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IPを生み出すレシピ

騎手を目指す少年少女の群像劇を描く『群青のファンファーレ』――作り手たちが作品に込めた熱量【後編】

2022.05.28

「IPビジネス」の源泉となるオリジナルキャラクターや作品を生み出そうとする人たちに焦点を当てる連載企画「IPを生み出すレシピ」。

今回は、2022年4月からオンエアされている競馬学校を舞台にしたオリジナルアニメ『群青のファンファーレ』をフィーチャーする。キャラクターやストーリーをゼロから作り上げていくオリジナル作品ならではの生みの苦しみや、それを乗り越えた先に見えてくるものについて、本作のプロデューサーを務める黒﨑静佳と片岡裕貴、ライセンス担当の千葉彩恵に語ってもらった。

後編では、制作のなかで実際に直面した困難とプロモーションの取り組み、そして放送が終盤に差し掛かった現在、それぞれが感じている思いを聞いた。

  • 黒﨑静佳

    Kurosaki Shizuka

    アニプレックス

  • 片岡裕貴

    Kataoka Yuki

    アニプレックス

  • 千葉彩恵

    Chiba Sae

    アニプレックス

オリジナル作品を生み出す難しさに直面して

――(前編からつづく)『群青のファンファーレ』はオリジナルアニメ作品となりますが、スタッフィングはどのように進めていったのでしょうか。

黒﨑:今回お願いした加藤誠監督が演出した作品をずっと拝見していて、才能あふれるクリエイターだなと感じていたんです。そこで2019年の秋ぐらいに、加藤監督が前に手掛けられていた作品が一段落したので、「次にこういうのをやりませんか?」とご相談しました。描きたいテーマは“青春群像劇”だったので、ドラマを丁寧に描くのが上手な加藤監督なら合うんじゃないかなと思っていたんです。

――加藤監督とはスムーズなコミュニケーションが図れたのでしょうか。

黒﨑:加藤監督にはだいぶご苦労をおかけしました。特に、今回は競馬や騎手という題材をどのようにエンタテインメントとして昇華させるかといった部分が一番難しかったと思いますね。企画書ベースで考えていたときと、実際に制作に入ってからでは、いろいろと変化していくことも少なくはないですし……。

――黒﨑さんから見て、企画書の段階から実際のフィルムになるまで、どんな変化がありましたか。

黒﨑:最初はもうちょっと日常的なやりとりが多い、軽快な作品のイメージだったんです。

片岡:今もその名残はありますよね。

黒﨑:そうですね。オリジナル作品というのは、テーマとコンセプト以外は結構ふわっとしている部分があるんですね。そこを実際の制作に入ってから肉付けしていくわけですが、その過程で、やっぱり多くの人が共感できる作品じゃないとダメだよなと考えたんです。登場人物たちは競馬学校という一般の学校とは異なる環境にいますが、学生時代というのは多くの人が経験するものだし、見る人が「自分もこういう気持ちになったことあるな、こういうことやったな」と思えるものじゃないといけないだろうと。

加藤監督とも「青春期の夢のあり方を描きたい」と話していたんです。子どものときにやりたいと思ったことと、大人になってやっていることが違う人がいる。やりたいことがあっても、それに向いていない人がいる。やりたいことをやっていても、やめてしまう人がいる。でも、夢を諦めること、ときに挫折してしまうことは、他人から責められたり、否定されることではない。

加藤監督はクリエイターですから、作品のなかで理想を求めつつ、いろいろな事情で理想通りにいかないことも多々経験されていると思うんです。そういうところで作品と共感してくださったのかと思いますが、一番大事なのは、そのときに一生懸命頑張って努力したということであって、その経験は何物にも代え難い。思い返したときに、かけがえのない時間だったなと思えるような3年間を描きたいと。主人公(有村優)を元アイドルにしたのは、そうした“夢の在り方”への思いからです。

――片岡さんは今回の制作に参加されて、手応えのほどはいかがですか?

片岡:正直、オリジナル作品は二度と作りたくないって思う瞬間が何度かありました(笑)。

黒﨑:やっぱりオリジナル作品を作っていると、辛いと感じるときがありますよね(笑)。例えば、作り始めたころは、スタッフの皆さんと同じ方向を向いていると思っていたのに、いざ脚本などで作品が可視化されてくると、全然違う方向だったなんていうことがあります。そうなったときの擦り合わせは本当に大変で、これはもう完成する日が来ないんじゃないかと思ったりして……。私もそういうときに二度とオリジナル作品に関わるのはやめようと思います。

片岡:今回も少なからずそういう擦り合わせに時間を要する状況がありましたからね。

黒﨑:先日、上長から「オリジナル作品を作るためには、筋力をつけなければダメだ」と言われて、確かにそうだよなと。オリジナル作品は作品ごとに作り方がまったく違うから、いろいろな作品を経験していくことで筋力をつけて、その作品に合った方法論を見付けていくしかないんだろうと思います。それを踏まえて、つづけていかないといけないんだなと考えるようになりました。

