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連載Cocotame Series

DXを考える。

「DX」のその先へ――テクノロジー×エンタテインメントで空間の未来を創る『EX』【後編】

2021.06.02

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IT技術を活用し、社会全体をより良いものに変革していこうとする「デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)」。連載企画「DXを考える。」では、「DX」に取り組む人々に話を聞きながら、エンタテインメント業界において「DX」がもたらす新たな価値や可能性を探っていく。

連載第1回では、ソニー・ミュージックソリューションズ(以下、SMS)の「スペースプロデュースオフィス(以下、SPO)」チームが提唱する『エンタテインメント・トランスフォーメーション(以下、EX)』をフィーチャー。

ソニーミュージックグループが持つエンタテインメントにまつわるノウハウと、ソニーグループ各社のテクノロジーを活用し、エンタテインメント性と利便性を両立した空間をプロデュースする『EX』とは、どのような取り組みなのか。

後編では、『EX』が今後目指していく未来についてプロジェクトメンバーが語る。

  • 川田大洋

    Kawada Taiyo

    ソニー・ミュージックソリューションズ
    アシスタント・マネージャー

  • 田村健介

    Tamura Kensuke

    ソニー・ミュージックソリューションズ

  • 松盛 剛

    Matsumori Go

    ソニーセミコンダクタソリューションズ

ソニーグループのテクノロジーを用いたさまざまなソリューションを提案

──(前編からつづく)「JAPAN SHOP 2021」では、『EX』の代表事例としてソニーグループのテクノロジーを用いたさまざまなソリューションが展示されていましたが、そのなかにソニーセミコンダクタソリューションズの技術を用いた事例もありました。センシング技術(センサーを用いて取得した情報を活用する技術)とエンタテインメント、空間プロデュースがどのように結びついたのでしょうか。

松盛:「JAPAN SHOP 2021」で展示したソニーセミコンダクタソリューションズの技術はふたつあります。ひとつが、AI処理機能を搭載した「インテリジェントビジョンセンサー」です。このセンサーを採用したカメラを商業施設内に設置すると、訪れた人がその空間で何をしたいのかが把握できます。

例えば、どのような方がどの売り場に滞留し、どのようなルートを通ったか。それらの情報を得ることで、商業施設側はよりお客様に寄り添ったサービスを提供することが可能になります。

従来は、レジを打つ方がお客様の情報を入力していましたが、それだけでは商品を購入するまでに、そのお客様にどのような思考があったのかがわかりません。購入に至るまでの流れを可視化することで、お客様の買い物をより便利にしたいと考え、ソニーセミコンダクタソリューションズはこのセンサーを活用したソリューションの開発を進めています。

「インテリジェントビジョンセンサー」の活用事例(イメージ図)。

──その技術は、商業施設を訪れた方々のプライバシーには、配慮されているのでしょうか。

松盛:もちろんプライバシーにも配慮しています。画像情報を出力しないメタデータ(撮像データに属する意味情報)出力のみのモードを選択できるため、例えば5秒間ある座標で立ち止まっていたなど、情報のみを文字で残すようにすることで、個人を特定させないようにしています。また、画像を出力しないことは、転送するデータ容量を抑えることにも役立っており、消費電力の削減や通信コストの削減にも繋がっています。

──もうひとつのソリューションは、どのようなものでしょうか。

松盛:「AR MAP ソリューション」です。商業施設がお客様にメッセージを送るのは、ほとんどの場合、お客様がその施設で買い物をしていないときです。皆さんのもとにも、商業施設からSNSやメールなどでメッセージや通知が届くことがありますよね。でも、受け取ったのが自宅だとなかなかアクションを起こせません。そこで、施設内でショッピング中の方にメッセージを送るために、このソリューションを開発しました。

従来のARソリューションは、マーカーを読み込むことで意図した位置に情報が表示されていましたが、この「AR MAP ソリューション」はマーカーを読む必要がありません。スマートフォンやタブレットでアプリを起動してその空間に入るだけで、広告やナビゲーションを表示することが可能です。また、イメージセンサーで培った、センシングおよび画像処理技術が、没入感や利便性の向上にいきています。

