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連載Cocotame Series

音楽ビジネスの未来

“すべての人に音楽の楽しさを伝えたい”――「ゆるミュージック」で描く音楽業界の未来【前編】

2021.01.30

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聴き方、届け方の変化から、シーンの多様化、マネタイズの在り方まで、世界規模で変革の時を迎えている音楽ビジネスの未来を探る連載企画。

今回は、ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)がベンダーとして、プロジェクトに協力する『世界ゆるミュージック協会』をフィーチャー。

一般社団法人世界ゆるスポーツ協会が発足させ、主催する『世界ゆるミュージック協会』は、“すべての人に楽器を演奏する喜びを提供する”という理念のもと、リズム感や音感がなくても、気軽に、そして気兼ねなくプレイできる楽器を開発し、イベントなどを通じて、老若男女が演奏や合奏を楽しめる取り組みを行なっている。

SMEの担当者たちは、このプロジェクトの何に共感し、そしてどんなビジョンをもって取り組んでいるのか。『世界ゆるミュージック協会』に協力するSMEの主要メンバーのなかから、梶望と福田正俊に話を聞いた。

前編では、SMEが『世界ゆるミュージック協会』と出会ったきっかけとプロジェクトに協力する狙いについて語ってもらった。

  • 梶 望

    Kaji Nozomu

    ソニー・ミュージックエンタテインメント
    EdgeTechプロジェクト本部MXチーム
    チーフマネージャー

  • 福田正俊

    Fukuda Masatoshi

    ソニー・ミュージックエンタテインメント
    EdgeTechプロジェクト本部MXチーム
    プロデューサー

“音楽を奏でる楽しみ”をダイバーシティとして実現したい

――まずは、SMEが『世界ゆるミュージック協会』と出会ったきっかけをお聞かせください。

梶:僕は、宇多田ヒカルとずっと仕事をしてきたので、彼女が2017年にエピックレコードに移籍するときに、一緒に呼ばれてソニーミュージックグループで働くことになりました。主務は、宣伝やマーケティングを担当しているんですが、せっかくソニーグループの一員であるソニーミュージックで働くのであれば、いわゆる「音楽レーベル」以外の仕事もやってみたいなと思っていたんです。

そんなことを考えていたら、社内で新規事業案を募集する企画がありまして、わりと無邪気に3案くらい提出したんです。そのなかのひとつが、レコード会社ならではのクリエイティブ・ブティックを作りたいというもので。音楽のフィールドで培ったノウハウをいかして、いろいろなジャンルのクリエイティブに挑戦してみようというものでした。

それを面白いと思ってくれたグループ内の有志のメンバーと検討会を重ねていくうちに、広告業界の方々が作るクリエイティブ・ブティックとは違う、ソニーグループの独自性を前面に出した、音楽とエンタテインメントを主軸とする面白い取り組みが、何かできるんじゃないかという結論に至ったんです。

ちょうどそのころ、たまたま僕が前職で知り合った『世界ゆるスポーツ協会』の代表理事の澤田智洋さんとお話する機会がありまして。『世界ゆるスポーツ協会』で培ったノウハウを“音楽”にも活用したいというお話を伺ったんです。だったら、「一緒に何かできることを考えましょう」ということになり、我々がベンダーという立場で参加させていただくことになりました。

――澤田さんがお作りになった『世界ゆるスポーツ協会』は、どんなことを目的にされているのでしょうか?

梶:『世界ゆるスポーツ協会』は、“年齢・性別・運動神経に関わらず、誰もが楽しめる新スポーツを創る”をコンセプトにした、いわゆる“スポーツのダイバーシティ”を目指している団体なんです。

彼らが提案する「ゆるスポーツ」のなかには、テクノロジーのサポートを受けている競技もいろいろあるので、だったら「ゆるミュージック」は、ソニーミュージックグループの音楽にまつわるノウハウに加えて、ソニーグループのテクノロジーもいかす形で、音楽の楽しさを広げていくプロジェクトにできないだろうかと考えました。

――「ゆるミュージック」「ゆる楽器」を作る上で、ソニーグループのテクノロジーにどんな可能性を感じていたのでしょうか?

