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連載Cocotame Series

サステナビリティ ~私たちにできること~

子どもたちに質の高い音楽を――ソニー音楽財団が『こども音楽フェスティバル』で伝えたいこと【後編】

2022.04.29

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ソニーミュージックグループでは、持続可能な社会の発展を目指して、環境に配慮した活動や社会貢献活動、多様な社会に向けた活動など、エンタテインメントを通じたさまざまな取り組みを行なっている。連載企画「サステナビリティ ~私たちにできること~」では、そんなサステナビリティ活動に取り組む人たちに話を聞いていく。

今回スポットを当てるのは、公益財団法人ソニー音楽財団(以下、ソニー音楽財団)の取り組み。1984年の設立以来、同財団では“子どもたちに良質な音楽を届ける”という理念を活動の柱のひとつに掲げ、教育格差の解消、子育てをめぐる環境改善、コロナ禍における情操教育の提供など、音楽を通してさまざまな活動を展開している。

そんなソニー音楽財団が、サントリー芸術財団とのパートナーシップにより5月4日~7日に開催するのが、子どもをメインターゲットにしたクラシック音楽の祭典としては世界最大級の『こども音楽フェスティバル』だ。このフェスでは、『サントリーホール』とその周辺施設を会場として、子どもたちの年齢に応じたコンサートやイベントなどを気軽に楽しむことができる。プロジェクトに携わるソニー音楽財団の担当者に、フェスの開催意義や、子どもたちに質の高い音楽を届けつづける、サステナブルな取り組みについて話を聞いた。

後編では、“サステナビリティ”の観点からソニー音楽財団の活動を紐解いていく。

  • 戸上眞一

    Togami Shinichi

    公益財団法人ソニー音楽財団
    企画事業部長

  • 野口雅裕

    Noguchi Masahiro

    公益財団法人ソニー音楽財団

教育格差の解消を目指し、動画配信もスタート

――(前編からつづく)ソニー音楽財団の活動全般についてもお伺いします。財団では子ども向けのクラシックコンサートを数多く企画していますが、幼少期にクラシック音楽の生演奏を聴くことで、どのような効果が得られるとお考えですか。

戸上:我々は、子どもの情操教育とクラシック音楽の関係について、科学的な検証を行なっているわけではなく、また、学術的な見地でお話しできる立場でもないので、あくまで会場でのお子さんたちの反応や周りの方々からいただいた声としてお話ししますが、やはり幼少期のコンサート体験は、記憶に残りやすいということはよく聞きます。

生演奏から受け取るものは、CDやネットの動画で得る体験とは別のものになります。コンサートホールという特別な場所に来て、PA(Public Address:音響拡声装置のこと)を通していない生音でクラシック音楽を親御さんと一緒に聴く。そういう体験は、無意識下も含めてお子さんの記憶に残りやすいのだと思います。

その結果、大人になっても「小さいころ、コンサートホールでクラシック音楽を聴いたな」という記憶から、クラシック音楽に対する抵抗感がなくなったり、ボーダーなく音楽を楽しめたりするのではないでしょうか。ソニー音楽財団はクラシック音楽を専門にしていますが、クラシック音楽だけを好きになってほしいわけではありません。音楽そのものを好きになり、自身の感性が豊かになるきっかけになればと考えています。そのためには幼少期にそういう体験をすることが大事ではないかという想いから、ソニー音楽財団は活動をつづけています。

また、プロの演奏家たちが奏でる本物の音に、特別なものを感じるからでしょうか、開演前は大声を上げて走り回っているお子さんたちが、演奏が始まった瞬間、ピタッと静かになることもよくあります。それぐらい子どもの反応はダイレクトですから、演奏者の方たちも「子ども向けのコンサートだからといって、軽いノリでやることなんてできない。むしろ子どもたちに集中してもらえる演奏をしないといけないから緊張する」なんておっしゃる方もいます。

──親子が同じ音楽体験を共有することでコミュニケーションも深まりそうですね。

戸上:それについては、コロナ禍になって特に感じます。外出が制限され、家から出ることなくスマホやタブレットでひたすら動画を見たり、ゲームをして暇を持て余していたというお子さんも多いと思います。

しかし、音楽を生で聴くという体験は会場で共有できるものですし、曲や楽器の音を聞いて自分がどう感じたかを話し合うことで、音楽体験はコミュニケーションツールにもなります。難しい言葉は必要なく「音が大きかったね」「広い場所だったね」で良いし、もっと言うなら言葉じゃなく、特別な時間を共有したという記憶だけで良い。ホールで音楽を聴くというのは、そういうものなのではないかと私は感じています。

野口:それとコロナ禍以前から、音楽体験の地域、教育格差は我々の大きな課題としていました。お子さんに良い音楽を聴かせたいというマインドがあるご家庭があるいっぽうで、仕事が忙しくてそういった時間が取れないご家庭や、経済的な理由で参加できないご家庭もあります。

