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連載Cocotame Series

音楽ビジネスの未来

ライブをアップデート!――“フィロソフィーのダンス”のオンライン・ライブで得た知見の共有【中編】

2021.02.12

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聴き方、届け方の変化から、シーンの多様化、マネタイズの在り方まで、世界規模で変革の時を迎えている音楽ビジネスの未来を探る連載企画。

今回は、新型コロナウイルスの影響から一気に需要が高まり、業界で注目を集めるオンライン・ライブの可能性について関係者を招き考察する。

集まってもらったのは、昨年11月に行なわれたアイドルグループ、フィロソフィーのダンスの無観客オンライン配信ライブ『World Extension』に携わった関係者たち。

ライブの演出を手がけた渡辺大聖氏、フィロソフィーのダンスのプロデューサーでソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)の加茂啓太郎、フィロソフィーのダンスのA&Rを務めるソニー・ミュージックレーベルズの山﨑里樹、そしてSMEでエンタテインメントと最新テクノロジーの研究開発を行なっている福田正俊の4人だ。

中編では、オンライン・ライブをファンに楽しんでもらうために、アーティストとスタッフサイドがどのような点に気を配るべきかについて語ってもらった。

  • 渡辺大聖氏

    Watanabe Taisei

    ドームクラスのライブをはじめ、リアル/バーチャルを問わずさまざまなアーティストを手がける新進気鋭の演出家。

  • 加茂啓太郎

    Kamo Keitaro

    ソニー・ミュージックエンタテインメント
    RED制作部

  • 山﨑里樹

    Yamazaki Rina

    ソニー・ミュージックレーベルズ
    第1レーベルグループ gr8!records制作部

  • 福田正俊

    Fukuda Masatoshi

    ソニー・ミュージックエンタテインメント
    EdgeTechプロジェクト本部LSチーム兼VRチーム兼MXチーム
    プロデューサー

オンライン・ライブで演者に求められる立ち居振る舞い

──今回のライブでは、事前の応募に当選したファンがZoomを通して、メンバーたちとコミュニケーションが取れるようになっていて、演者のモチベーションを上げるという意味でも良い演出だったように思います。奥津マリリさんがうれし涙を流していた光景も印象的でした。

山﨑:Zoomの演出は、ファンの方々はもちろんですが、彼女たち自身にも喜んでもらおうと企画したものです。本当にお客さんへの愛情が強い4人なので、ディスプレイを通してでも、いつも応援してくれているファンの皆さんが、どんな表情でこのライブを見てくれているのか。それがメンバーに伝わって、彼女たちのモチベーションとパフォーマンスがさらに上がってくれればと思っていましたが、実際にその通りになって良かったですね。

渡辺:ライブでは、たくさんのカメラが彼女たちを捉えていましたが、メンバーたちは、その一つひとつに的確に目線を送ってくれていました。公演後に見直しても、視線が外れず、ちゃんと目が合うんですよね。

カメラを通してなんですが、彼女たちはちゃんとその先にあるファンを見ているんだなと改めて感じました。魂が乗っているというか。それを実現できたのは今回で言うと、Zoomを通してお客さんとつながる企画だったと思います。

加茂:メンバーにとってファンの存在は支えであるし、エネルギーの源ですからね。ですから、顔が見えているというのは演出側が欲しい映像と考えるよりも、演者にとってどれだけ重要で気持ちを乗せられるかということがわかりましたね。これからのオンライン・ライブでは、ファンの顔を見ながらパフォーマンスするというのがベーシックになってもおかしくないと思います。

──カメラの向こう側にいるファンに向けて、カメラはこう見てほしいというようなテクニカルな面で彼女たちにアドバイスはされましたか。

渡辺:リハーサルだけでなく当日も彼女たちからどれくらいカメラを見たらいいのかわからないという相談は受けました。今までのオンライン・ライブだと目線がないことが多いんですが、僕はずっとカメラを見ていていいからと彼女たちに伝えたんです。彼女たちの目線用に、ひとり1台ずつカメラとジンバルを用意して、なるべく自然なパフォーマンスのなかで目線をもらえるようにしました。

