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連載Cocotame Series

エンタメ業界を目指す君へ

SAOプロデューサーが語るアニメ制作現場の“リアル”と業界が今求める人材像【後編】

2020.08.18

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エンタメ業界の最前線で働く人々から現場の生きた情報を聞き出し、お届けする連載企画「エンタメ業界を目指す君へ」。

今回は、7月にアニプレックス(以下、ANX)の主催で開催された初の海外向けオンラインイベント「Aniplex Online Fest」(以下、AOF)のプログラムから「How to Produce Anime(アニメの作り方)」の模様をレポート。プログラム内で収まりきらなかった話を、アニメ制作スタジオA-1 Pictures(以下、A1P)のプロデューサー・金子敦史に聞いている。

前編では金子に「日本のアニメの独自性」について語ってもらったが、その独自性があるがゆえに、日本のアニメ業界に対して危機感を持っていると金子は述べた。後編ではその理由とそれを打開するために取り組んでいること、そしてアニメ業界の未来の展望について自身の考えを話してもらった。

  • 金子敦史

    Kaneko Atsushi

    A-1 Pictures

    主な制作参加作品:アニメ『ソードアート・オンライン アリシゼーション』、劇場版『ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』

アニメ業界に起きているふたつの危機

――金子さんは、日本のアニメは、たぐいまれな技術を持つベテランのアニメーターに支えられた「作画のアニメ」に魅力があるとおっしゃっていました(前編はこちら)。同時に、このままだとその魅力を持つアニメ業界が衰退するかもしれないという危機感を感じているともおっしゃいましたが、まずは、その理由をお聞かせください。

いくつかの理由がありますが、ひとつはアニメクリエイターの地位が国内ではまだまだ低いことが挙げられます。昔に比べれば、ずいぶん改善されて来ているのだと思いますが、彼らの地位はもっと向上するべきだと感じていて、その技術力にスポットを当てて評価し、収入などの待遇面や労働環境も改善していく必要があると考えています。それだけの技術力を日本のアニメーターは持っていますから。

また、そうしなければ、次の世代の才能が育ちにくい土壌ができてしまい、結果、ベテランアニメーターにばかり仕事が集中して、今度はそこもパンクしてしまうという悪循環が生まれます。

加えて、A1Pのようなスタジオで制作をしているスタッフも、決して「やりがいの搾取」ではないのですが、高いクオリティのフィルムを作ろうと必死になって頑張りすぎてしまう人が多いです。それも作品に対する情熱、アニメが好きだからという想いの表われなんですが、無理がたたって倒れたり、体調を崩してしまって、作品が完成する瞬間を一緒に味わえないなんてことになったら辛すぎるでしょう。

さらに、最近は作品本数がそもそも多いなか、キャラクターは知っていても何の作品に登場するかわからなかったり、画は見たことがあるけど作品名までは知らない、というライト層が増えてきているように感じます。これは裏を返せばアニメが文化として定着し、幅広い層に受け入れられるようになったということですから、売上をあげるという意味では多くの方に触れてもらえるのはもちろんありがたいです。

ただ、作品をよく知ってもらう間もなく次々と新しいアニメが放送され、一つひとつの作品が視聴者の心や記憶に残らなくなってしまっているように感じます。

アニメが「ファストフード化」した、というと言い方は悪いかもしれませんが、気軽に楽しんでもらえるようになった反面、その裏でアニメが大量生産され使い捨てのようになってしまっている、クリエイターが摩耗してしまっている、と言う状況が長く続けば、アニメ業界が破綻してしまうのではないかと思います。

金子は現在の日本のアニメ業界の構造に危機感を抱いている。

――では、「クリエイターの地位向上」と「ファストフード化」を解消するにはどうしたらよいのでしょう。

今回の新型コロナウイルス感染対策にともなって、制作体制に大きな変化がありました。自分たちは現場で新作の制作を進めているところだったのですが、緊急事態宣言が発令されて、A1Pでは出社の回数を制限するなど、スタジオの稼働率を大幅に下げて対応しました。これによって当然、制作は停滞してしまいますが、我々のスタジオでは人命が最優先されたんです。

