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連載Cocotame Series

エンタメ業界を目指す君へ

年間500曲を手掛けるアニソンプロデューサーが語る、世界のアニソン市場と求められるスキルセット【前編】

2020.08.19

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エンタメ業界の最前線で働く人々から現場の生きた情報を聞き出し、お届けする連載企画「エンタメ業界を目指す君へ」。今回も、前回に引き続き7月にアニプレックス(以下、ANX)の主催で開催された海外向けオンラインイベント「Aniplex Online Fest」(以下、AOF)内で配信されたプログラムの模様をレポートしつつ、出演者の声をお届けする。

今回は、アニソンの作り方をテーマにしたプログラム「Anisong Tea Party with the Songwriters(作曲家たちのアニソン茶話会 海外出張版)」で司会を務めた、ANXの音楽プロデューサー・山内真治がアニメ音楽業界の最新事情を語ってくれた。

Aniplex Online Festとは?

 
ANXが主催となり、7月4日~5日にかけて開催された海外向けのオンラインイベント。英語と中国語のふたつの言語で配信され、アニメやアニソンの制作話から、アニソンアーティストの出演、ANXの新作アニメ情報など、盛りだくさんのプログラムで届けられた。

  • 山内真治

    Yamanouchi Masaharu

    アニプレックス
    チーフプロデューサー

    SMEレコーズ等レーベルでの制作、A&Rを経て、2010年よりANXにて、アニメ音楽プロデューサーを務める。「<物語>シリーズ」、「Fate」シリーズ、「ソードアート・オンライン」シリーズなどヒット作の音楽制作を多数手がけ、年間で500曲以上の楽曲制作に携わる。また、LiSA、花澤香菜ほかアニソンアーティスト、声優アーティストの育成も手掛ける。

よかれと思って……海外でウケなかったファンサービス

「Anisong Tea Party with the Songwriters」は、司会に山内、アシスタントにアメリカ・ロサンゼルス育ちの天城サリー(22/7)、ゲストパネラーに「<物語>シリーズ」ほかで知られる作曲家・神前 暁(こうさきさとる)、数々のテレビドラマや映画音楽の制作で知られ、ANX作品では『はたらく細胞』の音楽を担当するMAYUKOを迎え、アニソンの制作風景について語られた。

「海外に向けてアニソンについて語る機会は少ない」と山内は話すが、一方で最近はSNSなどを通じて神前、MAYUKOのもとに海外のアニソンファンから英語や日本語でメッセージが送られてくるという。神前いわく「日本のファンとは目の付け所が違い、マニアックに聴いてくれている」と感じるそうだ。

天城によると、アメリカのアニメイベントもアニソンライブが目玉で、アニメ本編は吹き替えでも、主題歌は日本語オリジナルが放送されるので、日本語で歌える人が多いのだという。

アメリカ在住時、現地のアニメイベントによく参加していたと天城は語る。

山内からも「海外のアニメイベントで、ファンサービスのつもりでアーティストに楽曲の一部を英語で歌ってもらうと、現地のファンから“この日のために日本語で歌を覚えてきたのに!”と不満そうな様子が感じられた」というエピソードも語られ、海外にもアニソン愛好家が多いことが紹介された。

そして最初のコーナーでは、「知っておこう!アニソン基礎知識」と題して、山内が日本のアニソンをアカデミックに分析した。それによれば、現在アニソンと呼ばれる音楽は、大きく4種類に分類されるとのこと。

<アニソンの4つの分類>

①米津玄師やT.M.Revolutionなどに代表される「J-POPアーティスト系」
②水樹奈々、花澤香菜などの声優や、水木一郎、LiSA、May’nなどアニソンをメインに活躍するアーティスト
による「声優アーティスト系・アニソンアーティスト系」
③『けいおん!』や『THE IDOLM@STER』『ラブライブ!』などの、音楽メインのアニメ作品のボーカル曲や、作品の“スピンオフ”的な立ち位置で登場キャラクター(の担当声優)が歌う楽曲が作られる「音楽モノのアニメまたはスピンオフキャラソン系」
④作品の世界観の構築に大きな役割を果たす劇中BGMの「劇伴」

