オアシス【前編】普段着のジャージでステージに上がるのすらカッコ良い
2021.11.18
世界中で聴かれている音楽に多くの影響を与えてきたソニーミュージック所属の洋楽レジェンドアーティストたち。彼らと間近で向き合ってきた担当者の証言から、その実像に迫る。
今回のレジェンドは、このほど7年ぶりの新作アルバム『ザ・クエスト』を発表したバンド、イエス。1970年代に活躍し、ピンク・フロイドやジェネシスらとともに、“プログレッシブロック”(通称プログレ)という音楽ジャンルを築いた代表的な存在だ。
本稿では、これまでにも多くのプログレ作品の再発を手掛け、イエスを担当するソニー・ミュージックジャパンインターナショナル(以下、SMJI)の関口茂を迎え、プログレッシブロックの歴史を追うとともに、今作より新たにソニーミュージック傘下のレーベルに移籍したイエスの活動の変遷を解説する。
後編では、イエスの歴史と魅力、そして、健在ぶりを見せつけた新作アルバムについて語る。
イエス Yes
(写真左より)スティーヴ・ハウ(ギター)、ジョン・デイヴィソン(リードボーカル)、ビリー・シャーウッド(ベース)、アラン・ホワイト(ドラム)、ジェフ・ダウンズ(キーボード)。1968年に結成されたプログレッシブロックバンド。1969年、アルバム『イエス・ファースト・アルバム』でデビュー。代表作は、『危機』(1972年)、『ロンリー・ハート』(1983年)など。1985年に、「シネマ」でグラミー賞最優秀ロック・インストゥルメンタル・パフォーマンス賞を受賞し、2017年にロックの殿堂入りを果たす。2015年に、立ち上げメンバーのクリス・スクワイアが急逝。離合集散を繰り返しながらも、現在も現役で活動をつづけている貴重なバンド。
関口 茂
Sekiguchi Shigeru
ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
──プログレッシブロックの雄、イエスが10月1日にアルバム『ザ・クエスト』を発表しました。ここまでのバンドの歴史を聞かせてください。
イエスは1968年に結成されて、1969年にアルバム『イエス・ファースト・アルバム』でデビューしました。クリス・スクワイアとジョン・アンダーソンが中心になってバンドを始めたのがルーツで、最初の2枚のアルバムはロックバンド的な感じだったんです。
それが、スティーヴ・ハウが入った1971年の『イエス・サード・アルバム』くらいからプログレ要素が増していきました。クリス・スクワイア、ジョン・アンダーソン、ビル・ブルーフォード、スティーヴ・ハウにリック・ウェイクマンが加入した、1971年の『こわれもの』、1972年の『危機』で、いわゆるイエスのプログレサウンドが確立したんです。
──『こわれもの』と『危機』はイエスの代表作であり、ロック史に残る名盤として語られますね。
はい。『こわれもの』は、1曲目にイエスの代表曲とも言える「ラウンドアバウト」が入っていて、これを聴いてファンになった人も多いと思います。『危機』は、プログレの壮大感とメロディのポップさが、すごく良いバランスで詰まったコンセプトアルバムです。
1972年12月、ロンドンでの「ラウンドアバウト」の演奏
今回のアルバムリリースに際して、スティーヴ・ハウのリモートインタビューを行なったんですが、「これからイエスを聴くリスナーにお勧めするならどのアルバムですか?」との質問に、ハウは「『危機』だ」と答えてました。あのアルバムのなかにイエスのすべての要素が凝縮されてるってことを語ってましたね。決して難解なアルバムではないし、かと言ってポップアルバムでもないし、ほんとに完成度の高い作品だと思います。
──その後、1970年代後半から1980年代の初頭はイエスにとってあまり良い状況ではなくなってしまいます。1979年にジョン・アンダーソンが脱退し、バグルスのトレヴァー・ホーンとジェフ・ダウンズが加入して1980年に『ドラマ』を発表しましたが、グループは活動を休止してしまいました。
