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連載Cocotame Series

IPを生み出すレシピ

騎手を目指す少年少女の群像劇を描く『群青のファンファーレ』――作り手たちが作品に込めた熱量【前編】

2022.05.27

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「IPビジネス」の源泉となるオリジナルキャラクターや作品を生み出そうとする人たちに焦点を当てる連載企画「IPを生み出すレシピ」。

今回は、2022年4月からオンエアされている競馬学校を舞台にしたオリジナルアニメ『群青のファンファーレ』をフィーチャーする。キャラクターやストーリーをゼロから作り上げていくオリジナル作品ならではの生みの苦しみや、それを乗り越えた先に見えてくるものについて、本作のプロデューサーを務める黒﨑静佳と片岡裕貴、ライセンス担当の千葉彩恵に語ってもらった。

前編では、企画の立ち上げから、日本中央競馬会 競馬学校への綿密な取材まで、『群青のファンファーレ』制作の裏側に迫る。

  • 黒﨑静佳

    Kurosaki Shizuka

    アニプレックス

  • 片岡裕貴

    Kataoka Yuki

    アニプレックス

  • 千葉彩恵

    Chiba Sae

    アニプレックス

『群青のファンファーレ』とは?

幼いころから子役、アイドルとして芸能活動を行なってきた有村優は、競馬場で生まれて初めて目にした生のレースに感動し、人気絶頂のさなか一躍転身。競馬学校の騎手課程に入学し、プロの騎手を目指す。そこは全国から選ばれた少年少女たちが集い、数々の試練が待ち受ける厳しい環境で切磋琢磨する場所。個性豊かなライバルたちとともに、競馬に人生を賭けた少年の挑戦が始まる。ドラマチックな青春を描くオリジナルアニメ作品。監督は『やがて君になる』や『ロード・エルメロイⅡ世の事件簿 -魔眼蒐集列車 Grace note-』を手掛けた加藤誠。アニメーション制作は『ヒロインたるもの!〜嫌われヒロインと内緒のお仕事〜』や『Fate/Grand Order -MOONLIGHT/LOSTROOM-』を手掛けたLay-duceが手掛けている。

未知の競馬の世界で走り出して

――今回は、競馬学校で騎手を目指す少年少女による青春群像劇『群青のファンファーレ』の企画を立ち上げたチーフプロデューサーの黒﨑さん、制作を担当するプロデューサーの片岡さん、ライセンス業務を担当する千葉さんに、このオリジナルアニメの制作過程や展開について伺いたいと思います。まずは、本作を立ち上げた経緯を教えてください。

黒﨑:企画として動き始めたのは2017年の末ぐらいからだったんですが、私は以前から“青春群像劇を描いたアニメ”を作りたいと思っていました。その上で、テレビや漫画で競馬学校の存在を知り、すごく特殊な環境でドラマの設定として興味深いなと感じていて。じゃあ、競馬学校を舞台にした、騎手を目指す少年少女たちによる青春群像劇を作れないだろうかと、自分のなかで企画をあたためていたんです。

多くの人が競馬学校で、生徒さんたちがどんな生活を送り、どんな勉強やトレーニングをしているのか知らないでしょうし、そういう視点で競馬学校という場所を描くのは新鮮だなと思ったのと、“騎手になる”というゴールを目指す少年少女の切磋琢磨する姿も描くことができるのではないかと。

ただ、アニメで馬を描くのはすごく大変なんです。馬が走る姿を描くのは、人が走る姿を描くのよりも遙かに難しくて。馬が出てくる作品を引き受けてくれるスタジオやクリエイターの方がなかなかいないことは知っていました。そんなとき、2017年末に別の仕事でご一緒したアニメスタジオ、Lay-duceの代表取締役であり、プロデューサーの米内(則智)さんが競馬がお好きだと知りまして。「競馬学校を舞台にしたアニメを作りたいんです」というお話をしたら、「いいね!」と。そこから少しずつ動いていったという感じでしたね。

――黒﨑さんは、昔から競馬に詳しかったのですか?

黒﨑:正直、企画の立ち上げのころは、ほとんどと言っていいほど競馬の知識はありませんでした。ただ、私の祖父が獣医で競馬場に勤めていた時期があって、小さなときから馬の話を聞いたり、見せてもらったりしていたので、馬という動物が身近な存在ではあったんです。そんな縁もあって、この企画を進め始めたころから自分でも馬券を買うようになり、週末のレースを見るようになりました。今では競馬雑誌『週刊Gallop』を買って、レースのレビューを読み、予習、復習もしています(笑)。

――片岡さんや千葉さんはどのあたりから企画に参画されたのでしょう?

