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連載Cocotame Series

今、聴きたいクラシック

情熱のヴァイオリニスト、川井郁子がジャンルの境界を超えて届けたい永遠の名曲たち【前編】

2022.06.07

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遠い昔に生まれ、今という時代にも息づくクラシック音楽。その魅力と楽しみ方をお届けする連載「今、聴きたいクラシック」。

今回は、ヴァイオリニストの川井郁子をフィーチャーする。その艶やかな佇まいとパッショネイトな演奏から“情熱のヴァイオリニスト”と呼ばれ、クラシック音楽を起点にジャンルの枠を超えて、縦横無尽の活躍を見せる才媛。国内外の主要オーケストラをはじめ、巨匠音楽家やスター歌手、ポップス系アーティストからバレエダンサー、フィギュアスケートの名選手まで、多彩な面々とコラボレーションを重ね、作曲家としても映像や舞台作品の音楽を手掛けるなど、華やかなキャリアを築きあげてきた。

2020年にデビュー20周年を迎え、ますます進化を遂げる川井郁子。その唯一無二の音楽世界を作りあげてきたものとは?

前編では、デビュー当時からのさまざまな出会いと、これまでの活動の集大成的なアルバム『ALWAYS~名曲物語~』について語ってもらった。

  • 川井郁子

    Kawai Ikuko

    ヴァイオリニスト、作曲家。香川県出身、東京芸術大学卒業、同大学院修了。現在、大阪芸術大学教授。世界フィギュアスケート選手権でアメリカのミシェル・クワン選手が川井郁子の演奏する楽曲「レッド・ヴァイオリン」を使用して優勝、羽生結弦選手をはじめ国内外の選手にも楽曲が数多く使用されている。アルバム『レッド・ヴァイオリン』『オーロラ』『LUNA』などは器楽アルバムとして異例の発売記録を更新し、注目を集めた。社会的活動として「川井郁子マザーハンド基金」を設立。全日本社寺観光連盟親善大使、国連UNHCR難民サポーターを務める。使用楽器はストラディヴァリウス(1715年製 大阪芸術大学所蔵)。

ピアソラとの衝撃的な出会いとデビューアルバム

川井郁子がアルバム『レッド・ヴァイオリン』でメジャーデビューを果たしたのは2000年。当時のシーンと言えば、アンドレア・ボチェッリとサラ・ブライトマンによるデュエット曲「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」(1996年)の大ヒットに代表されるクラシカルクロスオーバーと呼ばれる音楽が台頭してきた時代。また、ヴァイオリニストのギドン・クレーメルによるアルバム『ピアソラへのオマージュ』(1996年)や、チェリストのヨーヨー・マによるアルバム『プレイズ・ピアソラ』(1997年)などを火付け役として、クラシック演奏家がアストル・ピアソラ※の楽曲を演奏するブームもあり、従来の“クラシック音楽”が意味していた枠組みが大きく拡大していく過渡期にあった。

日本においても、渋谷のタワーレコードが現在の場所に移転して、ワンフロアをまるごとクラシック売り場にしたのを機に、日本人のクラシック演奏家のアルバムを集めた“J-CLASSICAL”コーナーが設置されるなどして注目を集め、個性豊かな若手アーティストが多数登場してしのぎを削っていた。

※アストル・ピアソラ
1921年に生まれ、1992年に没したアルゼンチンの作曲家・バンドネオン奏者。タンゴをもとにクラシックやジャズなど、さまざまな要素を融合させた独自の芸術を生み出した。

「ビクターエンタテインメントからアルバムを出しませんかとお声掛けいただき、プロデューサーやマーケティング担当のスタッフたちと一緒にデビュー作の内容について検討していたころ、ちょうど美空ひばりさんの曲をヴァイオリンでカバーしたアルバムがヒットチャートを賑わせていました。それもあって、石原裕次郎さんのカバーでいこうとか、人気の映画音楽を入れようとか、ショパンのピアノ曲をヴァイオリンで弾いたらどうかとか、キャッチーなアルバムにするためにいろいろなアイデアが出されました。

でも、そんな話し合いのなかで既に私の心は決まっていました。実はその少し前に、音楽仲間のピアニストから、“これ絶対、郁子ちゃんは好きだと思う”と薦められたアルバムを聴いて、ピアソラの音楽との衝撃的な出会いを果たしたばかりだったんです。激しくて、とても土臭いのに洗練されていて、“本当にこれもタンゴなの?”と驚きました。何より、自分の意のままに斬新な手法で表現するピアソラの音楽が現代的で、タンゴを超越した説得力を持って迫ってくることにショックを受けて。

クラシックの演奏家は基本的に、作曲家によって完成された過去の作品を忠実に再現することが王道とされていて、世の中にはたくさんの名演や名盤があふれているのに、“はたしてそこで私が弾く意味ってあるの?”と疑問を抱いていたところでした。ピアソラのように、己の魂の底から湧き上がる想いを表現したい、ジャンルやまわりの意見にとらわれず、自分だけの音楽を目指したいという気持ちを、どうしても抑えることができなかった。それで“私が思うままにアルバムを作らせて欲しい”って、大胆にも申し出たんです」

