活動20周年。すべては歌いつづけるために【前編】
2022.05.02
ソニー・ミュージックレーベルズ
気鋭のアーティストの実像に迫る連載企画「アーティスト・プロファイル」。
数々のドラマや映画、CMなどに出演する女優、松下奈緒。その活動と並行して、ピアニストとしての作品を発表しつづけている彼女が、4月13日に、約3年ぶりとなるアルバム『FUN』をリリースした。“音楽の楽しさを伝えたい”というストレートな願いが込められた本作。そこには等身大の松下奈緒の姿があった。
後編では、俳優業と音楽活動の両立や、新作発表後に開催されるツアーへの思いを聞く。
目次
松下奈緒 Matsushita Nao
1985年2月8日生まれ。兵庫県出身。血液型AB型。3歳からクラシックピアノを始める。2004年4月、女優デビュー。女優活動と並行して、2006年10 月18日にアルバム『dolce』をリリースし、ピア二ストとしてCDデビュー。2022年4月13日に、8枚目となるアルバム『FUN』を発表した。
(前編からつづく)新作アルバム『FUN』では、これまで以上にバラエティに富んだ楽曲が並ぶなかで、松下奈緒のルーツと言えるクラシック楽曲から、「天国と地獄」のカバーにも初挑戦している。運動会などのBGMとしても親しまれている、おなじみの楽曲だ。
「音大時代はクラシックをバリバリ練習して、毎週1回のレッスンを必ず受けるという生活だったんですね。むしろジャズとは無縁で、聴くのは好きだけど、弾けって言われたら弾けないっていう感じだったんです。それが、自分でアルバムを作るようになってから、クラシックの曲を1曲も入れてないよねってことに気付いて(笑)。きっと、クラシックの楽曲を譜面通りにきれいに弾くっていうことを、今の私は欲していないんだなって思っていたんです。それが、8枚目のアルバムで、ここにきて原点回帰というか。ただ、それでも、真正面からクラシックと向き合うというよりも、遊べるクラシックをテーマにして、河野伸さんにアレンジをお願いしました。
きれいに楽譜通りに弾く「天国と地獄」は面白くないなと思って、あえて2台のピアノを自分で弾いて、ひとりふた役をやりつつ、天国と地獄感をちょっと出してみようと思いました。今回、この曲を一番練習したかもしれないですね。でも、メロディが強くて、遊べる土壌のある曲だったので、とても楽しかったです」
また、彼女がナビゲーターを務めるドキュメンタリー番組『ガイアの夜明け』のオープニングテーマ「光~ray of light~」と挿入曲「アカツキ」は、2曲つづけて収録。いっぽうはオーケストラ、いっぽうはピアノトリオを基調とした少人数の編成となっている。
「これはふたつでひとつの曲だな、と。『ガイアの夜明け』は、今年放送開始20周年。時代を超えて、いろんな出来事と向き合ってきた番組ですから、きれいで美しいということよりも、現実味があって土臭いっていうところを目指したかったんです。結構、テンポ感もどっしりした、堂々としたものが良いなって。でも、上で鳴ってるメロディは、やっぱり美しくないといけない。光を感じるような作品になればという、漠然としたテーマがありました。
オープニングテーマはコンチェルトのようになってるんですけど、挿入曲は、番組のなかで紹介している、悩んだり、葛藤したりして、頑張っている人たちの背中を押してあげられるようなものにしたかった。と同時に、そういう方たちがちょっとひとりになって考えている雰囲気も想像しました。それで、ポロンとピアノを鳴らすようなイメージで、あえて、ピアノを“薄く”してるんですね。ふわっと包み込むような雰囲気が欲しかったし、番組に出演している方たちのことを一番大事に考えて書けた曲だと思います」
フルオーケストラを迎えた壮大なバラードから、ホーンセクションを加えたラテンナンバーに、ひとり多重録音のクラシックカバーまで。さまざまな編成の楽曲のなかで、主演ドラマ『アライブ がん専門医のカルテ』の劇中曲「アライブ‐Piano Version‐」は唯一ピアノソロの楽曲となっている。
「このドラマ自体がすごく好きなんです。もともと医療ドラマが好きなんですけど、腫瘍内科をフィーチャ―したドラマで役を演じてみて思ったのは、患者さんとの距離がすごく近いところで向き合うお医者さんのお話だということ。そういう意味で、非常に心に残っているんですよね。だから、記憶としてちゃんと心に留めておきたいなと思いました。作曲と編曲を手掛けた眞鍋(昭大)さんのメロディがフォーレみたいな感じで、たゆたう感じが非常に美しかったし、シンプルに見えて実は複雑なので、そういう面白さを聴いていただく方にも楽しんでいただければなと思います」
CMやドラマへの出演、番組ナビゲーターなどと、音楽家としての活動がリンクしている現状を、彼女自身はどう捉えているのだろうか。
