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担当者が語る! 洋楽レジェンドのココだけの話

ブルース・スプリングスティーン【後編】「ブルースの情報はいつも急に飛び込んでくる」

2020.10.24

世界中で聴かれている音楽に多くの影響を与えてきたソニーミュージック所属の洋楽レジェンドアーティストたち。彼らと間近で向き合ってきた担当者の証言から、その実像に迫る。

今回のレジェンドは、10月23日に通算20枚目となるオリジナルアルバム『レター・トゥー・ユー』がリリースされた、“BOSS”ことブルース・スプリングスティーン。“BOSS愛”が入社のきっかけでもあると言う、ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル(以下、SMJI)白木哲也に聞く。

後編では、ニューアルバムの制作秘話と国内盤を制作するにあたってのこだわりや、担当者としての苦しみと喜び、そして野望も語る。

ブルース・スプリングスティーン(Bruce Springsteen)

1949年9月23日、ニュージャージー州フリーボールド生まれ。アメリカのロック界を代表する国民的アーティスト。1973年、アルバム『アズベリー・バークからの挨拶』でデビュー。1999年に「ロックの殿堂」入り。デビュー時からのバックバンド(一時解散)、Eストリート・バンドと再びタッグを組んだニューアルバム『レター・トゥー・ユー』が、10月23日に世界同時発売された。

 

  • 白木哲也

    Shiroki Tetsuya

    ソニー・ミュージックレーベルズ
    ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
    マーケティング2部 ゼネラルマネージャー

    1993年から洋楽制作本部、2004年からソニー・ミュージックダイレクト、2007年からSMJIに所属。1994年からブルース・スプリングスティーンを担当。

ブルース作品の解釈は日本語で伝えるのが難しい

――ブルース・スプリングスティーンの日本ディレクターとしては最長となる25年以上も担当しています。四半世紀務めていて、一番の苦労は?

一番の苦労は情報が入ってこないということ。これに尽きますね。アメリカ側の強烈な情報統制。アルバムが出るときなんか、海外から僕のところにプレスリリースが届くのは、一般のニュースで皆さんが知る3日ぐらい前ですからね。普通は海外との共有スケジュールに大体のアーティストのリリースプランが書いてあって、ボブ・ディランですら予測ぐらいは記してあるのに、「BRUCE SPRINGSTEEN」の名前は一切見たことがない。いつも急に飛び込んできます。本当は発売日から3カ月ぐらい前から準備するのが常なのに、向こうは日本の制作進行なんて知らないから、もうこっちはあたふた。

――ニューアルバム『レター・トゥ―・ユー』もそういった、いわゆる特急進行だったんですか?

アルバム『レター・トゥ―・ユー』(2020年)

超特急でしたね。指定された世界同時発売日が10月23日なのに、プレスリリース発表がブルースの誕生日の9月23日でしたからね。毎度のことながら社内の関係各位に頭を下げまくって、皆さんの最大限の協力のなかで、何とかギリギリで間に合わせた状態です。細かいことを言えば、帯のテキストなんかはアルバム全曲聴けてないのに納品しなくてはならないので神経を使いますね。ほかにも解説、対訳の発注から完成まで全行程4日間という信じられない進行です。

――そんな一刻の猶予も許されない綱渡り状態のなかでも、ブルース作品で最も重要な歌詞、それを日本語で伝えることの責務を負っているわけじゃないですか。

まさに、おっしゃる通り。それが日本盤を発売する一番の大きな意味なので、特にブルースに関しては、対訳が作業のなかで最も頭を悩ませる時間です。とりわけブルース作品の解釈は日本語で伝えるのが難しいんです。だから丁寧な日本語で歌詞にしてくれる三浦久さんに対訳をお願いしています。

さらにここ最近は、三浦さんには“訳者ノート”というものも追記してもらっていますね。限られた時間のなかで悩みながら対訳したポイントを抽出してもらうもので、今回の『レター・トゥ―・ユー』では、「“連続するひとつの小説”に加わった新しいチャプター」というタイトルで書いていただいてます。ライナーノーツも、ここ20年は実際にブルースにインタビューもしたことがある数少ない音楽評論家で、英語でブルースの楽曲を理解できる五十嵐正さんに、アルバムをより理解するための解説文を書いてもらっています。

最大限に“ブルース経験値”をいかして

――徹夜も辞さないこれだけの特急作業になると、日本で最初に新しい音源を聴く白木さんの初期衝動みたいなものは後々とても重要になるんでしょうね。そのときの解釈が国内制作の方向性を左右するわけですから。

それもその通りだと思います。当然意識しています。だから最初に海外から届いたプレスリリースをそのまま対訳しないようにしています。何も考えずに日本語にしてしまうと、どうしてもつまらない内容になってしまうので、いちファンとしての解釈や感想を、ブルースに関しては加えるようにしています……あ、本当はダメなんですけどね、勝手にやったら(笑)。でもそこは“好きこそ物の上手なれ”ということで、ここぞとばかりに最大限に“ブルース経験値”をいかしています。

――制作期間に余裕があれば、70年代の『明日なき暴走』(1975年)や『闇に吠える街』(1978年)のような邦題を付けたいという気持ちにかられたりはしませんか?

