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音楽カルチャーを紡ぐ

50年の時を経て甦る、伝説のピンク・フロイド『箱根アフロディーテ』ライブ映像【前編】

2021.08.03

音楽を愛し、音楽を育む人々によって脈々と受け継がれ、“文化”として現代にも価値を残す音楽的財産に焦点を当てる連載「音楽カルチャーを紡ぐ」。

今回は、ブリティッシュロック界を代表するバンドのひとつ、ピンク・フロイドの初来日公演であり、日本で開催された初の本格的野外ロックフェスティバル『箱根アフロディーテ』の映像を紹介する。8月4日リリースの『原子心母(箱根アフロディーテ50周年記念盤)』にパッケージされたBlu-rayに、このほど発掘された同フェスでのピンク・フロイドのライブ映像を収録。幻と言われたこの映像が発見され、ファンの手元に渡るまでの秘話、そして今、この作品が世に出される意義を、制作担当であるソニー・ミュージックジャパンインターナショナル(以下、SMJI)の白木哲也に聞く。

前編では、ピンク・フロイド来日の背景や、貴重な映像が発見された偶然の経緯を語る。

  • 白木哲也

    Shiroki Tetsuya

    ソニー・ミュージックレーベルズ
    ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
    マーケティング2部 ゼネラルマネージャー

『箱根アフロディーテ』

 
1971年8月6、7日に、神奈川県・箱根芦ノ湖畔にて開催された、日本初の本格的野外ロックフェスティバル。主催はニッポン放送。これがピンク・フロイドの初来日公演でもあり、5thアルバム『原子心母』のタイトル曲が演奏された。

日本での人気も高い、英国を代表するプログレッシブロックバンド

──まずは、ピンク・フロイドというバンドがどんな存在かを聞かせてください。

(写真左から)リチャード・ライト、ロジャー・ウォーターズ、ニック・メイスン、デヴィッド・ギルモア

ピンク・フロイドは、ザ・ビートルズ、ザ・ローリング・ストーンズ、レッド・ツェッペリンなどとともに英国を代表するロックバンドとして語られています。長く愛されている理由のひとつは、世界的な大ベストセラーになった1973年の『狂気』というアルバムの存在が大きいと思いますね。彼らはプログレッシブロックという多少難解なジャンルの代表格として語られるので、どうしても頭でっかちに捉えられがちではあるんですが、何より単純に聴いていて気持ちが良い。

もちろんロジャー・ウォーターズの考える歌詞やコンセプトがありつつ、サウンド面では、デヴィッド・ギルモアの奏でる天にも昇るようなギター、リチャード・ライトの浮遊感のあるオルガン、独特のリズム感のニック・メイスンのドラムと、全世界の誰もが気持ち良く聴けるサウンドこそが、現在でも語り継がれるバンドとなったポイントなのかなと思います。

アルバム『狂気』(1973年)

──ロックではありますが、ベースにある音楽性はブルースやフォークだったりしますよね。

そうなんです。あと、海外では日本とは捉えられ方が結構違うんです。海外のコンサートだと、みんな大合唱なんですよ。日本には3回来日して、僕も1988年の来日公演や、海外での公演も観ましたが、日本のファンは、一音も聴き逃すまいと食い入るようにステージを凝視している。ピンク・フロイドのマネージャーに、昔、「なぜ日本人はピンク・フロイドのライブを楽しまないんだ?」って聞かれたことがあって、「いやいや違うんですよ、日本のファンはみんなそれだけ真剣に集中して音楽に向かい合ってるんです」って説明したんですが、この辺は国民性の違いかもしれませんね。

──日本でもピンク・フロイドの人気は高いです。

ただ、彼らはレッド・ツェッペリンみたいなスタイルのハードロックではないし、どちらかと言えばわかりにくい。なにせ曲が長くて、シングルヒットがあるわけでもないので。もしかすると、1971年の『箱根アフロディーテ』の初来日ライブがなかったら、日本での評価はまったく違っていたかもしれませんね。

──海外では評価が高いけど日本ではあまり人気のないバンドは多いですが、ピンク・フロイドもそうなっていた可能性があると。

そうですね。面白いのが、1970年の『原子心母』というアルバムの売り上げが世界的に見ると日本の数字が異常に高いんです。それは、アルバム発売の翌年に『箱根アフロディーテ』があったことが大きな要因だったと思います。彼らが来日した1971年って、日本における洋楽ロックライブ元年だと思うんです。

ピンク・フロイドのあとにレッド・ツェッペリンが来たり、その前にもグランド・ファンク・レイルロードの有名な来日公演“嵐の後楽園”があったりと、いろいろ伝説が生まれた年なんですね。ピンク・フロイドも、『箱根アフロディーテ』のライブのインパクトが日本人の心に刻まれて、伝説になっていった。もちろん長い歴史のあるバンドだから一概には言えないのですが、あの公演があるとないとでは、今の日本での彼らの立ち位置は全然違っていたと思いますね。

