TAKUYA∞(UVERworld)インタビュー:配信ライブで実現させた新たな表現
2020.07.22
ソニー・ミュージックレーベルズ
いま、私たちにできること――。
連載「Action」では、社会が急速に変わりゆくなか、ソニーミュージックグループをはじめ、エンタテインメント業界の新たな試みに注目。“必要至急”とは言えないかもしれないが、どんなときでも人々に寄り添い、心を潤すエンタテインメントの未来を追いかけていく。
連載第6回は、sumikaが創設した基金『Dress farm 2020』について、ボーカル/ギターの片岡健太に聞く。新型コロナウイルス感染症と日々戦う医療従事者と、活動が困難な状況にある音楽ライブ関係者を支援する目的で、公益財団法人パブリックソース財団が運営するオンライン寄付サイト、Give One内に創設されたこの基金。4曲の新曲と未公開ライブ映像を視聴後、ユーザーが自由に価値をつけるというものだ。それは身近な人への「ありがとう」や自分自身への「明日も頑張ろう」などの“気持ち”でも、あるいは“金額”という形でも、それぞれが自由に設定した“価値”を寄付できる。この取り組みについて、そして未来の音楽活動について今感じていることなど、率直な胸の内を語る。
目次
片岡健太
Kataoka Kenta
sumikaのボーカル&ギター。神奈川県川崎市出身。
※このインタビューは、6月28日にオンライン上で行なわれました。
――新型コロナウイルス感染症の最前線で従事する医療機関、ならびに新型コロナウイルスの影響で活動の継続が困難な状況にある音楽ライブ関係者の方々を支援するために立ち上げた基金『Dress farm 2020』ですが、5月28日の基金創設からちょうど1カ月が経った現在の心境から聞かせてください。
『Dress farm 2020』の特設ページにコメントを寄せていただいたり、金額という形で価値をつけてくださったりした方々の言葉や金額などの結果が、物量という意味でも、熱量という意味でも、とにかく率直にすごいなっていう驚きがありました。
また、特設サイトのコメント以外にも、僕がやっているSNSにたくさんのメッセージが届いたんですね。それが、sumikaを応援してくれているファンレターのようなものではなくて、この状況のなかで「自分は今、こういうことをやろうと思っている」とか、「こういうことをやってみたいと思った」とか、ある種の決意表明というか。このタイミングで、ファンレターとはまた違ったメッセージが届いたことも、純粋にうれしかったですね。
――その反響は予想していたものでしたか。それとも想像以上でしたでしょうか。
正直、『Dress farm 2020』を始めることを決めたときは、何をやるにしてもネガティブに捉えられることはあるだろうなと思ったんです。ただ、僕らは常に「価値観は人それぞれだ」と言っているので、「ネガティブな反応があったとしても当たり前だよね」ということをメンバーやスタッフ、チーム全員で共有してからスタートしたプロジェクトなんですね。
だから、ある程度は覚悟してたんですけど、ネガティブな部分はほぼ目にしなくて。「自分がどうしようか悩んじゃった」みたいな意見は、ある種、ネガティブにも聞こえるんですけど、ポジティブな悩みだと思うので、本当にポジティブな反応ばかりで驚きました。
――『Dress farm 2020』が、思いを受け取った人それぞれが自分なりのアクションを起こすきっかけにもなってるんですよね。それはどうしてだと考えてますか。
いわゆる既存のフォーマット化されてる発表方法ではないからだと思います。“価値の設定自由”にすることによって、必然的に0を1にするかどうかを考えなきゃいけない。例えば、ネットオークションの買い物で値段を付けたりした経験がある人は多いと思うんですけど、今回、僕たちが提案したことは、それよりももっと自由なんですよね。僕自身、ユーザーの目線でも体験したことが全然ないことですし。何とも比べる物差しがないからこそ、みんながいろいろと考えを巡らせてくれたのかなっていうのは感じますね。
Dress farm 2020
http://sumika.info/dressfarm2020/
sumika (写真左より)黒田隼之介(G/Cho)、小川貴之(Key/Cho)、片岡健太(Vo/G)、荒井智之(Dr/Cho)
