激動の時代に音楽による癒しをもたらす老舗コンピレーション『image』の強み【前編】
2021.07.20
音楽を愛し、音楽を育む人々によって脈々と受け継がれ、“文化”として現代にも価値を残す音楽的財産に焦点を当てる連載「音楽カルチャーを紡ぐ」。
今回は、昨年発売された第1弾につづき、6月23日に第2弾が発売される『ジャズ・アナログ・レジェンダリー・コレクション』をピックアップ。今年生誕95周年を迎えるジャズの巨人、マイルス・デイビス作品をはじめとする名盤の味わい方を、ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル(以下、SMJI)片野正健と、本作の監修を手掛けた塙耕記が解説する。
後編では、第2弾のラインナップについて、そして本シリーズひいてはジャズアナログ盤の未来についても語る。
片野正健
Katano Masatake
ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
塙 耕記
Hanawa Koki
ディスクユニオン
CRAFTMAN RECORDS主宰
――(前編からつづく)第1弾の成功を経て、第2弾のセレクトはどう考えていきましたか。ソニーミュージックのカタログには、マイルス・デイビス作品だけでも30作近くあります。
片野:このシリーズの肝は、やはりマイルス・デイビスですよね。特に今年は、マイルスが生きていれば95歳、亡くなってからちょうど30年という節目の年でもあります。マイルスの名盤はまだまだあって、今後も軸にしていくので、第2弾ではマイルスがソニーミュージック傘下のコロムビアに移籍してきて初めて出した『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』(1956年)を3タイトルのうちのひとつに入れました。
そのほかは、ジャズにはインストだけじゃなく、ボーカルものもあるんですけども、特に日本で有名なオランダの歌手、アン・バートンの一番人気のあるアルバム『ブルー・バートン』(1967年)と、アルトサックス奏者であるフィル・ウッズの若き日の名盤『ウォーム・ウッズ』(1958年)です。この計3タイトルをリリースします。
塙:マイルスは重要作品と、中くらいの作品、エレクトリックの作品といろいろあって、リスナーの好みもあると思うんですけども、重要作品を同時に出してしまうと偏ってしまうなと思いまして。『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』は、第1弾で出した『カインド・オブ・ブルー』と同じくらい重要な作品なので、片野さんと話し合って、第2弾にしたという経緯があります。
アン・バートンに関しては、オリジナルがヨーロッパ盤なので、ジャケットの作りもアメリカのジャケットと違っていて。ヨーロッパ特有の薄いジャケットで、コーティングもテカっとしているんですね。さらに、上下に折り返しのあるフリップバック・カバー(通称:ペラジャケ)になっています。そういったアートワークの再現にも、今回色校を3回以上確認したくらいこだわっています。私の経験上、商品を手に取っていただければ、本腰を入れて作っている再発盤なんだっていうのがユーザーにダイレクトに伝わることはわかっているので、それも考えた上のフックになってます。
フィル・ウッズはすごく有名な人なんですけども、長い歴史のなかで『ウォーム・ウッズ』の国内盤アナログが出たのは、確か、1970年代前半と1980年前後の2回だけで、それ以降は出ていないんですね。ジャズのファンの間では名盤としてきちんと認識されている作品のわりには、レコードを持ってない人が多い。そういう意味で、改めて、この作品を聴いてもらいたいなと思ってセレクトしました。
――フィル・ウッズ・カルテット『ウォーム・ウッズ』はどんな作品なんでしょうか。
片野:マニア向けのセレクションではありますが、スタンダードナンバーをやっているので、ジャズ入門者にも聴きやすいアルバムですね。ビリー・ジョエルのヒット曲「素顔のままで」の間奏でサックスソロを吹いているのがフィル・ウッズなんですよ。いわゆるジャズだけじゃなく、ポップスのフィールドでも名前を知られてますね。
塙:フィル・ウッズって、ジャズファンにとっても、「そう言えば、リーダーアルバムは聴いたことないな」とか、「レコードでは持ってないかもしれないな」っていう人なんですよね(笑)。『ウォーム・ウッズ』はスタンダードナンバーが中心で、メロウで温かいバラードもあれば、激しい曲もある。フィル・ウッズの魅力がいろんな角度から楽しめる作品なので、こちらを選んでみました。
このジャケットは、マニアからは“暖炉のフィル・ウッズ”とか、“犬を抱いてるやつ”とか呼ばれてるんですけど、オリジナル盤はみんなの憧れなんですよ。今朝、渋谷のディスクユニオンに行ったんですけど、9万円で売ってました。
――そんなに高額で売られているんですね。アン・バートンはどんなジャズシンガーですか?
塙:ジャズを熱心に聴いてる方ならご存じの、日本人がすごく好きなボーカリストです。1970年代、1980年代にはよく来日をしていて、日本でのオリジナル録音もたくさんあるんですね。ジャズファンにはアートワークを楽しんでもらいたいですけども、若年層や、最近ジャズを聴き始めたという方にもぜひ知ってもらいたいなという観点で選びました。
片野:今回のアルバムに収録されているのはほとんどバラードなんですが、飽きることのない、非常に魅力的な内容になってまして。彼女の声質が日本人の琴線に触れるんじゃないかなと思いますね。
――ジャズ初心者にとっては、スタンダードナンバーなどの聴き馴染みのある曲やボーカルものなどからのほうが入りやすいかもしれないです。シリーズの軸とおっしゃったマイルス・デイビスは、今後どんな順番で出していく構想ですか?