ピンク・フロイドがヘッドライナーを務めた『箱根アフロディーテ』

──そのピンク・フロイドの初来日公演で、今回貴重な映像が発掘された、『箱根アフロディーテ』というライブイベントは、どのようなものだったんでしょうか。

『箱根アフロディーテ』は、1971年の8月6、7日にニッポン放送主催で行なわれた、海外アーティストを招聘した日本初の野外ロックフェスです。そこでピンク・フロイドがヘッドライナーを務めたんですが、演奏中に芦ノ湖から立ち込めてきた霧が彼らを包み込むという、野外ならではの自然現象の演出が、ピンク・フロイドの幻想的サウンドとあいまって、伝説として語り継がれていったんですね。

霧に包まれた『箱根アフロディーテ』のステージ。

──では、今回発売される『原子心母(箱根アフロディーテ 50周年記念盤)』が制作された経緯を教えてください。

今回のプロダクツは、新たに発見された50年前の『箱根アフロディーテ』の様子を収めた貴重な映像をBlu-rayに収録し、アルバム『原子心母』のCDとともに2枚組としてリリースすることになったものです。ピンク・フロイド初の日本独自企画とも言えます。

──『箱根アフロディーテ』の映像は、ファンの間でも知られていますね。

もともと、『箱根アフロディーテ』での「原子心母」の映像は、ブートレッグなどでマニアの間では有名な映像ではあったのですが、今回発掘されたのは、そのオリジナルの16ミリのフィルムなんです。

2018年2月にそのフィルムが見つかり、ピンク・フロイド側に商品化を打診しながら、時間をかけてレストアしていきました。何度も修正し、その都度ピンク・フロイド側に許諾を求めるものの、なかなかOKが出ず……。しびれるようなやりとりがつづき、一時は商品化はもう断念せざるを得ないかなと思っていました。

時が経ち、今年の8月が『箱根アフロディーテ』の50周年なので、そこに合わせる形で出すしかないと思い、再度ピンク・フロイド側にアプローチしたんです。『箱根アフロディーテ』のピンク・フロイド初来日は、日本人の心に残っているイベントであると猛アピールして超説得モードに入り、なんとかリリースまで漕ぎつけることができたんです。

──ピンク・フロイドの初期の姿をきれいな映像で見られることも素晴らしいですし、『箱根アフロディーテ』というイベント自体、『フジロックフェスティバル』などの野外フェスの源流でもあります。日本の洋楽シーンを考える上でもすごく意味がある作品のように感じます。

『箱根アフロディーテ』

そもそも『箱根アフロディーテ』というイベントについては、実は今まできちんと語られてきていない気がします。当時、“中津川フォークジャンボリー(『全日本フォークジャンボリー』)”など、国内アーティストによる野外のフォークイベントはあったと思うんですが、海外アーティストを招聘して箱根の野外にステージを作るという、いわゆる自然のなかでの大規模なロックフェスはこれが初めてなんですよね。このことは、もっともっと注目されても良いはずなのに、ピンク・フロイドの初来日公演であること以外はほとんど語られてこなかった。なので、『フジロックフェスティバル』や『サマーソニック』の原点がここにあるということを、もっと伝えるべきだと思ったんです。

もちろん、ピンク・フロイドの新発見映像を商品化するということが目的ではあるものの、それとともに50年前の日本人たちが、前例もマニュアルも何もないなか、この日本初のイベントをさまざまな困難を乗り越えて作り上げていったというストーリーを知ってほしいというのが、今回のリリースのもうひとつのテーマでした。

存在が忘れられていた16ミリフィルムの発見

──では、今回のリリースにあたっての作業について細かく聞いていきます。まず、どのようにして貴重なフィルムが発見されたんですか。

発見時のフィルム缶。

先ほども言ったように、『箱根アフロディーテ』の映像の存在は知られていたんですが、その映像は地方局で放送されたビデオのダビングのダビングみたいな、あまりクオリティの良くないもので、その元素材や、それがどういういきさつで撮影されたのかは、長年謎に包まれていました。そのオリジナルのフィルムが、今回発見されたものなんです。

まず、2014年にピンク・フロイドが『永遠(TOWA)』というアルバムを出したときにニック・メイスンのインタビューが朝日新聞に載った。フィルムをお持ちの方がその記事を読んで、存在を忘れていた16ミリフィルムのことを思い出した、と。その後、僕のことを知っていた音楽業界の先輩を通じて連絡があり、2018年の2月に直接お会いして、お話を伺いました。なんと、フィルムをお持ちの方と紹介してくれた先輩は同級生だったとのことで、今回の発見には不思議な人の縁を感じます。

──初対面の段階で、『箱根アフロディーテ』の映像だという確証はあったんですか?

