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今、聴きたいクラシック

ウィーン・フィルの伝統、ニューイヤー・コンサートの歴史と舞台裏【後編】

2021.12.30

遠い昔に生まれ、今という時代にも息づくクラシック音楽。その魅力と楽しみ方をお届けする連載「今、聴きたいクラシック」。

今回は、新年の風物詩とも言えるウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(以下、ウィーン・フィル)によるニューイヤー・コンサートをフィーチャーする。毎年1月1日に、オーストリアの首都・ウィーンのムジークフェラインザールからテレビとラジオを通じて90カ国以上に放送され、約5千万人が視聴するというクラシック音楽界の一大イベント。

ライブ収録されたアルバムは、2012年以来ソニー・クラシカルからリリースされており、1月中に店頭に並ぶCDは世界中でベストセラーを記録している。

この華やかなコンサートとアルバム制作について、日本でのリリースを担当しているソニー・ミュージックジャパンインターナショナルの古澤隆介に話を聞いた。

後編では、超速のCD制作の過程と、今後のニューイヤー・コンサートの展望を語ってもらった。

  • 古澤隆介

    Kozawa Ryusuke

    ソニー・ミュージックレーベルズ

本番から2週間で店頭に並ぶライブCD

前編からつづく)前編の最後で“歴代指揮者とワルツの国際性”という点に話が及んだが、今なお特筆すべき存在としてウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートの歴史にその名を刻むのが、2002年に登場した指揮者、小澤征爾だ。もちろん東アジア圏からの初の指揮者という話題性もあったが、小澤が指揮したこの年のコンサートのライブCDの売り上げ枚数は、累計で約80万枚となり、クラシック界では伝説的なアルバムとして語り継がれている。

小澤征爾 Photo:© Terry Linke (from the booklet for 26 CD Set “New Year’s Concert: The Complete Works, Expanded Edition, Sony Classical, 19439764562)

このように、ニューイヤー・コンサートのライブCDが大きな売り上げ枚数を誇る理由として、コンサートの熱気冷めやらぬ間に店頭に並ぶ速さがある。収録から店頭に並ぶまで、ほぼ平均して2週間という超速の制作工程は、どのように進められているのだろうか。

「2022年のライブCDは、ヨーロッパでは1月14日に店頭に並ぶ予定ですが、もう少し早くなる年もあります。そして、日本でのCDリリースは1月26日を予定しています。2週間でフィジカル商品のディストリビューションを実現するための手段としては、まずライナーノートを含むすべての印刷物を事前に準備しておきます。1月1日のコンサート本番での収録は午前11時から午後1時(現地時間)までですから、その後、すぐに録音チームは編集に取り掛かり、1月2日にはスタジオで指揮者が最終チェックをする。そして、翌1月3日にはマスターテープが工場に送られます。

この一連の流れがヨーロッパでの生産体制ですが、それを可能にしている真の立役者が、既に20年以上もこのニューイヤー・コンサートの録音を担当しているベルリンのテルデックス・スタジオのエンジニアたちです。フリーデマン・エンゲルブレヒトが率いるテルデックス・スタジオのチームには、何十人ものエンジニアがいるので、本番終了後、すぐに分担して一斉に編集作業に取り掛かります。ウィーン・フィルの演奏収録は長年彼らが手掛けていますから、楽団側も彼らを全面的に評価しており、すべてが“あうん”の呼吸で進むわけです」

ウィーン・フィルがソニー・クラシカルへ寄せる信頼

日本では例年、元日の夜にNHK Eテレで放送されるニューイヤー・コンサートの衛星生中継の映像では、和装姿の日本人のご婦人たちの姿がクローズアップされることも珍しくない。ハプスブルク家に嫁いでウィーンの社交界で注目を集めたクーデンホーフ光子の存在ゆえか、“日本人とウィーン、そしてウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートは切っても切り離せない関係”という事実は、もはや多くの人が知るところだ。では、日本市場でのライブCDのリリースにおいて、特別な施策はあるのだろうか。

「実のところ特別なことはないのですが、ライナーノートの曲目解説を、シュトラウス・ファミリーについて深い愛着や知見を持つ会員で組織されている日本ヨハン・シュトラウス協会の専門家に依頼したり、曲目表記の仕方も協会が使用する表記に合わせて統一するようにしています。あくまでも消費者目線で、よりアカデミックに楽しむことができ、実用的にも役立つように努めています」

毎年、ニューイヤー・コンサートが開かれるウィーン・ムジークフェラインザール内部。

ソニー・クラシカルは2012年からニューイヤー・コンサートのライブ録音の販売権を獲得しているが、既に2021年秋の段階で、2023年以降の販売契約が延長されたという。

「ニューイヤー・コンサートのライブCDは、2000年代に入ってからはウィーン・フィル側の仕切りで現場での収録から制作に至るまですべてが進行し、その後、楽団側がレコード会社に完成したソフトを提供するというかたちを取っています。つまり、このライブCDに関しては、その年に登場する指揮者が誰であっても、アーティスト個人が専属契約しているレーベルとは一切関係なく、ウィーン・フィル側が自由にレーベルを指名することができるのです。

幸いなことに、マーケティングの方法や売り上げ実績などの総合的な判断から、ソニー・クラシカルはウィーン・フィル側に高く評価していただいているようで、2012年以来継続してこのコンサートのソフトの販売を担うことができているのです」

クラシック音楽界の“ミリオン・アルバム”

2020年、伝統のニューイヤー・コンサートもコロナ禍でやむを得ず無観客開催となり、観客が誰もいないホールでの演奏が世界90カ国に中継されるという未曽有の事態を経験した。それでは、折しもコロナ禍で一気に普及したデジタル配信による新しいコンサート鑑賞のスタイルについては、古澤はどのように考えているのだろうか。