――改めて、「価値観は人それぞれだ」というバンドの理念を体現したような“価値の設定自由”のプロジェクトを発足させた経緯を聞かせてください。
新型コロナウイルスの影響で困ってる人を早急に支援するっていうスピード感が大事だったので、いろんなやり方を考えたなかで、以前行なった価格自由設定のCDをリリースするプロジェクト『Dress farm』が案として浮上して。
僕らには音楽は無料ではないという理念もあるので、当時は1円からスタートしていたんですけど、今回は範囲を狭めたくないという気持ちもあったし、それぞれの人が置かれている状況やお金の価値観も違ったので、金銭が発生しないと聴けないっていう状況にはしたくなかった。
だから、コンテンツに関してはYouTubeでフリーで見たり聴いたりできるようにして、『Dress farm』の理念を理解してもらった上で、それぞれの経済状況に見合う形で支援をできるような仕組みがいいなと思ったんですね。
――新型コロナウイルスの影響が世界中に拡大するなかで、多くのアーティストがさまざまな手段で医療機関への寄付やライブハウスへの支援を行なっていました。sumikaはまず、新曲を制作しましたよね。
「トワイライト」
「晩春風化」
「VOICE」
「憧憬」
まずは、2月の末にライブの自粛要請が出て。僕らは3月からのライブを全部、延期や中止、公演見合わせにするという発表をしたんですけど、3月に入ってすぐに、メンバーで「何か発信したいね」っていう話をして。
僕たちは音楽家なので、音楽を発信していこう、新しい音楽を作ろうっていうのは早い段階で決まったんですけど、発表方法に関しては本当にずっと悩んでて。当時は、何をやっても、是か否かっていう意見が極端に分かれてたし、ネットのなかだけじゃなくて、リアルな世界でもいろんな意見があふれていて、すごく混乱していた。
そういった意味で言うと、みんなが価値観が違うっていうことが、露呈された瞬間だったんですよね。なんとなくみんな一緒だよねって思っていたものが、実は全然違っていたということが見えたタイミングだったので、より悩んだんですよ。
メンバーのなかでも、こういう状況だから明るい曲が聴きたいっていう人もいるし、逆にしっとりしたものが聴きたいんじゃないかっていう人もいた。自分の家族とか友人とか、長い時間接して来た人たちですら、この問題に対してどう立ち向かうかっていう姿勢が違った。だから発表方法は、本当にたくさん、考えましたね。
――だから、メンバーひとり1曲ずつの4曲の新曲を発表したんですね。
最初は1曲に集約して発表することも考えていたんですけど、4人が作った4曲を聴いたら、どれも正解なんじゃないかって思って。だったら絞る必要もないなと思ったんですね。
メンバー4人が1 曲ずつ作りましたよっていう発表の仕方も、僕たちはやったことがなかったので、こういうタイミングで新しいことができるっていうところが、いち音楽人としての純粋な刺激にもつながるなと思いましたね。
――歌詞は全曲、片岡さんが手がけています。
メンバーには、今この状況で思ってることを踏まえて、誰の顔色もうかがわずに曲を書いてもらって。その上で、メンバーそれぞれからメッセージをもらって作詞しました。
小川(貴之)くんは「日本に生まれてよかったと思うのは、四季の移り変わりが綺麗なことだ」って言ってて。僕らはバンドマンで年柄年中ツアーで遠征しているので、特に日本全国の四季を感じて生活してるんですね。でも、今年は春を失っちゃった感覚があるので、せめて曲のなかだけでも季節を感じるものを作りたいっていう思いがあった。
荒井(智之)くんは自分自身ができることの少なさ、何もできないことへの憤りを感じていて。自分自身に対して怒る気持ちがあるけど、それを爽快にスカッと笑い飛ばして進んで行こうっていう曲になってる。
黒田(隼之介)くんは、自分が小さかったころに父親や母親が言ってくれた言葉を今、このタイミングで思い出すっていう話をしてて。全然ダメで、明日も見えないような状態でも「大丈夫だよ」って言い切るのが大人の役目なんじゃないかって。
僕自身は、自分たちのことを大事に思ってくれてる人に対して、僕からも大事に思ってるっていうことを伝えたかったんですね。
――大事に思ってる人というのは?