そのときに見せていただいた箱根の写真がまったくこれまでに見たことがないものだったのにも驚いたのですが、お話を聞いていくうちに、間違いなくあの映像だなって思いました。とは言え、実際に見るまでは確証がなかったですね。後日フィルムをお借りして見てみたら、僕らが散々見てきた劣化した映像とは全然違う、むちゃくちゃ美しいあの映像がパーンと出てきたんです。そのときが、この一連の作業のなかで一番感動した瞬間でしたね。

──それは感動しますね。

そうやって、幻とまで言われていた現物が僕の手元に来た。素晴らしい素材で、かつ音まであった。昔のフィルムで、映像と音の両方が残っているものはなかなかないんですが、今回はそれが両方とも残されていた。もう、これはどんな形にせよ、きちんと残さなきゃいけないなと思いました。

──こうした形で貴重な映像が発見されることは、過去にもありましたか?

頻繁ではないですが、あることはあります。昔の貴重な映像というのは、レコード会社やTV局のアーカイブに残っていればラッキーなのですが、意外とないんですね。しかも、きちんと引き継がれていないものが多い。以前僕が、サンタナのアルバム『ロータスの伝説』の再発盤を手がけたときに、1973年の来日を追ったドキュメンタリー的な映像を発見したんですが、それはまったく違うタイトルで保管されていました。

実際、ピンク・フロイドが2016年に『The Early Years 1965-1972』というボックスセットを出すときに、現地のマネジメントから「『箱根アフロディーテ』の映像はないか? 探しつづけてるが一切出てこない」と、我々のほうに問い合わせがあったんです。それで、以前ピンク・フロイドの作品を出していた東芝EMI(当時)やあらゆるテレビ局に連絡して探しましたが、まったくわからずでした。

そういう状況だったので『The Early Years 1965-1972』には、ブートレッグとほぼ同じ状態のものしか収録できなったんです。それでも初めて商品化されたってことで話題にはなったんですけどね。

──それくらい幻のフィルムだったわけですね。ただ発見した時点では、商品化できるかどうかまではわからないですよね。

商品化できる保証はまったくなかったです。でも、コストがかかったとしても、この映像は早急にデジタル化して後世に残すべきだって使命感が出ちゃったんですよね(笑)。それで、ある程度映像をきれいにしてからピンク・フロイド側とのやりとりが始まったんですが、これがまったく進まなくて(笑)。

というのも、ピンク・フロイドは作品へのこだわりが異常なんです。通常のリリース時でも、日本で制作するものにはすべてに細かいチェックが入る。4人のメンバーの各マネージャーが全員合意しないと何も進めることができず、日本独自企画なんてOKがでるわけがない。だから、こちらとしてもダメ元でのスタートでした。

Pink Floyd - Atom Heart Mother (Hakone Aphrodite 1971) Original VS New Discovered Film

──つまり、フィルムをレストアする難しさと、バンド側との交渉の難しさとが同時にあったと。実際、映像のほうの作業はどのように進んだんですか。

作業としては、16ミリフィルムをひとコマずつデジタル化して取り込んで、そこからノイズを取っていきました。古いフィルムって、上下に線が出る特性があるんですけど、そういうものを含めて、いろんなキズを消していったんです。これにかなり時間がかかりましたね。2018年に入手してから、ついこの間まで作業してましたし。というのも、見れば見るほど細かいノイズが気になってくるんですよ。それを一つひとつきれいにしていきました。あと、もうひとつ問題だったのが音ですね。

 
後編へつづく

文・取材:土屋恵介
『箱根アフロディーテ』ライブ写真:Photo by Noriaki Nagaya

最新情報

『原子心母(箱根アフロディーテ50周年盤)』【完全生産限定盤】

CD+BD2枚組 7インチ紙ジャケット仕様+5大特典封入
8月4日発売

■CD

 
1.原子心母 Atom Heart Mother
a)父の叫び Father's Shout
b)ミルクたっぷりの乳房 Breast Milky
c)マザー・フォア Mother Fore
d)むかつくばかりのこやし Funky Dung
e)喉に気をつけて Mind Your Throats, Please
d)再現 Remergence
2.もしも If
3.サマー'68 Summer '68
4.デブでよろよろの太陽 Fat Old Sun
5.アランのサイケデリック・ブレックファスト Alan's Psychedelic Breakfast
a)ライズ・アンド・シャイン Rise and Shine
b)サニー・サイド・アップ Sunny Side Up
c)モーニング・グローリー Morning Glory
 
 
■Blu-ray

 
1.原子心母(箱根アフロディーテ1971)
Atom Heart Mother (Hakone Aphrodite 1971)

2.スコット&ワッツ(箱根アフロディーテB-roll)
Scott& Watts
 
■特典
・未発表写真満載日本独自スペシャル・ブックレット
・1971年箱根アフロディーテ・パンフレット復刻
・箱根アフロディーテ・会場案内図チラシ
・箱根アフロディーテ・チケット復刻
・1971年大阪公演ポスター復刻
 
購入はこちら

関連サイト

ピンク・フロイド公式サイト
https://www.pinkfloyd.jp/
 
『原子心母(箱根アフロディーテ50周年盤)』特設サイト
https://www.110107.com/pinkfloyd_AHM50th

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