りかりこ:“いいね”をもらえる動画制作へのこだわりと、“いつも一緒”のプライベート
2021.02.18
今、注目すべき旬のアーティストにスポットを当てる連載「Eyes on」 。
今回はその番外編として、1月17日にソロ作『目隠し』を発表する日向ハル(フィロソフィーのダンス)と、本作の作詞を手掛けたシンガー、土岐麻子による対談をお届けする。運命的とも言える出会いを果たした両者の思いとは。
日向ハル
Hinata Halu
1月16日生まれ。東京都出身。アイドルグループ、フィロソフィーのダンスのメンバー。144㎝の小柄な体躯から繰り出すパワフルなボーカルが魅力。
土岐麻子
Toki Asako
東京都出身。1999年、Cymbalsのリードボーカリストとしてメジャーデビュー。バンド解散後の2004年からソロとして活動。音楽活動のほか、ナレーションや文筆業なども手掛け、幅広く活躍中。
──日向ハルさんのソロ曲『目隠し』は、日向さんの強い希望で土岐麻子さんに作詞をオファーしたそうですね。どうして土岐さんにお願いしたかったのか、その経緯からお伺いできますか。
日向:韓国のアイドルグループ、MAMAMOOのことをネットで調べてるときに、土岐さんがMAMAMOOについて書いたコラムを見つけて。そこに、土岐さんのオリジナル曲『美しい顔』のことも載っていて、“どんな顔でも肯定するよ”っていう歌詞の内容がすごく心に響いたんですよね。
私自身もアイドルとして表に出ているから自撮りとかもするけど、正直、自分の顔に好きなところはない。でも、世の中は顔で判断されることが多いし、いまだに真っ当にかわいい子には勝てないなって思うことも多々あるんですね。
そういう、顔に対するコンプレックスをすべて肯定してもらえたというか。私が好きなMAMAMOOのメンバーのファサは、一般的に言われるアイドルのかわいさとは少し違うかもしれないけど、すごく魅力的なんですよ。
自分もそういう存在になりたいなって思っていたときに『美しい顔』を聴いたので、すべてを包み込まれたような気持ちになって、勝手にシンパシーを感じてしまって。絶対に土岐さんは私の考えていることをわかってくれる人だって思って、作詞をお願いしました。
──土岐さんの『美しい顔』は、2019年10月2日にリリースされたアルバム『PASSION BLUE』のリード曲で、“新時代の美の価値観を歌った”と評されてました。
土岐麻子『美しい顔』
土岐:この曲は、「生まれたままの姿でいることだけが美しい」というふうに言い切るわけではなくて。メイクしていようが、すっぴんだろうが、直していようが、その方が自分で自分に満足していれば良くて、それは、決して他人が測るものではないっていうことを歌ってます。
今、SNSなどでどんどん価値観がアップデートされていますよね。この勢いで変わっていったら、100年後は他人の物差しで自分を測るような価値観がなくなっているのではないか? そうなっていたら良いな、と思って書きました。
──初めておふたりが会ったときは、どんなお話をされたんですか。
日向:2020年の11月くらいに初めてのミーティングがあったんですけど、土岐さんはその場に仮の歌詞を持ってきてくださっていて。先に私が、こういうことを歌いたんですっていう話をしたら、「ね、ハルちゃん、見て」って見せてくれた仮の歌詞が、自分が話したこととまったく同じ内容だったんですよ。
土岐:鳥肌立ったね、あのとき。
日向:だから、伝わるんじゃないかって勝手に思っていたものが既に伝わっていたというか。ほんとにこんなことあるんだって思ってびっくりしましたし、出会えて良かったなって思いました。
──日向さんは、そのミーティングの最初に、どういうことを歌いたいと言ったんですか?