例えば目の前でお茶が売られていたら、そこにお茶の動画が表示され、どのような産地で作られているのかがわかるといった演出が可能です。タップするとECサイトが表示され、そのままお茶を購入することもできます。要は、スマートフォンやタブレットをかざすと、現実空間にARコンテンツが表示されるという仕組みですね。

「AR MAP ソリューション」のイメージ図。

──「JAPAN SHOP 2021」の展示に関してはどのような準備をされたのでしょうか。また、他社のAR技術との差別化についても教えてください。

松盛:「JAPAN SHOP 2021」で展示した際には、会場である東京ビッグサイトのデジタルコピーを作り、そこにARコンテンツを配置していきました。技術的な差別化は、「インテリジェントビジョンセンサー」と連動し、お客様一人ひとりに応じたARを表示できることです。世の中にあふれる情報のなかから、その方の趣味嗜好、行動に合わせて最適化したARコンテンツを表示させることができます。

川田:Webの世界では個人にパーソナライズされた広告や情報が表示されますよね。これの現実版が「AR MAP ソリューションズ」で、これを通じて自分が欲しい情報が得られる、そういう未来を描けたらと考えています。

松盛:こうしたテクノロジーを用いることで、来場者には新たなショッピングやイベント体験を提供し、店舗側にはお客様との新たなコミュニケーションを創造できるチャンスを提供できます。

最初に田村さんからお声掛けいただいたときは驚きましたが、よく考えてみるとこうしたテクノロジーが力を発揮するには、空間設計の段階から関わるのがベストですよね。購入体験の価値も2倍、3倍にも膨らむと考え、ぜひ一緒にやらせていただきたいと思いました。

──「JAPAN SHOP 2021」SPOブースでのソニーセミコンダクタソリューションズ以外のソニーグループ各社の展示は、どのようなものでしたか?

田村:「インタラクティブ・テーブルトップ・プロジェクター」「対話型キャラクターエージェント」「空間再現ディスプレイ(Spatial Reality Display)」「Crystal LED ディスプレイシステム(ZRD-2)」「円筒透明ディスプレイ」などを展示しました。

■インタラクティブ・テーブルトップ・プロジェクター
ソニーグループが開発した独自の画像認識技術により、テーブル上での手指の三次元的な動きやテーブル上に置かれた物体形状を認識することができ、テーブルや物体を直接触って操作するインタラクティブな空間を提供。

協力:ソニーグループ株式会社

 
■アバターエージェント
音声合成(Text to Speech)、音声認識による対話インターフェイスはもちろん、個人識別機能を実装することで、「人に寄り添うおもてなし」を実現した対話型キャラクターエージェント。

協力:ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社

 
■空間再現ディスプレイ(Spatial Reality Display)
その場に実物があるかのような立体映像体験を実現するディスプレイ。

協力:ソニー株式会社

 
■Crystal LED ディスプレイシステム(ZRD-2)
ソニーが開発したスケーラブルな高画質LEDディスプレイシステム。

協力:ソニー株式会社、ソニーマーケティング株式会社

 
■円筒透明ディスプレイ※開発品
透明な円筒スクリーンに2D映像を投影することで、周囲360°どこからでも映像を楽しむことができる新体験ディスプレイ。

協力:ソニーグループ株式会社

川田:例えば、飲食店が「インタラクティブ・テーブルトップ・プロジェクター」を導入すれば、提供する料理に上からプロジェクションを当てて、動き回るキャラクターを表示させたり、そこに触れて新たな演出を加えることもできます。

こういったソリューションを提供することで、お店側は料理で対価を得るだけでなく、食事という“体験”を販売することも可能です。お客様の来店から退店までの一連の体験フローを設計できるのが、我々独自の強みだと思います。

また、今回は展示しませんでしたが、ソニーとヤマハ発動機が共同開発したエンタテインメント用車両「Sociable Cart(ソーシャブルカート) SC-1」、エンタテインメントロボット「aibo」、スマートホームサービス「MANOMA(マノマ)」など、幅広いテクノロジーを用いた空間作りを『EX』では提案しています。

