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今、聴きたいクラシック

ヴァイオリニスト、宮本笑里の15年――クラシックとポップス、どちらも全力で挑みたい【前編】

2022.07.19

遠い昔に生まれ、今という時代にも息づくクラシック音楽。その魅力と楽しみ方をお届けする連載「今、聴きたいクラシック」。

今年、デビュー15周年を迎えるヴァイオリニストの宮本笑里。クラシック音楽のみならず、テレビ番組のテーマ曲、ポップス曲のカバー、自作のオリジナル曲など、さまざまな音楽にチャレンジし、幅広い層にヴァイオリンの音色を届けてきた。

今回は、宮本笑里の原点であるクラシック音楽への思いをたっぷり語ってもらうとともに、長年にわたり彼女のレコーディングを担当するソニー・ミュージックレーベルズの原賀豪、マネジメントを担当するソニー・ミュージックアーティスツの久木元章恵を加え、3人でこれまでの歩みを振り返った。

前編では、クラシック音楽に焦点を当てたニュー・アルバム『classique deux』について掘り下げる。

  • 宮本笑里

    Miyamoto Emiri

    ヴァイオリニスト。東京都出身。14歳でドイツ学生音楽コンクールデュッセルドルフ第1位入賞。その後は、小澤征爾音楽塾、NHK交響楽団などに参加し、2007年『smile』でアルバムデビュー。さまざまなテレビ番組、CMに出演するなど幅広く活動中。2017年にデビュー10周年を迎え、アルバム『amour』発売。2018年ヴァイオリン小品集『classique』発売。2020年4月EP『Life』をリリース。2022年7月にデビュー15周年を迎え、アルバム『classique deux』をリリース。使用楽器はDOMENICO MONTAGNANA 1720~30で、NPO法人イエロー・エンジェルより貸与されている。
    Photo by Akinori Ito

クラシック音楽に焦点を当てたニュー・アルバム

――さまざまなジャンルの曲を演奏されてきた宮本さんですが、新作がクラシック音楽のアルバムになった理由からお聞かせいただけますか。

2018年にリリースした『classique』が全曲クラシック音楽のアルバムとしては最初でした。2020年には全曲オリジナル曲のアルバム『Life』をリリースして、自分で作った曲を収録しましたが、その後も改めて向き合いたいと思うクラシック曲がいくつかあったので、今回は『classique deux』という続編を作ることになったんです。自分と闘いながら、1曲1曲魂を込めて収録していったつもりです。『classique』での経験があったので勇気が持てたというか、自信にもつながっていたので、今回はより一歩前に踏み出しやすかったですね。

――自分との闘いとは?

私が演奏において一番こだわりたいのは“表現力”で、技術ももちろん大事ではあるのですが、それをさらに超えた、人の心に届く音楽が究極に目指すものです。言葉に救われることがありますが、音楽に救われることもあると思うんですよね。まだ世の中は不安定な時期がつづいているので、音楽で少しでも安らげる瞬間を皆さんにお届けすることができたら良いなと思っています。

そのために自分にしか歌えない表現を追求し、自分なりの音色を磨き、それをどう伝えるかを今回は意識しました。練習の段階からレコーダーで何回も演奏を録音して、客観的に聴いたりしていろいろと試行錯誤もしましたね。

――改めて向き合いたかったクラシック曲というのは具体的にどういったものでしょう?

ファリャの「スペイン舞曲第1番」を『classique』に収録しようと思っていたのですが、精神的に“まだ今じゃないかな”と思って、やめてしまったんですね。でも、今回こそは自分自身と向き合って、技術面でも表現面でも挑戦したいと思いました。

難しい曲を弾くときも、いかに難しくないように弾くかが大事だと思うんです。一流の方ほど無駄なものが削ぎ落されているイメージがあって、ヤッシャ・ハイフェッツ(20世紀を代表する名ヴァイオリニスト)が演奏する姿を見ても、無駄な動きがひとつもなくて、人間にあんなことができるのか! と驚きます。私も自分のなかの無駄を排除して、でも、しっかり力を入れるところは入れて。その上で、どこかで客観的に自分を見ていなくてはとも思います。本当に入り込んで演奏すると同時に、外から冷静に眺めている自分も必要という感じでしょうか。

――とは言え、自分を客観的な視点で見るってなかなか難しいことですよね?