付けたいという気持ちはあります。ただご指摘の通り時間が足りませんね。例えば『LETTER TO YOU』を直訳すると『君への手紙』になる。でも、これはないでしょ(笑)。考えに考えて巡りに巡ってそこに行き着くならば自分も納得するかもしれませんが、きっとファンは許してくれないでしょう。やはり時間が足りなさ過ぎます。でもね、これは自分の部署の後輩にも言うんですけど、邦題は勇気なんですよ。でもそんなことを自分で言っておきながらブルースには勇気が湧かない。最終的には怖気付いちゃう(笑)。今回は『レター・トゥ・ユー』です!

「ソングライターの仕事は人々に何かを気付かせてあげること」を体現

――改めて、今回手掛けたアルバム『レター・トゥ・ユー』はどんな作品ですか。

ブルースの最近の作風の集大成という言い方はちょっと違うかもしれないけれど、ひとつの物事を決して断定するのではなくて、そこに目を向けさせてから聞き手に解釈を委ねるという、ブルースらしい1枚になっている印象ですね。これはブルース自身が言っていることですが、「ソングライターの仕事は人々に何かを気付かせてあげること」。そのことを2020年現在に体現した素晴らしいアルバムだと思います。

――サウンドはいかがでしょうか。

みなぎるサウンド。やはり盟友Eストリート・バンドと久しぶりに自宅スタジオに入って5日間でレコーディングしていることがアルバムの原動力だと思います。これは五十嵐さんも解説で触れていますが、ブルースはもう71歳になったわけです。この先の人生もそんなに長くはない。これまで一緒にやってきた音楽仲間やEストリート・バンドのメンバーだったクラレンス・クレモンズやダニー・フェデリーシも亡くなってしまった。

故クラレンス・クレモンズとブルース・スプリングスティーン

そんななかで、「みんなのことは決して忘れない。自分はまだこれからもここで頑張っていくから」という宣言みたいなものをサウンドや歌詞の節々から感じましたね。『レター・トゥ・ユー』=“あなたに届ける手紙”ですから。往年のファンには確実にその想いは届くでしょうし、新しいリスナーにも聴きやすいロック・アルバムになっていると思います。

――『レター・トゥ・ユー』を気に入った新しいリスナーが聴くべきおすすめアルバムは何になりますかね。

やはりブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンドらしいサウンドという意味で『明日なき暴走』(1975年)。それから『レター・トゥ・ユー』の収録曲にも同じような息吹を感じることができる『闇に吠える街』(1978年)。王道ロックンロールの楽しさを教えてくれる『ザ・リバー』(1980年)。この3枚は押さえてほしいですね。

アルバム『闇に吠える街』(1978年)

――アルバム『レター・トゥ・ユー』のブックレットのなかには、このインタビューの冒頭に白木さんが触れていた、1980年にジョン・レノンが凶弾に倒れたNYの自宅、ダコタ・ハウス前で撮影したブルースのポートレートも含まれていましたね。

右側に見える建物がダコタ・ハウス。

興味深いですね。あれから40年です。2018年の『スプリングスティーン・オン・ブロードウェイ』公演のときにダコタ・ハウスまで出向いて撮った写真らしいんですけど。見る人が見ればわかるダコタ・ハウス前の写真をあえてもってきたところに、いろんな意味を感じますよね。これからジョン・レノンの命日も迎えるわけですし。僕自身にとっても、ブルースのファンになるきっかけとなった40年前のあの出来事を象徴する場所だけに、いろんなことを考えさせられる1枚です。

――最後に。ブルース・スプリングスティーンは世界で最も作品許諾が難しいアーティストとしても知られていますが、日本で一度だけの独自企画制作の許しが出た場合、担当ディレクターとして何を作りますか。

最後にいちばん悩ましい質問を(笑)。(じっくりと考えて)本当に許されるならば、もし公式音源があるならば、やはり1985年の初来日公演のライブ盤ですね。僕にとっても原点だし、多くの日本のファンにとっても忘れることのできないステージですから。東京5公演、大阪1公演、京都1公演を収録する7枚組『ライブ・イン・ジャパン‘85コンプリート』。また夢が増えた。

1985年の日本公演より

文・取材:安川達也

関連サイト

オフィシャルサイト
http://www.sonymusic.co.jp/artist/BruceSpringsteen/

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