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連載Cocotame Series

サステナビリティ ~私たちにできること~

「YOASOBIとつくる 未来のうた」制作チームに聞く、楽曲「ツバメ」誕生ストーリー【前編】

2023.03.13

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ソニーミュージックグループでは、持続可能な社会の発展を目指して、環境に配慮した活動や社会貢献活動、多様な社会に向けた活動など、エンタテインメントを通じたさまざまな取り組みを行なっている。連載企画「サステナビリティ ~私たちにできること~」では、そんなサステナビリティ活動に取り組む人たちに話を聞いていく。

今回は、SDGsを楽しく学ぶNHK Eテレの番組シリーズ『ひろがれ!いろとりどり』のテーマソングとしてYOASOBIが書き下ろした「ツバメ」にスポットを当てる。楽曲の原作となったのは、15歳の若者が生み出したひとつの物語。700を超える応募作のなかから選ばれ、“ともに生きる”というSDGsの本質を体現したそのストーリーは、YOASOBIの疾走感あふれるサウンドとも相まって、多くの人の心をとらえた。

世代も国境も超えて愛されるナンバーは、いかにして生まれたのか。企画を立案したEテレのチーフプロデューサーと、YOASOBIをサポートしたソニーミュージックのスタッフ3人にそのプロセスを語ってもらった。

前編では、プロジェクト立ちあげのきっかけや、SDGsへのアプローチ、原作となった物語について聞いた。

  • 佐藤正和プロフィール写真

    佐藤正和

    Sato Masakazu

    日本放送協会
    クリエーターセンター 第1制作センター(教育・次世代)
    チーフプロデューサー

  • 屋代陽平プロフィール写真

    屋代陽平

    Yashiro Yohei

    ソニー・ミュージックエンタテインメント

  • 山本秀哉プロフィール写真

    山本秀哉

    Yamamoto Shuya

    ソニー・ミュージックレーベルズ
    ソニー・ミュージックエンタテインメント

  • 吉野麻美プロフィール写真

    吉野麻美

    Yoshino Asami

    ソニー・ミュージックレーベルズ

「パプリカ」の成功をいかしたSDGsへのアプローチ

──未来を担う子どもたちから“ともに生きる”というテーマで物語を募集し、グランプリに選ばれた作品を原作に、YOASOBIがテーマソングを書き下ろすという「YOASOBIとつくる 未来のうた」プロジェクト。まずは皆さんの、このプロジェクトにおける役割を教えてください。

佐藤:プロジェクトの母体となる番組、NHK Eテレの『ひろがれ!いろとりどり』の番組プロデューサーとして、企画全体のとりまとめを担当しています。

屋代:YOASOBIの楽曲制作とも連動する小説投稿サイト『monogatary.com』の運営を担当しています。今回のプロジェクトでは、『monogatary.com』で培ったノウハウをいかして、原作の物語を募集する際のフレーム作りや、YOASOBIのメンバーと一緒に応募作品の選考などを担当しました。

山本:YOASOBIのA&R(アーティスト&レパートリー)で、楽曲制作のディレクターを担当しています。「ツバメ」についても、楽曲のディレクションなどを担当しました。

吉野:YOASOBIのマネジメントを担当していて、私もYOASOBIのメンバーと一緒に応募作品の選考などを担当しました。

「ツバメ」/ YOASOBI with ミドリーズ Official Music Video

――そもそもこのプロジェクトはどのようきっかけで立ちあがったのでしょうか?

佐藤:まず前提として、SDGsに対するNHK全体の取り組みがあります。私たちは2021年度から“未来へ 17アクション”と題して横断的な啓発キャンペーンを行なっており、Eテレでもいろいろな形で情報を発信していく必要がありました。その柱として、みんなを繋ぐテーマソングを作れたら良いなと。発想としてはとてもシンプルだったんです。というのも以前、ソニーミュージックの皆さんと一緒に「パプリカ」という楽曲を作らせていただいたとき、歌とダンスの持つ圧倒的な力を、僕自身が目の当たりにしていましたので。

──米津玄師が作詞、作曲、プロデュースを手掛けた「パプリカ」。NHKの「2020応援ソングプロジェクト」のために制作されたこの曲は、世代を超えて愛され、ひとつの社会現象になりました。プロデューサーの佐藤さんにとっても、大きな経験だったと。