クライアントに寄り添って提供するエンタテインメントとテクノロジーが融合したソリューション

──これまでのお話を伺って、『EX』の実現には優れたデジタルテクノロジーだけでなく、それを空間プロデュースに落とし込み、クライアントにわかりやすく提案する必要があると感じました。

松盛:我々には、技術でより良い社会の構築に貢献したいという思いがあります。ただ、技術はあくまでも“手段”であって、そこにエンタテインメントやコンテンツが加わって初めて“体験”に進化することができます。

世の中には、素晴らしい技術であっても、誰にも使われず眠ったまま時が過ぎていってしまうこともあります。逆に、エンタテインメントやコンテンツがあっても、届ける手段、つまり洗練された技術がなければ優れた体験にはなりません。

例えば、空間にARキャラクターを表示させる場合でも、解像度が低かったり、動きがカクカクしていたり、思った場所に出現せずテーブルに食い込んだりすると、それだけで没入感が薄れて体験としてはベストなものになりません。

逆に、いくらリアルにARキャラクターを表示しても、コンテンツに魅力がなければ面白みは感じられない。エンタテインメントとテクノロジー、その両方が組み合わさることで非常に高い相乗効果が得られるのだと思います。

──松盛さんは、高度なテクノロジーを我々にもわかりやすく伝える翻訳能力、エンタテインメントと掛け合わせて空間に落とし込む応用力に長けているように感じます。

田村:その通りで、僕らとしても非常に助かっています。結局、このビジネスは人と人の関わり合いが重要だと自分は考えていて。ソニーだからとか、ソニーミュージックグループだからうまくいくというわけではなく、人と人の繋がりが最高のソリューションを提供できるのだと思います。

川田:これまでは技術を作る会社があり、間に代理店などを挟んでクライアントに提供されるというかたちが主流でした。しかし、我々はそこを一気通貫で展開していきます。さらに、松盛さんのようにテクノロジーを熟知され、その説明能力に長けた方と組むことができていますし、エンタテインメントに関しては我々が日常的に深く関わっています。

どうすればお客様に楽しんでいただけるか、そのためにどのような技術を用いるのがベストか、そのふたつを同時に考えることで、クライアントにとって最高の提案を行なっていきたいと考えています。

──松盛さんは「SPO」の皆さんと一緒に仕事をされて、どのような感想を持たれましたか?

松盛:トライ&エラーを重ねて新しいもの、面白いものを生み出そうとするスピード感は、ソフトウェアのアジャイル開発(開発工程を小さなサイクルで繰り返す手法)と近いものを感じました。

そういった共通点はありつつも、1月から猛ダッシュで「JAPAN SHOP 2021」の準備を進め、3月に出展するというスピード感は、今まで体験したことがありませんでした。ご一緒できて、勉強になりましたし、とても面白かったですね。

──「JAPAN SHOP 2021」の反響も大きかったそうです。どのような声が届いていますか?

松盛:「未来を感じた」「想像を上回る体験だった」という声を多くいただきました。コロナ禍を踏まえて商業施設などをどうやって新しいかたちにしていくか、そのヒントを探している方も多く、我々のAR技術に対して「リアルの体験をより良くするものだね」という声もいただきました。

ECでは、“モノ”は売れても“コト”を売るのは難しいですよね。逆に言えば、そこにこそチャンスがあると思っています。実際に商業施設を訪れることによって、ECサイトでは感じることのできない新たな体験を得られる。それが、これから目指すべき道なのかなと感じました。

川田:コロナ禍でわざわざ「JAPAN SHOP 2021」に足を運んでくださったのは、商業施設や店舗を何とかしなければいけないという使命感を持った方々。「DXで社会が便利になるのはわかるけれど、店舗をどのように展開すべきか」と考えている方が多く訪れ、『EX』のコンセプトにも深く共感していただけたという手応えを感じることができました。

「JAPAN SHOP 2021」でのSMSの出展ブース。

テクノロジー×エンタテインメントで街づくりを

──一般的には、まだ「DX」というワードがトレンドになっていて、概念としての定義が曖昧なまま使われていたり、「DX」によって変革した社会がどのようなものか、的確にイメージできている人は少ないと思います。そんななか「SPO」は、その先を見据えて『EX』を提唱しています。『EX』が目指す未来についてお聞かせください。

