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連載Cocotame Series

Eyes on

神山羊:クローゼットの扉を開けて、一人ひとりに楽曲を届ける

2022.04.27

今、注目すべき旬のアーティストにスポットを当て、最新インタビューとプライベートショットで素顔に迫る連載「Eyes on」。

第24回は、YouTubeでの再生回数が1億回を超える楽曲「YELLOW」で注目され、SNSを中心に話題となったサウンドクリエイター、シンガーソングライターの神山羊。4月27日に、同曲を含む1stフルアルバム『CLOSET』を発表した彼に、音楽を始めたきっかけから現在の活動までを聞く。

  • 神山 羊

    Kamiyama Yoh

    2018年11月、YouTubeに初投稿した「YELLOW」より、神山羊名義でのアーティスト活動をスタート。2020年3月4日、CDシングル「群青」でメジャーデビュー。2022年4月27日、1stフルアルバム『CLOSET』をリリース。

音楽で食べていくことは考えていなかった

――シンガーソングライターとしての活動を始める前は、「有機酸」名義でボカロPとして活動していましたが、さらにその前は、会社勤めをしていたこともあるそうですね。

はい。高校生のころからずっとバンドをやっていたんですけど、大学を卒業するタイミングで音楽自体をやめたんです。もともと音楽で食べていくことは考えていなかったので、地元の会社に就職しました。その後、東京に出て別の会社で仕事をするようになり、そのタイミングでボーカロイドと出会って、曲を作るようになったんです。

「『青い棘』の歌録りをしています」

――そもそもの音楽との出会いはどういう形だったんですか?

祖父の影響で、小さいころからクラシックやジャズを聴いていたんですけど、音楽が好きだなって思うようになったのは、中学生のころにJ-POPやJ-ROCKを聴き始めてからですね。初めて買ったCDはBUMP OF CHICKENだったんですけど、そういう、友達のお兄ちゃんが聴いているようなものから入って、そのうち洋楽ばかり聴くようになっていきました。当時はサブスクもないですし、そんなにたくさんCDも買えないから、レンタルショップで“ジャケ借り”して、いろんな音楽を聴きまくってましたね。

――特に好きだったアーティストやジャンルは?

高校からずっとやっていたバンドでは、シューゲイザーというジャンルの音楽をやっていました。マイブラ(MY BLOODY VALENTINE)が大好きだったんですよ。洋楽のパンクやヘヴィメタルを聴き漁っていくなかで、シューゲイザーが自分に一番しっくりきたというか。

――高校からバンドを始めて。でも、音楽で食べていこうという発想にはならなかったんですね。

食べていけるようなバンドじゃなかったんですよ(笑)。ライブでも、楽器は壊すもの、みたいな感じで、演奏せずに終わったりすることもありましたし、割とパンクやガレージ感もある、ちょっと変わったバンドで。僕自身、「自分は27歳で死ぬんだ」って思いながらやってましたから(笑)。それに、祖父が僕に就職してほしそうな雰囲気を匂わせていたので、だったら音楽はやめよう、と。本当に音楽が好きだからこそ中途半端に関わりたくないなと思って、就職するタイミングできっぱりとやめたんです。

――音楽への思い入れは強いけど、どこか刹那的な、その瞬間がすべてという感じでしょうか。

そうかもしれない。僕自身、そういうバンドが好きだったし、そういうふうに音楽と関わりたかったんですね、昔は。だから「これで成功してやるぜ!」みたいな気持ちも全然なくて。今、こうやって音楽をやってる自分なんて、想像したこともなかったです。先のことは本当に何も考えてなくて、一瞬一瞬に全力を注いでいれば、自分の気持ち良い状態がずっとつづいてるという感じでしたね。

「お菓子作りにはまっています。アイスボックスクッキーを作りました」

「パンを焼くのにもはまっています。でも普通の料理は一切できません」

音楽を通じて誰かとつながれるかもしれない

――ボカロPとして活動するようになったきっかはなんだったんでしょう?