佐藤:そうですね。本当にさまざまな学びがありました。良い音楽は、やっぱりあらゆるギャップを超えていくんですよね。世代も、国や地域も、ハンディキャップも飛び超えて、人と人を繋げてくれる。「パプリカ」がまさにそうでした。僕らが作っているのは子ども向けのテレビ番組ですが、親御さんの世代はもちろん、おじいちゃん、おばあちゃんまで一緒に歌ったり踊ったりしてくれましたからね。

あのうれしい驚きを、もうひとつ進化させられないかなと思ったんです。もともとSDGsの基本は、違いを受け容れてともに生きるという考え方ですし、その意味でも、音楽の持つ“繋がる力”はぴったりだと思いました。

佐藤正和インタビュー写真

──プロジェクトが動き始めたのはいつごろからですか?

佐藤:アイデアをあたため始めたのは早かったです。「パプリカ」を世に出した時点(2018年)ではもう、東京オリンピック・パラリンピックに向けた「2020応援ソングプロジェクト」の次に、SDGsへの取り組みが始まるという流れが見えていたので。「パプリカ」で得たメソッドをどうやって次にいかすかを考えていました。

YOASOBIのチームスタッフの皆さんと最初にお目にかかったのは、確か2021年の年明けごろでしたよね? 前年の『紅白歌合戦』の紅組トップバッターに「パプリカ」が選ばれて。終わってほっとしている暇もなく、企画のご説明をしたのを覚えています。

お説教のようになってしまっては広がらない

──佐藤さんからのオファーを受けて、ソニーミュージック側の皆さんはどのように感じましたか?

山本:YOASOBIとしてチャレンジしてみたいお話でしたし、素敵な企画だと感じました。たった2年前ですが、そのころはまだ、SDGsという言葉自体も、今ほど世の中に浸透していなかったと思うんです。僕自身もざっくりと内容を把握していただけで、掲げられている17のゴールについても、正確に理解していたわけではありませんでした。

なので、YOASOBIがSDGsの番組テーマソングを担当することがリスナーからどう受け取られ、世の中にどう伝わっていくのか、正直読めないところもありましたね。でも、これから世界は確実にSDGsに取り組む方向に進んでいくわけですし、知識が足りない部分は、アーティストも僕らスタッフも学びながらやっていこうと話していました。

山本秀哉インタビュー写真

吉野:私は子どものころからEテレの番組をたくさん見ていましたので、自分が携わっているアーティストにお声が掛かって純粋にうれしかったです。佐藤さんからご依頼をいただいたのは、YOASOBIがデビューしてから1年ちょっとのタイミングで、ちょうどファン層が少しずつ拡大してきた時期だったので、その意味でも有り難いお話でした。実際、2021年10月の「ツバメ」のリリース以降、YOASOBIのコンサート会場には親子連れで来てくださる方が増えたりして、はっきりとポジティブな影響が出ています。

ただ、私自身はと言えば、SDGsの全体像について当時はほとんどわかっていませんでした。プラ製品の環境負荷が大きいとか、最近は紙ストローが増えているとか、断片的な情報しかなくて。これだけ多岐にわたる問題に取り組むための開発目標だとしっかり認識したのは、プロジェクトが動き出したあと、Ayase、ikuraともいろいろ話したり、自分で調べるようになってからですね。

吉野麻美インタビュー写真

屋代:自分は『monogatary.com』やYOASOBIの業務に加えて、ソニー・ミュージックエンタテインメントの経営企画グループという部門も兼務しています。そちらでソニーミュージックグループの中長期的な経営のビジョンなどが議論されるなか、SDGsやサステナブルな取り組みをどのように経営に取り入れていくかという話題は以前からあって。自分たちの目の前にある仕事にもSDGsを取り入れていく必要性は、数年前から感じていました。

ただ、さまざまなコンテンツ制作をビジネスにしている私たちが、SDGsという社会的なテーマに対してどう接点を作っていくか、これはなかなか難しい問題だと思っていて。音楽にしてもアニメにしても、モノ作りの根底にあるのはやっぱり作り手のリアリティだと思うんですね。どんなに素晴らしいテーマがあっても、コンテンツを介したお説教のようになってしまっては広がらないのではないかと考えていました。