日向:2020年は特別な年で、外に全然出れなくて、私たちアーティストもライブが全然できなくなって。何もできないなって、ちょっと負の感情に陥ることがあったんですけど、私は、例えば料理をしてみるとか、好きなジャンルの音楽を掘ってみるとか、ポジティブに捉えられた部分もあったんです。ただ、いろんな方のいろんな考え方や状況があるじゃないですか。それに、そんななかで有名な芸能人の方が亡くなってしまうニュースもつづいて、それが辛くて。自分には何も困ってないように映っていた方が、死にたいって思うことに衝撃を受けて。
幸せって、基準が自分にあるから、他人が判断するものじゃないんですよね。お金がなくても幸せを感じている人もいるし、逆に地位も名誉もあって、みんなから愛されてるように見える人でも、本人のなかでは不幸せだっていうこともある。
テレビで見るそういうニュースって、最後に相談窓口の情報がセットになってるんですよね。でも私はそれを見ながら、毎回、違和感があって。人に相談する選択肢があったら死を選ばないんじゃないかって思うんですね。強い人は自分でなんでも解決できると思ってるから他人を求めないし、そこを無理にこじ開けようとすることに違和感を感じて。
だから、今自分が歌いたいテーマとして、「強くてなんでもできる人の孤独に寄り添う曲を歌いたい」という気持ちをまとめて、土岐さんとの打ち合わせに行きました。
──孤独に寄り添う歌というのがテーマだったんですね。
日向:そうですね。強い人というのは、孤独の袋を自分の奥底に沈めていると思っていて。孤独を知ってる人のほうが強いし、表向き元気だったりするんですけど、その奥底に沈めている孤独の袋の紐がどんどん固くなっているような気がして。その沈めている袋をちょっとだけ開きたくなるような、そういう寄り添い方ができる曲を歌いたいってお伝えしました。
──いっぽうの土岐さんがその話を聞く前に書いていた歌詞というのは?
土岐:楽曲提供する際は、基本的には、いつもお願いしてくださった方のお話をまず聞くんですね。どんなことを考えてらっしゃるのかをインタビューしながら、その人に似合うものを書きたいと思っていて。だから私のほうから、ハルさんと直接打ち合わせしたいですって言ったんですけど、打ち合わせの前にいただいた音源にハルさんの仮歌が入っていて、その仮歌が強くて優しかったんです。
強い歌声の人もいれば、優しい歌声の人もいるんですけど、ハルさんは両方持っていて。若いけれども頼もしいし、頼りたくなる、包んでもらいたくなる歌声だなと思って。それに、かっこ良くて憧れちゃうところもあるなって。そうやって何回も聴いていたら、勝手に自分のなかで書きたいことが浮かんできて。基本はハルさんとお話ししてから書こうと思ったんですけど、一応浮かんできたものを個人的に書き留めておこうと思って、趣味みたいな感じで書いておいたんです。
──そのテーマが“孤独”だった?
土岐:そうですね。『美しい顔』もそうなんですけど、私のシティポップ3部作(『PINK』『SAFARI』『PASSION BLUE』)に収録された曲の根底に通じるテーマとして、生活のなかで感じる“孤独”というものがあって。私自身にもありますけど、孤独になってしまうときに、人と会って紛れることもあるんだけど、自分のなかの世界に風を通すというか、自分のなかの世界を広げていくことで救われてきたなと思って。
例えば、映画や絵画、ダンスを見るとかでも良いんですが、私の場合は、音楽が一番、自分のなかの世界の形を変えてくれるものだったんですね。抽象的だけど、音楽はそういう力を持つものだなと思っていたんです。
私も、どんな形で作用するかわからないけど、聴いてくれる人が堅く孤独に閉ざされているならば、もっと生きたいなとか、こんな私も悪くないなとか、こんなクサってる私もいけてるかも? みたいな(笑)、ちょっと自分に酔えるというか、自分を笑えたり、自分を美しいと思えたり、悪くないなって思えるような曲が書けたらなと思って。
だから、私の曲の根底には全部、聴いてくれる人の孤独に寄り添うというテーマがあるんですよ。誰にも悲しい思いをしてほしくないという、偽善的かもしれないけど、そういう思いがあって。
──日向さんの仮歌の声を聴いて通じるものがあった?