一口にアニソン、アニメ音楽と言っても、アニメ作品を中心に据えつつ、その役割はじつに幅広くて、音楽性もさまざまであることが良く分かる。

アニソンの4つ分類について説明を行なう山内。

アニソンの作り方にはコツがある

続いては、実際にアニソンがどうやって作られているかのコーナー。神前は『化物語』第10話のオープニングテーマ「恋愛サーキュレーション」(歌:千石撫子【花澤香菜】)、MAYUKOは『はたらく細胞』のオープニングテーマ「ミッション! 健・康・第・イチ」(赤血球【花澤香菜】、白血球【前野智昭】、キラーT細胞【小野大輔】、マクロファージ【井上喜久子】)を例に、制作エピソードが語られた。

両曲ともキャラクターを演じる声優自身が、役柄のままに歌うキャラソンであるだけに、歌詞に掛け声やセリフパートを挿入したり、楽曲のテイストを工夫したりと、歌い手である声優の声の魅力を最大限に引き出すアイデアを多く盛りこんだそうだ。

そしてプログラムの最後を飾ったのは、海外のアニソンファンから事前に募集した質問に神前、MAYUKOらが答える質疑応答コーナー。

「『傷物語』の劇伴にジャズテイストが多かった理由は、無機的な背景に対し生々しさを表現するため(神前)」「30分アニメのBGMは、1時間の実写ドラマと比べて、聴いただけですぐにシーンの意味や人物の感情が分かるように作るのが、違いであり特徴(MAYUKO)」といった、作曲家本人からの曲作りの裏側を聞けたのも、海外ファンにはうれしいプログラムだっただろう。

アニソンの奥深さ、魅力を海外に伝えられただけでなく、国内のアニソンファンにとっても、日頃はなかなか聞くことが少ない、人気作曲家たちのクリエイティブに触れられる、貴重なチャンスとなった。

プログラム後半では神前(写真右)とMAYUKO(写真中央)がアニソン制作秘話を語った。

アニソンクリエイターの魅力をもっと世界に発信

ここからはANXの音楽プロデューサー、山内真治の追加インタビューをお届けする。国内外でのアニソンマーケットの現状と課題、そしてこれからのアニソン業界で求められる人材像について聞いた。

――山内さんも、「AOF」内プログラム「Anisong Tea Party with the Songwriters」に出演されましたが、まずは感想をお願いします。

海外向けのイベントは初の試みでしたが、国内では3月に開催された『アニメもゲームも大集合!アニプレックス48時間テレビ!』内で「作曲家たちのアニソン茶話会」と題したトークイベントを経験済みでした。

それを踏まえて中国語圏、英語圏に何をどう伝えればいいかを予習できましたし、ANXの海外部署にも海外のアニソンファンが何を知りたいか? というリサーチを入念に行なっていました。それもあって約45分という短い時間でしたが、良い手応えを感じました。

リモート会議アプリケーションでインタビューに応じる山内。

――プログラム内でもおっしゃっていましたが、そもそも海外ではアニソンについて語られる機会がとても少ないそうですね?

そうなんです。海外のアニメイベントには数多くのパネルディスカッションがありますが、声優、アニソンアーティスト、アニメ監督やプロデューサーが呼ばれることがほとんどで、アーティスト以外に音楽関係者が呼ばれることはまずないんです。それがなぜなのか、ずっと不思議に思っていました。だからこそ、オンラインで国内から海外に発信できるこういう機会に、アニソンクリエイターのプログラムも入れてみたらどうか、という話の流れがあって、あのプログラムが決まったんです。

――実際、日本のアニソンに興味を待っている海外アニメファンは少なくないですよね? 今、大ブレイク中のLiSAさんを筆頭に、たくさんのアニソンアーティスト、声優アーティストが海外でライブを行ない、熱狂的に迎え入れられていますし。

はい。アジア、北米、南米、ヨーロッパと、世界中でアニメ音楽は作品と同様に、興味を持たれている分野だと僕も実感しています。言語は違えど、音楽は世界中に通じる国境のないもの。今回の試みが、今後にもつながる良いきっかけになればと思いますね。

海外にも通じるアニソンの様式美――しかし圧倒的に遅れていることがある

――日本のアニソンが、海外でも人気になる理由はなんだとお考えですか?

