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連載Cocotame Series

キャラクタービジネスの心得

『セサミストリート』に込められた子どもたちへの思いに共鳴するIP戦略【後編】

2021.09.10

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キャラクタービジネスを手掛ける上で、知っておきたい心得をその道のプロたちに聞いていく連載「キャラクタービジネスの心得」。今回は、ソニー・クリエイティブプロダクツ(以下、SCP)で『セサミストリート』のライセンスビジネスを統括する、吉田美奈子に話を聞いた。

1969年にアメリカで放送が始まった『セサミストリート』は、今年で日本上陸50周年を迎える。SCPは、1989年から2004年までの約15年間、国内で『セサミストリート』のIPビジネスを手掛け、2021年7月からは、再び国内のライセンシングエージェントとして『セサミストリート』の国内展開に取り組むことになった。

そのカラフルでかわいらしいキャラクターたちは、TV番組やCM、グッズなどで日本でも親しまれてきたが、その時代ごとに表出する社会問題に真正面から取り組み、それを世界中の子どもたちに伝えてきたことは、あまり知られていない。子どもたちのことを第一に考えた深い理念と思いに、SCPはIPビジネスをどのように共鳴させるのか。

後編では、『セサミストリート』の権利元であるセサミワークショップ(以下、SW)が、『セサミストリート』を通じて世界中の子どもたちに何を伝えたいのかを紐解いていく。

  • 吉田美奈子

    Yoshida Minako

    ソニー・クリエイティブプロダクツ
    チーフプロデューサー

子どもたちに就学準備を提供する目的で始まった『セサミストリート』

──(前編からつづく)改めて『セサミストリート』は、1969年にアメリカで放送が開始され、今年で日本上陸50周年を迎えた歴史のあるIPです。私も子どものころに番組を見た記憶がありますが、当時、日本では子ども向けの英語学習を主体としたコンテンツという認識が強かったように思います。

そういう印象を持っていらっしゃる方が、日本ではいまだに多いと思います。というのも『セサミストリート』の放送が始まった当時、国内では子ども向けの英語学習番組が少なかったそうで。その点、『セサミストリート』は、英語の基礎を学べるエピソードやコーナーがあり、しかも、アメリカ文化の紹介にもなる内容で、当時の日本の番組プログラムに足りないピースとして、ぴったりハマるコンテンツだったんですね。

――ただ、YouTubeの『セサミストリート』公式チャンネルで配信されている最近の番組を見ると、だいぶ印象が異なります。英語学習の内容もありますが、それは全体の一部で、毎回いろいろなことがテーマになっている内容でした。

『セサミストリート』の権利元であるSWは、設立当初から“すべての子どもたちがかしこく、たくましく、やさしく育つよう支援する”という基本理念のもとに番組制作を行なってきました。

そのためSWは、差別やいじめといった子どもたちの身近にある問題はもとより、ときには世界各国、各地域で起こっている社会問題もテーマにして番組づくりを行なうために、ものすごい量と質のリサーチを実施しているそうです。

そのリサーチを元に各国、各地域で『セサミストリート』はローカライズされて番組が制作されたり、IPとして活用されています。現在では、日本でもセサミストリートジャパンが設立され、SWの理念にそった活動を積極的に展開していますし、YouTubeでも気軽にそうした番組を見ることができるようになっているんです。

■『セサミストリート』YouTube公式チャンネルはこちら(新しいタブで開く)

──勉強不足だったのですが、今回取材をすることになって初めて『セサミストリート』の運営母体であるSWが非営利教育団体だというのを知りました。先ほど(前編を参照)のお話でもありましたが、今回、SWがSCPとパートナーシップを結ぶにあたり、ソニーグループ全体の企業姿勢にも注目していたのは、SWの基本理念に基づいたものなんですね。

SWが非営利教育団体として発足され現在に至ることは、ステークホルダーの企業の方たちからも「知らなかった」という声をいただくことがありますね。日本では『セサミストリート』というと、ここ最近ではユニバーサル・スタジオ・ジャパンで出会えるキャラクターというイメージもあるかもしれませんが、元々は病気や貧困など、さまざまな理由で就学準備を整えるのが難しい子どもたちに、テレビというメディアを通じてサポートをしようという目的で始まったものなんです。

その上で、番組では大人たちの考えや意見を一方的に押し付けるのではなく、子どもたち自身に考えさせることを主体としつつ、楽しみながら一緒に学ぶというテーマを追求しています。

■セサミストリート:アルファベットの歌(日本語訳付き)