通常のライブでは来てくれたファン全員を対象としますが、オンライン・ライブは「今、これを見てくれているあなたに向けてパフォーマンスを届けているよ」というやり方が伝えやすいんじゃないかと思ったので。彼女たちにも「一人ひとりのファンに届くからカメラを見てて!」と相談されるたびに伝えました。

メンバーたちの葛藤とオンラインならではの課題

──オンライン・ライブでの演者の視線は、存在しない大勢の観客に向けられているようで、ライブ映像を見ている気分になることが多いのですが、今回のフィロソフィーのダンスのライブは、自分に向けて歌われているような感覚を抱きました。ただ、メンバーたちは画面の向こう側で発せられる熱量を感じることは難しかったのではないでしょうか。

加茂:そうですね。彼女たちもやりづらかったと思います。目の前で盛り上がってくれるファンがいないですし、チャットの書き込みやSNSでリアクションがあっても、メンバーはステージなのでリアルタイムで見ることもできないですから。そもそもアイドルのライブはコールやミックスが行き交うインタラクティブなものなので、そこをどう補完していくかは今後の課題でもありますね。

山﨑:その点で言うと、ファンの方々の反応も心配だったんです。オンライン・ライブは昨年の11月の時点で、世の中的にも少しずつ飽きられてきているなという認識がありましたし、今回のARライブを行なった週の日曜日に、別の有観客の対バンライブも予定されていて、配信の方はあまり観られないのではないかという不安もありました。

でも、ふたを開けてみると「迷ったけど払うだけの価値があった」「チケット買ってよかった、DVD化してほしい!」「ARの演出ありきのライブになってしまうのではと思っていたけどメンバーのパフォーマンスを立たせて、トータルで魅せる演出いなっていて感動した!」とか、すごくうれしい感想がたくさん書き込まれていて、スタッフ側としても挑戦して良かったと思いました。

──フィロソフィーのダンスは、偶然にもコロナ禍でのメジャー・デビューとなり、色々と予定していたことができなくなっていったことに対して、彼女たちも悲しみ、また不安になったのではないかと想像します。

加茂:そうですね。メジャー・デビュー決定をおおやけにしてから、その後、スケジュールの発表ができないまま1回目の緊急事態宣言に突入して。春ごろだろうと思ってくれていたファンも、コロナ禍で伸びているんだろうとはわかってくれていましたが、その間に離れてしまう方もいるかもしれない。やはり、ファンの前に立ってこそのアイドルですから、メジャー・デビューのタイミングでそれができないことで、先行きに不安を覚えていましたね。

──それでもオンラインとは言え、ライブという明確なひとつの目標ができたことは、彼女たちにとっても良かったのではないでしょうか。

山﨑:予定されていた大きなライブができなくなって彼女たちも、スタッフも焦りは感じていました。でも、メンバー全員、すごくポジティブで、一人ひとりが今何をすべきかをよく考えていましたね。「どうにかしてください」ではなく、「一緒に考えましょう!」というスタンスで、自粛中もオンラインでよくディスカッションしていましたし、自分たちの考えやアイデアもしっかり言ってくれる頼もしい4人です。

業界全体のために最新技術を使った演出のコストダウンが急務

──通常のオンライン・ライブの現場と違って、今回はARを演出に加えたライブだったので、特別な機材と専属のスタッフの方も加わっていました。コスト面で考えると、やはり通常よりも多くかかってくるものなのでしょうか。

福田:AR演出のための機材費や人件費が加わるので、確かにコストはその分かかります。ただ、今後のことで言うと、過去に作ったものをテンプレートにするとか、節約する方法はまだまだあると思っています。また、CGなどの制作に慣れていらっしゃる、例えばゲーム業界の企業やクリエイターの方々が参画するようになると、コスト面にも良い影響があるのではないかと期待しています。

渡辺:ほかにもコストを下げる方法はいくつかあって、ひとつは施設に機材を置いてしまうこと。システムとして導入されれば、使用料もグッと抑えられるので、インフラ側で整備してもらえることを今後期待したいです。ソニーミュージックグループで言えば、例えばライブホールのZeppに常設できたら良いですよね、と福田さんともよく話していました。

