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今、聴きたいクラシック

フランチェスコ・トリスターノがピアノでグルーヴさせる古楽とは?

2022.03.01

遠い昔に生まれ、今という時代にも息づくクラシック音楽。その魅力と楽しみ方をお届けする連載「今、聴きたいクラシック」。

今回はクラシック音楽を軸に、テクノ、ダンス、電子音楽など、あらゆるフィールドを横断して活躍するピアニストであり作曲家、フランチェスコ・トリスターノをフィーチャーする。

今年1月にソニー・クラシカルからの3枚目となるニューアルバム『オン・アーリー・ミュージック』をリリース。コロナ禍の生活で得た新たな気付きをもとに追い求めた境地、そしてインスピレーションの源となる古楽の魅力について語ってもらった。

  • フランチェスコ・トリスターノ

    Francesco Tristano

    1981年、ルクセンブルク生まれ。1998年、ジュリアード音楽院に入学。在学中の2002年に『J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲』でアルバムデビュー。『ノット・フォー・ピアノ』(2007年)をはじめとするエレクトロニックミュージックのアルバムをリリースしつつ、クラシックの名門ドイツ・グラモフォンと契約。2017年にはデトロイトテクノの巨匠プロデューサー、カール・クレイグがオーケストラと共演したアルバム『ヴァーサス』に共作演者として参加。同年、ソニー・クラシカルと独占契約を結び、これまでに3枚のアルバムをリリース。また、グレン・グールドの生誕85周年を記念して2017年末に東京で坂本龍一のキュレーションにより開催されたイベント『グレン・グールド・ギャザリング』にも参加し、2018年にそのライブアルバムもリリースされた。

早朝のランニングで見た日の出が教えてくれたもの

クラシックのコンサートホールとクラブのダンスフロアを自在に行き来するピアニスト、フランチェスコ・トリスターノ。1981年、ルクセンブルク生まれ。ニューヨークの名門ジュリアード音楽院に在学中の2002年に『J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲』でアルバムデビューして以来、その現代的でグルーヴィなバッハ演奏は彼のトレードマークとなった。

伝統を誇るクラシックのレーベル、ドイツ・グラモフォンと契約し、クラシック音楽を“今”の視点から捉え直す斬新なアルバムをリリースするいっぽうで、デトロイトテクノの巨匠プロデューサー、カール・クレイグとコラボレートするなど幅広く活躍。ソニー・クラシカルと独占契約を結んだ2017年以降は、作曲家、プロデューサーとしての才覚も発揮しつつ2枚のアルバムをリリースしてきた。

そして、2022年1月に最新アルバム『オン・アーリー・ミュージック』をリリース。“early music(古楽)”とは文字通り“古い音楽”。広い意味を持つ言葉だが、ここに収録されているのはバッハより前の作曲家たちの作品である。

「多くのクラシックのピアニストは古い時代のレパートリーをあまり知らないものですが、私の家庭では古楽がよく流れていましたから、グレゴリオ聖歌からルネサンス、バロック音楽まで、さまざまな古楽に親しんで育ちました。やがて成長し、私にとって特別な存在となるグレン・グールドの録音作品と出会います。グレン・グールドはウィリアム・バードやオーランド・ギボンズといった、忘れ去られていた古い時代の作曲家を復活させたことでも知られていますね。

そうした影響のもと、私は自分でもハープシコード(チェンバロ)で古楽を弾いてみるようになりました。とは言え楽器を所有していたわけでもなく、上手に弾きこなすのは難しかったのですが、その経験を通してたくさんの素晴らしい作品を知ることができました。そして、それらを現代のピアノで弾いてみたところ、“これは自分のなかに存在する何かだ”と直感し、レコーディングして人々とシェアしたいと思うようになったんです」

Francesco Tristano – Toccata

これまでのライブやレコーディングでも、折に触れて古楽のレパートリーをピアノで演奏してきたフランチェスコ・トリスターノにとって、古楽だけで1枚のアルバムを作るのは念願だった。さらにコロナ禍での生活によって、アルバムに新たな色彩が加えられることになったのだという。