1975、6年くらいからプログレブームが去っていくなかで、結果的にイエスはほぼ解散状態になってしまいます。ですが、しばらくして、クリス・スクワイア、ジョン・アンダーソン、アラン・ホワイト、トニー・ケイ、トレヴァー・ラビンというラインナップでイエスが再編されます。そこで制作された1983年の『ロンリー・ハート』が大ヒットして、イエスが復活を遂げたんです。
──表題曲「ロンリー・ハート」はシングルとしても大ヒットしました。当時、売れっ子プロデューサーとなっていたトレヴァー・ホーンがプロデュースで、MTV全盛時代ということもあって、ミュージックビデオもかなり話題になりました。
「ロンリー・ハート」ミュージックビデオ
「ロンリー・ハート」がプログレかというと、正直違うとは思うんですよ。ただ、そうした現象が1980年代に起きたのは面白いなと思いますね。かたや、イエスから離れたスティーヴ・ハウもエイジアでビッグヒットを記録するという状況でした。
プログレッシブロックとは1970年代のものというイメージですが、演奏していたミュージシャンたちが、音楽マーケット的に一番売れたのが1980年代っていうのも面白いなと思います。
──そして、イエスはそのあと離合集散を繰り返していきます。
大きなところですと、1980年代の終わりに、クリス・スクワイアと袂を分かったジョン・アンダーソンが、ビル・ブルーフォード、リック・ウェイクマン、スティーヴ・ハウというかつてのイエス黄金期のメンバーと、アンダーソン・ブルーフォード・ウェイクマン・ハウ(通称ABWH)名義で活動を始めたんです。
そうなると、そのころ“90125イエス”という呼ばれ方をしていた本家イエスよりも、ABWHのほうが元々のイエスの純度が高いじゃないですか。実際ABWHが出した1989年の『閃光』は、本家のイエスよりもイエスらしいアルバムなんて言われました。そしたら、そのふたつのイエスが合体して、1991年に『結晶』を発表後、8人編成でライブツアーを行なうんです。
──人間関係含めすったもんだした挙句、“とにかく8人でイエスをやっちゃえ”という展開は、当時かなりの驚きでした。
とは言え形的に合体しただけで、『結晶』もABWHの作っていたアルバムに本家イエスが4曲足したものなので、正確には一緒に作った作品ではないんですよね。ただ、あれだけのメンバーが8人集まったのでファンは喜びますよ。
なので、ツアーは成功するんですけど、それが終わると、思った通りすぐバラけてしまいました。そこからいろいろとメンバー変遷を遂げながら、イエスは活動しつづけていきました。
──近年で言うと、やはりジョン・アンダーソンが完全にイエスを離れたことは大きいトピックでした。
最初、ジョン・アンダーソンが病気になってツアーに参加できなくなり、最終的に2008年に脱退ということになりました。そこから彼は復帰してないですね。2017年に、ロックの殿堂入りを果たした際のステージでともに演奏しましたが、それ一度切りでしたね。
ロックの殿堂式典で見せた「ロンリー・ハート」の演奏
アンダーソンの後を継いで、ベノワ・ディヴィッドがボーカルをとり、2012年の『ヘヴン&アース』からは現在のジョン・デイヴィソンが務めています。なので、ジョン・デイヴィソンがボーカルになってもう9年経つんです。いまだに、ジョン・アンダーソンがいないイエスはどうなの? っていうファンの方も多いと思うんです。でも、今回の『ザ・クエスト』を聴いていただくとわかると思うんですが、デイヴィソンのボーカルには違和感が全然ないし、すごくバンドにフィットしてると思います。
──イエスは、今回のアルバムからソニーミュージックでのリリースになりました。その経緯は?
もともと海外にインサイドアウトというレーベルがあって、そのレーベルを擁するセンチュリーメディアが、ドイツのソニーミュージックの傘下レーベルなんです。
インサイドアウトは、近年大御所ミュージシャンがたくさん集まって来ているレーベルで、僕が担当してるカンサスとか、最近はドリーム・シアターも所属になりました。プログレ、ハードロックにフレンドリーなレーベルなので、そういったリレーションで、イエスもインサイドアウトの所属となり、ソニーミュージックからのリリースになったのではないかと思います。
──そのような経緯で、関口さんがイエスを担当することになったときはどんなお気持ちでしたか?