もうひとつは福田さんのテンプレートのお話しにも通じるアセット化です。背景を大道具さんや美術さんが制作するのではなく、あらかじめCGで制作したセットを高精細なLEDで表現して、その映像内の照明とリアルな照明を同時に調整することができれば、空間の色温度を揃えて、あたかもセットが存在するかのように見せることができるんです。そのバーチャル・セット・システムを導入できれば人件費も制作費も抑えることができます。

また、スノーマシーンを使って雪を降らせたり、特効で火を上げたりするのはコストの面でも時間の面でも大変ですが、ARでテンプレートを作っておけば、いつでも雪を降らせたり、火柱を立たたせることができます。そんなテンプレートをライブラリ化していけたら、もっと気軽に使えるようになっていくでしょうし、何より演出の幅が広がります。

■フィロソフィーのダンス「なんで?」Online Live “World Extension”

加茂:消防法にも引っかからない火柱ですからね(笑)。今回のライブを行なったことで、これもできるんなら、あれもできちゃうんじゃないというように可能性はすごく感じることができました。あとは、いかに一般的なオンライン・ライブの制作費に近いところまでコストダウンができるかですね。

福田:最近では、高校生や中学生でもUnity(ゲームを開発するツール)などを使いこなしてしまう時代です。また、テクノロジーは日々進歩していて、実際、独学ですごいものを作っているクリエイターがネット上にはたくさんいます。近い将来、そういう若年層のプログラマーが作った舞台や特効を使って、自分でライブ演出もやっちゃう、なんて時代も来るのではないでしょうか。

とにかく大事なことは、今回のARの演出もそうですが、新しいテクノロジーを使ったライブ演出を“予算ありき”にしてはいけないということ。業界全体でコストを下げる努力をして、より多くのアーティストが演出を取り入れて、ファンにもっと楽しんでもらえるインフラを作っていかなければいけない。そこはいろいろな分野の方ともよく話し合っている議題です。

最新技術を使っていてもアーティストファーストの演出が必須

──今回は、ARを使って雪が降っている演出されていましたが、メンバー全員が映っている引きの映像では雪があり、それぞれの寄りの映像になるとないという違いも見受けられましたね。

渡辺:そこがまさしくコストの問題で、今回はクリアできなかった点です。僕たちも気になっていたんですが、諦めざるを得ない状況でした。ただ、それを解決する方法は開発中なので、次回はすべてのカメラで雪を降らせたいです。

それと、そのご指摘はすごく大事なことだと考えていて。テクノロジーを前面に押し出した演出は、1度や2度であれば、「すごい!」と言ってもらえるかもしれませんが、回数を重ねれば、当然のことだと捉えられます。

なぜなら、当然ながらファンは技術を見に来ているわけではなく、アーティストのライブを見に来ているからです。ARをはじめとしたすべてのテクノロジーは、物理的に行なうのが難しいことを代替する技術であって、あくまでも黒子の立ち位置にあるもの。演出側はファンを興ざめさせないように、テクノロジーを取り入れることを心掛けないといけませんよね。

──コストとの兼ね合い、演出に取り入れる上での注意点も理解されての挑戦だったんですね。

渡辺:はい。自然な流れのなかで、彼女たちの音楽性とライブの世界観を拡張するためだけに使うということを前提に、今回は初の試みも多かったので許容範囲として乗り切れるだろうという考えでした。

もう一点大切なことなのですが、雪が降るシーンで、振り付けのMëg先生がすばらしいアイデアをくださいました。彼女たちが降ってくる雪を触ろうとする仕草を加えてくれたんです。これは、まさに僕がやりたかったことだったんですが、あのシーンをどういう動きで、どういう映像になるのか、言葉として伝えるのが難しく、僕からは彼女たちにはお願いできなかったんです。

でも、現場でMëg先生はやれると判断して指示してくれたので本当に感謝しています。そのちょっとした仕草があるだけで、ARの存在価値が全然違ってくる。今回、こうやってパフォーマンスのひとつとしてARを使えたのは大きかったですね。