自分の身の回りには、医療関係の仕事をしてる人とか、物流の仕事してる人とか、保育士の仕事をしてる友達が多くて。ちょこちょこ連絡は取ってたんです。その友達が僕にとってはすごく大事な人だし。その友達を通じて、こんななかで戦ってくれている人がいるっていうリアルな現状を知って。その友達に刺さる曲がかければ、もっと広いところで、それぞれの持ち場で戦ってる人たちにもちゃんと響いてくれる曲になるんじゃないかなと思った。
純粋に自分と関わってくれてる人が、幸せな気持ちだったり、ちょっと落ち着けるような気持ちになってくれたら、いち友人としてうれしいなっていう気持ちから膨らませていきました。
――片岡さんは2015年に体調不良で活動休止を余儀なくされています。当時のことを思い出したりもしましたか。
そうですね。こういう状況になって、一番最初にフラッシュバックしたのは2015年のことでした。これは多分一生感じていくことだと思うんですけど、医療従事者の方には身体的なところで本当に助けてもらって。体のことだけじゃなくて、心が荒んでいったときに助けてくれたのは、僕は音楽だったんですね。
今回、まずは医療従事者の方と音楽関係者の方に向けてサポートし始めたいっていうのは、そのときの経験があるからっていうのは絶対に避けられないことだと思いますね。
――音楽関係者に対して、sumikaは「自分たちを育ててくれたエンタテインメント業界の活動支援」というメッセージを寄せてます。ライブハウスの現状に関しては、アーティストとしてはどう感じていますか。
ライブハウスには、ライブハウスでしか得られない熱量や感動があるので、今、人が集まってライブをすることができなくなっているのは、率直に悔しいなと思います。
でも僕は、結局、場所や環境じゃなくて、人だなって思うんですね。僕を育ててくれたのも、ライブハウスの世界ではあるんですけども、音響機材とか照明機材とか、そこにあったステージが僕を育ててくれたわけじゃなくて、その場所を作ってくれた人が僕を育ててくれた。そういう意味では、ライブハウスを作ってる人と、じゃあ、次に何ができるのかなっていうのを考えていきたいなって思ってます。
環境ばかりが叩かれているような印象があるけど、環境だけじゃなくて、人に宿っているライブハウスっていうマインドがあるって信じているので、逆転ホームランを打つためには何をすればいいのかっていうのは、ライブハウス関係の人ともよく連絡を取り合ったりしてます。
――今回、新曲4曲だけじゃなく、未発表のライブ映像も公開しています。そこにはどんな意図やメッセージを込めてますか。
Lovers【Dress farm】Live at 大阪城ホール 2019.06.30
1.2.3..4.5.6【Dress farm】Live at 大阪城ホール 2019.06.30
リグレット【Dress farm】Live at 大阪城ホール 2019.06.30
「伝言歌」【Dress farm】Live at 大阪城ホール 2019.06.30
自分たちのツアーがなくなってしまったので、待ってくれていた方々に対して申し訳ないなっていう気持ちもあったし、新曲とライブでは楽しみ方は別だと思っていて。CDを買って、曲を初めて聴いたときの感情と、ライブで曲を聴いたときの感触ってやっぱり違いますよね。
音楽にはいろんな楽しみ方があると思うんですけど、新曲とライブは違う質の体験だったり、感動だったりするなって思うので、新曲だけじゃなくてライブの感動、熱量、記憶も伝えておきたいなって思いました。
――生のライブは今後どうなっていくと考えていますか。
ライブに対する状況ははっきり言って良くないと思うんですけど、今、新しいルールが導入されたっていう段階だと思うんですよ。そこで、じゃあ、新しく何をやろうかっていうことに対して、ワクワクできなくなったら、僕自身もライブする気がなくなっちゃうと思うんですけど、そこに関してはまだ折れてない。
新曲を作ったと同時に、自然と、ライブだったらどう歌うかなっていうのは考えるし、『Dress farm 2020』で生まれた曲も、僕のなかでちゃんとこれから先のライブにつながっているんですね。これはハンドマイクでパフォーマンスしようとか、アコギかな、とか。結局、そう考えてる時点で、ライブを諦めてないんだと思います。
どうしたって、世界から音楽がなくなるっていう未来は想像できない。形は変わったとしても、音楽というのはきっと生活の一部になっていくと僕は信じているし、そこに対して、音楽に触れる人たちの手を傷つけてしまったり、血を流させるのは違うと思う。誰かの血が流れない方法で、ちゃんと生活の一部になっていくっていう方法を模索していければ、「トワイライト」で歌っている<愛しい未来>になるんじゃないかなと思いますね。
取材・文:永堀アツオ
『Dress farm 2020』特設サイト
http://sumika.info/dressfarm2020/
sumika オフィシャルサイト
http://sumika-official.com/home/
sumika Twitter
https://twitter.com/sumika_inc
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