「本来は“early music”というアルバムを作るつもりでした。それが“on early music(古楽について)”というアルバムになったのには理由があります。ご存じのように、2年前にこの世界は変わりました。それによって私は、人生における本当の喜びとは何か? ということを、あらためて考えるようになりました。それは必ずしも大いなる達成や成功ではなく、既に自分たちが手にしているもの、日々の生活のなかの些細な喜びを謳歌することなのではないか……。

そう気付かせてくれたのは、早朝のランニングで見た朝日でした。私の住むバルセロナでは2020年に48日間の外出禁止令が出されたのですが、それが解除された49日目、外に出て朝日が昇るのを眺めたときのことは忘れられません。毎朝ランニングをつづけていますが、日の出という神秘的な瞬間が与えてくれるエネルギーやフィーリングは、日々を乗り切っていく助けになっています。

日の出のマジカルな光景は、はるか昔から現在に至るまで連綿とつづく時間を感じさせるものです。つまり、自分が生きている今現在と、古楽の時代はつながっているということ。それならばいっそ、古楽をコンテンポラリーな文脈に当てはめてみては? と思い付いたんです。古楽にインスパイアされた作品を書き始めたのも、そこからでした」

レコーディング音源も“私らしく”響いてほしい

こうしてでき上がったアルバムは、イギリスのピーター・フィリップス、ジョン・ブル、オーランド・ギボンズ、イタリアのジローラモ・フレスコバルディといった作曲家の作品とともに、フランチェスコ・トリスターノの作品が並ぶユニークな1枚となった。

「アルバム制作にあたり、私は3種類の方法をとりました。ひとつ目は、古楽を本来の姿のまま、楽譜に書かれた通りに演奏するというもの。ふたつ目は、古楽を素材として取り上げ、そのスコアを原材料にして新しい音楽を仕立てるというもの。一種のリミックスですね。そして3つ目は、古楽にインスパイアされる形で自分のオリジナル曲を書くというものです。

オリジナル曲には、古楽から取り入れたハーモニーやリズム、ベースラインといった要素が何かしら含まれています。即興で演奏したように聞こえる箇所もあるかもしれませんが、実はリミックスもオリジナル曲も、すべての曲は譜面に書き起こされたものです。それもまた、古楽に備わった美しさのひとつではないでしょうか。例えば、フレスコバルディの『パッサカリアによる100のパルティータ』などは、ものすごく緻密で広がりのある構成で、ギアチェンジしながら10分近くもつづく即興のように聞こえますが、すべては楽譜に記された音楽なのです」

サウンド面においても、ただ演奏を録音するだけでなく、ピアノのペダルやエレクトロニクスなどを駆使して、独自の音響世界を創り上げているところが彼らしい。

「私が作る音楽の大きな特徴はサウンドにあると、自分でも思っています。ピアノのレコーディング音源の多くは似たり寄ったりの響きですが、私はレコーディング音源も“私らしく”響いてほしい。そのために、サウンドエンジニアとタッグを組んであらゆるスタジオ技術を用い、自分が求めているサウンドを作り出しました。あたかもピアノとスタジオというふたつの楽器が存在しているかのように、スタジオそのものを“もうひとつの楽器”として使ったのです。そうやってレコーディングしたピアノの音を、ポストプロダクションの段階で変容させ、新たな生命を吹き込んでいきました」

古楽をアップデートして現代の若者とシェアしたい

“生命を吹き込む”という言葉通り、フランチェスコ・トリスターノの手にかかると、400年も昔の音楽が、今のダンスミュージックのように躍動し、ビビッドな色彩を帯びて響くのである。

「古楽の魅力は、まず第一にリズムですね。文明の黎明期から、人間にとって最も原初的な表現手段のひとつがダンスです。私の子どもたちを見ていても、言葉を話したり歌を歌ったりするようになる前から、ダンスをしていましたから。そして、ここに録音したイギリスやイタリアのルネサンスから初期バロックの時代の音楽において、ダンスのリズムはより洗練され、輝くようになったと思います。私はこれらのリズムを、現代のピアノを使って思いっきりグルーヴさせることができます。

