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エンタメ業界を目指す君へ

年間500曲を手掛けるアニソンプロデューサーが語る、世界のアニソン市場と求められるスキルセット【後編】

2020.08.20

エンタメ業界の最前線で働く人々から現場の生きた情報を聞き出し、お届けする連載企画「エンタメ業界を目指す君へ」。

アニプレックス(以下、ANX)の主催で開催された海外向けオンラインイベント「Aniplex Online Fest」(以下、AOF)内で配信された「Anisong Tea Party with the Songwriters(作曲家たちのアニソン茶話会 海外出張版)」。このプログラムで司会を務めたANXの音楽プロデューサー・山内真治にアニメ音楽業界の最新事情を聞く。

後編では、日本のアニソンマーケットの現状、アニソンプロデューサーの具体的な仕事と求められるスキル、そしてこれからアニメ音楽業界を目指す若者に向けたメッセージを語ってもらった。

  • 山内真治

    Yamanouchi Masaharu

    アニプレックス
    チーフプロデューサー

    SMEレコーズ等レーベルでの制作、A&Rを経て、2010年よりANXにて、アニメ音楽プロデューサーを務める「シリーズ」、「Fate」シリーズ、「ソードアート・オンライン」シリーズなどヒット作の音楽制作を多数手がけ、年間で500曲以上の楽曲制作に携わる。また、LiSA、花澤香菜ほかアニソンアーティスト、声優アーティストの育成も手掛ける。

ここ10年での日本のアニソンマーケットの遷移

――ここまで海外マーケットのお話を中心に伺いしましたが、ここからは日本国内について伺います。山内さんは現在の日本のアニソンマーケットについてどうお考えですか?

ここ10年でかなり変わったなと思いますね。ひとつトピックとして挙げれば、アニメとアイドルのボーダーレス化でしょうか。『アイドルマスター』に始まり、『ラブライブ!』が出てきて、『プリキュア』や『アイカツ!』も同じような時期にヒットしたことで、2015年頃から一気にアニメ音楽の市場が広がった印象です。

アイドルとアニメ、それぞれのビジネスが持つ方程式の良いところやクリエイティブが、相互的に組み込まれていきました。それ自体はとても良いことだと思いますが、一方で、昔ながらの様式美を持ったアニソンが減ってきているのも事実です。こういった伝統芸能的側面を持ったアニソンも僕は重要だと考えていますし、イノベーションの推進だけじゃなく、新旧含めたジャンルのバランスを業界全体で意識的に保っていく必要があるのではないかと思っています。

――アニメ音楽の市場が広がったことで、声優の方が歌を唄う機会が増えていることに関してはどうお考えですか?

まず、声優さんが歌を唄う場合、アーティスト化とアイドル化で二極化している印象がありますね。アーティストとしての色合いが強い声優さんだと、坂本真綾さんを筆頭に、僕が担当していた花澤香菜も当てはまると思います。

アイドル化については、アニメと連動して歌唱する声優ユニットがわかりやすい例だと思います。特に最近、僕が気にしているのは再現度ですね。こういったユニットでリアルなライブを行なうとき、観客は当然アニメを見てその作品やキャラクターのファンになっているわけですが、例えば、背が低いキャラクターを背が高い声優さんが演じて歌唱しても、観客の脳内でアニメ映像とマッチせず、感情移入しづらくなると思います。再現性が高いほうが、そういった作品は成功しやすい印象があります。あと、三次元が二次元を超えしまってもいけないですね。アニメキャラよりルックスの良い人がリアルにライブに登場して歌ったとしても、先程と同じように見ている人が感情移入しづらいと思います。そういう意味で、先に挙げたヒット作品は、再現度をしっかりと意識して作っているように感じます。

アニメとアイドルのボーダレス化により、日本のアニソン市場はここ数年で急激に拡大したと言う。

アニソンプロデューサーとJ-POPプロデューサーの違いとは?

