライブに招待されたような特別感、高揚感を味わうことができ、VRヘッドセットを外してもしばらく興奮が冷めやらなかった。
SMEの三浦が話していたように、確かに現在のところ、ライブは生が一番かもしれない。しかし今回のVRライブでは、現場のファンよりも距離が近く、メンバーと何度も目が合い、なおかつ3つの場所からステージを眺められるというVRならではのスペシャルな価値が感じられた。みんなで汗をかいて盛り上がるより、じっくりライブパフォーマンスに集中したい人、推しているメンバーをベストポジションから眺めたい人には、むしろVRにこそ価値を感じるかもしれない。視点切り替え時のタイムラグ、インタラクティブ性など乗り越えるべき壁はまだあるが、今回のイベントによってVRライブストリーミングの可能性が、またひとつ拓けたと言えるだろう。
SMEをはじめ、ソニー、SIEなど、グループ各社が協力し、ノンゲームのVRコンテンツの実証実験や開発を行なう「Project Lindbergh」に関しては、こちらもチェック。
■漫画家・倉橋トモとプロデューサーが語る『ダミヘになれるVR』の楽しみ方
■新感覚の実写VR+立体音響コンテンツ『ダミヘになれるVR』開発チーム座談会
※「PlayStation」は株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントの登録商標または商標です。
※PS VRを楽しむためにはPlayStation®4が必要です。
文・取材:野本由起
撮影:冨田 望(インタビュー)
©Sony Interactive Entertainment Inc.
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