ボブ・ディランら、レジェンドを担当して30年――洋楽ディレクターに必要な3つのこと
2023.11.14
エンタメ業界の最前線で働く人々から現場の生きた情報を聞き出し、お届けする連載企画「エンタメ業界を目指す君へ」。
今回は、小説から音楽を生み出すユニットYOASOBIのA&R(アーティスト&レパートリー)を務める、ソニー・ミュージックエンタテインメントの山本秀哉に話を聞く。個でも発信力を持てるSNS時代の今だからこそ、アーティストと二人三脚でヒットを作っていくA&Rという仕事の重要性、そして面白味を語ってもらった。
山本秀哉
Yamamoto Shuya
ソニー・ミュージックエンタテインメント
2012年入社。現在は制作ディレクター、A&Rとしてさまざまなアーティストを担当している。
──A&R(アーティスト・アンド・レパートリー)は、クリエイティブやマーケティングなど、音楽アーティストをさまざまな面でサポートしながら、ヒットへ導いていくお仕事です。本連載では、これまでも複数のA&Rの方に登場していただいていますが、皆さんそれぞれお仕事のスタイルが違うという印象があります。山本さんにとってA&Rとはどんなお仕事ですか。
わかりやすく言うと、スポーツにおける「監督やコーチ」ですね。選手(=アーティスト)は大会に向けて練習を積んで試合に臨むわけですが、そこで良いパフォーマンスをするための準備を一緒にして、選手の傍で客観的なサポートをする立場だと思います。
――山本さんがA&Rというお仕事を知ったきっかけを教えてください。
高校生のころに聴いていた音楽で、あるインディーズのアーティストがメジャーデビューをしたことがあったんです。そしたら彼らのメジャーデビュー後の音源がガラッと変わって、すごく進化したなと当時、素人ながらに感じました。プロが集まる現場で音楽を作るとここまで音が変わるんだということを知って、そこから音楽業界に興味を持ちA&Rという仕事も知りました。
――もともとの音楽好きが高じて、この仕事に就いたんですね。
はい。最初に好きになったアーティストはポルノグラフィティで、小学生のころにラジオから流れてきた『アポロ』を聴いて衝撃を受けたんです。そこから音楽に興味を持つようになって、幅広いジャンルを聴くようになりました。
――山本さんがA&Rのお仕事をする前に役に立った仕事や経験はありますか。
僕はソニーミュージックグループに入社して9年目になるんですが、最初の4年間はソニー・ミュージックコミュニケーションズ(現、ソニー・ミュージックソリューションズ)でゲームや他社レーベルのパッケージ制作の進行をやっていました。その後、宣伝・プロモーションの部署などを経験して、現在のA&Rに就いています。
それぞれの現場で多くの学びがありましたが、僕はやっぱり音楽を作る仕事がどうしてもやりたくて、A&Rに就く前から「今、ヒットしている音楽は何か? なぜその曲が売れているのか?」を自分なりに考えながら音楽を聴くのが好きでした。今、このアーティストに歌ってもらうならどんな曲が良いかとか、どんなプロモーションが効果的かなどを考えては、ブログにまとめたりもしていましたね。
そして、本業の仕事の傍らに、自分でもアーティストを見つけてきてはグループ内のレーベルの担当者に紹介したりもして。このころにアーティストとの向き合い方も学びましたし、自分が考えたヒットの方法論をそのままぶつけても上手くいかないことがわかりました。アーティストの個性を尊重して、その魅力をしっかりと考えた上でヒットに導いていくのがA&Rの仕事なんだというのを学んだのもこの時期です。
――ご自分のお仕事とは別にA&R的なお仕事もしていたというのは、すごいバイタリティですね。それにグループ内とは言え、会社や部署を越えて動くというのも、一般的に考えると難しいように感じますが。
ソニーミュージックを志望した理由が、音楽制作に携わりたかったからで、配属された会社、部署が違うからといってジッとしているのはないなと思い、自分からどんどん動いてました。
それと、これはソニーミュージックグループの良いところだと思うんですが、やりたいことはやってみたら、というのが社風というか、会社の空気としてあって。やることさえちゃんとやっていれば、上司を含めた周りの方々も僕の課外活動をとがめるようなことはなかったし、相談しに行った先のA&Rの方たちもほかの部署だからと否定することなく話を聞いてくれました。
もちろん予算がないとか、決して恵まれた環境ではないんですけど、“音楽を創りたい”という熱量を持った人たちといろいろな話ができたのは楽しかったですね。
