『Be』:ソニーミュージックグループがYouTuberらと描く新しい関係とビジネスモデル【後編】
2020.07.17
ここから未来が生まれ、そして育つ――。新たなエンタテインメントビジネスに挑戦する人たちにスポットを当てる連載企画「エンタメビジネスのタネ」。
第3回は、2020年6月8日に正式始動した、ソーシャルクリエイターズレーベル『Be』を取り上げる。まずは、オーディションを経て決定した31組のYouTuberのマネジメントとクリエイティブのサポートを中心にスタート。YouTuber界のパワーバランスに再編の兆候が表われ始めた今を好機と捉え、ニュータイプのクリエイターとともに新たなビジネスに乗り出す。
前編では、『Be』起ち上げと始動までの経緯や、所属クリエイターの選定について話を聞いた。
三浦 紹
Miura Sho
ソニー・ミュージックエンタテインメント
コーポレートビジネスマーケティンググループマーケティングオフィス プロデューサー
インターネットの急激な発展を背景に、今やエンタテインメント業界の一端を担っていると言えるソーシャルメディア。誰もが動画クリエイターとなって表現活動ができるYouTube、SNSなどのプラットフォームには、音楽、映像、趣味など、一個人によるさまざまなコンテンツが集まり、それぞれが才能やオリジナリティを発揮している。なかでも、ソーシャルクリエイターの代表格であるYouTuberは、テレビやラジオなどの既存メディアにも進出する人気者となっている。
そんな創作・表現活動を行なうクリエイターやアーティストをサポートし、新たなビジネスを生み出すために起ち上げられたのが、ソーシャルクリエイターズレーベル『Be』だ。日進月歩のエンタテインメントビジネスにおいて多数の音楽アーティストやタレント、ヒットメーカーを世に送り出してきたソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)の育成力と、総合エンタテインメントグループのシナジーがつぎ込まれる『Be』は、2020年2月よりクリエイターの募集を行ない、6月8日に31組の参加クリエイターを発表して正式に始動した。
『Be』のコンセプトは、“クリエイターファースト”のエージェント業務とマネジメントのサポート。クリエイターのあふれる才能と情熱を形にして、彼らの新しい居場所を創ることを最大のミッションとし、“才能”と“場”のマッチングを目指している。
そんな『Be』の起ち上げの経緯から、既存のYouTuberエージェント事務所との違いや独自の方向性、そして所属クリエイターたちの魅力と今後のビジョンまで、プロジェクトリーダーである三浦 紹に聞く。
――6月より『Be』が本格スタートしましたが、そもそもSMEがソーシャルクリエイターズレーベルを始めることになったきっかけを教えてください。
ご存じのように、近年、ネット上のインフルエンサー、YouTuberと呼ばれる人たちの活躍の場は非常に広がっていまして、SMEにも数多くの協力オファーをいただくようになりました。僕自身、以前から双方向コミュニケーション仮想ライブ空間“SHOWROOM”に関わっていたこともあり、ネットメディアを取り巻く環境や、そこで活躍するクリエイター、タレントの動向、ビジネスのパワーバランスなどについて調査する機会があったんです。
その際に感じたことから、もしもSMEがソーシャルクリエイタービジネスを手がけるならば、どういう形が最適なんだろうかという題目が生まれ、実際にそこを掘り下げたビジネスを考えてみようというところからスタートしました。それが2年ほど前のことですね。
――その市場調査から得られた知見とは、具体的にどういったことでしょうか?