こうしたギャップを埋めるための施策として、ソニー音楽財団の公式YouTubeチャンネルとして『こどものためのクラシック』(新しいタブで開く)も開設しました。コロナ禍でコンサートも減ってしまったため、こうした活動を通じてクラシック音楽に親しむ機会を創出できればと考えております。

──とは言え、クラシック音楽に触れた経験がないと、動画を見るという発想も生まれないのではないでしょうか。

野口:ご指摘の通りです。だから、我々も何が正解なのかを模索しているというのが正直なところです。ただ、ソニー音楽財団の特徴は、ルーチンで事業を継続するのではなく、そのときどきの課題に向き合い、それに対して我々ができることを考えながら新たな事業にチャレンジしていくことです。

例えば、クラシック音楽に触れたことのないお子さんに向けて、クラシック音楽の豆知識を楽しく学べる『子ども音楽新聞』を小中学校に無料配布したり、気軽にクラシック音楽に触れられる無料アプリ『こどものためのクラシック』も今年の3月にローンチしました。多くの子どもたちに情報を届けることで、ほんの少しでもクラシックコンサートに興味を持ってもらえたらうれしいですね。

また、2019年には教育を目的とした音楽活動に取り組んでいる団体に向け、助成を行なう『ソニー音楽財団 子ども音楽基金』も設立しました。地域、環境、経済状況などに左右されることなく、子どもたちが音楽に親しめるよう貢献できたらと考えています。

SDGs“質の高い教育をみんなに”に則した活動

──近年は、SDGsをベースに持続可能な社会の発展を目指す取り組みが活発化しています。SDGsやサステナビリティという考え方が社会に浸透してきたことで、ソニー音楽財団の活動にも変化はありましたか?

戸上:結論から言うと、あまり変わっていません。ソニー音楽財団は設立以来、SDGsで作成された17のゴールのうち、4番目にあたる“質の高い教育をみんなに”に則した活動をつづけてきました。もともと“子どもたちへの良質な音楽の提供”を第一義にしてきたため、活動内容にも大きな変化はありません。ただ、我々の活動が社会に受け入れられやすくなってきたという実感はあります。

──具体的にはどのようなことでしょうか?

戸上:例えばコンサートを開催するための協賛のご依頼、コラボレーションのご提案など、BtoBでの活動はしやすくなりましたね。以前は財団の活動をご説明しても具体的なリアクションをいただけないことが多かったのですが、今は各企業のなかで「SDGsに取り組もう」「サステナブルな取り組みを行なっていこう」という空気が醸成され、ご提案に対して好意的なリアクションをいただく機会が増えています。単純な慈善事業としてではなく、しっかりメリット、デメリットを考えた上で、我々の活動に賛同してくださる企業が増えれば、大変ありがたいですね。

野口:そのいっぽうで、責任の重さも感じています。SDGsに注目が集まっているぶん、「それはちょっと違うんじゃないか」と思われるような活動をしてしまえば、途端にすべての信頼を失うことになります。そこは我々がしっかり気を引き締めて取り組んでいかなければいけない点だと思っています。

──ソニー音楽財団が新しい活動にチャレンジする際の価値基準は、どこに置いているのでしょう。財団全体の指針のようなものがあれば、教えてください。

戸上:そこはシンプルに“クラシック音楽を通して社会に貢献する”ということですね。ここ数年で、動画配信、助成事業の立ち上げなど大きな動きがありましたが、こうした取り組みの結果はこれからわかっていくこと。

特に、動画配信についてはスタッフ間でも意見が分かれました。我々は、コンサート会場で生のクラシック音楽を浴びることがお子さんのためになると考え、活動をつづけてきたのに「動画配信で良いの?」と。動画を見ていただくことを目的とする考え方もあれば、動画をきっかけにコンサート会場に足を運んでいただくことがゴールになるという考え方もあります。これについては、1~2年後にお子さんや親御さんの反応が見えたら、また次の方向性を見定めていきたいです。

ソニー音楽財団では、30年以上ずっとクラシックコンサートを活動の主軸としてきました。しかし、現在はコンサート以外の活動も増えつつあります。変化を恐れすぎず、今やるべきことは何かを常に考え、議論を尽くしながら取り組んでいきたいですね。

──おふたりは、ソニー音楽財団での活動にどのようなやりがいを感じていますか?