そしてこの判断がきっかけとなり、現場スタッフの労働体制が大きく変わろうとしています。リモートワークでも制作ができるようにするための、デジタル技術の導入促進などが変化の柱となりますが、スタジオの稼働率を下げざるを得ない状況を経験したことによって、環境さえ整えることができれば、今までよりペースを落としてもアニメ制作ができないことはない、という気付きにつながったんです。

まだ変化の過程にあるので、今後どうなるのか不確かなことも多いですが、少なくとももう少し余裕を持った制作体制に変えていくことで、クリエイターの環境も改善していけるのではないでしょうか。

「アニメのファストフード化」については、これからの課題です。さきほども言ったとおり、より多くの人に文化として受け入れられるようになったのはもちろん良いことです。

その上で今後、我々が大事にしていかなければいけないのは、各スタジオが持つ個性だと思います。それぞれのアニメ制作スタジオが自分たちの色を出す、つまりそれぞれが今まで以上に個性的な作品を生み出していくことが重要で、それによってより深く皆さんにアニメ作品やアニメ文化を楽しんでもらえるようになるのではないかと考えています。

――スタジオの色を出すというのは、具体的にはどういったことでしょうか。

他社を見ても、優れた人気作品を多数生み出しているスタジオには、それぞれにとても個性的な作品を作るプロデューサーがいますが、アニメスタジオの色というのは、そういったプロデューサーの個性が大きく関係していると思います。

A1Pにも自分を含めたくさんのプロデューサーがいて、それぞれが個性的なので、スタジオとしてのカラーは多彩です。また、さまざまなジャンルの作品を作ることができるスタッフが揃っているのも強みだと感じています。

既に深夜のハイエンドアニメだけでなく、今までのA1Pらしからぬ作品や企画を立案する動きもあるので、今後はよりプロデューサー一人ひとりの個性を生かした、新たな「A1Pらしい」作品がいろいろ出てくると思います。

金子が所属するA1Pでは、今後さらにバラエティに富んだアニメ作品を制作していくという。

現在のアニメ業界の人材に求められているスキル

――金子さんは新人スタッフの採用にも関わることがあると伺いましたが、新たな人材を採用するときに、候補者のどんな一面に注目されていますか?

アニメのプロデューサーや制作進行は、ベテランから若手まで不特定多数のスタッフとともに作品作りを進めて行きます。さらに言うと、そういったさまざまなタイプのスタッフから、作品のパーツである成果物を上げてもらうことが仕事になります。

なので、学歴は情報として見ているだけで、実際はその人がどんな人柄なのかに注目しています。例えばですが、学生時代ひたすら勉強に打ち込んでいた人より、どこかでバーテンをやっていて、毎日、色んなお客さんとコミュニケーションをとっていました、という人のほうが、制作現場では活躍できる可能性があると個人的には思っています。「人と人をつないで誰も観たことのない映像を創る」と言う仕事上、臆することなくぶつかっていけるコミュケーション能力は欠かせません。

――具体的にここに注目するといった点はありますか?

なかなか難しいですが、候補者の「素の人間性」を見ようと心がけています。いわゆる面接の場でプレゼンをしているときは、緊張もするし、他人の目を意識しているから、その人の表面的な部分しか現われない。むしろ、プレゼンが終わった直後、椅子に座った瞬間からの挙動や仕草にその人の素が見えるような気がします。

そう言った本質が見える行動から、自分の求めている人材に合っているかどうか見ようと心がけています。ただ、自分の予感が毎回当たるわけではないですし、仕事を始めてから変わる人もたくさんいる。なので、結局のところ一瞬の面接だけで、その人の本質をすべて見抜くなんてできないんです(笑)。

――それでは、どういうタイプの人がアニメ制作のプロデューサーに向いていると思いますか?