もちろん簡単ではありませんね。でも難しいからこそ、人一倍の努力や練習を重ねることが何より大切だと思っています。何が起きても冷静な自分でいられる感覚になるまで、レコーディングまでの1カ月間、毎日毎日、朝起きたらラヴェルの「ツィガーヌ」から練習を始めて。朝一番にこの曲はヘビーだなと思いながらも、寝起きのまだ指がなまっている状態でどこまで弾けるのかという訓練をしていました(笑)。

子どものころから聴いていた曲は、私にとって特別なもの

――アルバムの選曲のポイントについて教えてください。クラシック音楽ファンでなくても知っている曲、どこかで聴いたことがあるメロディが多く入っていますね。

タイトルを知らなくても、“ああ、これは聴いたことがある”と思っていただけるような曲をたくさん選びました。先ほどお話したファリャの「スペイン舞曲第1番」はそれほど有名ではありませんが、聴きやすい曲かなと思いましたし、この曲を聴くと元気になれるというか。精神的にどんよりしがちなこの時期に、カラッとした気持ちにさせてくれるのは大事なポイントだと思ったので入れています。ほかにも、ピアソラの「アヴェ・マリア」という曲が好きで候補に入れていたのですが、知らない曲が多くなりすぎても……と思い、皆さんよくご存じの「リベルタンゴ」を入れたり。

宮本笑里 『ファリャ:スペイン舞曲第1番』MV

――宮本さんが好きな作曲家の曲は入っていますか?

私はどちらかというと、特定の作曲家というより、この曲、このメロディが好きという愛着を持つタイプなんですね。子どものころから聴いていて耳なじみのある曲は、私にとって特別なもの。フォーレの「夢のあとに」は、父(オーボエ奏者/指揮者の宮本文昭)のアルバムを聴きながら、いつになったらこれを弾けるのだろう? と憧れていましたが、メロディがシンプルだからこそ歌い回しがすごく難しいんです。もとは歌曲で歌詞があるので、それを読んで私なりの解釈でイメージを作りながらレコーディングしました。

――ご自身の思い出が詰まった曲は、ほかにもありますか?

私が子どものころに聴いて親しみを持った曲って、きっと今の子どもたちにも、あまりクラシック音楽を聴いてこなかった大人の方にも、心地良く感じていただける可能性があるのではと思いました。だから、自分の思い出が詰まった曲というよりは、同じ気持ちになっていただけるかなと思える曲を一つひとつ選んでいった感じです。

豪華なゲストたちを迎えたレコーディング

――そして、今回は豪華なゲストをたくさん迎えられていますね。

本当に素晴らしい音楽家の方々にご参加いただきました。ヴィオラの川本嘉子さんは、私が小澤征爾音楽塾に参加していた学生のころからお世話になっていて。まさか一緒にレコーディングができる日が来るとは! うれしい夢がひとつ叶いました。昨年、Hakuju Hallで川本さんと共演したとき、川本さんから「ガルデルの『首の差で』がきっと合うと思うからやってみたい」とご提案いただいて、そのときの雰囲気がとても良かったので、レコーディングもすることになったんです。川本さんとはこの曲を含めてタンゴを3曲、メドレーで収録しました。

――その3曲のなかにピアソラの「リベルタンゴ」がありますが、ほかにはないアレンジですね。

これが「リベルタンゴ」!? というような演奏が最初に長くつづきますからね。暗闇のなかで彷徨っているイメージですが、中盤からはおなじみの「リベルタンゴ」のリズムに乗っての演奏になるので、前半と後半でだいぶ違う印象だと思います。その対比が面白くて、こういう「リベルタンゴ」もあるんだなと、私も新しい発見をさせていただきました。内に秘めた情熱というか、最初からメラメラと燃える感じを出さないアレンジに引き込まれました。

