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連載Cocotame Series

今、聴きたいクラシック

ヴァイオリニスト、宮本笑里の15年――クラシックとポップス、どちらも全力で挑みたい【後編】

2022.07.20

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遠い昔に生まれ、今という時代にも息づくクラシック音楽。その魅力と楽しみ方をお届けする連載「今、聴きたいクラシック」。

今年、デビュー15周年を迎えるヴァイオリニストの宮本笑里。クラシック音楽のみならず、テレビ番組のテーマ曲、ポップス曲のカバー、自作のオリジナル曲など、さまざまな音楽にチャレンジし、幅広い層にヴァイオリンの音色を届けてきた。

今回は、宮本笑里の原点であるクラシック音楽への思いをたっぷり語ってもらうとともに、長年にわたり彼女のレコーディングを担当するソニー・ミュージックレーベルズの原賀豪、マネジメントを担当するソニー・ミュージックアーティスツの久木元章恵を加え、3人でこれまでの歩みを振り返った。

後編では、宮本笑里が行なってきた挑戦と、目指すアーティスト像について語り合う。

  • 宮本笑里

    Miyamoto Emiri

    ヴァイオリニスト。東京都出身。14歳でドイツ学生音楽コンクールデュッセルドルフ第1位入賞。その後は、小澤征爾音楽塾、NHK交響楽団などに参加し、2007年『smile』でアルバムデビュー。さまざまなテレビ番組、CMに出演するなど幅広く活動中。2017年にデビュー10周年を迎え、アルバム『amour』発売。2018年ヴァイオリン小品集『classique』発売。2020年4月EP『Life』をリリース。2022年7月にデビュー15周年を迎え、アルバム『classique deux』をリリース。使用楽器はDOMENICO MONTAGNANA 1720~30で、NPO法人イエロー・エンジェルより貸与されている。
    Photo by Akinori Ito

  • 原賀 豪

    Haraga Go

    ソニー・ミュージックレーベルズ

  • 久木元章恵

    Kukimoto Akie

    ソニー・ミュージックアーティスツ

すべての音楽はひとつだと捉えている

前編からつづく) ――今回の新作『classique deux』がクラシック音楽のアルバムになったことと、デビュー15周年というタイミングは関係していますか?

宮本:デビュー15周年と聞くとなんだか自分でも不思議な感じで……15年もやってこられたこと自体が奇跡だと思っています。たくさんの素晴らしい音楽家の方たちがいるなかで、こうやって私なりのカラーで、自分の音楽をつづけることができたのは本当にありがたいこと。その上で、自分の原点であるクラシック音楽も大事にしているということを、15周年という節目に改めて表明したいと思ったんです。

――宮本さんが考える“自分らしさ”とは?

宮本:デビューしたころからポップスとクラシック音楽、どちらも全力で挑みたいという気持ちがあったので、そこは夢が叶っていますし、そうしてきて良かったなと思います。これは宮本笑里、自分にしか出せないカラーでもあるので、これからもつづけていけたらと。

――宮本さんのなかで、音楽をジャンルで分ける境界線は存在しないのでしょうか?

宮本:それは昔からあまりなくて、弾いているときは、もちろんクラシック音楽のモードとか、ポップスのモードとか、自然に頭を切り替えているところはあるのですが、基本的に音楽はひとつだと捉えているので、ジャンルごとに分けて考えたことはないですね。

――宮本さんのボーダーレスな活動について、レコーディングプロデューサーの原賀さんはどう思われますか?

原賀:日本にはたくさんのヴァイオリニストがいますが、クラシック音楽一筋の方から、ポップスやジャズのみを演奏する方までバラエティに富んでいて、世界で最もヴァイオリニストの活動の幅が広い国ではないかと思います。とは言え、クラシック音楽とポップスを同じ比重で演奏する方はあまりいなくて、どちらかに寄っている場合が多い。でも宮本笑里は、お父さんのオーボエ奏者、宮本文昭さんもそうでしたが、両方で高いレベルの演奏ができます。そこがユニークな魅力ではないでしょうか。クラシック音楽とポップス、どちらの軸足にも同じぐらい重きを置いているヴァイオリニストは珍しいですし、ほかにあまりいないのではないかと思います。

「垣根なくやっていきたい」という明確なビジョン

――宮本さん、マネージャーの久木元さん、原賀さん、それぞれ宮本さんのデビューから15年の活動を振り返ってみていかがですか?