山﨑:手の仕草、素敵でしたよね。あの雪の演出が入ったアコースティック・ステージに切り替わるとき、衣装チェンジがあったんですが、実は、裏では早着替えでメンバーもスタッフもてんてこまいだったんですよ(笑)。

でも、映像ではすごくスムーズにチェンジしていて、「これって収録?」と思ったファンの方もいらっしゃったんじゃないかと。なので、あそこは敢えてバタバタ感を出して、リアリティのある見せ方にしても良かったかなと感じました。

渡辺:カメラがバック・ステージに向かう彼女たちを追っていくというのはすごくやりたかったですよね。でも、残念ながら導線が狭くて断念しました(笑)。

加茂:オンライン・ライブのアイデアということだと、これも場所の制約があると思いますが、できたら良いなと思うのは推しの子だけを写すカメラ。ファンならずっと見ていたいと思うので、実現したいですね。

──そう言えば、今回のライブ映像がすごく滑らかで、テレビの番組を見ているようでした。一般的なオンライン・ライブはもっとギラギラした映像になっているように感じるのですが、何かされていたのでしょうか。

渡辺:そこを気付いてもらえたのはうれしいですね。実は、ライブにはライブの照明の出し方があって、テレビならテレビの照明の出し方があります。今回の撮影環境で言うと、メンバーをよりきれいに見せるために、ミュージックビデオ(以下、MV)の撮影で使う照明が一番適していたので、それを使っています。

具体的には、ライブ照明は一般的にピンスポットを使って肌を浮き立たせるんですが、それを映像として流すと全体のなじみが悪くなってしまうんです。だから、ピンスポットや明るいLED光源を使うのではなく、MVやスチール撮影で使う肌当て専用の照明を使って、肌をきれいに見せています。

──それともうひとつ気付いたのが、彼女たちのMCで「見てくれてありがとう」ではなく、「来てくれてありがとう」と言っていたのが印象に残りました。

福田:「見てくれてありがとう」だと、画面越しのファンが距離を感じてしまう気がして、細かい部分なんですけど「来てくれてありがとう」はどうか、と提案しました。「ライブ」というからには“同じ時間を共有している”ことがとても重要な価値だと思うので、そんな言葉使いひとつでも、見てくれているファンの受け止め方は違ってくるのではないかと考えています。

このオンライン・ライブで細かい言葉遣いや目線の置き方の大切さが改めてわかったので、どうすればより濃密な体験を提供できるのか、もっと議論していきたいと思います。そして、そういったノウハウを僕らだけではなく、他社も含めたA&Rや現場の人とも共有して、オンライン・ライブの価値について一緒に考えてもらえたらありがたいですね。エンタテインメント業界全体でこの難局を乗り越えていくためにも、こうした取材を通じて共有できることは、どんどん共有していきたいと考えているんです。

後編では、オンライン・ライブの未来について、それぞれが思い描くビジョンを語ってもらった。さらに、フィロソフィーのダンスのメンバー4人からもライブに対する熱い想いを聞いている。

後編につづく

文・取材:油納将志
撮影:冨田 望(インタビュー、リハーサル)

■リリース情報

フィロソフィーのダンス 2ndシングル
『カップラーメン・プログラム』

発売日:4月28日(水)発売

・初回生産限定盤A(CD+Blu-ray):6,500円(税込)
「Philosophy no Dance “World Extension”」(2020年11月19日)ライブ映像収録
※他、ボーナス映像収録予定(後日発表)
※スペシャルボックス仕様
※副音声にメンバーによるオーディオコメンタリー収録
※オリジナル・ステッカー封入
※撮りおろし写真で構成された豪華フォトブック付き

・初回生産限定盤B(CD+DVD):2,200円(税込)
カップラーメン・プログラムMV+メイキング
※紙ジャケット仕様

・通常盤(CD only):1,200円(税込)

<収録曲・全形態共通>
・カップラーメン・プログラム
他全4曲収録予定

■フィロソフィーのダンス「カップラーメン・プログラム」MVはこちら
■フィロソフィーのダンス「カップラーメン・プログラム」先行配信URLはこちら

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