「相乗効果と言ったらおかしいんですけど、自分のなかで高められるものだと思ってますね。もし、ドラマ『アライブ』に参加してなくて、曲だけを弾いていたとしても、曲としては成立するかもしれない。でも、思いは残らないですよね。出演もしている上で演奏できる喜びは絶対に違うと思います。
それに、自分で撮影場所に行って感じたことを曲にできるのは、自分にしかできない、生み出せないやり方だなって。いろいろとタイアップ曲を書かせていただきますが、現場を知ることができる、その場に行けるということは、曲を書く上でも、イメージを伝える上でも大事になってくる。そういう意味でも、どちらも一緒にできるというのは、心強いですよね。
例えば、「Breath ~JUA la Africa~」は、アフリカに実際に行ってなかったら書けなかったと思う。サウンドを作る際も、自分の頭に鳴ってる音はあるけど、何で表現して良いのかがわからなかったので、パーカッションの方が持ってきた楽器を1個ずつ鳴らしてもらって、そこから選んだりしたんですね。それができたのはアフリカに行ったからだし、アフリカに行けたのは、女優のお仕事をしていたから。
行っている間はアフリカを全力で楽しみましたけど、帰ってきてからは、その雰囲気や感じた思いを大切にして、家でどんな曲にしようかってひとりで考える。すごく地味な作業で、演技やナビゲーターと作曲はまったく違うテンションですけど、どちらも自分のものであって。現実的には時間に追われることはあるけれども、やってるときは“両立してる”とすら思ってないです。両方やってるからこそ自分を保っているという気がしますね」
大学在学中の2004年に女優デビューし、劇中で代役なしでピアノを演奏してから18年。2006年の作曲家、ピアニストデビューからは16年目を迎える。
「もうそんなに経ってるんですね。振り返ってみても、16年前のことはあんまり思い出せないです。私個人としては、大きく変わっていない気がします。もちろん、やりたいことややってみたいことは日々、変化してますけど、目指しているところは変わってない。演じる役柄も、自分の音楽作品もそうなんですけど、前作とは違うものにしたいっていうことの繰り返しですね。
アルバム作りは、そのときどきでコンセプトがあって、前回よりも上手にピアノを弾こうっていうことだったり、小さなことだけど、聞こえ方が違うようにしたいということだったり、自分が聴いてきた音楽を超えるものを作りたい、だったり。ジャンルを問わず、常にやったことがないこと、やったことがない弾き方、やったことのない音楽を作りたいという気持ちはずっと変わってないし、常に更新していきたいという思いがあります」
16年前から変わらない向上心の強さの源は、何より、自分自身が楽しむ姿勢にある。
「そうじゃないと、別にアルバムを作らなくても構わない、ってなっちゃうと思うんですよね。つづけることはできたかもしれないけど、私は面白くないし、楽しくない。去年よりも今年、7枚目よりも8枚目をより良くしたいっていう気持ちでいたほうが自分も高まっていくし、難しくなっていったほうが課題があって楽しいですね。
そういういう意味では、音楽をやってる自分のほうが、私自身なのかもしれないです。俳優の仕事は“枠”があって、そのなかに自分がいるっていう感じですけど、音楽はその枠があるようでない。曲のコンセプトはあるけど、演奏が良ければ飛び出しても良いし、自分が好きなようにやっても良いっていう安心感があります」
“等身大の自分で音楽を自由に楽しもう!”という姿勢そのものがメッセージとなっている本作を携えた全国ツアーも決定している。ライブを想定して作れられた楽曲たちは、どんな形で披露されるのだろうか。
「去年に引きつづきツアーができるのは、幸いなことだと思っています。音楽はやっぱり生で聴いていただくのが一番なんですよね。もちろん、CDも良いんですけど、それを聴き込んだ上で、ライブで生の演奏を聴いていただくと、倍楽しいと思います。結構、難しい演奏をやっているので、それを生で確かめていただきたいですし、手拍子などで参加できる曲も多いので、今から練習しておいていただければ(笑)。
あとは、声を出しちゃいけないなかで、じゃあ、どこで楽しさを持って帰ってもらうかがツアーの大きなテーマだと思っているので、声を出さなくても、楽しかったっていう気持ちで帰っていただけるようなツアーにしたいと思っています」
松下奈緒は、常にチャレンジする人であった。うしろを振り返らずに新しい世界へと飛び出す人であった。俳優としては清く正しい役柄のイメージが強いが、音楽には枠をはみ出していく姿勢で向き合い、向上心が強く、常に刺激を求めている。その思いこそが、彼女の音楽性を磨き上げてきたことは間違いないだろう。
文・取材:永堀アツオ
撮影:LUCKMAN
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