片野:マイルス作品は、4ビートのモダンジャズ時代と、その後のエレクトリック期以降で聴き分けてる人もいると思いますので、まずはモダンジャズ期の作品をリリースしていきたいと考えています。“エレクトリック・マイルス”になると、ジャズだけじゃなくて、ロック好きのリスナーにも聴いてもらえると思うので、その辺りまで来たら、プロモーションの仕方も変えていけたら良いなと思っています。
塙:ここで初めて片野さんに話すんですけども、おそらく1回のリリース3~5タイトルのなかにエレクトリック期のマイルス作品をひとつだけ入れるというのは難しいと思うんですね。だから、モダンジャズ期、アコースティック期をある程度出したのちに、まとめて“エレクトリック・マイルス”を出すっていうやり方をしたほうが、良い塩梅になるんじゃないかなと思ってます。
片野:そうですね。モダンジャズのものと混ぜて出すよりも、エレクトリックに特化して出したほうが良いかもしれないですね。気持ち的にはマイルス、全部、出したいです。
塙:さすがに全部というわけにはいかないでしょうけど(笑)、アコースティックな部分と、エレクトリックな部分の核となるような作品はできるだけ出したいですね。
――冒頭で、ソニーミュージックには魅力的なカタログが多いとありましたが、ほかにはどんな作品が眠ってますか。
塙:コロムビア、CBS、RCAもありますからね。コロムビアで言うと1940年代からの音源があるので、歴史的に紐解こうと思えばいくらでもあります。RCAのアメリカで言えば、ソニー・ロリンズなどの有名なアーティストもいますし、ヨーロッパ盤のオリジナルだと、今は30~40万円する、フランスのサックス奏者、バルネ・ウィランのアルバムも、アン・バートンのような作りで出せればなと計画しています。セロニアス・モンクもたくさんありますけども、こちらは出し方を計画中です。挙げたらキリがないですね。
――お話を聞いているだけでも、アナログ盤を手に取ってみたくなります。改めて、今後の展望を聞かせてください。
片野:まずはジャズファンにアピールしたいシリーズではありますが、本当に高音質で、180gの重量盤で作っているので、オーディオファンからも大変好評をいただいているんですね。なので、今後も高級機器を持っている方にも納得していただけるような音を目指してやっていきたいと思っています。
そのためには、当然ですが制作で一切手を抜くことはなく、オリジナル以上の音を目指してカッティングにもこだわり、アートワークもオリジナル盤をできる限り忠実に再現して、買ってくれた人が納得できるものにしたいと思っています。また、将来的には、CDしか発売されていなかったアルバムを初レコード化することも考えていたりします。
塙:やっぱり、まずは歴史的名盤をしっかりと出していきたいですね。しかしながら、それだけですと保守的すぎるので、マニアックなファンにも喜んでもらえるものも選んでいきたいです。
そのいっぽうで、サブスク世代に、カッティングやプレスといったアナログ盤の仕組みにも興味を持ってもらえるとうれしいですね。そうやって、LP(アナログ盤アルバム)というソフトを後世に残し、10代、20代、30代にもアナログ盤の良さというものを伝えていけたら良いなと思ってます。
――最後に、ジャズ初心者や若年層に向けて、おすすめの1枚を挙げてもらえますか。
片野:『カインド・オブ・ブルー』ですね。僕が若いころ、ジャズに初めてハマった時期に愛聴していたアルバムなので、今の若い人にも聴いてほしいなと思います。
塙:僕は、今回発売される『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』ですね。片野さんはおそらくジャズの上級国民なんですよ(笑)。『カインド・オブ・ブルー』はちょっと難解なところがあるんですね。昔、店頭に立っていたころに、「まだジャズを聴いたことがないんですが、おすすめはありますか?」と聞かれて、『カインド・オブ・ブルー』を勧めたら、すごく反応が悪かったんですね。小難しそうだなっていう顔をされたんですよ。だからそう聞かれたときは『カインド・オブ・ブルー』は勧めないようにしようって心に決めてたんです(笑)。
もちろん、『カインド・オブ・ブルー』はジャズのなかでは最大のヒット作だし、聴きやすいんですけども、ビル・エヴァンスのようなロマンチックな世界を想像してた人からすると、ちょっとシリアスすぎて、「あれ?」って思うかもしれないです。なので、僕は個人的には『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』を勧めてますね。初心者にもとても聴きやすいアルバムですし、せっかくなのでスピーカー内蔵のポータブルプレイヤーじゃなく、アンプやスピーカーに繋げるタイプのアナログプレイヤーで聴いていただきたいなと思いますね。
文・取材:永堀アツオ
撮影:荻原大志
『ジャズ・アナログ・レジェンダリー・コレクション』第2弾
2021年6月23日発売
予約・購入はこちら
■マイルス・デイビス『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』(MONO)
■アン・バートン『ブルー・バートン』(STEREO)
■フィル・ウッズ・カルテット『ウォーム・ウッズ』(MONO)
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