アニソンの魅力のひとつに様式美があると僕は思うのですが、様式美にきっちりハマる音楽が、海外にはハードロックやヘヴィメタルくらいしかないんです。ただ、逆に言えば国民性の違いはありますが、様式美を好む人たちはどの国にも一定数存在します。その層に日本のアニソンは強く刺さるのだと思います。それにプラスして、アニソンはアニメの画と一緒に脳内再生されるので、日本語の歌詞が理解できなくても、楽曲そのものでエモさが伝わるからだと思いますね。

――そもそも海外のアニソンマーケットは、現状どのような状況になっているのでしょうか。

アニメ作品には必ず主題歌や劇伴がありますから、実は日本のアニソンはものすごく浸透しています。それは肌で感じるのですが、アニソン単体を切り出して聴く機会があまり無いんですね。

今、世界の音楽市場はサブスクリプションサービスが中心の時代に移り変わっていますが、残念ながらアニソンは現状、サブスクと上手くマッチングができていません。特にアニメは、最新曲だけでなくアーカイブも非常に大事。海外では古いアニメ作品が再放送されることも多いですからね。今になって「『鋼の錬金術師』の劇伴がすごく好きです!」と言われても、音源自体が手に入らない。他のジャンルの音楽は、サブスクを筆頭に新旧楽曲が聴ける環境が年々充実してきていますが、アニソンのジャンルは、そこが圧倒的に遅れています。

サブスクリプションサービスを使った海外でのアニソンの宣伝にはまだまだ課題があると山内は言う。

アニソンにもマーケターの存在が必要

――今までのお話からすると、今後はいかにアニソンを単体で聴いてもらう機会を作っていけるかが、課題ということでしょうか?

そうですね。ただこれは制作のプロデューサーだけでどうにかなる問題ではなく、マーケティング戦略がとても重要になると考えています。僕はANXで音楽プロデューサーになる前に、A&Rという職種でアーティストの企画・制作、宣伝戦略に関わっていましたが、今の音楽シーンにおいてはマーケターの役割は、A&Rのそれとはまた違うと思います。

ほかのジャンルではマーケターが中心となって、アナリティクスやMAなどのツールを使って、サブスクを宣伝手段として効果的に活用したりしていますが、アニソンの世界ではまだそれが出来ていません。

アニソンは元々アニメを視聴する人に向けたとても指向性が強い音楽でしたが、近年は聴くチャネルがどんどん増えています。YouTubeを通じてアニソンが思いがけない層に広がったことで、ポーター・ロビンソンのように海外の一般的な音楽シーンで有名なDJやアーティストがアニメ好きを公言し、そのクリエイティブを取り入れたり、アニメに楽曲提供を行なうような時代です。専門的なマーケターがアニソン業界にはまだ存在していないと僕は思っていますが、今後必須となる職種ですね。

――プロデューサーがマーケターの視点を持つだけでは難しいのでしょうか?

僕も過去の業務を通じてマーケティングをかじってはいますが、やはり専門家の人たちの知識には適いません。マーケティングディレクターと連携をして、しっかりとした戦略を立てれば、アニメファンはもちろん、より多くの人にもっと刺さるような楽曲を制作出来ると思うんです。今回のプログラムのために海外マーケットについて考えることが多くなりましたが、マーケターの人と組んで仕事をしてみたいなと、より強く思うようにもなりましたね。

記事の後編では、日本のアニソンマーケットの現状、アニソンプロデューサーの具体的な仕事と必要なスキル、そしてこれからアニソンプロデューサーを目指す若者に向けたメッセージを山内が語る。

後編につづく

文・取材:阿部美香

※インタビュー取材は、リモート会議アプリケーションを使用して行なった。

関連サイト

Aniplex Online Fest(英語)
https://aniplex-online-fest.com/(新しいタブで開く)
 
Aniplex Online Fest(中国語)
https://www.bilibili.com/blackboard/activity-aniplex-online-fest.html(新しいタブで開く)

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