――ここからはアニソンプロデューサーについて、詳しくお話を伺います。いわゆるJ-POPなどを手がける音楽プロデューサーと、アニソンプロデューサーには、どんな違いがありますか?

アーティストを担当する音楽プロデューサーが一番に考えることは、アーティストの中から発せられるものをいかに歌に乗せて世の中に広げるか。そして先を見据えながら、そのアーティストをどのように導くかということだと思います

その点、アニメの音楽プロデューサーは、アニメとして作られた作品の世界観、ストーリー、場合によっては絵柄にもきっちり音楽をマッチさせていくことが重要なミッションです。表現としては、かなりインパクトが強い映像がベースにありますし、ある種の制約の中で音楽を作って行く、というアプローチの違いは非常に大きいですね。

――それでは具体的に、アニソンプロデューサーはどんな作業を行なっているのでしょうか。

よく勘違いされるのですが、主題歌を選ぶのは音楽プロデューサーの仕事ではないんです。アニメ主題歌の最終決定権は基本的に作品の監督かアニメのプロデューサーが持っています。

では、音楽プロデューサーは何をしているのかというと、アニメ制作側のプロデューサーと作品についてディスカッションをしながら、どういうBGMが必要か、劇伴作家は誰にするか、主題歌がキャラソンになる場合はどのような楽曲を誰に発注するか、といったことを綿密に話し合い、音楽がその作品に必要なピースとしてちゃんと機能するように調整したり、音楽の方向性を決めるのが仕事ですね。

アニメ作品という制約の中で音楽を作る難しさもアニソンプロデューサーの醍醐味だと述べた。

最も必要なスキルは原作の「文脈」と「行間」を読むこと

――音楽プロデューサーとして一番苦労されるのは、どういう作業ですか?

一番大変なのは、原作を知ることですね。特にANXが手掛ける作品は、世界観が個性的で内容が複雑な作品も多い。原作がものすごい文字量のライトノベルで、それをを全て読まなければならないときなどは……なかなか大変ですが(苦笑)、原作を読み込むことによって見えてくる世界観があって、その作品に必要な音をイメージする感覚を養えるようになるんですね。これは非常に重要な作業です。あとは、「文脈」と「行間」も大事ですね。

――「文脈」とは、どういうことでしょうか。

例えば『空の境界』というアニメは、『Fate』シリーズで有名なゲームブランドのTYPE-MOON作品をアニメ化したもので、ともに奈須きのこ先生の原作であるという共通点があります。

『空の境界』の音楽を制作するのに、原作の深い部分を知らなくても表面上は問題なく曲を作れますが、原作者が同じ、という点から紐解ける、『Fate』シリーズを始めとするTYPE-MOON作品との関連性を理解した上で、それを楽曲制作に反映させていく。それが「文脈を読む」ということです。

――「行間」については?

これはキャラクターソングでよくあることですが、原作の設定になかったり、何なら原作者の先生も気づいていないようなことを、「ああ、このキャラクターならこう言いそう、考えそうだ」という感じで、作品を理解した上で想像して補完して楽曲にしなくてはいけない。これが「行間を読む」ということです。

例えば「AOF」でも話が出た『化物語』の千石撫子のキャラクターソング「恋愛サーキュレーション」は、作詞家のmeg rockさんが、千石撫子の狂気性を、可愛さのオブラートに包んだ言葉で表現にしたことによって、ある意味キャラクターの設定以上の歌詞が出来上がったんですね。音楽制作側からそういうボールを投げ返したことで、原作者の西尾維新先生がインスパイアを受けて、続編の『囮物語』を書くキッカケに繋がり、さらにそこから「もうそう☆えくすぷれす」という新たな撫子の曲が生まれるといった、見事な連鎖ができました。