多様性を受け入れる社会と、そこにある現実を子どもたちにしっかりと伝える

──その理念を頭に置きながら『セサミストリート』を見ると、確かに番組ではキャラクターたちを通して、社会が抱える問題を世界中の子どもたちに伝えようとしているのがわかります。

ここ数年で、日本でもダイバーシティ&インクルージョンの認知はだいぶ進みましたが、『セサミストリート』では、1969年の番組開始当初から実践していて、例えばエルモが赤いファーだったり、クッキーモンスターがブルーだったりするのは、肌の色の違いを表わしているからです。

ビッグバードはあんなに大きいですが、モンスターではなく大きなカナリアで、バートとアーニーは人型のモンスターというように、体型の違いをはじめ、さまざまなバックグラウンドを持つキャラクターたちが一緒になってコミュニティを形成している。“人それぞれ、色々な個性があって良いんだよ”ということを子どもたちにわかりやすく伝えつづけています。

──日本以外の国ではどのような問題を取り上げているのでしょうか。

例えばインドでは衛生習慣、アフガニスタンでは女子教育の促進をテーマに掲げていましたね。あとは、HIVの母子感染が社会問題になっている南アフリカでは、カミというHIVポジティブのキャラクターが登場しています。カミが友だちと手をつないで一緒に遊んだり、仲良く勉強したりする様子を描くことで、HIVがどういう病気なのかの理解を促進させるのが目的ですね。ほかにも親が刑務所に収監されているキャラクターや、両親が離婚して新しいお父さんと義理の弟ができたというキャラクターも登場しました。

現在、『セサミストリート』の番組は150以上の国と地域で放映されていて、そのうち30の国と地域では、現地に向けたローカライズがされています。国ごとのキャラクターも存在していて、日本ではお花が大好きなティーナと運動が大好きなモジャボがオリジナルキャラクターとして登場しました。

ティーナ(写真左)とモジャボ(写真右)。

──日本で作られる子ども向け番組では、なかなか見られない内容ですね。

日本では、こうした“リアル”を日常生活のなかにある子ども向け番組でダイレクトに伝えることは少ないですよね。『セサミストリート』では子どもたちがちゃんと受け入れやすいようにストーリーが考えられているんですが、そこに誤魔化しはないですし、大人の目線から見ても子育てのヒントがたくさん込められていると思います。

「セサミストリート」が発信するさまざまなメッセージを通じて、子どもたちは社会のなかで生きるための知恵や本当に大事なことを見極める力を養っていくことができると信じています。

大好きな人との別れや多様性の本質を子どもたちに伝える

──これまでの話だけでも『セサミストリート』のイメージが大きく変わりました。

過去に放送されていた『セサミストリート』で止まってしまっている場合は、どうしても英語学習というイメージを抱かれがちですよね。でも、作品では子どもたちが社会と関わる上で傷つくようなことに直面したとき、どう対処したら良いのかなど、人と人の関係性について深く触れられているんです。

例を挙げると、『セサミストリート』で“フーパーのお店”と呼ばれる雑貨店を経営しているハロルド・フーパーさんを演じていたウィル・リーさんがお亡くなりになったときは、番組でもフーパーさんの死について取り上げました。

フーパーさんにいつも絵本を読んでもらっていたビッグバードは、フーパーさんの似顔絵を描いてやってきます。「フーパーさんはどこにいるの?」とたずねるビッグバードに、仲間たちは「フーパーさんは亡くなったんだよ、亡くなるということはもう二度と会えないということなんだ」と告げました。それを聞いたビッグバードは「じゃあ、これからは誰が僕に絵本を読んでくれるの?」と悲しむんです。

――子どもでも、ときには大好きな人との別れを経験しなくてはいけないことを伝えているんですね。

はい。また、オスカー・ザ・グラウチというゴミ箱のなかで暮らしているキャラクターがいるんですが、彼はすごく偏屈な性格で。みんなが遊びに来ると「うるさい! あっち行け!」と邪険な態度をとるのですが、実はものすごく物ごとを俯瞰で見られる、賢くて、心も優しい子なんです。

『セサミストリート』の仲間たちは、彼の内面の本質がわかっているので、仲間として受け入れているのですが、一般的には邪険にされるのは気分が良いものではないすよね。でも、そういう二面性のキャラクターも含めて、コミュニティの一員であり、色んな人や個性があることを伝えようとしています。

ほかにも、ビッグバードの文通相手の小鳥が訪ねてくるエピソードでは、ビッグバードが親友であるマンモスのような姿をしたスナッフィーを紹介するんですが、その小鳥は「鳥以外の友だちなんていらない!」と言います。そのことに対してビッグバードは「僕の親友なのに、どうしてそんなことを言うんだ!」って、すごく怒って。小鳥も最後には自分の考えが間違えだったことに気付くというエピソードもありました。