片岡:アニメーション作品は異なる思考、個性を持った人が集まって作るものです。黒﨑さんが「こうしたい」と思い、加藤監督が「こうしたい」と思い、米内(則智、『群青のファンファーレ』のアニメ制作を手掛けるスタジオ・Lay-duceの代表取締役)さんが「こうしたい」と思い、自分が「こうしたい」と思う。そこには個々の熱量があって、作品にはそれが込められている。そこがすごく面白いし、それを感じられるのは制作に携わっている人間の醍醐味なのかもしれませんね。

特に第8話以降は、米内さんの思いもあって、より競馬業界に踏み込んだ描写が多くなっていきます。「二度と作りたくない」と言いましたが、そうやって作品がドライブしていく感じは、やはりオリジナル作品に携わる魅力だと感じます。

予想外のコラボレーションで実現した馬の描写

――本作は、騎手を目指す少年少女を描く作品ですから、競走馬のレースシーンが見どころのひとつとなります。“馬の作画は難しい(本記事前編)”という話がありましたが、この作品では、その難題をどのように乗り越えたのでしょうか。

黒﨑:馬の挙動を描くのは本当に大変で、最初は「馬を描ける人がいない」と言われてしまいました。でも、ちょうどそのころ別件でゲーム会社としても知られるコーエーテクモゲームスの方とやり取りする機会があったんですね。コーエーテクモゲームスは『Winning Post』シリーズという競馬シミュレーションゲームを30年近くリリースされてきたので、ダメでもともとと思いながら「馬の3Dモデルのデータをお貸りできませんか」とお願いしてみたんです。そうしたら快諾のお返事をいただけて、競走馬の3DCGデータを使用することができました。

先方の担当者の方が言うには、馬だけでなく動物全般そうだと思いますが、モーションキャプチャーするのが難しいので、ゲーム中の馬の走るシーンは、開発スタッフの方が馬を実際に観察して、それにもとづいて動きを手付け(3DCGのアニメーションを手作業で入力するということ)で組んでいるんだそうです。例えばキャンター(駈歩)だと馬の頭と足がどう動くのか。あるいはギャロップ(襲歩)だと頭の高さがどうなるか。そこは蓄積されたノウハウだらけで、コーエーテクモゲームスだから出せる馬のリアリティがあるんだなと。

片岡:とは言え、お借りしたゲームの3DCGデータを、そのままアニメに使うことはなくて。使っている3Dソフトの違いもありましたが、アニメとゲームの業界の違いを感じましたね。例えばアニメの現場で使われているPCは、ゲームの現場で使われているPCとはマシンの性能が異なるので、ひとつのレースを映像として書き出すのに相当時間掛かってしまうこともあります。アニメ業界のスタジオにあるPCは、一画面上の映像を編集する用途のスペックが主流ですから、3Dやデジタルに対するコストの考え方が違うんです。

黒﨑:アニメ制作スタッフのなかには、そういった日本のアニメ業界のデジタル環境に対して問題意識を持っている人も多くなりました。日本のアニメ業界は紙と鉛筆で始まって、その文化がずっとつづいてきたので、変えていかないといけない部分もあるということですね。

競馬学校のある街を聖地にするという試み

――『群青のファンファーレ』は無事にオンエアがスタートしていますが、同時にさまざまなタイアップ企画が展開されています。千葉さんはどのように作品を展開させていこうと考えましたか。

千葉:オリジナルアニメということで、最初は作品を広く知ってもらいたいと思ったのと、作品に登場するキャラクターたちと同じように、馬と触れ合う楽しさを多くの方に味わっていただきたいなと思って企画を考えていきました。

加えて、馬がいるところとのコラボレーションはマストだなと。それで、東武動物公園とのコラボイベント(4月29日~6月26日)が実現しています。それと、競馬学校は千葉県白井市にあるので、そこを聖地化できないかと考えて、白井市の市役所のお問い合わせフォームからご連絡をしました。

――知り合いの方がいるわけではないので、最初はそうなりますよね。

千葉:そうなんです。私から市役所に「こんな企画がありまして、何かご一緒できませんか?」とお話を差し上げました。そうしたら、市役所の方に興味を持っていただけて、まずは白井市内を巡るちばレインボーバスで、『群青のファンファーレ』のラッピングバスを走らせましょうと。

あと、鉄道会社の北総鉄道が白井市と連携されているので、コラボレーションで記念乗車券を発売することになりました。

皆様のご協力により、アニメ放送スタートのタイミングに合わせてコラボレーションできたので、素晴らしいプロモーションを展開することができました。

――それまで白井市と競馬学校は協力関係にあったのでしょうか。

千葉:白井市としては、これまで競馬学校と連携したプロモーションにつながる取り組みはあまり展開できていなかったそうなんです。ただ、市役所側としては、日本で唯一、JRAの競馬学校がある地域ということをうまく打ち出したかったとのことで、そのあたりは今回の企画を通して、市役所の方々から喜んでいただけたことですね。

――聖地化はここ10年ほどのアニメのひとつの潮流ですよね。アニメの舞台となった場所を“聖地”と呼んで、ファンが聖地巡礼に訪れるというムーブメントが活発になっています。

千葉:そうですね。アニプレックスが2011年に製作して、埼玉県の秩父を舞台に描かれた『あの花(あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。)』も、そのムーブメントの代表に挙がるかと思いますが、舞台設定がリアルであるほど効果が高まるプロモーションです。ファンの皆さんにも喜んでいただけるので、『群青のファンファーレ』でもやるべき施策でしたね。

■関連記事はこちら
10年愛される作品になった『あの花』――その原点にあるクリエイターたちの思い【前編】
10年愛される作品になった『あの花』――その原点にあるクリエイターたちの思い【後編】

オリジナル作品ならではの強みとは?