片岡:僕は2020年ごろから参加することになりました。

黒﨑:オリジナルアニメの企画は、立ち上げたらすぐにドライブするものではなくて。どういうスタッフにお願いするのが良いんだろう、そもそもどういう話が良いんだろうと、ゆっくり考えながら進めていきます。『群青のファンファーレ』の場合は、本格的にスタッフが決まって、脚本イン(脚本の開発開始)したのが2019年の秋ぐらい。そのあとに片岡さんに参加してもらいました。

片岡:最初は、なかなか大変そうな企画を黒﨑さんがやろうとしているなと思っていました。実在するものをアニメにするためにチューニングしていく作業というのは、地味になりがちなので根気が必要なんですね。また、競馬業界という世界をアニメというエンタテインメントのフィルターでどう切り取るか。そこに難しさがあるなと思っていました。

ただ、黒﨑さんが言っている「青春群像劇を作る」という点は初めから明確で。競馬学校という環境で、騎手を目指す学生たちにフォーカスして切り取っていくんだなと、そういう方向性はすぐに見えました。

千葉:私は作品のライセンス業務を担当しているので、アニメの制作が本格的に動き出してから参加しています。それまでは、作品の内容を詳しくは知らなかったのですが、チームスポーツによる群像劇ではなく、騎手(ジョッキー)という個人スポーツのなかでも特殊な世界で描くというのが面白いなと思いました。ただ、私自身は競馬をまったく知らなかったので、これを機会にいろいろ勉強しようと思いましたし、商品化担当としては、絶対に馬と絡んだコラボレーションをしなければと思いましたね(笑)。

リアルとフィクションの間にあるクリエイティブ

――競馬を運営しているJRA(日本中央競馬会)とは、どのような協力関係を築かれているのでしょうか。

黒﨑:そもそもJRAの競馬学校というのは日本にひとつしかないんですね。そして、競馬学校をテーマにするということは、必然的にその学校を描くことになります。ですから、作品を作る上での大前提として、競馬学校を描くための許諾をJRAにお願いする必要がありました。もちろんその許諾の先に、何か一緒に取り組むことができればベストだとも思っていましたね。

――アニプレックスとJRAは、本作以前にもタイアップ企画を行なっています。

黒﨑:JRAとは、これまでにもアニメ作品である劇場版『Fate/stay night [Heaven's Feel]』やスマートフォン用ゲームアプリ『Fate/Grand Order』でもコラボレーションをさせていただいています。そのご縁に加えて、今回の窓口になってくださったJRAのご担当がすごくアニメ好きで、アニメ業界にも理解のある方々だったので、企画をご相談したところ「ご協力できるように掛け合ってみます」とおっしゃってくださいました。また、JRA側も今まで競馬に触れたことのない方たちに競馬の魅力を伝えたいという動きがあって、お声掛けしたタイミングも良かったのかと思います。

片岡:ご検討いただいた結果、取材協力であれば可能ということになりました。実際、本編にも“取材協力”というかたちで「JRA競馬学校」がクレジットされています。

黒﨑:競馬学校では教官や関係者の方々にたくさんお話を伺ったり、現地取材もさせていただくことができました。これについては、改めて感謝を申し上げたいです。

片岡:取材させていただいたこともあって、シナリオについても競馬学校側にチェックしていただいたのですが、こちらのクリエイティブもしっかり尊重してくださって。フィクションに振り切った表現があっても、「物語の構成上、この表現で描きたいんです」とご説明すると、ご承諾いただけることが多かったです。競馬学校は騎手課程の生徒たちが切磋琢磨する場所だということを主眼に置けば、ドラマ上の遊びの部分は大抵OKをいただくことができました。

緻密な取材で描かれる競馬学校の日常

――皆さんはどのくらい競馬学校へ取材に行かれたのでしょうか。

黒﨑:各自それぞれ何度かお邪魔しています。第7話では、学校が一般に開放される日を描いているのですが、その一般開放日にも取材に伺いました。

片岡:僕も複数回お邪魔して、生徒さんたちともお話しする機会がありました。あと、今作の監督を務めていただいている加藤誠監督は競馬学校のなかだけでなく、学校の周りを取材するために現地へ足を運ばれていましたし、主人公の有村優役の声優、矢野奨吾さんもアフレコがスタートする前に競馬学校を見ておきたいと、足を運ばれたそうです。風波駿役の声優、土屋神葉さんも先日行かれて、すごく勉強になったと喜ばれていました。

黒﨑:私が初めて競馬学校へ行った日は、特別な行事がない日で、生徒さんたちの日常のルーティンを見学させていただきました。学校の敷地内には厩舎があって、コースがあって……東京の街とは流れている時間が全然違うんです。そして、そこで生活する生徒の皆さんからは、本当に馬が好き、競馬が好きという想いが伝わってくる。馬がいるこの環境にいられるだけで楽しいという気持ちが、彼らの表情や全身から感じられました。

――競馬学校に通われている生徒さんというのは、どんな方が多いんですか?