――山本さんがご担当されたアーティストとのエピソードで印象に残っていることを教えてください。
メロフロート(3人組の男性ユニットとしてデビュー、現在はボーカル・Yu-KiとDJ KAZUMAで活動)を担当させてもらったのは、自分にとって大きな学びになったと思っています。
彼らはそれまで自分たち以外のコンポーザーに書いてもらった楽曲で活動をしていたんですが、そこに僕は何となくもどかしさを感じていました。そこで彼らと話をして、ライブにも何回も同行し、じっくり向き合った上で、彼ら自身の音楽性の高さに気づき、それを伝えたんです。
そしたら彼らにも、自分たちで曲を書きたい、自分たちの意志をダイレクトに伝えたいという気持ちがあることがわかった。じゃあ、曲を書いてみようと。もちろん今まで通りプロの作家さんに曲を提供していただくほうがクオリティに不安は無いですし、結果を出さなくてはいけないタイミングで、初の試みをぶつけることになるので反対意見もありました。
でも、自分たちの言葉で気持ちを伝えてほしくて、その反対を押し切って一緒に楽曲制作を進めていきました。それでできたのが「いっちゃん好きやねん」という曲なのですが、自分たちの言葉で語ってほしかったので、歌詞も彼らの出身の関西弁にしてもらいました。
今はSNSでアーティスト自身が発信する時代で、それが何よりのプロモーションになります。その発信をやり易い環境を作ってあげることが大事で、自分の想いがこもった曲のほうが意欲的に歌えるし、リスナー側もそのアーティストの熱量をより受け止めやすくなる。そして、その熱量を受けたファンは、さらに多くの人に広げてくれます。
「いっちゃん好きやねん」はアルバムのなかの1曲だったんですが、本人たちが本気でプロモーションをして、それがファンに伝わり、そんななかでTikTokでも使われるようになって。結果的に数千万の再生回数を得ることができ、今までもタイアップのような大きい座組はありましたが、この曲はアルバム曲にも関わらず、サブスクの再生数も今まででトップの数字となりました。アーティスト本人の本音を引き出しながら、意志を尊重してクリエイティブに向き合うことが大事なんだと、改めて実感しましたね。
――A&Rの仕事をする上で、山本さんが重視していることはどんなことですか?
やっぱり熱量ですね。アーティストを中心とした、我々作り手側の熱量はもちろんのこと、聴き手側に熱量を持ってもらうことも大事だと思っています。
例えばプロモーションをするとなると、予算を使ってテレビやネットなど、さまざまな広告を使ってプロモーションを行ないがちですが、お金をかけるプロモーションというのは、広くあまねくを目的としているので、告知だけで終わってしまい、熱量を高めるまでには至らないケースが多いです。
逆に100人でも、200人でも、アーティストを含めた作り手側の熱量をしっかり受け止めてくれるコアなファンがいるなら、その一人ひとりに熱量を伝えられる環境を我々が作ることで、ファンがファンを呼び、どんどん熱量の輪は広がっていくんです。
その上で、アーティスト自身が熱量を持てる楽曲を作れれば、自らもその曲の良さをどんどんファンに伝えていきます。そしてそれをファンが周りの友達にオススメしていく。もちろん「この曲、良いから聴いてよ」というだけではその友達は聞いてくれないと思うので、じゃあ、曲を人に薦めるときに、どう伝えたら聴いてくれるのかをイメージし、ファンが口コミで曲を紹介しやすい状況や情報を僕らが提供する。
例えば、「ビルボードでランクインしています」とか「Spotifyバイラルチャートで上位です」など好状況をしっかり伝えたり、その曲の聴きどころをわかりやすくこちらから解説してあげたりすることで、より紹介しやすくなると思います。
――それでは新しいアーティストと付き合う上で、その熱量や状況を引き出すために意識していることは何ですか。
そのアーティストが「やりたいこと」「得意なこと」を大切にすることですね。アーティストによって「こういうアウトプットにしたい」「こういう見せ方をしたい」というのがあって。そのクリエイティブのモチベーションが上がるようにフォローしたり、プロモーションを組んだりするように心がけています。
どんなに才能のあるアーティストでも、どんなに良い曲だったとしても、本人の目指したい方向に沿わない見せ方、伝え方だと良いシナジーは生まれません。「やりたくない」ことばかり、無理にお願いしていると、アーティストが持っている発想力や発信力が活かせなくなってしまうので、それだけは絶対に避けようと注意しています。まさに本人の意志を汲み取って良い方向へ導く監督やコーチみたいなものです。