宮本:私にとってはすべてが忘れられないことで、この15年間に人生の転機がたくさん訪れました。初めてのアルバム『smile』を出せたこと、サントリーホールの大ホールで弾けたこと、夢のような経験をさせていただきました。

加えてテレビ番組ではいろいろな方と共演できましたし、日本テレビ『NEWS ZERO』でのカルチャー・キャスターのお仕事や、J-WAVEの番組でのナビゲーターのお仕事では、言葉だけで伝える難しさも勉強になりました。もともと饒舌なほうではないですし、話が得意な人間ではなかったので……。今思い返すと、濃厚な毎日だったなと思いますね。

久木元:宮本のデビューのタイミングから担当させてもらって、最初のころはとてもシャイで、なかなか自分の意見を口に出せなかったのが、徐々に話せるようになっていき、今ではしっかり自分の意見を言えるようになりましたね。でも、最初からステージ上でのオーラはすごくあったので、内に秘めたパワーみたいなところは感じていました。それは今も変わらないですね。

原賀:僕は宮本のレコーディングプロデューサーとしては2代目で、2013年ごろから担当しています。僕自身、ヴァイオリンを自分でも演奏するので、前任者から彼女の担当を引き継ぐことになったときはうれしかったですね。宮本は活動の幅が広いので、一緒に貴重な体験をいろいろとさせてもらっています。

――デビューのころからご担当されている久木元さんは、特に印象に残っている出来事はありますか?

久木元:サントリーホールでのデビューリサイタルのとき、それまで宮本はMCというものをしたことがなかったので、紙に書いた文章を手に取って読み上げるという、とても斬新な方法で乗り切りました(笑)。その後、MCもだんだん上手になりましたけれど、最初はそういうやり方をしていたこともありましたね。

そもそも私はクラシックを担当してきたマネージャーではないので、宮本を担当することになったとき、心配があったのも事実です。でも宮本は、最初から「垣根なくやっていきたいんです」という明確なビジョンを持っていたので、それなら一緒に面白いことができるかなと。それから15年、まったくビジョンがブレていないのがすごいなと思いますね。当初から音楽以外のことにも挑戦したいと言っていました。

音楽だけでなく、言葉でも表現することを学んだ

――音楽以外に挑戦したいという気持ちが、テレビのキャスターやラジオのナビゲーターといった仕事につながっていったのでしょうか。

久木元:『NEWS ZERO』のカルチャー・キャスターのお仕事は、「こういうお話をいただいたけど、どう?」と本人に打診しました。マネジメントとしては引き受けてほしいし、宮本にとってもプラスになることがたくさんあると思うけど、生放送だし、ヴァイオリンの練習時間が減ってしまう問題もあるなぁ……と。でも宮本は、割と即答に近い感じで「やります!」と言ってくれたんです。ほかのことにも共通していますが、やったことがないことにも果敢にトライする。そして、トライしたところでどんどん吸収していく。それは彼女を見てきた15年間に感じたことです。

――宮本さんは、果敢にトライする性格なんですね?

宮本:基本、私のなかでは何にでもトライしたいという気持ちはあります。不安があっても、やってみなければわからないこともあるから、やらないで後悔するよりは、やって後悔した方が良いと考えるところはありますね。

――実際に『NEWS ZERO』に出演されて、いかがでしたか。

宮本:今振り返ると、当然、反省点も多くて、もっと言葉の表現力があったら良かったのにとか……。でも、自分なりに一つひとつ勉強をしながら挑んでいた、あの期間があったからこそ、音楽以外でも自分のことを皆さんに伝えられるようになったのではないかと思います。

――ポップスのシンガーやミュージシャンと共演するテレビ番組にも多く出演されています。

久木元:テレビに限らず、コンサートでもいろいろなポップスのミュージシャンと共演させていただく機会が多いので、現場の方々に「なぜ宮本笑里なのか?」と伺ってみると、「対応能力がとても高い」と褒めていただくことがよくあって。その点がスペシャルな魅力なのかなと思っています。

原賀:普段はクラシック音楽しか弾かないヴァイオリニストがポップスを弾くと、どうしてもクラシック音楽の演奏テイストに即した音楽になってしまうことが多いですね。だから、ポップスの演奏と掛け合わせたときにマッチしない。その点、宮本はポップス風のイントネーションでも弾くことができます。経験値もあるし、持って生まれたセンスもあると思いますね。

「宮本笑里だ」とすぐにわかってもらえるような音色

――少し気の早い話ですが、5年後にはデビュー20周年を迎えます。そこに向けての計画などはありますか?