梶:ソニーミュージックに来てから、ソニーグループのエンジニアの方々が集う開発現場に何度かお邪魔させていただく機会があったんです。そこでは、単純に「すごい!」と感じる技術から、僕のような素人には何に使われるのか想像すらつかないものまで、さまざまな技術が研究開発されていました。

そこでいろいろなお話を聞いたんですが、やっぱりエンジニアの方々は、「世の中をもっと面白くしてやろう」「この技術で世界をあっと言わせたい」と息巻いている人がたくさんいて。そういう人たちの熱量も「ゆるミュージック」に取り込めないかと考えたんです。

また、研究されているもののなかには、面白い技術だけど出しどころが未定というものもあって。僕らがハブになることで、そういう埋もれている技術にもスポットを当てられたらと思ったんです。そこで、日ごろからソニーグループの方たちと付き合いが深く、エンジニアの方々からも慕われている福田さんに相談したところ「超面白いじゃん」と(笑)。

福田:今、在籍しているEdgeTechプロジェクト本部という部署もそうなんですが、僕はソニーグループの各社と連携する仕事に携わることが多くて、ソニーのエンジニアの方たちとは日常的に情報交換をしているんですね。

梶さんのアイデアを聞いたときすごく面白いと思ったので、さっそく「ゆるミュージック」に興味を持ってくれそうなエンジニアの方、何人かにお声がけしてみました。すると、エンジニアの方々も「こういうご提案はありがたい」と乗ってきてくれて。

彼らといろいろと情報交換をしているなかで“技術を生み出す能力”は一流だと感じるのですが、それを“お客さんが求める形”に落とし込むのが意外にも苦手な印象を持っていました。僕らはどちらかというとその逆で、技術についての詳しいことはまったくわからないけど、ファンやお客さんがどういうものを受け入れて楽しんでいるのかは、毎日のように感じています。

だから、このマッチングはお互いがそれぞれのウィークポイントを補えて、ハマるんじゃないかと思ったんです。そして何より、なんか楽しそうだなと思って。いろいろ動いていたら、いつの間にか自分も正式にチームメンバーに加わってました(笑)。

梶:福田さんは、ソニーのエンジニアの方々の駆け込み寺みたいな存在なんですよね。「福田さん、これどう思います?」とか「これ、何かのエンタメに使えないですかね?」みたいな感じで、みんなが相談に来ちゃう。

そんな福田さんも「ゆるミュージック」は「楽しそう!」って言ってくれたので、じゃあ、プロジェクトとしてちゃんと立ち上げて、ベンダーという立場で『世界ゆるミュージック協会』に参加しましょうということになったんです。

「ゆる」とは「絶望の反対にあるユーモア」

――改めて“ゆる”というキーワードについてお聞かせください。“ゆる”には“ゆるい”とか“ゆるめる”とか、複数の意味がありますが、「ゆるミュージック」の“ゆる”の意味は、何であると考えていますか。

梶:“ゆる”という言葉は澤田さん曰く「日本語にしかない言葉で、英訳できない言葉」だそうです。この感覚をしっかり具体化できたら面白いものができるんじゃないかと思いました。

そもそも僕が“ゆる”という言葉に共感したのは、宇多田ヒカルがデビュー当時に言っていた言葉がきっかけなんです。詳細は、以前にもお話ししているので、そちらに任せますが、15歳の彼女が「絶望の反対はユーモア」だと言うんですね。この考え方に、僕は深く共感していて、澤田さんがおっしゃっている“ゆる”というキーワードは、まさしくその「ユーモア」だと思うんです。

■宇多田ヒカルとのエピソードはこちら
宇多田ヒカルの宣伝プロデューサーが「サブスク時代のヒット創出のノウハウ」を伝授!