――今回はオリジナルアニメ作品ですが、原作がある作品と比べて、商品化やタイアップを成立させる上で違いはありましたか。

千葉:商品化するにあたっては、ライセンシーの企業の方たちの動き方も、原作ものとオリジナルアニメとでは違いがあると思います。そもそもオリジナル作品は世の中での認知がゼロからスタートするので、市場動向が読めずライセンシーの方々からすると企画に対するとっつきにくさは出てしまいますよね。それが商品展開の積極性を損ねてしまうことにつながったりするのは、オリジナル作品の難しい部分だと思います。

逆に、オリジナル作品の強みは、プロダクトプレイスメントが仕込みやすいなど柔軟に企画に対応できるところです。物語の内容に、ライセンシーの施策を入れ込みやすい。実際の施設とアニメの連動性を実施できるところは魅力ですね。『群青のファンファーレ』では、東武動物公園の名称を、アニメ本編のなかに入れさせていただいています。それも制作の皆さんのお力添えのおかげですね。

片岡:千葉さんがいろいろと動いてくれたので、今回はプロダクトプレイスメントにも取り組めました。プロダクトプレイスメントは、先ほど話にあがった聖地巡礼化において、作品によりリアリティを持たせることにもつながるので、その点の相乗効果も期待できるのが有難いですね。

千葉:あとはオリジナル作品だと、自分たちがIPの源流になり、社内の制作の担当者と直接相談して商品化やコラボレーションを実施できるので、そういうところはすごくやりやすいですね。当たり前ですが、原作ものだと原作元や関係者の方々にお伺いを立てるところから始めなくてはいけないですから。

黒﨑:今回、報知新聞が劇中に出る新聞の紙面を作ってくださっているんですよ。原稿も新聞社の方が実際に書いてくださっていて。先方にとってはアニメのなかに報知新聞が出ることによって宣伝につながりますし、こちらとしては本物の紙面が出ることでリアリティを演出できる。こういった柔軟性が、やっぱりオリジナル作品の強みですね。今回は製作委員会も競馬に関わっている会社で組成していて、競馬のプロの方々が結集しています。作品が現実にある題材をベースにしているからこそ、そういった結び付きを作ることができたのではないかと思います。

加藤監督が描いた最終話の素晴らしい絵コンテを実現させる

――いよいよ放送も後半戦に差し掛かります。今後に向けての施策や、制作する上での皆さんの意気込みを教えてください。

千葉:今回は、JRAの競馬場でも『群青のファンファーレ』のグッズを販売しているんです。そういった新しい販路を開拓できたことは、この作品ならではだなと思いました。また、今後はパッケージの発売をベースにフォローをつづけていければと考えています。作品を愛してくださる方はずっと支持してくださいますし、そういう方々に喜んでいただける展開を行なっていきたいですね。

黒﨑:昨今、配信などが普及して映像作品の視聴の仕方も変わってきていますよね。これまでは私たちもオンエアがすべてで、パッケージ発売まで宣伝をしようと考えてきました。でも、配信でご覧になる方も増えていますし、ある程度の話数が放送済みになってから配信でいっきにご覧になる方もいます。予想外のことがきっかけでバズることもあるので、オンエア後も含めて作品の展開を考えていくことは重要だと思います。

片岡:オリジナル作品を生み出す大変さを改めて実感しましたが、その分、作品に対する愛着があります。だからこそ、この作品が評価されて、視聴者の皆さんの記憶に残る作品にしていけたら良いなと思います。そのためにも、残りの話数の制作をしっかり進めていきます。

物語は第8話から大きく展開が変わっていきますし、加藤監督が担当された最終話の絵コンテが素晴らしいんです。これをなんとしても良いフィルムにしなくてはいけないなと。皆さんのお力も借りて、多くの人に届いて、残るものにしていきたいと考えています。

黒﨑:私も加藤監督の最終話の絵コンテが上がってきたときに、やっぱり素晴らしい内容になったなと思いました。加藤監督が演出家としてアップデートされているということが、はっきりとわかる内容になっていると思います。ひとりでも多くの方に最終話まで見ていただきたいですね。

文・取材:志田英邦
撮影:干川 修

©Fanfare Anime Project

関連サイト

『群青のファンファーレ』TVアニメ公式サイト:https://fanfare-anime.com/
 
『群青のファンファーレ』公式Twitter:https://twitter.com/fanfare_anime
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