熱い演奏を聴かせる松下奈緒の音楽家としての顔【後編】
2022.04.13
気鋭のアーティストの実像に迫る連載企画「アーティスト・プロファイル」。
数々のドラマや映画、CMなどに出演する女優、松下奈緒。その活動と並行して、ピアニストとしての作品を発表しつづけている彼女が、4月13日に、約3年ぶりとなるアルバム『FUN』をリリースする。“音楽の楽しさを伝えたい”というストレートな願いが込められた本作。そこには等身大の松下奈緒の姿があった。
前編では、新作『FUN』の楽曲を解説するとともに、音楽に対する自身の気持ちを語る。
松下奈緒 Matsushita Nao
1985年2月8日生まれ。兵庫県出身。血液型AB型。3歳からクラシックピアノを始める。2004年4月、女優デビュー。女優活動と並行して、2006年10 月18日にアルバム『dolce』をリリースし、ピア二ストとしてCDデビュー。2022年4月13日に、8枚目となるアルバム『FUN』を発表する。
女優、ピアニスト、作曲家、歌手、ナビゲーター、ナレーターと、さまざまなフィールドで活躍している松下奈緒が、前作『Synchro』以来、実に3年ぶりとなる通算8枚目のアルバム『FUN』をリリースした。“音楽をおもいっきり楽しまなくちゃ!”というコンセプトを掲げ、“楽しみ”“喜び”を意味する言葉をタイトルに冠したニューアルバムの構想は、コロナ禍に突入した2020年に開催された全国ツアー『PLAYLIST』の最中に思い付いたものだそう。
「2年前、大変な状況下ではありましたが、ツアーをなんとか終えることができました。エンタテインメントを100%の気持ちで楽しめない……そんななかで、ツアーはなんとか完走できたし、お客さんにもたくさん来ていただけて。やっぱり生の音楽を楽しむということは忘れちゃいけないんだなって感じましたし、自分としても、音楽を止めちゃいけないんだっていうことがひとつの目標として生まれてきたんですね。
改めて、自分自身が音楽を思い切り楽しもう! と思ったし、お客さんに対しても、音楽って楽しいものなんだよ、思い切り楽しんで良いものなんだよっていうことを伝えられるアルバムを届けたいなと考えていましたね」
3歳からピアノを始め、東京音楽大学音楽部音楽学科ピアノ専攻を卒業している彼女にとって、音楽は常に楽しいものであったのだろうか。
「楽しいって思えるようになったのは、ここ数年かもしれないです。3歳からクラシックピアノをやってきて、音大に入るためには、本当に身を削って、血の滲むような努力をしないといけない時期もあって。2006年10月にデビューアルバム『dolce』を出してからは、自分のオリジナル曲でコンサートができるという喜びがありつつも、自分の実力はちゃんと足りてるのか? というもどかしさも感じていました。
でも、ここ数年は、ツアーを重ねてきたことで、一緒に回るバンドメンバーとの距離感も縮まったし、意思疎通がちゃんとできる環境になって。自分のやりたいことをみんなが体現してくれるし、自分もそこに身を置けることがすごく楽しくなった。ステージに早く立ちたいって思えるようになってきたんですよね。2006年にアルバムデビューした当初は自信がなかったし、ライブは怖いと思っていました。でも、ここ数年のツアーは、やればやるほど楽しいし、もうちょっとやりたいなと思ったくらいでちょうど終わるという、良い名残惜しさがあって。非常に良いスパンでやれているなと思うし、音楽って楽しい! って思える瞬間が多くなったなと思います」
2019年にリリースされた前作アルバム『Synchro』にはボーカル曲「愛と呼んだ奇跡」が収録されていたほか、鈴木雅之氏によるカバー曲「涙くんさよなら」にゲストボーカルとして参加するなど、シンガーとしても活躍している彼女だが、ニューアルバムではピアニストに徹し、全9曲中7曲を自らが作曲。全曲がインストゥルメンタルとなっている。
「自分の名前でアルバムを作るのであれば……特にインストだったら、できるだけ自分で曲を作りたいという気持ちはすごくありますね。もちろん、誰かの力を借りて良くなることもたくさんあるし、そういう楽しみもあるんですけど、基本は自分で作ろうと思っています。
特に今回は、久しぶりにインストにこだわった1枚にしたかったという思いがあって。ただ、インストではあるけど、歌心を感じるメロディを作りたくて。今後、歌詞が乗りそうだよね? っていうところで止めておきたいというか、ボーカルは入ってないんですけど、ポップスっぽいものを入れてみたら良いんじゃないかなと思ってやってみました」