屋代陽平インタビュー写真

佐藤:本当にそうなんですよね。それこそ音楽が持つ“繋がる力”が消えてしまう。

屋代:その点、「YOASOBIとつくる 未来のうた」プロジェクトでは、私たちソニーミュージック側もいろいろな気付きをいただくことができました。ソフトの領域におけるSDGsの打ち出しについて、企業としてこういう関わり方もあるんだなと。

しかも、SDGs自体が「2030アジェンダ」という中期的スパンの目標じゃないですか。要は、一瞬の打ち上げ花火ではなく、腰を据えた取り組みが求められる。そういう意味でも、受け手と一緒に考え、成長していくストーリー作りは、現在のYOASOBIというアーティストの立ち位置ともフィットしたんだと思います。

もちろん、「パプリカ」のプロジェクトがすごい結果を出していくプロセスを、僕らは社内でリアルタイムに見ていますから、チームとしてプレッシャーがなかったと言えば嘘になりますけど(笑)。実際はそれを遙かに上回るワクワク感がありました。

佐藤:Eテレ側にとっても、2030年というゴール設定は大きかったです。長く曲を歌い継いでいくためには、10年後も第一線で活躍しているであろうアーティストに曲作りをお願いしたいという思いがありました。しかも幼児からハイティーンまで幅広く支持されている方となると、組める相手はおのずと絞られますからね。

日常のなかにある「この星で生きる最低限のマナー」

──そういった経緯でYOASOBIに楽曲制作を依頼することになったと。SDGsの関連番組を作る上で、佐藤さんが大切にされていることは何ですか?

佐藤:先ほど山本さんと吉野さんが、SDGsについて「プロジェクトを進めながら学んでいった」と仰っていましたが、私も同じなんです。番組で扱うことになって、初めて自分なりに勉強を始めました。そうすると世界の厳しい現実を示すデータが山のように出てきて、調べれば調べるほど気分が落ち込んでくるんですよね。

この現実をストレートに突き付けられても、子どもたちはみんな困っちゃうだろうなと。大人からいきなり「さあ、君たちはどうする?」と言われても、子どもからしてみれば「それって、あなたたちがやったことでしょ」としか思えないでしょうし。

屋代:わかります。問いがそのまま自分に跳ね返ってくる。

佐藤:ただでさえ子どもが夢を描きにくい時代ですし、少しでも気持ちが前向きになれる情報発信がしたい。ですから現実は現実として見つめつつ、基本はこれからの世界がどうなれば、もっと楽しく生きられるかを考える。そのきっかけになる番組作りというのは、わりと意識しています。

私たちが作っているのは子ども向け番組なので、扱えるテーマも限られています。子どもが自分の足で歩いて行ける世界は狭いですからね。でも注意して見てみると、その狭い世界にもSDGsに繋がることはたくさんあるわけで。例えば今日のお天気だったり、公園に落ちている葉っぱや、すぐ隣で遊んでいる子どもであったり。そういう身近な日常を一つひとつ、丁寧に気にするところからいろんなことが始まるのかなと。

吉野:素敵ですね。佐藤さんたちが作られている番組には、そういった視点が共通している気がします。

佐藤:確かに日常の面白い部分を見付けて自分との関係性を育むという意味では、やっていることは今まで作ってきた番組とさほど変わらない。それは現時点での、私なりの結論かもしれません。

──テーマはSDGsですが、制作のアプローチは『デザインあ』『Q~こどものための哲学』など、これまで関わってこられた番組と共通していると。

佐藤:はい。“より良い未来を創っていくための情報”という部分は、まったく同じですね。ですから、SDGsだからといって変に気を張らずに、身近なものをちゃんと見直していきたいなと。もうひとつだけ言うと、人間は決してひとりじゃ生きられないし、地球は多種多様な生き物の調和の上に成り立っている。この基本ルールはいろんな形で繰り返し伝えるようにしています。「この星で生きる最低限のマナー」と言っても良いかもしれない。そこさえしっかり押さえておけば、あとは自然な行動に繋がっていくのかなと。

佐藤正和インタビュー写真

原作となった『小さなツバメの大きな夢』

──6~19歳の人たちから“ともに生きる”をテーマにした物語を募集し、グランプリ作品をもとにテーマソングを作る。このフレームはどのように決まったのですか?