黒﨑:生徒の皆さんの多くが、中学校卒業後にそのまま競馬学校に入学されるんですが、15歳とかで自分が生きて行く道を決められるのがすごいし、全員が騎手になれるとは限らない場に身を投じる覚悟もすごいと思いました。お互いがライバルとなる騎手を目指す子たちが集まる場だからギスギスしているのかなと思いきや、全然そんなことはなくて。

ただ3年生にもなると、1年生とは雰囲気がガラリと変わって、すっかり勝負師の顔になっているんですね。1年生のころはきゃぴきゃぴしていた子たちが、学校で暮らす2年間のうちに身も心も騎手になっていく。そういう変化も感じられて、すごく興味深かったです。

片岡:僕は加藤監督たちと取材に何度か行っていますが、生徒さんたちが馬体を洗っているところでカメラを回していると、「何の取材ですか?」なんて気さくに話し掛けてくれて。「騎手のアニメを作っているんですよ。放送、見てくださいね」と言ったら、彼らからは「深夜のアニメですよね? 消灯なんで見られません……」と言われてしまいました(笑)。

――なるほど、生徒さんたちは寮住まいだから……。

片岡:そうなんですよ。すごく素朴だし、そういう点では一般の同世代の子たちと変わらないなと思いました。1学年あたり10人程度で、引っ込み思案な生徒さんもいれば、積極的な生徒さんもいて、それぞれの個性が感じられる取材でしたね。

――千葉さんは競馬学校に行ってどんな印象を受けましたか。

千葉:私はアニメの音響スタッフの方々が、SE(効果音)の収録で競馬学校に行ったときに同行させてもらいました。生徒さんたちの様子を垣間見て、「こんな世界があるんだ」と驚きましたね。中学校を卒業したばかりの子たちが寮生活をして、夢に向かって走っていくという場が素晴らしいなと思いました。私は大きな馬がちょっと怖かったんですよ。でも、生徒さんと教官の皆さんが馬をしっかりと管理していて安心できましたし、それぞれの信頼関係も強いんだなと感じました。

――SEの収録も競馬学校で行なったんですね。

片岡:そうですね。馬の鳴き声や蹄の音、競馬学校内での生活音も録っています。

黒﨑:厩舎は馬の蹄に負担をかけないように、地面の素材が違うんです。そういうところは現地で録音して、アニメのなかで実際に使用しています。

片岡:コースを馬が走っている音も収録しました。

競馬学校における厳しいルール

――教官の方たちの印象はいかがでしたか。

黒﨑:教官の方たちの出自としては、元騎手の方だったり、馬術競技の選手だった方が多いんだと思います。ほかにも、柔道のオリンピック選手だった方もいて、それぞれの分野でプロフェッショナルな経歴を持つ教官たちがいらっしゃいました。

片岡:落馬などしてしまうと怪我どころか、命の危険もあるので、指導されているときは教官の方々はピリッとされていましたが、終わってお話を伺うと皆さん気さくで、楽しいエピソードをたくさん聞くことができました。

――劇中では、合宿に行くエピソード(第4話)がありますが、実際に合宿はあるのですか?

片岡:競馬学校では1年生のときにサマーキャンプが行事としてあります。そのあたりは競馬学校の行事カレンダーを参考にして、アニメのシリーズ構成に組み込んでいます。

――生徒さんたちが暮らす寮で広い浴場が描かれていますが、これも実在するものなのでしょうか。

黒﨑:そうですね。お風呂は、特に騎手を目指す生徒さんたちにとってすごく大事なもので。彼らは寮生活のなかで、厳しく体重をコントロールしなくてはなりません。できるダイエット方法と言えば、運動するか、食べないか、あとはお風呂くらい。体重はグラム単位で制限されているので、規定値を超えてしまいそうになると、3~4時間ずっとお風呂に入っていることもあるそうです。

片岡:生徒さんたちの体重制限は非常に厳しくて、500gの増減が2日つづくと騎乗停止になってしまうそうです。しかも、それが複数回もつづくと、退学処分になると……。

黒﨑:なので、やはりどの学年でも、体重コントロールが難しくて退所される生徒さんがいらっしゃるそうです。

――毎日の起床時間も早いし、体重制限もある。改めて厳しい世界なんですね。

片岡:傍から見れば、トレーニングはキツくて、朝も早いし、大変に見えるんですけど、彼らは目標を持って競馬学校にいるので、そういうところにあまり辛さは感じていないようですね。特殊な環境ではあるけれど、彼らはそれを特殊だとは感じていない。今回、加藤監督がアニメのなかで生徒たちを特別な人間として描いていないのは、そうやって生身の生徒さんたちと触れ合うことができたからじゃないかなと。取材の成果が本編にいきた部分なのかなと思います。

後編につづく

文・取材:志田英邦
撮影:干川 修

©Fanfare Anime Project

関連サイト

『群青のファンファーレ』TVアニメ公式サイト:https://fanfare-anime.com/(新しいタブで開く)
 
『群青のファンファーレ』公式Twitter:https://twitter.com/fanfare_anime(新しいタブで開く)
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