デヴィッド・ボウイ【前編】「普通じゃなくて良いんだ、まともじゃなくても良いんだってことを教えてくれた」
2021.01.28
世界中で聴かれている音楽に多くの影響を与えてきたソニーミュージック所属の洋楽レジェンドアーティストたち。彼らと間近で向き合ってきた担当者の証言から、その実像に迫る。
今回のレジェンドは、毎年この時期になると『恋人たちのクリスマス』のキュートかつ抜群の歌唱力が街中に響くマライア・キャリー。デビュー30周年を迎えた彼女が日本で最も知られる洋楽アーティストのひとりとなった裏には、日本スタッフの奮闘があった。ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル(以下、SMJI)白木哲也が、その華やかなイメージを裏付けるエピソードの数々を語る。
後編では、マライア・キャリーの動物愛がうかがえる犬のエピソードと、改めて、ビッグスターに上り詰めた彼女の魅力を解説する。
マライア・キャリー (Mariah Carey)
1970年3月27日生まれ。米国・ニューヨーク州出身。1990年、アルバム『マライア』で、“7オクターブの音域を持つ歌姫”というキャッチフレーズでデビュー。数々の全米No.1ヒット曲を持ち、グラミー賞ほか、多数の音楽賞を受賞している。定番クリスマスソングとして知られる『恋人たちのクリスマス』(1994年)は、2020年に全米と全英チャートで1位を獲得し、今なお人気である。
白木哲也
Shiroki Tetsuya
ソニー・ミュージックレーベルズ
ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
マーケティング2部 ゼネラルマネージャー
1993年から洋楽制作本部、2004年からソニー・ミュージックダイレクト、2007年からSMJIに所属。1997年から1999年までマライア・キャリーを担当。
──ちょっとエピソードから離れて、白木さんから見たマライア・キャリーのアーティストとしてのすごさを教えてください。
それはやっぱりパフォーマンスの素晴らしさですよね。2020年10月にリリースした『レアリティーズ』の日本盤Blu-rayに、当時は最新技術だったハイビジョンで撮った1996年の来日公演の映像が収録されているんですが、それで見ても圧倒的です。ボーカルはもちろん、ショーとしてほんとに素晴らしい。彼女が一番輝いてるときだったと思います。
あとは、良い意味でプロフェッショナルですよね。やるって言ったことはやってくれる。ドタキャンもありましたけど、きちんとフォローはしてくれます。なおかつ自分もアイデアが豊富だから、こうしたいああしたいってことが湯水のようにあふれてくるんです。トミー・モトーラと別れてから、よりそれが強くなりましたね。自己プロデュース力は素晴らしいです。
──自分の見せ方のイメージが完璧にできてるんでしょうね。
そうですね。何はともあれ、日本でこれだけ売れた海外の女性アーティストはいないですから。1年に1枚アルバムが出たりとか、素晴らしいタイミングでタイアップがついたりとかラッキーなこともありましたが、すべての大元は、マライア自身の実力と才能です。とにかくスターのオーラがあるというか、キラキラ輝いてましたね。僕らの苦悩はさておき、マライアを見ていて素晴らしいと思ったのは、ファンを最も大事にして、何事においてもファンを第一に考えるという姿勢、それが一番ですね。
──マライア・キャリーはファン思いの人だと。
いつも最初にそれが出てきますね。ファンはどう思うんだろう、これをやることでファンの人たちは楽しんでくれるのかって。そこがすべての根本になっていると思います。騒がせたいのも、ファンのみんなに喜んでもらいたいってことだと思うんです。ファンの近くに行きたい、そういつも言ってましたね。
──なるほど。さて、またマライア・キャリーのエピソードに戻りますと、有名な犬の話があるそうですが。
それはですね、1998年の来日のときに、某テレビ番組の取材でマライアが動物が好きだって話になって、インタビュアーの方が、「日本に長くいるとペットがいないと寂しいですよね? マライアさんが日本にいないときは私が育てますから、どうでしょう?」ってジョークに近い感じで言ったんですよね。そしたらインタビューが終了した瞬間、「さあ、どこのペットショップに行きましょうか」って展開になったんですよ。
──ほんとにペットショップに行ったんですか?
はい。スタッフが手分けしてペットショップを調べました。最終的にVIPルームみたいなところがあるお店に行ったんです。そこに生まれたばかりの双子の犬がいて、マライアが「かわいい! かわいい!」って、テレビ的には最高の画が撮れたんです。ただ、普通だったらそこで終わると思うんですが、マライアが犬を持ち帰りたいって話になって、お店の方が「そんなに言うなら」ってことで、持ち帰ったんです。ビンとボンっていう名前も付けてました。でも、問題はそれからなんですよ。
──いろいろ問題はありそうですよね。
まずホテルに犬を持ち込んで良いのかってこと。さらに、その場にいた全員が犬はマライアへのプレゼントだと思ってたら、「お代はどちらが?」って話になって(笑)。この双子のワンちゃんが、なかなか勉強になるお値段だったんです。そのあと、関係者と近くの喫茶店に行って、「どうしましょうか、誰が払いますか」っていう話し合いをして。しょうがないので、その場は僕が支払ったんですよ。もちろん最終的には払っていただきましたけどね。
──その子犬は、アメリカに持ち帰ったんですか?