澤田さんは著書『ガチガチの世界をゆるめる』(百万年書房刊)でもお書きになっていますが、お子さんが障がいを持って生まれたことをきっかけに、子どもが楽しく過ごせる明るい未来を作っていこうと考えたそうです。もちろんお子さんの障がいが澤田さんの心に、実際、どのように響いたのか、本当のところは第三者にはわかりません。

でも、その事実がわかってから、やっぱりマイナスに引っ張られる思考はあったと思うんです。そして、その対極として子どものために明るい未来を作ろうという発想が生まれ、『世界ゆるスポーツ協会』の理念も誕生したんだと思います。

苦悩を味わった人の“ユーモア”に“ゆる”が込められる。クスッと笑えるユーモアのなかにこそ、彼のメッセージや信念、物事の本質が存在するのではないかと感じています。

福田:梶さんに澤田さんを紹介していただいて、“ゆる”の考え方に僕も本当に心酔したんですよね。それで個人的に『世界ゆるスポーツ協会』のイベントに足繁く通うようになったんですが、イベントで皆さんが「ゆるスポーツ」を心底楽しんでいる姿がすごく素敵でした。若い人もお年寄りも、みんながスポーツで笑っている。これの音楽版ができたら良いなと心から思いました。

梶:“ゆる”というと多くの人が「ゆるキャラ」を連想すると思います。また、“ゆる”と聞くと“適当に”とか“だらしない”なんてイメージをする人もいるかもしれません。しかし、「ゆるスポーツ」の“ゆる”とは“ゆるめる”であり、間口を広げることを意味する“ゆる”なんです。

これは、おそらく澤田さんなりの“ニューノーマルの提案”でもあると思うんですよね。考え方、スタイルがガチガチな日本を“ゆるめる”ことで変えていきませんか? と。既成概念や固定観念を壊すのではなくて、ゆるめることでソフトランディングさせて世界を変えていこう、新しいカルチャーを生み出そうとしているんだなと。そう僕は解釈しています。

――なるほど。では、SMEとして「ゆるミュージック」をプロジェクト化する上で、目標としていたことはありますか?

梶:当然、会社として取り組むプロジェクトとなると“大義”が必要になります。その大義を、僕らは「将来の音楽マーケットを創造する活動」と設定しました。僕はレーベルの仕事として、普段はアーティストのマーケティングをして販売戦略を組み立てたり、作品を世の中に広げていく仕事をしています。そこでよくリサーチをするんですが、昨今は価値観の多様化と趣味嗜好の細分化が進み、若年層を中心に音楽に興味がない人が増えてきていることがわかりました。

個人の見解ですが、これまでは100人の人がいたら99人は何かしらで音楽の影響を受けていたと思うんです。音楽を聴いたり、カラオケで歌ったり、楽器を弾いたり、いろいろな形で音楽に触れる機会がありました。

ところが、どうやら今の若い子はそうではないらしい。これは脅威だと感じましたね。だって、“興味がない”ですよ。賛否の俎上にすら載らないということでは、これからの音楽マーケットのポテンシャルが失われてしまうと危機感を覚えました。

ならば、音楽業界の一員として、将来の音楽マーケットを創る活動をしていくことが、このプロジェクトの大義になるのではないかと考えたんです。

福田:僕自身もそれは実感していて。昔はギターを持って街を歩いている人がたくさんいたけど、今、楽器を持って街を歩いている人、減っちゃったじゃないですか。もっと楽器を弾ける人が増えたら楽しいだろうなと純粋に思っていたなか、“ゆる”というキーワードに出会って。我々の活動を通じて、老若男女問わず“音を出す楽しみ”に触れてもらえたらと思っています。

後編では、イベントを中心とした『世界ゆるミュージック協会』の具体的な取り組みと、「ゆるミュージック」を起点とした音楽マーケットを拡大させるビジョンについてふたりに話を聞く。

後編につづく

文・取材:志田英邦
撮影:干川 修

© 2019-2020 World YURU Music.
© 2015-2020 World YURU Sports.

関連サイト

世界ゆるミュージック協会
https://yurumusic.com/(新しいタブで開く)
 
世界ゆるスポーツ協会
https://yurusports.com/(新しいタブで開く)
 
澤田智洋 Twitter
https://twitter.com/sawadayuru(新しいタブで開く)

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