――ほかにも日本を代表するホルン奏者の福川伸陽さんとは、ホルストの「木星」を収録されています。

福川さんとは数年前に初めてお会いして以来、仲良くさせていただいています。コロナ禍で外出が制限されていたとき、私がSNSにマスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」の演奏動画を投稿したら、福川さんがそこにご自身の演奏を重ねてコラボレーション動画を投稿をしてくださったんですね。ぜひ次は同じ場所で一緒に奏でられたらと思っていたので、これもひとつ夢が叶った共演となりました。

――さらに、モンティの「チャールダーシュ」で共演しているチェロの新倉瞳さんは同世代ですよね。

新倉さんは以前、私がナビゲーターをしていたJ-WAVEの番組にゲストとして来てくださって、番組内のミニライブで弾いてもらったこともありました。今回一緒に演奏してみると、音色、響き方、歌い方の深みがよりいっそう増していて、心から素晴らしいなと。たくさんの刺激をもらいました。

――そしてピアノは、『classique』から引きつづき佐藤卓史さんですね。

安心、安定の包容力というのでしょうか。言葉で言わなくても、「あ~、こっちに行くんだね」と察してくださるのでありがたかったですし、ときどきいただくアドバイスに救われたところもありました。レコーディングが順調に進んだのも佐藤さんのおかげだなって。聴いていると心が潤うような、色鮮やかでキラキラした音色を、一緒に奏でながら感じられたのが幸せな瞬間でした。

正統派な感じのタイトルは、私らしくないかな

――レコーディングはいかがでしたか?

Hakuju Hallで収録したのですが、とても弾きやすくて、ホールの音響に助けられた部分もあるのかなと。お客さまがいない空間でも、なんだか温かみを感じて、孤独な感覚を味わうことなく、スタジオのような閉塞感もなく、本番の緊張感がありつつも、力むことなく演奏することができました。

――『classique』も『classique deux』も、アルバムがバッハの曲で終わっていますが、これは偶然ですか? それとも意図的に?

最初からそう決めていたわけではなく、全曲録り終えた時点では、まだ曲順は決めていませんでした。あらためて聴き直しながら考えていくなかで、バッハの「G線上のアリア」はアルバムの冒頭でも中間でもなく、最後に置くのが一番しっくりくるなと感じたので、バッハで締める結果になりました。

――クラシック音楽のアルバムには『ヴァイオリン小品集』といったタイトルがつけられることが多いですが、あえて『classique deux』にしたのはなぜでしょうか?

いわゆる正統派な感じのタイトルは、私らしくないなという思いがまずあって。『classique』を作ったときに、それまでのアルバムもアルファベットの小文字でワンワードといったスタイルにこだわって作ってきたので、『classique』にしようと考えました。そして今回は、第2弾ということで『classique deux』になっています。

――モノクロームのジャケット写真もかっこ良くて、クラシック音楽っぽくないですよね。

撮影は遠方のとあるホテルで行なったのですが、実際はカラフルな色が使われている場所だったんですよね。でも今の私のマインドとしては、写真はモノクロームにしてみたいと思って。『classique』ではクラシカルなドレスを着たのですが、今回はジャケットでパキッとキメる感じが良いかな、表情も今までにない宮本笑里を出せたら良いかなと思って、こういうスタイリングになりました。

後編へつづく

文・取材:服部のり子
撮影:干川 修

リリース情報


 
『classique deux』
発売日:7月20日(水)
価格:3,300円

<収録曲>
01. ドビュッシー:亜麻色の髪の乙女(ハルトマン編)
02. ホルスト:木星 with 福川伸陽
03. ショパン:夜想曲第20番嬰ハ短調遺作(ミルシテイン編)
04. ファリャ:スペイン舞曲第1番
05. シューマン:トロイメライ
06. モンティ:チャールダーシュ with 新倉瞳
07. ゲーゼ:ジェラシー
08. ガルデル:首の差で
09. ピアソラ:リベルタンゴ
10. フォーレ:夢のあとに
11. ラヴェル:ツィガーヌ
12. バッハ:G線上のアリア(ヴィルヘルミ編)
 
宮本笑里(ヴァイオリン)
佐藤卓史(ピアノ)、川本嘉子(ヴィオラ)、新倉瞳(チェロ)、福川伸陽(ホルン)

関連サイト

オフィシャルサイト:http://emirimiyamoto.com/
オフィシャルTwitter:https://twitter.com/emirimiyamoto

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