土岐:ハルさんの声には、あんまり人に見せないような寂しい気持ちとか、不安な気持ちとか、やさぐれた気持ちとかに寄り添ってくれるような、包み込んでくれるような、お母さんみたいな温もりがあるなって、論理的ではなく、直感的に感じて。それで普段、私が思っていたような、誰にも極端な孤独に陥ってほしくないっていう気持ちに寄り添ってくれる歌にしようと思いました。
あとは、曲の雰囲気から浮かんだ映像イメージもあって。ガヤガヤした怪しげな市場を抜けると、ひっそりとした、誰も知らない、月明かりが差すような優しい部屋があって。そこにハルちゃんが住んでて、主人公は癒される、みたいな。そういうイメージがあったんです。
それで、打ち合わせでハルちゃんのお話を聞いたら、まさにそういうテーマのことを話してる! と思って。私が書いたテーマとめちゃくちゃ合うんじゃないかと思って、「実は……」って出して見せたんです。
日向:“優しい人よ/強くなるな”っていうサビのフレーズはもうありましたからね。「え? なんで知ってるの?」って、すごいびっくりしました。私が思っていたことが、そのまま言語化されていると思って。
──『目隠し』というタイトルはどんな思いでつけましたか。
土岐:繊細な人ほどいろんなものが目に入ってしまって、傷つくと思うんですね。だからいったんそこをシャットアウトして、そばに感じられる温もりとか、存在感みたいなものだけを感じてほしい。
今や芸能人だけでなく、一般の人にもSNSの言葉が忙しなく襲いかかってくるじゃないですか。良かれと思って言ったことが重荷になったりするし、世界に全否定されてるような気持ちになったりもする。そういうすべての“線”を抜いてただの自分になろう、みたいなことをイメージして。
あとは、この曲の魅力的な怪しげな感じっていうのが、紗のかかった目隠しとも合うなと思って。私は論理的にものを話すのが苦手なので、映像のイメージになっちゃうんですけど……。
日向:私は逆に映像でイメージできないので、土岐さんの歌詞ですべてに色がついた感じでした。素敵な言葉にもなったし、映像的にもなったし、作品にしていただいたっていう感じで。めちゃめちゃ感動しました。
『目隠し』というタイトルも、私にはその発想はなくて。私が考えていたことの何個も何個も先なんですよ。なるほど深いなって思いましたし、めちゃめちゃ素敵だなと思って。この情景を理解した上で歌詞を読むとぴったりくるし、自分のなかで映像も浮かぶようになった。自分に大切な人ができたら、目を隠して守ってあげたいなって思いました。
──おふたりの思いがこもった言葉を実際に歌ってみてどう感じましたか。
日向:自分の曲なのに自分に勇気を与えてくれるんですよね。歌ってると、自分の孤独の袋が開くし、楽になる。同じ思想の人は多くはないかもしれないけど、絶対に世の中に一定数いるはずだから、そういう人にしっかり届いてほしいなって思いました。
──土岐さんは、レコーディングされたものを聴いてどうでしたか。
土岐:もう世界ができてるというか、“ある”と感じました。歌詞は書いたけど、決して私の作品にはなっていないところも面白くて。いつも自分の書きたいことを書いてるし、今回も書いたけど、この雰囲気で私が歌えるかって言ったら、歌えないんですよ。説得力が出ないと思う。
こういうアーティストさんと一緒にお仕事できて、詞を提供して歌ってもらうっていうのは、私にとってもほんとに新しい扉を開けてくれる作業というか。めちゃめちゃ楽しいなと思って。
日向:えー、そんなこと言ったら、ほんとにー、もう(と照れまくる)。
土岐:歌い方や発声の仕方も正反対だと思うんですよ。私は張った声を出すのが難しいので、憧れるんですよね。ハルちゃんのように強く優しく歌える人。
日向:私も土岐さんの曲をカラオケで歌うと、めちゃめちゃ難しく感じます。歌い回しというか、アクセントが難しいんですよね。だから勉強になります。
──根っこの部分が似ているおふたりなので、今後もまた何か一緒に作ってほしいなと思います。
日向:また何かを発信したいなと思ったときに、土岐さんにぜひ力を貸していただきたいなって思います。
土岐:私も同じくです。今回はこのテーマだったけど、きっとお互い「わかる」っていう、共感するテーマがいっぱいあると思うんですよね。だから今後も共作とか、作詞のお手伝いをするとか、そういう形で具現化できたら。
やっぱり、ハルちゃんにしか届けられない層というのが絶対にいるので、これからももっと発信していってほしい。そういう人に、ハルちゃんが考えていることが力強く届いていくと良いな、という願望が勝手ながらありますね。あまり歳の差は感じなくて、むしろ、「先輩!」みたいに思うこともあるので(笑)、もっといっぱい話をして、形にしていきたいですね。
日向:恐縮ですがうれしいです! 実現できるようにがんばります!
文・取材:永堀アツオ
撮影:荻原大志
※この取材は2020年12月24日に行なわれたものです。
フィロソフィーのダンス 公式サイト
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日向ハル生誕祭配信ライブ
2021年1月16日 19:30開演
チケットはこちら
土岐麻子ワンマンライブ
2021年3月6日 日本橋三井ホール(東京)にて昼夜2部制
詳しくはこちら
日向ハル『目隠し』
2021年1月17日配信リリース
土岐麻子が作詞を手掛けた、日向ハル2作目となるソロ楽曲。自身の想いをビッグバンドのサウンドの乗せた1曲。
土岐麻子『HOME TOWN~Cover Songs~』
2021年2月17日リリース
「アイ」(秦 基博)、「Jubilee」(くるり)などをカバーしたニューアルバム。テレビアニメ『フルーツバスケット』2nd season 第2クール オープニングテーマ『HOME』もボーナストラックとして収録。
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