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連載Cocotame Series

エンタメビジネスのタネ

握手会に代わる新時代の交流を可能にしたアプリ『forTUNE meets』【前編】

2021.01.27

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最初は小さなタネが、やがて大樹に育つ————。新たなエンタテインメントビジネスに挑戦する人たちにスポットを当てる連載企画「エンタメビジネスのタネ」。

コロナ禍で握手会の自粛を余儀なくされた2020年初頭。特典付きCD購入サイト『forTUNE music』は、全国で再開を待ち望んでいるファンやユーザーに向けて、新しいサービスを立ち上げる必要があった。そこで集結したのが、ソニー・ミュージックソリューションズ(以下、SMS)の佐藤祐貴、ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)の野原祟弘と阿部龍次郎、そしてソニー・ミュージックレコーズ(以下、SML)で乃木坂46のA&Rを務める吉田行孝たちだ。

前編では、企画からプロトタイプ完成までを3カ月というスピードで駆け抜けたプロジェクトチームの動きを、それぞれの胸中を聞きながら追う。

  • 佐藤祐貴

    Sato Yuuki

    ソニー・ミュージックソリューションズ
    デジタルビジネスカンパニー ECプランニング部1課

  • 吉田行孝

    Yoshida Yukitaka

    ソニー・ミュージックレーベルズ
    第1レーベルグループ ソニー・ミュージックレコーズ第三制作部

  • 野原崇弘

    Nohara Takahiro

    ソニー・ミュージックエンタテインメント
    コーポレートビジネスマーケティンググループ マーケティングオフィス

  • 阿部龍次郎

    Abe Ryujiro

    ソニー・ミュージックエンタテインメント
    コーポレートビジネスマーケティンググループ マーケティングオフィス

オンラインでできるトークアプリを早急に作る

──まず、オンライン・ミート&グリートアプリ『forTUNE meets』を立ち上げた経緯からお伺いできますか。

佐藤:僕はSMSで『forTUNE music』というサイトを運営している部署にいます。『forTUNE music』ではCDに個別握手会の参加券などさまざまな特典を付けて販売していますが、2020年2月ごろから、新型コロナの影響でリアルな握手会が開催できないという状況になりました。

それで、オンラインでできるトーク券に切り替えていったほうが良いんじゃないかという話が持ち上がりまして。早急にそういったアプリを作ろうということで、社内で企画を立ち上げるところから始まりました。

野原:僕はソニーミュージックグループのヘッドクオーターであるSMEのマーケティング部門にいるんですが、ここではグループ各社の事業立ち上げのサポートやソリューションの開発も行なっています。そのなかで、レーベル及びマネージメントから、コロナ禍での握手会などを今後どうしていくかという相談を受けていました。

いっぽうで、僕はソニー株式会社(以下、ソニー)をはじめとする、ソニーグループの方たちともお仕事をさせていただいていて。ソニーグループに対して、エンタメのSMEとしてファンエンゲージメント(顧客とのつながり)の重要性をご説明しながら、今ファンから何が求められていて、そのために必要なテクノロジーは何かをご相談していたタイミングでした。

このふたつの流れから、オンラインを活用した新しいファンとのコミュニケーションツールを作る話が持ち上がり、ちょうど佐藤さんたちが『forTUNE music』の改修をしようとしていたので、レーベル、マネージメント、ソリューションなどのSME内各セクションともご相談しながら、ソニーグループ全体で一緒にやりましょうという話になったんです。
ただ、技術開発ばかりが優先されてしまうと現場担当者が使いづらいものになったり、そもそもファンが求めていないものに仕上がってしまうことがあるので、そこの間を僕らが取り持つようにしながら、テクノロジー×エンタメというソニーグループのシナジーを最大限にいかすことを目標にしました。

阿部:僕はソニーからの出向という形で野原さんたちの部署に配属になり、今回は開発として『forTUNE meets』に携わりました。まず最初に考えたのは、握手会をどうやってオンラインのサービスに置き換えるかということです。実際の握手会はどんどん人が流れていきますが、それを単純にオンライン化するのは、実はすごく難しいことなんです。