戸上:私はもともとソニーミュージックの営業にはじまり、その後洋楽部門で宣伝、制作ディレクターなどを務めてきました。クラシック音楽も担当していたことから白羽の矢が立ち、ソニー音楽財団に出向という形で携わることになったんです。

実際にこちらでの業務を始めてみると、それまでやってきたこととはまったく違うことがわかります。ソニーミュージックでは、制作、宣伝、営業がセクションで分かれていて、それぞれに担当がいる完全な分業制でした。しかし、ソニー音楽財団にはそのような人手はありませんから、コンサートの企画から制作、宣伝、営業まですべて自分たちでやります。特に今は『こども音楽フェスティバル』の準備にてんやわんやです。でもあらゆる分野の仕事を経験できるので、スキルアップにはすごく役立っています。

この経験を、今後大きなスケールでもいかせるようになれば理想的だと思っていて、そこにやりがいを感じています。

野口:私は、前職からソニーミュージックグループに転職すると同時にソニー音楽財団に出向するというおそらく特殊なケースで働いています(笑)。異業種からの転職だったので、当然コンサート制作を行なったことはなかったですし、何ならクラシック音楽との接点もほとんどありませんでした。

本当に何もわからない状態で、覚えることはたくさんありましたが、時間をかけてでもできることが増えていくのがうれしくて。また、子ども向けのイベントが多いので、現場でお子さんたちが楽しんでいる姿を見られるのもやっぱりうれしいですよね。

サステナブルな活動には、ファンエンゲージメントが重要

──ソニー音楽財団が今後もサステナブルな活動をつづけるには、活動内容を広く知ってもらい、多くの方々に好きになってもらうこと、多くのファンを獲得することが重要ではないかと思います。ファンエンゲージメントを高めるために、取り組んでいることはありますか?

戸上:その点については、タイムリーな課題として認識しています。我々は、アーティストを抱えているわけでもなければ、強力なIPを持っているわけでもありません。財団そのもの、もしくは我々のコンサートや施策そのもののファンになっていただくしかないんですね。そういう意味では、ファンエンゲージメントを高めるというのは非常に難しい課題です。

確かに『Concert for KIDS』は人気のシリーズになり、「あのコンサートだったら観に行こう」と言ってくださるお客様もたくさんいらっしゃいます。しかし、それ以外の活動に関してはまだまだ浸透しているとは言い難く、改めてブランド戦略を考えていかなければいけないと感じています。『こども音楽フェスティバル』を開催するのも、その一環。「フェスに参加したら面白かった。今度はフェスでやっていた別のコンサートがあれば観に行こう」というところにつなげていけたらと思います。

野口:SNSやYouTube、アプリなどは始めてそれほど時間が経っていませんが、財団について積極的にプレゼンテーションを行なっています。そして、「子ども向けのクラシック音楽と言えばソニー音楽財団だよね」と認識していただけるのを、ひとつのゴールとして目指していきたいですね。

『新型コロナウイルス対策特別支援プロジェクト』の一環として行なわれている「子ども向けクラシック音楽動画」。

──クラシック業界が衰退してしまうと、ファンだけでなく演奏家の活動も先細りしてしまいます。コロナ禍で演奏の場が減っているなか、演奏家をサポートするのも財団の役割ですよね。

戸上:ソニー音楽財団では活動方針のひとつに、“若いアーティストの育成・支援”を掲げています。そして2020年からは、『新型コロナウイルス対策特別支援プロジェクト』もスタートしました。子どもたちを対象に活動する若手演奏家に支援金をご用意する制度のほかに、子ども向けクラシック音楽配信企画に応募していただき、懸賞金をお支払いする取り組みにもチャレンジしています。

こちらはコロナ禍で困窮している若手演奏家の方たちを支援できればと思って始めた施策でしたが、非常に多くの応募をいただきました。現在は、動画制作にも若手演奏家の方を起用するなど、今後も演奏家としての活動を継続していただけるよう、我々もできる限りの支援をつづけていきます。

──演奏家も、ファンも、子どもたちも、みんながなんの心配もせず、純粋に音楽を楽しめる環境が、もっともっと広がると良いですね。

戸上:今は世界中に困難があふれていますが、あふれるのは困難ではなく、音楽を含めた人が生み出すエンタテインメントによる感動であってほしいですね。そういう世の中になるように、ソニー音楽財団も微力ではありますが力を尽くしていきたいと思います。

文・取材:野本由起
撮影:篠田麦也

こども音楽フェスティバル

開催日:2022年5月4日(水・祝)~5月7日(土)
場所:サントリーホール、およびアーク・カラヤン広場等 周辺施設
 
プログラムの詳細、チケットの購入方法はこちら(新しいタブで開く)
 
■『こども音楽フェスティバル』無料ライブ配信
ソニー音楽財団YouTube公式チャンネル『こどものためのクラシック』
https://www.youtube.com/channel/UCjtxBdsKe5RBSgcqTj_SL0A(新しいタブで開く)
 
『デジタルサントリーホール』
https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/dsh/(新しいタブで開く)

関連サイト

公益財団法人ソニー音楽財団
https://www.smf.or.jp/(新しいタブで開く)
 
こども音楽フェスティバル
https://www.kofes.jp/(新しいタブで開く)

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