「まさに、目下の我々の課題は“デジタル配信の需要を高めるために何をするべきか”という点です。もちろんレコード会社としては、フィジカル商品であるCDとの両立が不可欠ですが、現時点ではニューイヤー・コンサートの世界一斉デジタル配信開始が1月7日で、日本市場でのCD発売が1月26日ですから、この19日間のタイムラグのなかで、いかに日本のファンにデジタル配信にも興味を持ってもらえるかというのは重要なポイントです。

我々の本音としては、デジタル配信の開始自体をもう少し早め、コンサートの余韻をすぐにもう一度、配信で味わえるようにできたらという願いはありますが、これは配信ストア側との調整もあるので、現段階では難しいようです」

ウィーン・ムジークフェラインザール内部。

いっぽう、ライブCDに関しては、永久保存版としてのプレミア感や毎年コレクションとして購入する楽しみや魅力があるようにも思える。

「ニューイヤー・コンサートのライブCDは、ドイツ、オーストリアでの売れ行きが記録的で、“ミリオン・アルバム”として毎年のように表彰されたりもしています。オーストリアは決して大きな市場ではないのですが、ニューイヤー・コンサートとなると突出しているんです。

日本でも、それより若干数は下がりますが、毎年楽しみにしている方々が多いですね。このイベントに関しては、元日にテレビやラジオで生中継されているにも関わらず、あえてCDも購入してしまうという衝動が数値に見事に反映されています」

CDを購入するとライナーノートが付いており、各演奏曲目について要点をおさえた専門家による解説を読みながら視聴できる楽しみもひとつの魅力だと古澤は語る。

ウィンナ・ワルツやポルカといったジャンルは、作品の性格上、その時代の世情や政治的なトピックスなどの話題性を伴う、いわば“歌は世につれ、世は歌につれ”的な側面も持ち合わせている。ゆえに、一つひとつの作品の裏にある小さなエピソードや出来事、歴史が動いた瞬間などについての細やかな解説があるのとないのとでは、曲を聴く面白さがまるで違ってくる。それは、確かにフィジカルのCDならではの利点だろう。

「もうひとつ、マニアックな話をすると、テレビで中継される際の音と、CDやデジタル配信の音は違うんです。というのも、テレビはORF(オーストリア放送協会)が一連の制作過程のすべてを担当していますが、CDとデジタル配信は、先ほども申し上げたようにベルリンのテルデックス・スタジオが担当しています。両者の音の違いを比べてみる面白さもあるかもしれませんね」

ウィーン・ムジークフェラインザール内部。

“伝統のコンサート”今後の展望

最後に、今後のニューイヤー・コンサートの展望について古澤に聞いてみた。2012年から販売を手掛けているソニーミュージックのクラシック部門としては、このコンサートについてどのような期待感を抱いているのだろうか。

「一般的に“クラシック音楽は曲が長くてよくわからない”というイメージがあると思いますが、シュトラウス・ファミリーが生み出したワルツやポルカは長くてもせいぜい10分くらいで、大体は5分くらいのものです。その短い尺のなかでも楽しいメロディや軽やかなリズムなど耳にも親しみやすい要素が多く、オーケストラの魅力というものを手軽に味わえる良さがあります。

加えて、毎年、華やかなバレエの映像もあるので、お子さんたちも興味を示してくれるようです。そういう意味では、ニューイヤー・コンサートはクラシック音楽への導入・入門的な役割を果たしてくれるのではという期待もありますね」

では、進化についてはどうだろうか。

「指揮者が看板的な役割を果たすコンサート、というイメージが強いニューイヤー・コンサートですが、近年は熟練、老練の指揮者たちが規定路線になっています。そこをどう若い世代の指揮者へとシフトさせていくかというところは、ひとつのカギだと思います。ここ数年はクリスティアン・ティーレマンやグスターボ・ドゥダメル、アンドリス・ネルソンスといった若手~中堅も登場していますが、やはりまだまだ“超ベテラン路線”が主流なので、本格的に若返っていくことで一般的にも大きくイメージが変わっていくと思います」

クリスティアン・ティーレマン Photo:Terry Linke

グスターボ・ドゥダメル

アンドリス・ネルソンス Photo:Terry Linke

長きにわたる歴史を誇るウィーン・フィルのニューイヤー・コンサート。コロナ禍でどんなに暗いニュースが日々舞い込もうとも、この華やかなコンサートとともにまた新たな1年が始まると思うと、なんとなく心が華やぐのではないだろうか。

 
文・取材:朝岡久美子

ニューイヤー・コンサート2022 オンエア情報

【NHK Eテレ】2022年1月1日 午後7:00~午後10:00(180分)
ゲスト:林家三平、市川紗椰、反田恭平
司会:川崎理加

【NHK FM】 2022年1月1日 午後7:15~午後10:00(165分)
解説:小宮正安(横浜国立大学教授 西洋文化史研究家)
司会:田中奈緒子

※コンサートはウィーンからの生中継

商品情報

ダニエル・バレンボイム&ウィーン・フィル
『ニューイヤー・コンサート2022』
CD:2022年1月26日発売予定

 

ダニエル・バレンボイム&ウィーン・フィル
『ニューイヤー・コンサート2022』
Blu-ray:2022年2月16日発売予定

 

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
『New Year's Concert: The Complete Works』(26枚組CD)
詳細はこちら

関連サイト

ニューイヤー・コンサート特設サイト
https://www.sonymusic.co.jp/PR/new-years-concert/

ソニーミュージック|洋楽 note
https://sonymusicjapaninternational.com/n/nbfbe4a8edb9b

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