YouTuberを筆頭とするソーシャルクリエイターは、いわゆる一般的なタレントやアーティストとは違う形で自ら世に出てきた方々なので、率直に言うと、YouTuberとして理想的な活動をしていけるようになるための育成環境や、活動をサポートするマネジメント体制があまり整っていないと感じました。
であれば、アーティストを中心に人材育成を長年手がけてきたSMEなら、マネジメント寄りの視点からより良いクリエイターのサポートができるのではないだろうか、と。そうすれば、今以上にクリエイター一人ひとりの才能を伸ばしたり、飛躍させたりすることができるのではないだろうかと思いました。
もうひとつ感じたのが、これからのソーシャルクリエイターは、個人の時代からチームの時代になるだろう、ということです。YouTuberの多様化が進んでいるのと同じく、見る側の好みも多様化しています。そこで“愛されるエンタメとは?”を考えると、キーになるのは個々の特定のスキル以上に、“人と、その人に共感するコミュニティ”だというのが、肌感覚としてありました。
“愛されるYouTuber”も同じで、ジャンルの枠を超えたところにある“その人の持っている、本来の人を楽しませる力”が、人を引き付けるんだと思います。なので、それぞれのクリエイターが本来の魅力を発揮できるよう、クリエイティブ面でもバックアップしていきたいと考えました。
そういった、マネジメントとクリエイティブのサポートの両方ができるのが、SMEらしさでもあると思います。総合すると、そのクリエイターが何をしているのか?=「Do」を超え、その人がクリエイターとしてどうなりたいのか?=「Be」を考えることが、今後のクリエイティブを切り開く鍵になる。そこでレーベル名を『Be』としました。
――『Be』を“レーベル”と称していることにも、レコード会社からスタートしたSMEらしさを感じますね。
そうですね。ソニーミュージックグループには数々の音楽レーベルがありますが、キューンミュージックらしさ、エピックレコードらしさといったように、所属アーティストの個性と相まって、それぞれのレーベルに明確な“色”があります。
先ほど、これからのエンタメは個人の時代からチームの時代になるという話をしましたが、僕らスタッフとクリエイターが一緒に作る『Be』らしさをレーベルのカラーとすることで、強いチームを作りたい。そういう思いも込めて、あえて“レーベル”と定義しています。『Be』のオフィシャルサイトには、クリエイターだけでなく僕らスタッフ全員の名前と顔も載せていますが、それもチーム感を前面に出す狙いからです。
――約2年間の準備期間を経て、今年2月からクリエイター募集が始まり、6月初旬には31組の所属クリエイターが発表されました。多数の応募があったかと思います。
はい。募集期間は約1カ月ほどでしたが、おかげさまで想定よりも多い、約700組の応募がありました。
――そこからどのように絞り込まれていきましたか?
皆さんが活動されてきたYouTubeチャンネルの内容はもちろんですが、やはり決め手となったのはクリエイター本人ですね。ちょうど選考時期が新型コロナウイルスによる自粛期間と重なったので、リモートによる面談でコミュニケーションを図り、それぞれの人柄やクリエイティブに対する想いを丁寧にヒアリングしました。最終的には、マネジメント担当者が“ぜひこの人と一緒にやりたい!”と思った人とご一緒することになりました。
応募された皆さんからは、『Be』がSMEという音楽事業を手掛ける会社のレーベルであることへの期待感を強く感じました。実際、SMEだから音楽系を多くしようと思ったわけではないのですが、結果的には31組中3分の2が何かしらの形で音楽に関係するクリエイターになりましたね。
――顔ぶれを見ると、音楽系が大半とは言いつつ、バラエティ豊かなクリエイターが集まりました。そういったクリエイターの個性を、レーベル、チーム全体でどうやって育成し、どのように展開していこうと考えていますか?
まずは、良いクリエイティブのサポートですね。1組1組をブランディングして才能を伸ばせる場に「Be」がなりたい。その上でYouTubeの広告収入だけに頼らないビジネスを幅広くサポートできればと。そのためには、ソニーミュージックグループ内のさまざまな会社、部署、プロジェクトとの連携が重要になってきます。
ソニーミュージックグループがこれまで培ったグッズの制作や販売、ライブやオフラインイベント開催などのノウハウを『Be』にも生かすことはもちろんですが、ソニーミュージック所属アーティストとのコラボレーションなども今後は積極的に考えていきたい。
そういったことをクリエイター育成と同時に行なうのが可能であることが、他のYouTuberエージェントにはない『Be』最大の強みだと考えています。YouTuberの必需品であるカメラやデバイスについては、ソニーとのコラボレーションなども実現できたら嬉しいですね。
取材・文:阿部美香
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