まずは素直であること。その上で、相手の言うことをよく聞いて、相手が何を求めているのかを考えようとすることができる人であれば、アニメ制作のプロデューサーという職業の適性を持っていると思います。

もうひとつはひとたび現場に入ったら、自分の流儀やプライドを捨てられる人が向いていると思います。「プライドを捨てるプライドを持つ」というのが僕の持論なんですが、ユーザーにとって最高のフィルムを作るために、限られた時間のなかで多くの考えや思考を持つスタッフたちと最大限に動くことができる人を現場は求めていると思います。

アニメ制作のスタッフには高いコミュニケーション能力が求められると語る。

――スタジオの現場では、どんな仕事ぶりが求められるのでしょうか。

これも一概には言えないのですが、昨今はアニメの作品本数が増えているので、力のある外部のスタッフさん、例えば実力のあるアニメーターは、どうしてもほかのスタジオや作品と取り合いになって、なかなか仕事を請けてもらえない状況になります。

そんなときに「このシーンを絶対にあのアニメーターさんに描いていただきたい」「この動きをあのアニメーターさんに描いていただきたい」と言う強い意志を持って動けるか。その経験から来る苦労や喜びは絶対に無駄になりません。若い子たちには、いろいろな会社や作品からオファーを受ける人気アニメーターに「君の仕事だったら請けるよ」と言われるような人材になってほしいと思います。

――改めてアニメ制作の現場で成長していくには何が必要なのでしょうか。

繰り返しになりますが素直さは絶対に必要です。その延長線上で、お付き合いのある外部のスタッフさんからときには叱られたり、注意を受けたときに、それをどう受け止められるかで、その人の伸びしろが変わってくるように感じます。

制作はコンテも描かなければ絵も描かないし、クリエィテブな作業は一切しません。それでもアニメ制作の現場では根幹に関わっている重要なセクションです。クリエイターさんとの信頼関係が重要で、どこまで深くスタッフと一緒に作品と向き合えるかが作品のクオリティに直結すると言っても過言ではありません。クリエイターから「あのスタッフを制作デスクに付けてほしい」「あのスタッフが必要だ」と言われれば信頼を得られたことになるし、その逆になってしまった場合はゼロからやり直さなければいけない。どんな人とどんな関係を築いて次につなげるか。そういったことも考えながら仕事をしていくことが大事でしょうね。

もちろん理不尽な要求は突っぱねる勇気も必要です。作品にとってプラスになるのかも含め、それを判断する力もプロデューサーには求められるのかもしれません。

プロデューサーは常に作品第一で判断を下していかなければならないと力説する。

これからのアニメプロデューサーに求められるもの

――最後に、金子さんにとって、アニメ制作の醍醐味がどこにあるのか教えてください。

商業的な視点に立ったプロデューサーの見解でいうと、やはり作品が多くの人の目に触れること。つまり、売れることが大事です。一方で、いち制作者としての視点では「一緒に仕事をしてほしい方々と、ひとつの作品を作り上げることができた」ことが醍醐味ですね。

今でも3年以上、「弊社タイトルのメインスタッフになっていただけないか」と口説いていながら実現できていないアニメーターの方もいます。そういう方と一緒に作品を作れたら、やっぱりうれしいですね。

プロデューサーという立場では作品を完パケして、結果を出さなきゃいけないのは当然ですが、個人としてはときにこのまま制作が終わらなければいいなと思っていることがあるんです。

押井守さんの作品に『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』がありますが、あれは文化祭の前日が何度も繰り返されるというストーリー。経験された方も多いと思いますが、文化祭の前日って、皆が不思議な高揚感のもとで一体になって、普段はそういう姿を見せない人が意外な力を発揮したり、衝突したり、仲良くなったりもしながら力を合わせて困難を乗り越えると思うのですが、そこに不思議な一体感が生まれますよね。

アニメ制作の現場は、あの時間に近いものがあると感じていて、それをずっと味わっていたいと思う感覚があるんです。プロデューサーとして結果を求めながらも、ずっと現場で楽しんでいたいですし、そういう現場を常に作っていきたいと思っています。

文・取材:志田英邦

関連サイト

Aniplex Online Fest
https://aniplex-online-fest.com/(新しいタブで開く)
 
TVアニメ「ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld」公式ウェブサイト
https://sao-alicization.net/(新しいタブで開く)
 
A-1 Picturesオフィシャルサイト
https://a1p.jp/(新しいタブで開く)

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