第二の魅力はハーモニーでしょう。これらの音楽に備わった和音は、いつも私の魂に響いてきます。作曲家たちが聴き手をあっと驚かせるために忍ばせた独自の“ひねり”も素晴らしく、“このハーモニーはこう展開していくはずだ”と思っていると、予想とはまったく違うところにいったりするんです。例えばピーター・フィリップスの『ニ調のファンタジア』などは、3分ほどの短い曲のなかで彼の全人生が凝縮した形で描写されており、細かいひねりや、通常の音楽語法を破った仕掛けが満載。これをアップデートして現代の若者に聴かせてみたら、さぞ面白いだろうと思いました」

Francesco Tristano - Circle Song (Official Video)

Francesco Tristano - Neon City

ソニー・クラシカルに移籍してからは『ピアノ・サークル・ソングス』(2017年)、『東京ストーリーズ』(2019年)と、いずれも作曲家、プロデューサーとしてのクリエイティビティが強く打ち出されたアルバムをリリースしてきたフランチェスコ・トリスターノ。古楽に新たな光を当てた『オン・アーリー・ミュージック』も、革新性に満ちたアルバムとして歴史の1ページを刻むことだろう。

「ここに録音した作品が書かれた400年前という時代は、作曲すること、作品を解釈すること、音楽をプロデュースすること、楽器を演奏することや歌を歌うこと、それらの間に大きな違いはなかったのではないかと思います。すべてが“音楽を作ること”として捉えられていました。

アルバムを作る上で大切にしているのは“自分は聴き手に何をもたらしたいか”“人々とどんなことをシェアしたいか”ということ。その点において、私が今作で追求したかったのは、どれだけ自由になれるかということです。400年前の音楽を、ダンスフロアで鳴るテクノトラックのように機能させ、古楽はコンテンポラリー音楽と同じくらい今日性があるものだとプレゼンテーションする。そして、これまで古楽の存在すら知らなかった若いリスナーに“わあ、これクールでファンキーだな!”と感じてもらう。それが私の使命だと思っています」

今年1月に予定されていた来日公演はコロナ禍のため延期になってしまったが、昨年10月にはピアニストの角野隼斗(YouTuberの“かてぃん”としても絶大な人気を誇る)が、ショパン国際ピアノコンクールに出場したあとにバルセロナのフランチェスコ・トリスターノを訪ね、ふたりで楽しそうにセッションする姿をSNSに投稿して話題となった。「入国制限が緩和されたら、今度は私がかてぃんに会いに日本に行きたいですね」と語るフランチェスコ・トリスターノ。今後の活躍からも目が離せない。

文・取材:原典子
通訳・翻訳:坂本麻里子

『オン・アーリー・ミュージック』/フランチェスコ・トリスターノ

発売中
価格:2,860円
 
<収録曲>
01. トリスターノ:トッカータ
02. トリスターノ:ジョン・ブルのニ調のガリヤルドによって
03. フィリップス:ニ調のファンタジア
04. トリスターノ:サーペンティーナ
05. ブル:清き心もて称えん
06. トリスターノ:ジローラモ・フレスコバルディの4つのクーラントによって
07. フレスコバルディ:フォリアの旋律によるパルティータ
08.トリスターノ:リトルネッロ
09.トリスターノ:クリストバル・デ・モラレスの「死の悲しみが私を取り囲み」によって
10. ギボンズ:パヴァン
11. ギボンズ:エアとアルマン
12. ギボンズ:イタリアン・グラウンド
13. ギボンズ:グラウンド
14. トリスターノ:第2チャッコーナ
15. フレスコバルディ:パッサカリアによる100のパルティータ
16. トリスターノ:RSのためのアリア
17. スウェーリンク:ファンタジア ニ調(ライヴ~『グレン・グールド・ギャザリング』より)※ボーナストラック

関連サイト

フランチェスコ・トリスターノ 公式サイト
https://www.sonymusic.co.jp/artist/francescotristano/

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