上京して、入社する前に何もしていない期間があって、そのときにボーカロイドと出会いました。東京に友達がいなくて、それまでも、唯一、自分が人とつながっていられたのが、音楽を通してだったんですよね。それで、音楽を通じてだったら、また誰かとつながれるのかもしれないと思って、やめていた音楽を再開しようと思ったんです。とはいえ、ひとりで演奏してるだけってわけにもいかないし、そもそも楽器を何も持っていなかったので、ひとまずパソコンで、『GarageBand』というソフトを使って生まれて初めて作曲をしたんです。曲が出来上がって、さてどうしようと思ってたときに、僕より先に東京に来ていた弟が、ボーカロイドとニコニコ動画の存在を教えてくれました。そこで知った“初音ミク”を使って、それまでは見たこともなかったニコニコ動画に作った曲を上げてみたんです。

――それが「退紅トレイン」?

そうです、そうです。

――いきなりあの曲ができたんですね。

曲自体は確か1日でできたんですよ。とにかく打ち込みだけ、パソコンだけで音楽を作ることをテーマにして。一度音楽と決別した自分なりの区切りとして、ギターは持たずに作るんだっていう想いは当時、あったと思います。

有機酸/ewe「退紅トレイン」feat.初音ミク MV

――「退紅トレイン」を公開して、反響の大きさに驚かれたでしょう?

一切、期待していなかったので、めちゃくちゃびっくりしました。ただ、話題になったといってもそれで食べていけるわけではないので、そのまま就職したんです。面接には、自分が作ったボカロの曲や映像をポートフォリオにして持っていって(笑)。当時はあくまでも、自分のライフスタイルのなかの大事にしていきたいものという位置付けだったんですよね、音楽は。

でも、そこから同じようにボカロPとして活動する友達ができて。バルーン名義で活動していた須田景凪なんですが、既にプロのボカロPとして活躍していて。彼と出会って、「プロのミュージシャンとして曲の向こう側にいる人のことを考えてるんだな」って感じたというか、「なるほど、こういう生き方もあるのか」って気付かされたというか。その影響で僕も、作曲のやり方や曲の届け方、映像の作り方などを一個一個、よりしっかりと考えるようになっていったんです。それまでは作った曲をアップして、それを誰かが聴いてくれたらうれしいなぐらいで終わってましたからね。ターニングポイントのひとつとして、須田との出会いは大きいです。

「アルバムののマスタリング日。『CLOSET』はこの日完成しました」

――そこからアーティスト・神山羊へと徐々に意識がシフトしていくことになるんでしょうか。

ボカロPとしての活動をスタートしたのが2014年なんですけど、ちょうどそのタイミングで、あるディレクターの方からDAOKOさんに曲を書いてほしいというオファーをいただきました。その流れで、「ボカロじゃないアプローチで曲を書いていくことを考えてる」という話をしたんです。

その少し前に、ボカロ曲をセルフカバーしたりもしていて、反響があったんですね。それもあって、「自分で歌う可能性はどうなの?」って聞かれて。それをきっかけに、神山羊としての活動が始まったんです。インディーズでミニアルバムを2枚出して、その後、現在のスタッフと出会って、メジャーデビューしました。

――ご自身で歌ってみて、「いけるかも」みたいな手応えはあったんですか?

全然なかったです(笑)。セルフカバーをしたのも自分で歌いたいとかそういう理由ではなくて、ただ、自分にとっての新しい音楽の可能性を探したいなって思ったからなんです。それに、ほかの誰かに歌ってもらうにしても、そもそも人と付き合いがないから、ボカロよりもさらに難しくて。結局、自分で歌うほうが簡単だったっていうだけなんです。

「レギュラーラジオ『神山羊のSheep Sleep Sweep』の収録をしている、天
王洲スタジオからみた景色です」

“神山羊”としていちばん大事で必要なこと

――メジャーデビューから約2年、インディーズ時代の名曲「YELLOW」も収録する1stフルアルバム『CLOSET』が4月27日にリリースされました。

神山羊 - YELLOW【Music Video】/ Yoh Kamiyama - YELLOW

タイトルの『CLOSET』は、これまで僕が音楽を作ってきた場所のことなんですよ。実際に今も部屋のクローゼットのなかで曲を作っています。自分と向き合うための場所として、あえてこもるんですけど、そこで作った曲が、ドラマやアニメのタイアップをいただいたりしたことで、まったく違うところへとつながった感覚があるんですよね。クローゼットの扉を開けて、その先にいる人に曲を手渡したときに、一人ひとりと握手してるような感覚のものができたというか。そういった曲を詰め込んだのがこのアルバムなんです。