皆さんも経験されていると思いますが、“Teams”や“Zoom”といった一般的なクラウド型ビデオチャットサービスでも、つながるまでに時間がかかりますよね。あれと同じで、サーバーというのは秒単位で要求をさばくのが非常に苦手で、そもそも次から次へと違う人をつなぐことを想定して作られていないため、そのシステムを作るのがかなり大変でした。

野原:阿部さんは『PROJECT REVIEWN』(ライブ来場者だけが映像を持ち帰れるサービス)のアプリ開発にも携わったエンジニアで、乃木坂46の全国握手会などで展開された動画配信システムも開発されていたので、『forTUNE meets』の件も相談させてもらったんです。

阿部:『PROJECT REVIEWN』のときは動画配信を行なうシステムだったので一方向の通信だけでしたが、これを双方向にすれば、握手会のオンラインシステムが実現できるかもしれないと考えました。

このアイデアをベースに、皆さんの意見を聞きながら開発を進めていったんですが、要望を形にしていく作業には比較的慣れているつもりだったんですけど、ファンの期待に応えるサービスにするためのコツというか、奥深さというのは、今回の開発で改めて知りました……。

野原:(笑)。皆さん、「ああしたい」「こうしたい」と好きなように言ってましたからね。でも、エンジニアの方が物理的に隣の席にいるというのは非常に助かりました。まさにソニーグループのシナジーと言えるもので、始まりがこの環境だったのは良かったなと思いますね。

──吉田さんは乃木坂46のスタート時からA&Rを担当されてます。これまでに数多くのリアルな握手会に立ち会ってきていますよね。

吉田:そうですね。全国握手会、個別握手会、それに、デビュー当時はショッピングモールでの握手会もやってましたので、おそらく200回以上は経験していると思います。

乃木坂46の認知度が上がるとともに握手会に来てくださるファンも増えて、それ自体は当然ありがたいことなんですが、いっぽうでメンバーの体力や精神的な部分にも負担がかかり疲弊してしまい、大変な時期を迎えたこともありました。

そんななかで握手会に代わるものを模索できないかということになり、SMEのマーケティング部門を経由して、ソニーのエンジニアの方々に『PROJECT REVIEWN』を開発していただきました。握手券が1枚あれば、全国握手会でのミニライブの模様をその場で1曲ダウンロードできるというアプリです。

そのときにも阿部さんにはお世話になっていて、全国握手会の会場で『PROJECT REVIEWN』のコーナーを設け、現場を仕切っていただきました。また、個別握手会では2013年の『ガールズルール』から『forTUNE music』と取り組むようになり、佐藤さんにも個別握手会の会場に設置している『for TUNE music』の窓口にて、ファンからの問い合わせに対応いただくなどご協力いただいております。そういったご縁があった上で、今回の『forTUNE meets』の開発が始まりました。

チームが驚異的な機動力を発揮

──乃木坂46の大規模な有観客ライブは、2020年2月にナゴヤドームで4デイズ公演『8th YEAR BIRTHDAY LIVE』を開催したのが最後でした。

吉田:はい。それ以降はライブと握手会が一切できない状況になったので、僕らも本格的にオンラインで何ができるのかを検討し始めました。それと、このころから『forTUNE meets』の開発会議に僕らも積極的に参加させてもらいました。

野原:ソニーのエンジニアの方などにも参加していただいて、何度も打ち合わせをしましたね。一時期は会議に30~40人が参加したときもありました。

吉田:3月までは対面で打ち合わせをして、4月以降はリモートで。そして5月に緊急事態宣言が解除され、少しずつ外に出られる状況になったころに、『forTUNE meets』のプロトタイプがあがってきました。