子どもに対して、頭ごなしに決めつけるのではなく、何が相手を傷つけるのかをわかりやすく表現して理解してもらうことが『セサミストリート』のテーマなんです。自分とは違う存在を拒絶するのではなく、違うということを理解させた上で、ポジティブに受け入れる寛容性を学んでもらいたいという思いが込められています。

■みんな特別【日本語吹替版】

──ダイバーシティ&インクルージョンを子どもたちに伝えようとするエピソードばかりですね。

そうですね。でも、そういったテーマや制作側の思いも、しっかり伝えていきたいと考えています。

日本の子どもたちに『セサミストリート』が何を伝えようとしているのかを届ける

──今回、お話を伺ってSWの子どもたちへの思いや、『セサミストリート』には社会問題への取り組みが背景にあることを知ることができました。同時に、今後、『セサミストリート』のIPビジネスを展開する上で、気を配ることが多々あるのではないかと感じたのですがいかがですか。

はい、その点についてはすごくシビアに取り組んでいかなければいけないと思っています。『セサミストリート』は子どものために生まれたもので、子どもの成長に対してどういうアプローチが良い結果を生むのかを徹底的に追求し、ブレない信念を持っていることが求められます。

グッズなどの商品化に際しても厳しい基準があって、例えば、飲み物や食べ物は栄養成分や原材料までも厳しくチェックされます。それはときには煩雑なことでもあるんですが、すべては子どものフィジカル、メンタル両方の健康のためなので、日本でも同様に遵守していきます。

“すべての子どもたちがかしこく、たくましく、やさしく育つことを支援する”。ちゃんと自分の頭で物ごとを考えて判断できる、心身ともに強く、他人に対しても親切な気持ちで接することができる子どもを、ひとりでも多く増やしていくのがSWの願いであり、理念。

以前、SWのCEOに「僕たちは素材を提供します。それを、各国、各地域の皆さんが子どもたちのためにしっかり料理してあげてください」と言われました。この言葉を受け、今後SCPが国内での展開を手掛けるにあたって、『セサミストリート』の理念をもっと多くの方に知ってもらえるよう取り組んでいきたいと考えています。

──SCPが取り組み始めたのが2021年7月で、今まさにスタートを切ったばかりですが、今お話しできる範囲で今後の展望などを教えてください。

まずは、SDGs(国連で採択された持続可能で、より良い世界を目指す17のゴール、169のターゲットから構成された国際目標)や、ダイバーシティへの理解を拡大させる取り組みをされている企業や団体とご一緒していきたいと考えています。

そうした姿勢を伝えたいナショナルクライアントのプロモーションがあれば、『セサミストリート』でお手伝いできることがたくさんあると思いますので、ぜひアプローチしていきたいですね。また、それらを通して『セサミストリート』に対する理解も深めていければと考えています。

加えて、SCPとしてはグッズなどの商品展開も積極的に行なっていきます。こちらについては、先ほどもお伝えした通り、フィジカル、メンタル両面で子どもの発育を促進させたり、サポートできるアイテムを、ライセンシーの皆様と一緒に企画していきたいと考えています。

あとは、SWが日本の教育者を集めてワークショップを行なったりもしていますので、そうしたことに対してもバックアップできるような態勢を作ってきたいですね。7月1日から契約を引き継いだばかりで具体的な動きはこれからになるのですが、ソニーグループの各社も含めて、たくさんの企業からお問い合わせをいただいていますので、『セサミストリート』をより日本に浸透させるために頑張っていきます。

 
文・取材:油納将志
撮影:干川 修

©2021 Sesame Workshop.® Sesame Street.® and associated characters, trademarks and design elements are owned and licensed by Sesame Workshop. All rights reserved.
©2021. Sesame Workshop. All rights reserved. Photographer: John Barrett.

関連サイト

『セサミストリート』公式サイト
https://www.sesamestreetjapan.org/characters.html(新しいタブで開く)
 
『セサミストリート』公式Twitter
https://twitter.com/sesamejapan(新しいタブで開く)
 
『セサミストリート』公式Facebook
https://www.facebook.com/SesameStreetJapan(新しいタブで開く)
 
『セサミストリート』公式Instagram
https://www.instagram.com/sesamestreetjapan/(新しいタブで開く)
 
セサミワークショップ公式サイト
https://www.sesameworkshop.org/ja(新しいタブで開く)
 
ソニー・クリエイティブプロダクツ公式サイト
http://www.scp.co.jp/(新しいタブで開く)

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