結局持ち帰ったんですよ。検疫がこんなに大変なのかってそのとき初めて知りましたね。もうひとつ、ペットネタがあります。
──まだあるんですか。
その次に日本に来たときも、またペットショップに行きたいってことになって、今度はお台場にある大きなペットショップに行ったんです。そのとき、なぜだか「羊をステージに出したい」って話になって、「まあ、羊なんかペットショップにいるわけないし」と思ってたら、なんとそこに羊がいたんです。
──(笑)。それはどうしたんですか。
羊はさすがに全員で説得して買うのは諦めてもらい(笑)、そのときは猫を買って帰りました。
──まとめると、マライア・キャリーは動物が好きってことなんですね。
大好きなんでしょうね。後々、さっきの双子の犬を訪ねてマライアのニューヨークの自宅に行くっていう企画をテレビでやってましたね。そのときはレコード会社を移籍したあとだったので僕らは関知してないですけど、偶然テレビで見ました。「あのときの犬か、大きくなったな」と思いつつ(笑)。
──本当にいろんな話がありますね。改めて、白木さんが考える、マライアがいまだに人気がある理由を教えてもらえますか。
そうですね。全世界的に見ると、やっぱり彼女も山あり谷ありなんですよ。主演映画『グリッター きらめきの向こうに』(2001年)ではかなり叩かれましたし。そのあと売り上げが落ちたときもあったし。
──ゴシップ誌で槍玉に挙げられる時期もありましたね。
まあ、太っただ痩せただっていうのは当然セレブなので言われがちですけど、叩かれても叩かれても、音楽の部分では自分自身を貫いてきた。いろんな経験をして、世の中のこともわかってきたんでしょうね。アルバム『MIMI』(2005年)で復活したのは見事でした。最初は周りのスタッフに言われるままにやって大ヒットして、すべてをリセットして自分の道を進み、一度落ちたかと思いきや見事に復活して。20歳でデビューして30年になりますが、いまでも第一線で活躍しつづけているのはすごいことだと思います。売り上げ枚数、チャート順位、さまざまな音楽賞の受賞など、エンタテイナーとしてはめちゃくちゃすごい記録を持ってますからね。彼女の音楽的功績は、今後もっと評価されていくような気がします。
──ボーカル面では、衰えることなくまだ全然歌えてますからね。
個人的には、アレサ・フランクリンみたいに有無を言わせぬ、どっしりとしたボーカリストとしてやっていってほしいなとも思うんですが、彼女はいつも時代の先端にいたいという人なので。まあアーティストはみんなそうかもしれないですけどね。だから、これからどうなっていくかは楽しみです。史上最高のボーカリストのひとりであることは間違いないですから。
──自分を理解し、時代を読めたからこそ復活もできたんでしょうし、クレバーな人なんでしょうね。
頭はめちゃくちゃ良いと思いますね。時代の読み方とか、何が流行ってるとかをキャッチするアンテナが優れてると思います。あと、ちょっと忘れられがちなんですけど、自分で曲を作ってますからね。
──そこはあまり触れられてないですよね。
そうなんですよ。なので、彼女の魅力を挙げていくと、ボーカリストとしてのすごさ、曲作りのすごさ、ライブのすごさ、7オクターブと言われるホイッスルボイスの歌唱技術、ファッションアイコン、ファン第一の姿勢、すべてにおいてアーティストとしての意志を貫く強さなど、数限りなくあります。日本のアーティストにもかなり影響を与えてますからね。そういったことは、あとで時代が証明してくれるとは思います。まあ、しんどいネタばっかり話してる僕が言うのもなんですけど(笑)。
──白木さんが直接関わってたころが、一番自我全開だったんでしょうね。
今まで押さえつけられてきたものが、すべて解き放たれた瞬間だったんでしょう。最初は与えられた曲を歌い、お姫様のように扱われていた彼女が、トミー・モトーラと離婚して、スタッフも全部変えて、自分で曲を作り、ファッションも含めて好きなようにやりだした。その変化の瞬間を僕が担当していたっていうことになりますかね。なので、1996年の『デイドリーム』ツアーの初来日公演が、ある意味、日本人が憧れてきたシンデレラストーリーのマライアの頂点で、そのあとの『バタフライ』が、本当の自分を打ち出した、第2のマライアのスタート地点だったというか。
──蝶々になって羽ばたいちゃったと(笑)。
いやあ、まだまだ言えないこともたくさんありますが。こうして笑い話にしてますけど、ほんとに当時は精神的にも体力的にも厳しい、激動の毎日でした。もし僕が早死にしたとしたら、その何割かはマライアが原因かも、なんて(笑)。