歌はないけど歌えるようなメロディラインを体現したのは、JAバンクCMソングとして制作された「みんなのあした」だろう。アルバム収録曲のなかで最初に作られたハートウォーミングな楽曲で、編曲はドラマ『コンフィデンスマンJP』や『健康で文化的な最低限度の生活』などの劇伴も担当した、現代版ジャズロックバンド、fox capture planのカワイヒデヒロが手掛けている。
「まさに、インストだけど歌の心を感じられるようにしたいなと思って作った曲ですね。ただ、最初は、懐かしさを感じるような、温かく寄り添ってくれるような曲にしたいと思っていたんですけど、制作する過程で、コロナ禍の状況もあるなかで、意味合いがちょっとずつ変わっていきました。“みんなに未来があるんだ”っていう、みんなの明日を願う曲になったと思います」
自身が出演するCMの楽曲を自ら作曲し、演奏までできるのは、松下奈緒の強味。同じCMソングとしては、佐藤製薬のユンケルのCMソングも2曲収録されている。
「ユンケルのCM曲第1弾の『Shiny Blue』はブラスのサウンドを入れていて。熱量が高いんですけど、頑張りすぎてないというか、良い感じに力が抜けた、ご機嫌な曲になっていると思います。編曲はYoYo(SOFFet)さんなんですけど、YoYoさんとやらせてもらうようになってから、ピアノの弾き方が少し変わってきました。
このアルバムで言うと、これまでは『光~ray of light~』や『Breath~JUA la Africa~』のようにアタックの強いピアノを弾くことが多かったんです。でも、ユンケルシリーズをやらせていただくようになってから、うまく力を抜いて、気楽にピアノと向き合えるようになって。ひと言でピアノと言っても、いろんな音の出し方があるなっていうことに気付かされましたね。『Shiny Blue』は今までとはまったく違う演奏技法で弾いてみるトライもできたので、すごく印象に残ってます。ただ、非常に休符の多い楽曲で。しかも、全員でブレイクする部分があったり、自分だけのテンションではないので、演奏者と駆け引きをしている感じがあって、すごく面白い曲になったなと思います」
アルバムのオープニングを飾るのが、ユンケルのCMソング第2弾「it’s MOTTO」。「Shiny Blue」はラテンやサンバのビートが弾んでいるが、「it’s MOTTO」はジャズをベースにしたブギーファンクとなっている。
「これもYoYoさんと一緒に作ったんですけど、おしゃれなコードをたくさん使いたくて。ピアノ始まりのイントロにちょっとエフェクトをかけて、レトロな雰囲気を出しつつも、動き出すとちゃんとジャズになっていく。心地良いけど、空気感は停滞しないというテーマで作ってましたね。
あと、ユンケルなので、前向きな感じで、聴いてくれた方の体が自然と動いてしまうような曲にしたいなと考えてました。タイトルは、“いつも”という意味にかけているので、いつもそばに置いておきたい1曲になると良いなと思います」
ジャズの名門、米・バークリー音楽院卒で、ジャジーなヒップホップユニットで活動しているYoYoとは、アルバムのタイトル曲「FUN !」でも共同制作を行なっている。
「最初は作る予定はなかったんですけど、アルバムに収録する曲を並べてみたときに、まとめとして、表題となる楽しい曲が欲しいなって思って。ジャズロックやファンク、フュージョンやAORのテイストが入ってる曲になりました。
私、自分が生まれた前後の1980年代の音楽が好きなんですね。そういう雰囲気は残しつつ、YoYoさんがアレンジしてくれたことで、洗練された今っぽい感じになっていて。あと、ピアノが主流になっているので、いかにメロディアスにできるかっていうところも考えたし、でも、おしゃれ感は外せないなとも思って。総合的に、いろんなジャンルの良いとこ取りをした曲になってます」
本作でピアノを弾く彼女には、“容姿端麗で音大出のお嬢様”というイメージは似合わない。特に「FUN !」は、音源を聴いてるだけで、思わず立ち上がって「ブラボー!」と叫びながら手を叩きたくなるような、熱気あふれる演奏が繰り広げられている。
「まさにそれを狙ってます。今の私は、すべての楽曲を考えるときに、まず、ライブのことが思い浮かぶんですね。音楽が楽しいって思う先には、常に一緒に演奏するミュージシャンたちがいて、それを聴いて一緒に楽しんでくれるお客さんがいる。そういう余裕を持つようになったのが最近のことなので、そういう意味でも、『FUN !』はすごく思い入れのある曲になりましたね」
文・取材:永堀アツオ
撮影:LUCKMAN
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