僕は以前からプログレのバンドを担当することが多かったんですが、やっぱり過去の再発が多かったんです。それに、アメリカやイタリアのバンドが多く、いわゆるイギリスの王道の大御所バンドを担当したことがなかったんですね。なので、まさかイエスがソニーミュージックに来るとは! という驚きとともに、ぜひともやらせてくださいという感じでした。
──7年ぶりのアルバムとなった『ザ・クエスト』の仕上がりはすごく良いですね。前作『ヘヴン&アース』はポップな感じでしたけど、今作は1970年代を彷彿とさせるサウンドで、組曲もあったり、すごくコンセプチュアルなアルバムになっています。
今回は、イエスのキーマン、スティーヴ・ハウが初の単独名義でプロデュースしています。2015年にクリス・スクワイアが亡くなって、今回は彼が中心になって作品作りが行なわれました。作業的には、「みんなから上がってきたものを僕が立場上まとめたんだよ」とハウは言っていましたが、メンバー間のリレーションもとても良かったみたいですね。それが作品にも反映されていると思います。
『ザ・クエスト』収録「The Ice Bridge」
『ザ・クエスト』収録「Dare To Know」
──メンバーの良い関係性は、明確な方向性を持った音からも伝わって来ます。イエスのメンバー内では若手にあたる、50歳のジョン・デイヴィソンと56歳のビリー・シャーウッドが提案したものを、先輩たちが快く受け入れる信頼関係が築けているかのようです。
まさにそのようで、独裁的じゃなく全員がフラットな関係性で制作ができたというのはハウの発言からもわかります。アルバムでは、それが良い形で表現されています。
──今回、リモート取材されたということでしたが、そのときのスティーヴ・ハウはどのような雰囲気でしたか。
今回、プログレ系のバンドを長く担当されている方が通訳をしてくださったんですが、ハウにも何度もインタビューをされていて。ハウは、基本的に神経質な方で、インタビュー前は、「今回はどうかな?」という話をしていたんですよ。それが、いまだかつてないくらい機嫌が良くて、これまでで一番受け応えがスムーズだったとおっしゃってました。それだけバンドとして良い状態で、作品の仕上がりに本人も満足してるんじゃないかと思います。
僕は、リモートではありましたが、イエスのメンバーと接触したのはハウが初めてでした。声しか聞いてないですが、終始和やかで、とても良いインタビューに立ち会えてうれしかったです。
──アルバムにはどのようなテーマが込められているんですか?
クリス・スクワイアが亡くなってから初めてのアルバムということでもあるので、スティーヴ・ハウにとっても思うところがあるアルバムだろうなという気がします。彼が「『ザ・クエスト』は共通するテーマのある強力なアルバムだ。それは人生の大きな疑問を提起し、自分の運命は自分の手のなかにあることを知るということ」とコメントしていますが、最近は環境問題にも興味があり、そういったものが今作のコンセプトにあるということでした。
──コロナ禍の影響もあったんでしょうか?
2019年に構想があってレコーディングを始めたということなので、コロナ禍を直接反映したものではないということは言っていました。ただ、結果的に時代に合ったアルバムになったようです。
レコーディングは、2020年の新型コロナウイルス蔓延以降はリモートで進めたそうです。スティーヴ・ハウ、ジェフ・ダウンズ、ジョン・デイヴィソンがイギリスでレコーディングして、そのラフ音源をアメリカに住んでいるアラン・ホワイトとビリー・シャーウッドに送り、リズムパターンを何パターンか録ってもらう。それをデータで送って、ハウが一番フィットするものをセレクトするという作り方でした。彼らは、離れて生活していることもあって、以前からリモートを使ったレコーディングをしていたそうで、レコーディングはスムーズだったみたいです。
──『ザ・クエスト』でも証明されたように、長きにわたり“イエスサウンド”を継承してきたレジェンドバンドのすごさを改めてお聞きしたいです。
メンバーが変わりながらも、きっちりとイエスサウンドが受け継がれていくのは、やはり歴史という土台があるからこそなんだろうなと思います。メンバーの変遷とともに、時代ごとでサウンドが変わったりもしてきましたが、脈々とメンバー間でイエスの核となるものは伝承されている。
今回は、クリス・スクワイアというオリジナルメンバーが亡くなっても、スティーヴ・ハウがそれを見事に形にしてくれました。そこには、バンドへの誇りを感じます。誕生から50年以上経ったバンドがイエスという名前とサウンドを継承しつづけ、2021年にこうして素晴らしい作品を届けてくれるというのは、やはりすごいことだなと思わされますね。
文・取材:土屋恵介
イエス 公式サイト
https://www.sonymusic.co.jp/artist/YES/
『ザ・クエスト』特設サイト
https://www.110107.com/Yes_Quest/
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