──言い換えると、それくらいのビッグスターだったってことですよね。
スーパースターの極致ですよね。あらゆることがほんとに凄まじかったですよ。売り上げも凄まじかったし、やらなきゃいけないことも凄まじかった。マライアは、日本のテレビとか媒体に最も露出した洋楽アーティストなんじゃないですかね。当時、気持ち良いくらいに露出しましたけど、そのぶん周りは命を削ってた気はします(笑)。
──ここまでお茶の間に定着した洋楽アーティストって珍しいですよね。
まさにお茶の間まで届いてましたね。洋楽ビジネスが最大の売り上げを上げたのが1998年なんですけど、ちょうど『The Ones』が出たときと重なるんです。今から考えると、時代の変化とリンクしてたのかもしれないですね。
──日本でお茶の間化した大きな要因のひとつとして、『恋人たちのクリスマス』があります。
『恋人たちのクリスマス』MV
リリース時に僕は担当じゃなかったんですけど、ドラマ『29歳のクリスマス』の主題歌となり、そのストーリーや映像ともシンクロしましたね。細長い8センチシングルでのリリースでしたが、あっという間に100万枚を突破し、いろんな意味で洋楽マーケットにとっても何かが弾けた瞬間だったかと。
さまざまなクリスマスソングがあるなかで、ああいったアップテンポで、かつポップでメロディアスなものって、あまりなかったんですよね。それに加えて、時代の最先端の音作りをしていたから、“今を生きる私たちのクリスマスソング”というふうに受け止めた人が多かったんじゃないでしょうか。楽曲の良さとともにドラマのタイアップもあったから、さらに多くの人に浸透しましたよね。マライアにとっても、『ミュージック・ボックス』(1993年)がミリオンヒットとなって、その次のステージへという段階だったので、そういう意味では、日本ではこれ以上ないっていうタイミングでした。
──もはやクリスマスソングの定番ですもんね。
これは、日本が先行して売れた曲なんです。海外では最初はそれほどヒットしてなかったですから。今は全世界で人気の曲ですけど、日本のおかげで大きくなったクリスマスソングかもしれないですね。ただ、これがヒットしちゃったから、春でも夏でも必ずライブでやらなくちゃいけなくなっちゃって、本人はその辺どう思ってるのかなと(笑)。収録されている『メリー・クリスマス』(1994年)ってアルバム自体も、もしかすると日本で最も成功したクリスマスアルバムのひとつかもしれないですね。240万枚くらい売れてるんで。
──お話を聞いてると、マライア・キャリーがスターになったのは、デビューのタイミング、時代性、あらゆるものの歯車が噛み合って生まれた奇跡のように思えます。
そうですね。1970年生まれで、1990年の20歳のときにデビューして、90年代を駆け抜けて。で、デビュー30周年の今、『レアリティーズ』には、一番最初に作ったデモ音源から始まり、日本人が一番憧れていたマライアの姿、東京ドームの映像も収録されています。この記念碑的なプロダクツでひと区切りつけて、また新たな章が始まる予感がします。さまざまな記録を塗り替えてきたマライアが、このあとどういう作品を出していくのか、どういった人生を歩んでいくのか、楽しみです。
最新配信シングル『Oh サンタ』
Mariah Carey - Oh Santa! (Official Music Video) ft. Ariana Grande, Jennifer Hudson
文・取材:土屋恵介
アルバム『レアリティーズ』(発売中)
※国内盤のみ1996年東京ドーム初来日公演ライヴ映像Blu-ray付豪華3枚組仕様
※国内盤のみ歌詞・対訳・解説付き
※国内盤のみ高品質Blu-spec CD2仕様
再生/購入リンク
https://MariahCarey.lnk.to/TheRaritiesMC30
ニューシングル『Ohサンタ!feat.アリアナ・グランデ&ジェニファー・ハドソン』(配信中)
再生/購入リンク
https://lnk.to/MariahCareyOhSanta
カセットシングル『ヒア・ウィ・ゴー・アラウンド・アゲイン/ラヴァーボーイ (Firecracker Original Version)【完全生産限定盤】』(発売中)
※国内盤のみホワイト・カラー・カセット仕様/スリーヴ・ケース付/歌詞対訳・解説付
再生/購入リンク
https://lnk.to/HereWeGoAroundAgainMC30
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