「文脈」と「行間」をいかに読み、作品のポイントを見極める勘、センスは、アニメ音楽プロデューサーに求められるスキルのひとつだと思います。

キャラクターの行間を読んでこそ「恋愛サーキュレーション」のような名曲が生まれると言う。

――山内さんは長くアニソンのプロデュースに関わっていらっしゃいますが、ご自身としてのお仕事で印象深いものやエピソードがあれば教えてください。

昨年開催した「〈物語〉フェス ~10th Anniversary Story~」と、「Fate/Grand Order Orchestra」企画の音楽制作・プロデュースは、自分のアニメ音楽プロデューサーという職能を全て出し切った印象深いイベントでした。

「〈物語〉フェス」は豪華なミュージシャンとほぼ全てのキャスト、そして作詞・作曲を担当したクリエイター全員が揃うという、おそらく二度と行なえない規模のもので、その分めちゃくちゃ大変でしたが、とても楽しく、素晴らしい経験ができました。

「Fate/Grand Order Orchestra」は、サウンドトラックのフルオーケストラ演奏を、ゼロから約2年間かけて実現したもので、これほどまでに壮大なプロジェクトも、ANXでなければ実現できなかったと思います。

もうひとつ印象深いのは、今は「紅蓮華」でアニメの枠を超越してブレイクしているLiSAのプロデュースですね。現在はSACRA MUSICで活動しているLiSAですが、もともとはANXから世に出たアーティスト。頑張っている姿を近くで見ていたので、彼女の成長と活躍はじつに感慨深いです。

長年プロデュースを手掛けてきたLiSAのブレイクには感慨深いものを感じると言う。

アニメも音楽も「狭く・深く」好きになったほうが絶対に良い

――今やアニソンは音楽シーンにおいて確固たる地位を築き、ワールドワイドにも伸びしろのあるジャンルに今後も成長していくと思います。今後アニソン業界を目指す方に向けて何かアドバイスのようなものはありますか?

先ほどお話ししたように、これからはプロデューサーとマーケターが連携してアニソンを制作していく時代がくると思います。そのなかで、どちらの役職が向いているのかを見極める必要がありますし、自分で客観的に判断できないときは、周りの人のアドバイスにも耳を傾けたほうがいいと思います。

いずれにせよ必要になるのは、いろいろな種類の音楽を聴いて、よく理解しておくことです。ただし、「5万曲、10万曲聴いてきました!」みたいなことが求められているかというと、そうではない。それぞれのジャンルで、ヒットした曲でも、好きな曲でも、違和感を持った曲でもいいので、自分のなかで引っ掛かった1曲を深く、何度も聴き、なぜそう感じたのかを分析する癖はつけたほうがいいと思います。

――広く浅くではなく、狭く深くのほうがいいんですね。

はい。アニメも同じです。アニメ業界に入りたいならアニメを知らないのは論外ですが、音楽と同じで広く浅く、数多くというよりも、狭く深くが良い。経験から言っても、『新世紀エヴァンゲリオン』しかアニメを知らなくても、『エヴァ』についてだったら三日三晩語れます! という人のほうが見所があります。僕自身も、そこまで語れるアニメは、『機動戦士ガンダム』くらいですから(苦笑)。

――面接などをされているときも、その辺りをポイントとして見られるのでしょうか?

そうですね。例えば、好きなアニメの作曲家について質問をしたときに、面接を受けている方が「菅野よう子さんです」と答えたとします。菅野さんは数え切れないほどのアニメ作品の楽曲を手がけられていますが、そのなかで例えば『カウボーイビバップ』の楽曲について独特な切り口で熱く語り始めたら、僕としても面白い人がきたな、もっと話を聞いてみたいな、と思います。積み重ねて身につけた知識や分析力がどれだけ深いものかは、質問をしていけばわかりますから。

今、自分が好きなアニメやアニソンとより深く向き合って、そういったスキルを磨いて、新時代のアニソンを作る担い手がどんどん出てきてほしいなと思います。

文・取材:阿部美香

※インタビュー取材は、リモート会議アプリケーションを使用して行なった。

関連サイト

Aniplex Online Fest(英語)
https://aniplex-online-fest.com/
 
Aniplex Online Fest(中国語)
https://www.bilibili.com/blackboard/activity-aniplex-online-fest.html

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