屋代:やはり対象世代のリアルな声を反映できますし、小説を音楽にするという方法論自体は、YOASOBIというプロジェクトがずっとやってきたことなので、ある程度自然な流れで決まりました。

ただ、実際の選考にあたっては新鮮な驚きも多かったです。NHKの番組スタッフの方々、SDGsに詳しい大学生の皆さんと一緒にたくさんの応募作品を読ませていただいたんですが、6歳の子どもがドキッとする言葉遣いをしていたり。大人の発想ではなかなか思い付かない、いわば地に足の付いたリアリティがありました。いつも仕事で読んでいる小説作品ともまた違った、子どもたちの素朴な心と表現に触れて、忘れていた大切なものに気付かせてもらった感覚もありましたね。

吉野:Ayaseとikuraも、そこは同じだったと思います。ふたりとも、子どもたちからエネルギーをもらうのが大好きなので。候補作を読んで、未知の言葉使いにワクワクしているのは、はたから見ていても伝わってきました。私自身もたくさん読ませていただきましたが、みんな自分の生きている場所を心から大事に思っているんだなと、そこに感動しましたね。

YOASOBIアーティスト写真

――グランプリを受賞した乙月ななさん(15歳)による『小さなツバメの大きな夢』についてはいかがですか?

吉野:これもSDGsという難しいテーマありきじゃなくて、むしろ主人公のツバメにとって、大好きな空や海や街が汚れてほしくないとか、大事な友だちや顔見知りが傷付くのがイヤだとか、そういう素朴な感情がベースになっていますよね。決して上からの押し付けじゃない。「そうか、こういうふうに捉えればSDGsを自分ごとにできるんだな」って。学ばせてもらった気がします。

山本:応募作品全般に、その手触りはありましたよね。Ayaseとも相談し、楽曲制作との親和性という部分で乙月ななさんの作品を選ばせていただきましたが、心に訴えかけるという意味では、特に最終選考にまで残った作品は、正直どれを選んでも良いと思っていました。それと、『小さなツバメの大きな夢』に関しては、『幸福な王子』という児童文学を下敷きしているところもすごく良いなと。やっぱりそれだけ曲としての間口が広くなりますので。

屋代:名作を引用しつつ、自分なりのオリジナリティを乗せて。しかも『幸福な王子』のベースにある自己犠牲の精神みたいなものを、ちゃんと“ともに幸せになる”とアップデートさせているのもすごいですよね。正直、ゼロから書くより難しい気がする。15歳でこの完成度まで持ってこられるのは、すばらしい才能だと思いました。

佐藤:今の子どもたちは、学校の授業でもSDGsについていろいろ学んでいますからね。僕たち大人よりも、はるかに自然に意識が備わっている。先ほどの表現を使えば、“地球人としてのマナー”を理解していると思うんですよね。選考過程では、改めてその現実を突き付けられました。端的に言うと「大人、このままじゃヤバいじゃん」と(笑)。なので、なおのことちゃんとしたボールを投げないといけない。もちろん子どもたちが対象の曲ではあるんですけど、地球人としてのマナーの怪しい大人にも届くものにしなきゃいけないなって、身が引き締まったのを覚えていますね。

後編につづく

文・取材:大谷隆之
撮影:干川 修

関連サイト

NHK Eテレ『ひろがれ!いろとりどり』番組公式サイト
https://www.nhk.or.jp/irotoridori/(新しいタブで開く)
 
YOASOBI 公式サイト
https://www.yoasobi-music.jp(新しいタブで開く)
 
YOASOBI Twitter
https://twitter.com/YOASOBI_staff(新しいタブで開く)
 
Ayase / YOASOBI YouTube
https://www.youtube.com/channel/UCvpredjG93ifbCP1Y77JyFA(新しいタブで開く)
 
YOASOBI TikTok
https://www.tiktok.com/@yoasobi_ayase_ikura(新しいタブで開く)
 
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https://monogatary.com/(新しいタブで開く)

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