――そのせいか、どの曲もある意味、とてもパーソナルですよね。歌詞にしても、大仰なメッセージ性や誰かを応援しようみたいな意図はまるで感じないというか。

ないです、ないです。そんなこと書けないですよ、僕。歌詞に書いているのはすごく個人的なこと。自分が感じたことや思っていることを、この曲だったらこう乗せようというふうに書いているだけです。

「『YELLOW』がYouTubeで1億回再生されたお祝いに、ケーキをスタッフさん
からいただきました。ゼロの数がおかしいけど(笑)、うれしかったです」

――先行配信シングルの「セブンティーン」は、ポップで疾走感にあふれるサウンドと、シニカルさのなかに葛藤や切実な想いが滲む歌詞とのバランスが絶妙です。17歳の神山さんはこうだったのかなと思いました。

神山羊 - セブンティーン【Lyric Video】/ Yoh Kamiyama - Seventeen

こういう17歳でした(笑)。音楽しかしていない、あまり褒められた17歳ではなかったですけど。でも僕の場合は、一緒に音楽をやる人たちとの交流のなかでその時間を過ごせたけど、今の17歳の子たちって、コロナ禍で友達に会えないまま学生生活の大半が過ぎてしまったり、修学旅行とかの行事も普通の形じゃなくなっちゃってるじゃないですか。きっとすごく悩んでいたり、抱えているものがあるんじゃないかなって思って。そういう人たちに寄り添う曲を作りたいなと思ったのが始まりでした。

いっぽうで、きっと僕らのころとは悩み方も日常の過ごし方も違うとは思うんですね。それこそ、現実よりSNSとかインターネット上で起こってることのほうがリアルなのかもしれないし。だから、どんなふうに聴かれるかは人それぞれですけど。

「『セブンティーン』の楽器録りで、スタジオでディレクション中の写真です」

――ボカロPを経て、シンガーソングライター・神山羊として注目を集めている現在の状況についてはどう感じていますか?

正直言うと、ずっと自分事として捉えられてなかったんです。夢のなかにいる感じというか、「いつ“これはドッキリです”って言われるんだろう?」みたいな(笑)。ただ、2020年3月にメジャーデビューしたものの、コロナ禍で状況が全部ひっくり返ってしまって。デビューしたのにライブもできないし、リリースも、当初計画していたものが止まってしまうし、急に先が見えなくなって……。

そうなって初めて、今までに起こった一つひとつが、夢じゃなくリアルに自分に起きてることなんだなって気付いたんですよね。それまでは“神山羊”っていうフィクションをみんなで作ってる感覚が強かったんですけど、これは紛れもなく自分のことなんだなと思えるようになったというか。つまり、自分にとって正直にものを作ることが、“神山羊”として一番大事で必要なことなんだって思ったんです。それは自分のなかで、ものすごい気付きでしたね。

――正直な神山羊の強みとは?

何も持っていないこと、ですかね。今だって、持たせてもらってるっていう感覚で、僕自身は常に手ぶらだと思ってるんですよ。それは変わらないんじゃないかな、死ぬまでずっと。何かを持ち始めたら重たくて無理かもしれない(笑)。何も持ってないから音楽をやっているんだと思います、たぶん。

――では、ボカロP時代から、ずっと神山さんを音楽に向かわせてきた原動力はなんでしょう。

やっぱり人とつながりたいんだと思います。それが自分がものを作る原動力になってる気がしますし、この先も、もっといろんな人と音楽を通じて付き合っていけるよう、新しい扉をどんどん開けていきたいです。

文・取材:本間夕子

リリース情報

『CLOSET』

発売日:4月27日(水)
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