宮本:私は先のことをきっちり計画するのがあまり得意ではないのですが、将来的に目指したい漠然としたイメージは、自分の作った曲や、自分のヴァイオリンの音色を聴いてくださった方々が、「これは宮本笑里だ!」とすぐにわかってもらえるようなものを届けられたらと思います。そこが目指しているところですね。

久木元:まずは健康で、定例でやっているコンサートを変わらずつづけていけたらと思っています。また、歌詞がない、インストゥルメンタルな音楽なので、いろいろな国の方とも共演できる可能性がありますよね。そういった意味で、海外アーティストとのコラボレーションもできたら良いなと。

原賀:ヴァイオリニストとか、ピアニストとか、クラシック音楽の演奏家は生涯現役の方も多く、“ライフタイム”がすごく長いじゃないですか。宮本笑里は60代になっても、70代になっても、きっとヴァイオリンを弾いていますよね。そういう長いスパンのなかで、例えば今30代の彼女がどういう作品を残していったら、キャリアのなかで価値あるものになるか、といったことを一緒に考えるのが僕の仕事です。

今後もクラシック音楽のアルバムは引きつづき作っていくと思いますが、どのタイミングで作るのか、小品集にするのか、それともコンチェルト(協奏曲)にするのか。彼女の“今”にふさわしい作品とのマッチングを考えることが、すごく大事ですよね。ヴァイオリンには綺羅星のごとく輝く小品がたくさんあるので、作っても作っても、曲がなくなることはありませんから。

そして宮本のルーツであるクラシック音楽に取り組むこのシリーズのなかで、クラシック音楽のヴァイオリニストとしての宮本笑里を定点観測することができるのではとも思います。

宮本:ありがたいことです。そういう風に考えてくださっていることは、自分にとってもすごく励みになります。

――宮本さんご自身は、これから挑戦してみたいことはありますか?

宮本:オリジナル曲は自分でエンジンをかけないとまったく作らないので、それはひとつの課題です。それから趣味の範囲ですが、1年前からギターを始めました。自分の時間ができたときに、ヴァイオリン以外の楽器を弾くのも良いかなと思って。昔からギターに憧れを持っていたんです。ただ、ヴァイオリンと似ているだろうと勝手に想像していたらまったく違う世界で(笑)。共演してきたギタリストの方々の素晴らしいテクニックを、改めてすごいと感じました。

――最後に、宮本笑里さんが届けたい音楽はどんな音楽ですか?

宮本:ピアノやギターと比べたら、ヴァイオリンは持続する音を奏でることはできますが、音って一瞬で消えてしまう儚いものですよね。でも、消えてしまうことによって、人の心にもしっかりと刻まれるというか。いつまでも記憶に残る音楽って必ずあるはずなので、そういったヴァイオリンの音色、音楽を、これからも奏でていきたいと思います。

文・取材:服部のり子
撮影:干川 修

リリース情報


 
『classique deux』
発売日:7月20日(水)
価格:3,300円
 
<収録曲>
01. ドビュッシー:亜麻色の髪の乙女(ハルトマン編)
02. ホルスト:木星 with 福川伸陽
03. ショパン:夜想曲第20番嬰ハ短調遺作(ミルシテイン編)
04. ファリャ:スペイン舞曲第1番
05. シューマン:トロイメライ
06. モンティ:チャールダーシュ with 新倉瞳
07. ゲーゼ:ジェラシー
08. ガルデル:首の差で
09. ピアソラ:リベルタンゴ
10. フォーレ:夢のあとに
11. ラヴェル:ツィガーヌ
12. バッハ:G線上のアリア(ヴィルヘルミ編)
 
宮本笑里(ヴァイオリン)
佐藤卓史(ピアノ)、川本嘉子(ヴィオラ)、新倉瞳(チェロ)、福川伸陽(ホルン)

関連サイト

オフィシャルサイト:http://emirimiyamoto.com/(新しいタブで開く)
オフィシャルTwitter:https://twitter.com/emirimiyamoto(新しいタブで開く)

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