川田:将来的な目標のひとつに、都市開発があります。トヨタ自動車が静岡県裾野市に「ウーブン・シティ」を建設中のように、ソニーのテクノロジーを活用した『EX』シティを作れたら面白いだろうと思います。

街を訪れた方にパーソナライズされた情報がARで表示されたり、移動時はソニーとヤマハ発動機が共同開発したエンタテインメント車両「SC-1」を使ったり、歩いてる最中にもいろいろなエンタテイメントを体験できたり。テクノロジーとエンタテインメントの融合を感じていただけるような、便利で楽しい街づくりができたら面白いなと。

──“イベントブースや商業施設を作って終わり”ではなく、より広い視野でビジネスに取り組むということですね。

川田:はい。この記事を読んで、「『SPO』に相談したら自分が考えている未来を実現できるかも」と感じていただける方がいらっしゃったらうれしいですね。ぜひ夢や未来を話す相手として、お声がけいただければ。

田村:実績として具体的な事例を示せるのは、来年以降になりそうです。そちらをお見せできれば、我々が目指す未来について、さらに理解を広げられるのではないかと思います。「SPO」をフックに他部署と連携し、ソニーミュージックグループ、ソニーグループ一体となって新たな空間作りを提案していきたいですね。

テクノロジーが日常生活に溶け込んだ未来を意識して、空間を作っていく

──それでは最後に『EX』のビジョン、中長期的な目標についてお聞かせください。

田村:テクノロジーを用いた空間を作るだけではなく、ソニーグループのテクノロジーとソニーミュージックグループのエンタテインメントの力で、未来を創造していきたいと考えています。

我々としては、“『EX』を通じて新たな街、便利で楽しい社会を作りたい”というところまで考えています。まだその第一歩を踏み出したばかりではありますが、日本の未来に対する安心感、未来への期待値を感じていただけたらうれしいです。

松盛:クライアントの方々と話すと、今やデジタルツールは欠かせないという認識はお持ちです。ただ、商業施設や街といった空間に、どのような技術を溶け込ませたら良いのかがわからない。その点を担い、日常生活に技術を溶かしていくのが我々の仕事です。

例えば、駅からショッピングモールまでの道のりでは、ARが経路をナビゲーションし、途中にはショッピングモールのお得なキャンペーン、広告などが表示される。施設のなかに入ると、自分の趣味嗜好に応じた情報がポップアップしたり、ちょっとした宝探しや謎解きのような回遊型のエンタテインメントでクーポンがもらえるようになっていたり。

AR技術をことさらにアピールするのではなく、技術を日常に溶け込ませることで生活はもっと便利になるはずです。こうした提案を通じて、クライアントに寄り添い、新しい空間作りを実現していきたいですね。

川田:そのためには、デバイスの進化、普及も欠かせません。例えばARグラスが世の中に普及すれば、我々の生活ももっと便利になるでしょう。5G通信が普及すればデータ通信もよりスムーズになる。そういう意味でも未来は拓けていると思いますし、技術が溶け込んだ未来を意識し、空間作りをしていきたいと思います。

田村:一つひとつのテクノロジーも優れていますが、それだけでは“点”にすぎません。ソニーグループのテクノロジーとソニーミュージックグループのエンタテインメントを掛け合わせて“線”に、さらには“面”にして、未来を描いていけたらと思います。

 

文・取材:野本由起
撮影:冨田 望

関連サイト

ソニー・ミュージックソリューションズ
https://www.sonymusicsolutions.co.jp/(新しいタブで開く)
 
ソニーセミコンダクタソリューションズ
https://www.sony-semicon.co.jp/(新しいタブで開く)
 
SPACE EX
https://www.sonymusicsolutions.co.jp/s/spo/(新しいタブで開く)
 
「JAPAN SHOP 2021」出展プレスリリース
https://www.sonymusicsolutions.co.jp/s/sms/news/detail/202000110?ima=0000&link=ROBO004(新しいタブで開く)

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