――山本さんは、いわゆるボーカロイドやインターネットをベースにしているアーティストや音楽シーンをどのようにご覧になっていますか。
今はひとりでも音楽を作れる環境が当たり前のようにありますし、制作から発表、宣伝まで個人で完結できる人が出てくるのも必然だと感じています。それが海外ではヒップホップというかたちで音楽シーンを作っていて、日本だとボーカロイドというツールを軸に音楽シーンができている。
僕も常に新人を含め、たくさん聴くようにしています。音楽を作りたいという熱量が高い人は、今はネットで公開する人も多いですし、まだまだ陽の目を浴びていない人もたくさんいる。それはボカロに限らず、どのジャンルでもそういうアーティストは存在して、そこは逃さず、欠かさず聴くように心がけていますね。
――そういう意味では、今、担当されているYOASOBIのコンポーザーであるAyaseさんもボーカロイドで作品を発表されていました。YOASOBIについては、山本さんも当初から担当されていたんですよね。
はい、YOASOBIは立ち上げから関わっているアーティストですね。ただ、このプロジェクトは表立って「やるぞ!」というよりかは、コンポーザーのAyase、ボーカルのikura、「monogatary.com(モノガタリードットコム)」の屋代と僕の4人で、小説から音楽を生み出すことをコンセプトに話し合いながら、小規模で始めたものなんです。それが想像以上のヒットにつながって。
もちろん今となってはYOASOBIに関わってくれているスタッフも大勢いるんですが、スタートはこの4人。それがこうして多くの方々に注目してもらって、世のなかにインパクトを与えられたというのは、改めてこの仕事に魅力を感じました。
――2020年に入って、新型コロナウイルスの感染防止が叫ばれるなか、音楽業界も大きな変化を迎えています。山本さんはその変化をどのように捉えていますか。
ライブとかイベントとか、今まで日常的だったことができない歯がゆさはありますが、今回の状況で自分たちの仕事の根本を見直すことはできたなと思っていて。やはり僕らはエンタテインメントを追求しなければいけないんだと感じました。
ライブが中止になったから、それを補填するために配信ライブをするのではなく、どこまでも人を楽しませる方法を考えたい。配信ライブをライブ体験の代替えと位置付けるのではなく、この状況であっても、より楽しいものになるようにしていかないといけないし、この状況でしょうがないから……という発想はエンタテインメントではないと考えています。あくまで人が楽しめるものをやり続けたいと思います。
――この「エンタメ業界を目指す君へ」という連載は、これからA&Rを志望される学生さんや若者に向けての記事でもあります。A&Rに求められているスキルってどんなことだと思いますか。
僕自身がまだまだなので、そんな大仰なことは語れませんし、本当にそれがA&Rに求められていることかどうかもわからないんですけど、僕が実際にやっていることで言うと、常にむちゃくちゃ音楽は聴いています。その上で、ひとつのジャンルに偏りすぎないように、広いジャンルを聴くようにしています。
アーティストと楽曲制作の打ち合わせをするときに「広いジャンルの音楽を聴いている」という自信は、ひとつの武器になるんですよね。
曲が作られるときは、当然、アーティストやクリエイターも煮詰まったりすることがあって、ときにはアドバイスや意見を求められることもあります。そんなときにいろいろな曲を聴いていると、アイデアの引き出しを持っておくことができて、いろいろな提案ができるようになります。
例えば別のフレーズが必要になったときに、違うジャンルではこんなアプローチをしていると具体的に提案できれば、それが採用される、されないはどうでもよくて、アーティストのクリエイティビティの可能性を少しでも広げることができます。
それをするために、とにかく僕は「音楽を聴く」ということだけは、絶対に必要なことだと思っています。
――それでは最後に、A&Rという仕事をやっていて良かったと思うこと、この仕事をやっていて喜びを感じる瞬間を教えてください。
やっぱりヒット曲が出て、世のなかが反応してくれると最高に気持ち良いですよね。例えば、ライブに行って、お客さんがその曲に反応してくれると、自分が関わった音楽がこんなに皆さんの心を動かすんだと実感できます。このときの喜びは格別だし、やっぱりこの仕事は面白いなと感じますね。
YOASOBI オフィシャルサイト
https://www.yoasobi-music.jp/
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