和楽器や舞台芸術とのコラボレーション

パーカッションやギターをフィーチャーし、「アランフェス協奏曲」をはじめクラシックの名曲を独自の感性でラテン・ポップテイストにアレンジした4曲、そして大自然への憧れや人間の“熱情”を表現した自身の作曲によるオリジナル6曲で構成された『レッド・ヴァイオリン』はリリース直後から大きな反響を呼び、セールス的にも成功を収めて、その後の川井郁子の方向性を決定付けた。

「私を信じて“賭けて”くれたレコード会社には、今でも心から感謝しています。あれからすべてが始まりました。生来、あまり遠い先のことは考えないタイプなので、とりあえず目の前のプロジェクトをやり遂げてから、次に何をしたいかをその都度考えて、何とかここまで20年あまり、やってこられた気がします。

たくさんの人との出会いにも助けられました。いろいろなジャンルのアーティストとコラボレーションをすることで、どんどん世界が広がって、新しい自分を見付けられたのだと思います。特に大きな成果だったのが和楽器との共演。2ndアルバム『ヴァイオリン・ミューズ』(2001年)に収録した「エターナリィ」という曲を書いていたとき、サビの部分にどうしても尺八の音がほしくなって……それまで和楽器と一緒に演奏したことなんてなかったのに、“ここは尺八でなくては”と強く感じました。それで実際に入ってもらったら、ストンと腑に落ちたんです。

それと、もうひとつの大きな出会いは舞台芸術とのコラボレーション。契機になったのは、寺山修司さん原作の舞台『上海異人娼館』に立たせていただいたときです。役を演じながらヴァイオリンを弾くのは、コンサートでステージにあがるのとは違う高揚感があって、自分でも驚くほど音楽と一体化できたような手応えがありました。それ以来、音楽で“演じたい”という欲が芽生えましたね」

古今東西の名曲をストラディヴァリウスで歌う

その姿勢はときを経て、2021年9月にリリースされた最新アルバム『ALWAYS~名曲物語~』にまで受け継がれているのかもしれない。本盤は“名曲物語”の名に相応しく、未曾有のバラエティに富んだ選曲が魅力的な1枚。映画音楽、ジャズスタンダード、洋楽ヒッツ、Jポップ、アニソン、シャンソン、昭和のメロディ、タンゴ、そしてもちろんクラシックの名旋律まで、古今東西のあらゆる有名な楽曲を、ヴァイオリンの銘器ストラディヴァリウスの美しい響きで、見事にひとつにまとめあげたアルバムとなっている。

「テレビ東京で『100年の音楽』(2011年4月~2021年3月)という番組を長らく担当させていただき、クラシックもポップスもジャンルを超えて、改めて“名曲”の持つ強いパワーに惹かれるようになりました。人間が書いたというより、神様が作曲家の手を借りてこの世に産み落としたとしか思えないような素晴らしいマスターピースの数々を、ヴァイオリンで奏でる楽しさに目覚めてしまったのです。特に今の時代は、世代によって聴いている音楽がまったく違ったりすることもありますが、コロナ禍だからこそ、年齢を問わず、いつも側に寄り添って一緒に楽しめるアルバムを作りたいと思いました」

後編につづく

文・取材:東端哲也
撮影:干川 修

『川井郁子 デビュー20周年 シンフォニック コンサート
~越境するヴァイオリンミューズ~ withオーケストラ響~ひびき~』

6⽉23⽇(⽊)19:00開演
Bunkamura オーチャードホール
詳細はこちら(新しいタブで開く)

リリース情報


 
『ALWAYS~名曲物語~』
発売中
価格:3,300円
 
<収録曲>
01.サウンド・オブ・ミュージック
02.アイ・ガット・リズム
03.ホール・ニュー・ワールド(『アラジン』より)
04.キャラバンの到着
05.シェルブールの雨傘
06.エヴァーグリーン(『スター誕生』愛のテーマ)
07.サニー feat. 花音
08.アヴェ・マリア
09.魅惑のワルツ
10.Forever Love
11.So in Love
12.宇宙戦艦ヤマト
13.群衆
14.男はつらいよ
15.オー・シャンゼリゼ
16.ダンシング・クイーン
17.エンドレス・ラブ
18.エマニュエル
19.風のあとに
20.フォロー・ミー feat. 花音
21.いそしぎ
22.プッティン・オン・ザ・リッツ
23.碧空
24.マイ・ウェイ
ボーナストラック
25.麒麟がくる(メインテーマ〜希求)
26.哀しみのグラツィア(NHK『8Kアースウォッチャー』テーマ曲)

関連サイト

川井郁子オフィシャルサイト:
https://www.ikukokawai.com(新しいタブで開く)

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