ただ、当然プロトタイプなので、ここからブラッシュアップしていこうというときに、アライアンス事業部代表の今野(義雄)さんが「プロトタイプの状態で、一回ユーザーの皆さんに体験してもらって意見を聞いてみたらどう?」というアイデアを出してくださったんです。

それで一部のファンの方に対してではあるんですが、7月に体験会を実施して、アンケートを取らせてもらった結果を反映したのが現在の形です。

野原:あのデモンストレーションイベントは非常に有意義なものでしたね。今野さんから提案をいただいて実際に体験会の実施に向けて動き出したときの、吉田さんたちのチームの機動力は半端じゃないなと思いました(笑)。

──約3カ月でプロトタイプが完成したんですね。

阿部:例えば新型のテレビを作るときは、だいぶ前から仕様やスケジュールが決まっているものなんですね。それこそ、3年とか5年とか。でも、今回は何もないところから始まって、ユーザー体験会も行ない、だんだんとやることが膨らんでいったので、先がどうなるのかわからず、恐ろしかったですね(笑)。

一同:(笑)

阿部:でも、それが非常に良いんですよ。僕がこのプロジェクトを通して感じたことは、「やってみなきゃわからない」ということ。経営のノウハウが書かれている本には真逆のことが書いてあるだろうし、効率的ではないのかもしれないけど、ソニーミュージックグループにはそれを受け入れる懐の深さがあると感じました。

実際『forTUNE meets』の制作も、3カ月先はどうなっているかわからないという感じで進めましたし、作ってみてダメだったら捨てるくらいの覚悟でやってるんですよ。これはすごいです。

佐藤:やってみないとわからないし、とりあえずやってみよう、という雰囲気は確かにありましたね。それと7月の体験会のフィードバックが予想以上に好反応だったというのも、制作の後押しになりました。それまでは急ピッチで進みすぎていたので感触が掴めず、「1回止めたほうがいいんじゃないか」という話も出たくらいだったんです。でも、第三者であり、ユーザーとなってくださる方たちの反応が良かった。これで、会社内でもいけそうだという機運に一気になりましたね。

テクノロジーはリアルな体験を楽しくさせる加速装置

──体験会では、どんな機能が欲しいという声があがりましたか。

吉田:待機している時間を使ってファン同士がやりとりできる機能を作ってほしいとか、いろいろな面白い意見をいただきましたね。佐藤さんが言ったように、思った以上に皆さんが楽しんでくれたので、まずは成功かなと直感しました。プロトタイプで良い印象を持っていただいたので、ブラッシュアップしていけばもっと良いものになるだろうという予感もありましたね。

──その後、開発は順調に進んだのでしょうか?

佐藤:2020年9月に『forTUNE meets』を使った初めてのイベントが決まっていたのですが、実はその週の頭まで、動作がかなり不安定だったんですよ。通信が落ちるとか、なかなかつながらないとか。「これで大丈夫なの?」という状況だったんですけど、ひとつずつ手探りで問題を解決していってローンチに間に合いました。

まだまだブラッシュアップしていかなければいけない部分はありますし、体験会で要望が多かったファン同士のコミュニケーション機能も現時点では実装できていないですが、宿題は忘れていません。

阿部:僕は、技術がユーザー体験を大きく変えられることはあまりないと思っているんですね。エンジニアとしての視点だと、正直、ただのビデオチャットがどう面白くなるんだろう? と思うところがあったんです。でも、そこをしっかり演出して楽しさを伝えるということに、吉田さんたちは非常に長けていて。実際ユーザーに喜ばれているのを見たときに、単純に「あ、すげえな」って思いました。

僕のなかでは、テクノロジーはリアルな体験をより楽しくさせる加速装置だと思っています。オンラインでの体験がリアルの体験に取って代わるということではなくて。デジタルを体験することによってよりリアルの価値が上がって、違う見え方をするというところに意味があるんだろうなと、今は実感しています。

後編につづく

文・取材:永堀アツオ
撮影:下田直樹

関連サイト

forTUNE music
https://fortunemusic.jp/(新しいタブで開く)

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